こんにちは、ピッコです。
今回は8話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
8話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 幻想の少女
「無駄な言い争いばかりしている時間がない。出発の準備をしろ」
「今すぐ出発するつもりですか?」
魔法使いは驚いて、慌ててかばんを取り上げた。
リプタンは洞窟の外に頭を突き出し、魔物の死体を見る。
魔法使いが魔石を採取するためにお腹を割ったのか、地面に赤黒い内臓が流れていた。
リプタンは深いため息をつく。
「血の匂いを嗅いだ魔物たちが押し寄せてくるだろう。その前に避難しないと」
「でも・・・、このまま去るにはとてももったいないじないですか。この魔物はきっとドレイクでしょう。うろこと皮、骨を売れば大金が稼げるんですよ!」
見知らぬ名前にリプタンは眉をひそめた。
「ドレイク?」
「ブラックドラゴンの亜種魔物です。図鑑でしか見たことがないので確信はできませんが、ドラゴンの五分の一くらいの大きさで翼がなく、雷を自由に扱えると書いてありました。魔石に宿る魔力も凄かったですよ!ドレイクで明らかです」
お金のことを考えると、さっきの言い争いは頭の中で姿を消したのか、魔法使いが口を裂くほどニヤリと笑っている。
「古代遺物よりドラゴン亜種の魔物の方が大金になるじゃないですか!こんな珍しい魔物を捕まえたので、私たちは大金持ちになります!」
「これを解体して都市まで運ぶことができればね」
リプタンは皮肉たっぷりに呟く。
「装備も運送手段もなしにどうするつもりなのか気になるね」
「まず都市に戻って・・・」
「その間にハーピーが跡形もなく平らげるだろう」
「そ、それでも骨は残るじゃないですか!」
「これだけ大柄な魔物は、魔導具として使える部位が意外と少ない。大きい骨を切断するのも大変だし、加工するのも容易ではないから、魔法使いたちも購買を憚るという。しかも、こんな険しい山頂まで装備を持ってきて解体し、都市に運ぶにはどれだけ多くの費用がかかると思う?傭兵たちとお金を分け合えば、手に残るのは数銭にもならないだろう」
「で、でもこの前ワイバーンを取った時は・・・」
「私たちが受け取ったお金のほとんどは魔石の値だ。ドラゴン亜種の魔物の死体で一番お金になるのは魔石だよ」
大いに期待に胸を膨らませていた魔法使いの顔が、何度も青々とする。
「魔石に宿る魔力は、カリプスさんの治療にすでに使い果たしてしまったのです!」
「それじゃあ答えは出たね」
リプタンは何の未練もなくかばんを背負う。
荷物になるようなものは容赦なく出してしまう習慣が身についているので、あまりもったいないとは思わなかった。
しかし、魔法使いはまったく足が進まないのか、休む間もなく後ろを振り返る。
「うろこだけでも何枚か取って行ってはいけませんか?」
「自分の身を買うことができず、途方に暮れて荷物をもっと増やしてどうするというんだ?」
彼は未練をたらたらの魔法使いを率いて暗い山を黙々と登った。
その魔物を片付けたのは、ただの無駄な苦労ではないようだ。
飢えた魔物がすべて血のにおいを嗅いで山の上に集まったおかげで、彼らは無事にレメック山脈を抜け出すことができたのだから。
その後はすべてが順調だった。
無事に遺跡地に到着したリプタンは、使えそうな遺物をいくつか捜し出し、近くの都市で高い値段で売った。
しかし、魔法使いは普段の何倍もの報酬をもらっても、あまり満足していないようだ。
リプタンは彼が禁止魔法を漏らすことを恐れていることに気づいた。
しかし、不安を和らげる気は全くない。
リプタンは冷ややかに話した。
「当分、私の依頼を追いかけないと約束したこと、必ず守って」
望み通り数ヶ月で魔法使いから抜け出すことができたが、思ったほどすっきりした気分にはならなかった。
リプタンは騒々しい居酒屋に入り、いらいらして髪をかき上げる。
魔法使いの何倍も迷惑な奴と絡むようになったのだ。
リプタンは自分に向かって軽快に手を振るサモンを見つけ、眉をひそめた。
「やあ、もう帰ってくるの?依頼人の機嫌を取るのに忙しいね」
彼は胸を半分むき出しにした2人の女性を脇に抱えて座っていちゃついていた。
その姿を軽蔑的に睨んでいたリプタンは、できるだけ遠く離れた席に座る。
彼の露骨な無視にも屈せず、サモンがよろめきながら近づいてきて、肩の上に腕をかけた。
「おい、カリプス。ずっとそんなに冷たくするつもりか?」
「あっちへ行け」
「つまらない奴め」
サモンはねじれた口調でぶつぶつ言いながら彼の前にエールを置く。
「そんなこと言わないで率直に話してみろ。今回の依頼人、あなたをなんとか自分の軍に引き入れようとしているようだが、この機会に定着したらどう?聞くところによると、リバドン東北部地域でかなりの力を持つ貴族だそうだ」
「残りたければ、お前が残ればいい」
サモンが舌打ちをした。
「誰がそうしたくないと思ってるの?君が一緒に入ってくるのでなければ受け入れてくれないじゃないか」
「私の知ったことではない」
リプタンは肩にかけた彼の手を容赦なく振り払い、店員に食べ物を注文する。
その時、左門の脇腹に抱かれていた女が彼の腕にぴたりとくっついた。
「ねえ、あなたはそんなにすごい剣士なの?で顔はまるで演劇俳優のように綺麗なのに・・・」
「言うまでもない。一人で来て、この八匹を捕まえる怪物だ」
「すごーい」
女がきゃっきゃっと笑い出し、ぐにゃぐにやした胸が腕の上で揺れ動く。
リプタンは食欲がなくなるのを感じながら横に身を引いた。
しかし、女性は恥ずかしそうに誘惑するように彼を見上げながら太ももをひそかにたどってきた。
リプタンは飛び起きた。
「料理が準備できたら部屋まで持ってきて」
それから店員に小銭を一つ渡すと、女性が彼の裾をぐいっと引っ張る。
「もう少しここにいてよ。私が直接食べさせてあげるから。それとも私と一緒に部屋に戻る?私が楽しませてあげるから」
「・・・必要ない」
リフタンは女性の手を容赦なく振り払い、階段に向かって歩いた。
すると、背後でサモンが露骨に笑う。
「あいつは本物の男じゃないんだ。そんなこと言わないでこっちに来て。君たち二人とも私が楽しませてあげるから」
首を回すと、サモンが女性の豊満な胸に顔をこすりつける姿が見えた。
クスクス笑いが居酒屋のあちこちに響き渡る。
無感覚な目つきでその光景を眺めていたリプタンは、徐々に階段を上った。
部屋に向かう間、べたべたした視線が背中にくっついて離れない。
嫌気が差した。
14歳の時からベッドの上に這い入ろうとする女性たちに苦しめられたため、誰かが触るだけでも神経が尖ってしまう。
リプタンは腕に残っている女体の感触を振り払うように手でごしごしこすりながら部屋のドアを閉める。
薄い床からざわめきが聞こえてきた。
隣の部屋では、すでに行為を行っているのか、騒々しいうめき声が鳴り響いており、ぱっと開いた窓から彼らが噴き出す生臭い匂いまで伝わってくる。
リプタンは明かりをつけた後、窓を閉める。
彼を誘惑していた女性の声があざ笑うように耳元をうろついていた。
『私が楽しませてあげられるのに』
ナメクジがお腹の中を這うような妙な嫌悪感を感じながら、眉をひそめる。
成長期を経験し始め、時々肉体が何かを渇望して燃え上がることを感じた。
一人でベッドの上に横になっている時は理由もなく下腹がむずむずし、毎朝腫れ上がった股間のために不便を経験したりもした。
しかし、いざ女性の妙な視線や密かな手が体に触れると、不思議なほど血が冷たく冷めてしまう。
リプタンはベッドの上に座り、額をこすった。
女性の積極的な関心に飽きてしまったため、異性に興味を感じなくなったこともあるが、最大の原因は母親の遺体を背負って山を登っていた時の記憶のためのようだ。
あの時の感覚が骨の奥深くに刻まれて消えない。
力なくぐったりしてぶらぶらしていた腕と背中の後ろに押しつぶされていた冷たい胸の感触、散発になった黒い髪の毛が首の後ろに湿っている時のゾッとする感じ・・・。
彼は悪態をつぶやきながら横になってしまった。
ひょっとしたら、一生女と並んで横になることはないかもしれない。
あの日以来、一度も他の人との接触を愉快に受け入れたことがなかった。
異性に興味を持ったこともなく、コイン数枚で平然と人を裏切る世界で少年期を送ったため、最初から他人の接近を許容できなくなってしまった。
リプタンは沈んだ目で燃え上がるろうそくを眺める。
ふと洞窟の中で見た幻想が頭の中に浮かんだ。
今はあの時のように誰かを切なく思うことは不可能だという気がすると、公然と胸の内側が冷えてきた。
討伐は予想より長くなった。
冬の間、数を増やしておいたゴブリンたちが洞窟の中から果てしなく這い出てきて、弱り目にたたり目で冬眠から目覚めたオーガまで人家を襲撃し始め、大規模な戦闘が相次いで起きたのだ。
結局、リバドン北部に土地を持つ領主たちが傭兵たちを追加募集し、リプタンはルースと嬉しくない再会をしなければならなかった。
「私も不可抗力でした。黒い角竜兵の団員全員が今回の討伐に参加しなければならないという指示が出て、仕方なく来たんですよ!」
リフタンの鋭い目つきを受けた魔法使いが悔しそうに叫んだ。
リプタンは舌打ちをして振り向く。
「私のそばでうろうろしないで」
「あまりにも酷いじゃないですか!?私がいなかったら、カリプスさんは今頃・・・!」
カッとなって叫んだルースが、自分の声にびっくりしながら、周りをさっと見回す。
こんなドジなやつに外部に知られてはいけない魔法を教えるなんんて、世界の塔もしっかりと狂っているに違いない。
リプタンは彼に鋭い視線を向けた。
「私の口を取り締まる前に、あなたの口から縫ってしまったほうがいい」
神前裁判官の前に連れて行きたくなければ。
リプタンは唇だけ動いてそう付け加えた。
聞き取れたのか、魔法使いが唇を突き出す。
リプタンは、不機嫌そうな男を放っておいて、武器を持って捜索除の隊列の一番前に立っていた。
その日一日、彼は岩壁の間にある真っ暗な洞窟の中を隅々まで捜索する仕事をする。
ゴブリンの生息地は糞便の臭いと腐敗した動物の死体から出る悪臭で満ちていた。
こみ上げてくる吐き気を飲み込み、ごちゃごちゃした洞窟の中をくまなく探す半日、拉致された人間の女性がいないことが確認されると、彼は洞窟の入口に火をつける。
まだ確認できなかったところに幼い子が隠れているかもしれないため、生息地は必ず破壊しておかなければならなかった。
「いっそのことオーガと喧嘩したほうがましだ。吐き気がする洞窟捜索だなんて・・・」
サモンが身についた匂いが気になるように鼻をクンクンと嗚らし続けた。
リプタンは火が消えないように洞窟の入口に木の枝を投げ入れ、生意気な口調で話した。
「お金にもならないくせに、力ばかり無意識に強い怪物とは戦いたくないんだって?」
「ゴブリンのうんことかかき回すよりはましじゃないか」
「オーガが出没すれば、一番先に後方に抜けるやつが口だけは達者だ」
リプタンは皮肉り、薪を割ることに没頭する。
いつのまにか空は黒く染まり、ゴブリンの遺体を燃やすこともそろそろ仕上がっていった。
捜索隊員たちは、機嫌を損ねることも気にせず、黒く焼けた魔物の灰のそばで簡単に食事を終える。
2ヵ月近く続いた討伐がついに実を結び始めたのか、ゴブリンが出没する頻度は目立って減った。
このまま行けば、あと1週間で依頼を終えることができるだろう。
リフタンはこわばった襟元をもみながら長いため息をつく。
1ヵ月以上ホームレス生活をしていたため、少なからず疲労が累積した状態だった。
地面の上に毛布一枚を敷いて寝るのもうんざりし、何よりも入浴の考えが切実だった。
彼は魔物の血と汚物で汚れた真っ黒なチュニックを見下ろしながらため息をつく。
飲み水も足りない状況だったので、ほぼ半月近く顔を洗うこともできず、当然洗濯のことは考えることさえできなかった。
あの乱雑でみすぼらしい宿屋が懐かしくなるほどだ。
「おい!ちょっと待って!」
凝った肩をこすりながら山を下っていると、突然背後から力強い声が間こえてきた。
リプタンは首をかしげる。
東北に捜索を行った2人の傭兵が彼らに向かって急いで走ってきた。
「どうしたの?」
サモンは不思議そうな顔で聞くと、傭兵たちが息を切らして叫んだ。
「ゴブリンの生息地をもう一つ発見した!今すぐ支援が必要だ」
あちこちで悪口が溢れ出る。
やっと一息つく瞬間に嬉しくない知らせだった。
彼らは不平を言いながら山をよじ登る。
傭兵たちについて約20分程度を移動すると、急な岩壁とその間に位置した洞窟の入口が目の前に現れた。
傭兵たちがそこを指差して言った。
「みんなあの中にいる。ゴブリンに包囲されて外に抜け出せずにいるはずだ。私たちだけやっと逃げ出して」
「全部で何匹くらいいるの?」
「正確には分からない。少なくとも五十匹はいるだろう」
リプタンは松明を作り、洞窟の中を照らした。
かなり広くて深い。
暗闇の中をのぞき込むのをしばらくの間、彼は大股で洞窟の中に入った。
蟻の穴のように複雑な道がしばらく続く。
14人の傭兵たちを率いて慎重を期して足を運ぶのはいくらだろうか、どこからかゴブリンの怒った声が間こえてきた。
リプタンは躊躇うことなく音のする方へ走る。
すると、魔法使いと8人の傭兵が数十匹のゴブリンに囲まれている光景が目に入った。
リプタンはすぐに剣を抜く。
「カリプスさん!」
彼を見つけたルースJが嬉しそうに叫んだ。
ゴブリンは叫び声が合図になったかのように駆け寄る。
戦闘というよりは乱闘場に近かった。
魔物が小さなボールのようにあちこち飛び跳ねながら四方から攻撃し、傭兵の髪の毛を引っ張って顔を引っ掻いて歯が抜けた斧やさびがついた鎌をむやみに振り回していた。
リプタンは足にくっついたゴブリンを容赦なく切り落とし、険しい印象を与える。
ゴブリンは闇の中でも鮮明に物体を識別することができ、動きが速い。
このような狭い空間では、小さな体格さえ利点として作用する。
リプタンは絶えず剣を振り回し、傭兵たちに向かって叫んだ。
「道を開けるから、まず洞窟の外に出ろ!」
彼の指示に従って、傭兵たちは速やかに退路を確保した。
すると、ゴブリンに囲まれていた傭兵たちが機会を逃さず、入り口に向かって駆け寄る。
リプタンは追っかけてくるゴブリンたちに向かってナイフを振り回し、素旱く彼らの後を追った。
ゴブリンは洞窟の隅々から飛び出し続けた。
リプタンは悪口をつぶやいた。
50匹って何だ、概算しても百匹は軽く超えるだろう。
「この辺で獲物という獲物が種が枯れてしまったのには理由があったんだね」
彼は先に進んだ人たちが抜け出す時間を稼ぐために狭い入口に持ちこたえて立って剣を振り回した。
その時、突然天井が崩れ落ち始める。
「カリプスさん!」
魔法使いが彼を助けようとするかのように走ってきた。
リプタンはその気の狂った奴をひったくって洞窟の壁のくぼんだ空間に押し込みながらぴったりと体を張りつける。
土砂が彼のすぐそばに雨のように降り注ぎ、天井が割れ、石の山が転げ落ちた。
彼は土ぼこりが目に入るのを防ぐために裾で顔を覆う。
どれだけそうしていたのだろう、やがて周囲が静まった。
リフタンは壁を手探りで見た。
土の山に埋もれることはギリギリ避けたが、狭い空間に身動きが取れなく閉じ込められてしまった。
「ちっ、道が塞がれた」
「と、閉じ込められたということですか」
魔法使いは体をこわばらせ、乾いた唾を飲み込んだ。
よりによって閉じ込められてもこいつと一緒に閉じ込められることになるのは何か。
リプタンはよろめきながら壁を押しのけると、頭上からばらばらと石の粉が落ちた。
「無理に岩を片付けようとしたら天井が崩れそうだね」
「ど、どうしたらいいですか?」
「私に聞かないで、あなたもちょっと頭を働かせてみて」
リプタンはいらだたしく叫んだ。
すると、魔法使いが口をぎゅっと閉じてしまう。
やはり、こいつにはあまり期待をしない方がよさそうだった。
リプタンは舌打ちをして岩を片づける方法を探った。
その時、黙っていたルースが慎重な声で言った。
「土の山が崩れ落ちることがないように防御膜を張って、少しずつ壁を突き破れば抜け出せるかもしれません」
リプタンは不審そうな顔をする。
「本当にそんなことができるの?」
「もちろんです!私は一流の魔法使いです。この程度は何でもないでしょう!」
自信満々な返事に不信感はさらに大きくなった。
しかし、他の方法があるわけでもなかったので、リプタンは素直に横によける。
「いいよ。一度やってみて」
ルースはリフタンの信用を得ることができるのでしょうか?