こんにちは、ピッコです。
今回は14話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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14話
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登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 10年ぶりの帰還②
リプタンはワインを飲み干して部屋に戻り、まるで気絶するかのように眠りについた。
翌朝、目が覚めるやいなや刺すような頭痛がする。
彼は悪口を言って頭をつかんだ。
普段お酒をあまり飲まないため、二日酔いを体験したことがなかった。
彼は慣れない痛みにうめき声を上げ、コップ1杯の冷たい水を注いで飲んだ。
しかし、痛みが消えるどころか、目尻からこめかみまで鈍痛が襲ってきた。
「なんてこった」
この有様は一体何か。
リプタンは激しく舌打ちし、目が覚めるように冷たい水で顔を洗い、服を着替える。
天気は彼のむちゃくちゃな気分とは関係なく、晴れていた。
彼は不愉快な目で雲一つない空をにらみつけ、迷路のように雄大な庭園をとぼとぼ歩く。
そのまま城を抜けて広い丘を横切ると、しばらくして、ボロボロの小屋一軒が目に入った。
彼は棘が喉に剌さったような不快な気持ちを感じながら、その前で足を止める。
ずいぶん前に捨てられて廃家になったかもしれないと覚悟していたのとは違い、家は比較的綺麗に管理されていた。
彼は換気のために開いた窓から薄暗い部屋の中をのぞき、周りを見回す。
小屋の裏には小さな菜園があり、小さな垣根の中には鶏3、4羽が歩き回っていた。
まさかまだここに住んでいるのか。
いや、義父が去った後、他の誰かが過ごし始めたのかもしれない。
どちらにしてもすぐに確認することは難しそうだった。
彼はがらんとした小屋の中を見回す。
その瞬間、何かが彼の顔に向かって飛んできた。
リプタンはそれをぎゅっと掴んだ。
痩せこけた男の子が畑を耕す時に使う鍬を持って、彼を恐ろしく睨んでいた。
「何を盗もうとしているんだ!」
リプタンは突然飛び出してきた子供をぼんやりと見下ろした。
男の子は彼が怖くもないのか、顔を赤く染めて息を切らしている。
「お前、鶏を全部盗んでいくつもりだったんだろう!全部知ってるぞ!」
「・・・この家に住んでるのかな?」
男の子が鍬を取るためにキャンキャンと小さなあごを持ち上げた。
「そう!ここは私の家だよ!だから私の許可なしには何も持っていけない!」
「私は盗みをしに来たのではない」
リプタンは低く沈んだ声でつぶやきながら子供のしわくちゃな顔を見る。
きらぎらした目元と茶褐色の瞳がどこか見慣れた。
「あなたのお父さんの名前は?」
「それを知ってどうするの?」
男の子が勢いよく叫んだ。
リフタンは眉をひそめて腰をかがめる。
急に近づいてきた顔に脅威を感じたのか、男の子がびくびくしながら後ろに下がった。
リプタンはできるだけ落ち着いた口調で話した。
「私はここに住んでいた人にお世話になった。今日はその借金を返しに来たんだ」
「この家は私の家だよ。私が生まれる前から私たちのものだった」
「お父さんの名前は?」
男の子がもじもじして答えた。
「ロバン・・・」
それは義父の名前。
リプタンは沈んだ声で尋ねる。
「あなたの年齢は?」
「・・・8歳」
彼の妙な雰囲気を感じたのか、男の子が一層和らいだ口調で答えた。
リプタンはゆっくりと立ち上がり、自分が捨てた小屋を眺める。
苦々しく無惨な記憶だけがいっぱいのこの家で、義父はどんな気持ちで新しい家族を築いたのだろうか。
たった一晩も耐えられなくて逃げた自分としては見当もつかなかった。
「お父さんは元気?」
「毎日腰が痛いとぶつぶつ言ってるけど、元気だよ。辛いのはお母さんだよ」
男の人がすぐに警戒心を緩めておしゃべりをした。
リプタンは眉をひそめる。
「・・・お母さんは体調が悪いのか?」
「妹を産んでからいつも辛そう。それでも毎日、妹を背負って畑に出て働いている」
子供は農機具を置き、好奇心に満ちた目で彼に目を通した。
「おじさんはうちのお父さんの友逹なの?」
何と答えたらいいのか分からず、口をつぐんだ。
義父が惨めに暮らしていないという事実に安堵感を感じながらも、一方では口の中が苦々しかった。
そんな自分が嫌だった。
彼ら母子に足を引っ張られ、12年という歳月を浪費した父親が、ついに本当の家族を得た。
喜ぶべきことではないか。
彼は腰からぶら下がっていたポケットを引き、少年に差し出す。
少なくとも金貨40枚は入っているだろう。
「さっきも言ったけと、私はあなたのお父さんに大きな借りがある。これをその方に渡せ」
「うちの父が一体いくら貸してくれたの?お金もないくせに・・・」
少年は金の入った袋を手に取り、好奇心に満ちた目で中をのぞき込んだ。
リフタンは金貨を取り出そうとする手を引き止め、慎重に吐き出した。
「この中には君のお母さんはもちろん、君の幼い妹まで一生苦労せずに暮らせるほどの大金が入っている。他の人に見られたら奪われるかもしれない」
男の子が怯えた顔でどっしりとした革袋を胸にぎゅっと抱きしめた。
「部屋の中に隠しておいて、父が帰ってきた時、慎重に渡さないといけない。わかったね?」
「う、うん・・・」
少年は真剣にうなずいて、急いで小屋に飛び込んだ。
彼はその様子をじっと見つめ、ゆっくりと振り向いた。
彼がちょうど小屋を出ようとしたところ、少年がドアの外に顔を出して尋ねる。
「おじさんの名前は何?誰が来たって言えばいいの?」
「・・・リプタンと言えばわかるだろう」
「お父さんには会わずに行くの?」
彼はうなずいて大股で歩いた。
そのまま城に帰ろうとしたが、子供に過度に大金を預けたのが不安だった。
彼は森の中に隠れて小屋を見守る。
どれだけそうしていたのだろうか、腰の曲がった男が農機具を背負って丘の上に歩いて上がってくるのが見えた。
リプタンは顔が黒く焼けて頭が真っ白になってしまった義父の姿を静かに眺める。
父親が来ることだけを首を長くして待っていたのか、男の子が矢のように飛び出した。
リプタンは向きを変えて城に向かって素早く歩いた。
妙に胸が虚しかった。
無情に捨てて去ったのは自分でありながら、心の片隅ではいつか帰るところだと思っていたのだろうか。
だから何も残っていなかったらどうしよう、怖がってあんなに訪ねて行くを躊躇したのだろうか。
失笑が漏れる。
すべてが元の場所に止まったまま、自分を待っててくれると思ったのか。
そんな期待を少しでも抱いていたら、自分はなんて傲慢な男なのだろうか。
ずきずきする額をこすりながら、足を早めた。
そのまま部屋に戻り、ぐっすり眠りたい気持ちでいっぱいだった。
少なくとも2日間は目を開けたくない。
しかし、いざクロイソ城に到着すると、休息を取りたい気持ちは消えた。
部屋に訪ねてきて、面倒に団長や他の団員たちを相手にするのも面倒だ。
彼らを信頼することはできるが、弱った姿を見せたくはない。
リプタンは庭をぐるりと回って人通りの少ない林道を歩き始める。
幼い頃に炭や薪などを背中に乗せて通りかかった近道に沿って歩く間に、鋭い頭痛が少しずつ治まってきた。
彼は一抱えの木の下に背中をもたせかけ、しばらく深呼吸をする。
そうするうちにふと、自分がとこに来ているのかを悟り、顔を固めた。
リプタンはぎっしりとした木の間に見える灰白色の建築物を眺めながら、虚しいため息をつく。
自分がここまでうろうろしながら訪ねてきたということが信じられなかった。
彼は長い旅路に疲れた人のように肩をすくめて木の間から出る。
夢の中で数え切れないほど見ていた庭園がだんだん目の前に近づいてきた。
しかし、彼が覚えていたのとはまったく違っていた。
リプタンは寂しい風景に眉をひそめる。
花が生い茂っていた花壇には、がさがさに乾いた雑草がたくさん生えていて、四方がおかしいほと静かだった。
「・・・もうここで過ごさないのかな?」
彼は乾ききった花を指先で砕く。
おそらく彼女は城の中で過ごし始めてから管理を怠ったのだろう。
リプタンは、思い出の場所までみすぼらしく変わってしまったという事実に失笑した。
自分でもどうしようもないほど力が抜ける。
ぼんやりと立ち、襟元をこすっていた彼は、ゆっくりと足を向けた。
その瞬間、どこからか息を殺した笑い声が聞こえてきた。
リフタンは再び首をかしげる。
しかし、庭のどこにも他の人の姿は見えなかった。
ぼんやりと閑散とした風に吹かれていたリプタンは、遠くないところで人の気配を感じ、素早くそこに足を運んだ。
そして離れをぐるりと回ると、床にしゃがんで大きな猫一匹を連れていたずらをしているマクシミリアン・クロイソが目に入った。
彼はその場に立ち止まり彼女の姿に目を通す。
彼女は宴会場で見たものとは全く違う地味な赤褐色のドレスを着ていた。
一本もはみ出さないように隙間なく巻き上げた髪の毛は自然に乱れて彼女の肩の上で優しく曲がりくねっていて、血の気のない青白い顔には赤々とした紅潮が漂っていた。
胸に鋭い痛みが襲ってきた。
彼が覚えている幻想の中の姿そのまま。
しかし、彼は天下の黒幕のように二度と彼女に夢中になりたくなかった。
リプタンは彼女が自分を見つける前にさっと振り向く。
その時、聞き取れないほど不明瞭な声が彼の足首をつかんだ。
「あ、あなたは・・・、私が好き?」
強力な力に引かれたように、リプタンは再び目を向ける。
彼女は足元に横たわり、愛嬌たっぷりの猫に向かって真剣な顔で話しかけていた。
笑いが出そうな光景であるにもかかわらず、不思議と笑う気は起きない。
猫がその言葉を聞き取ったところ、柔らかい首を長くしてスカートの裾に頭をこすると、彼女の口元に笑みが浮かんだ。
彼女は猫を慎重に両手で抱え、人形でいたずらをする子供のように囁く。
「そ、そしたら・・・、い、いつも・・・、私のそばにいてくれる?」
驚くほど不安定で哀れな声。
胸の片隅が痺れるのを感じながら、リプタンはあばら骨をこすった。
彼女の周りの孤独感はとてもはっきりしていて、手で触れることができるようだった。
その瞬間だけは、彼女が誰よりも身近に感じた。
彼は傷つきやすそうな彼女の顔を無気力な目つきで見つめ、すぐに逃げるようにその場を抜け出す。
見上げると惨めになる。
義父の声が幻聴のように耳元にちらついた。
なぜ忘れていたのだろう。
ここに来るべきではなかった。
彼女を見るべきではなかった。
彼女がまだ孤独であることに気づくべきではなかった。
リプタンは震える手で口元をなでおろす。
彼女は彼の心の中、最も弱い部分に入っていた。
彼女がどれだけ簡単に自分を捕らえることができるのか、とっくに気づいて目をつぶるべきではなかった。
彼女は自分が誰も愛することができなくなる前に、固い皮を巻く前に彼の中に深く根を下ろした存在だったのだ。
にもかかわらず、彼は自分が抱いてきた楽園が粉々になることだけを心配していた。
ふと、リプタンは理由の分からない怒りに包まれ、荒々しく地面を蹴飛ばす。
彼女が寂しくてもいなくても、何の関係があるというのか。
巨大な城で裕福な父親に守られて生きてきた女性を自分が理解できるはずがない。
彼女が自分をどんな目で見たのか、もう忘れたのか。
いい加減にしてくれよ。
いつまでも鼻垂らしの時の記憶に恋々として生きていくのか。
彼は心に残る混乱を吹き飛ばすようにその場を去る。
それ以来、リフタンは城の裏には足も踏み出さなかった。
できるだけ宴会にも出席しなかった。
しかし、彼女の存在は爪の下に刺さったとげのように彼の神経を刺激し続けた。
こんなに広い城でどうしてあんなに簡単に彼女を見つけることができるのか、自分でも信じられないほどだ。
いくら遠く離れた距離でも彼女の足音を簡単に区別することができ、彼女が小さくひそひそと話す声も逃さずに全て聞き取ることができた。
自分のすべての感覚が彼女に合っているようだった。
彼女の姿を遠くからかすめるように見るだけで全身が神経を尖らせている。
自分が過度に彼女を意識していることは自覚していたが、まったく自らの反応を統制することができなかった。
生硬な感情に彼は途方に暮れる。
幼い頃はこんなに何かに取りつかれた人のように彼女に夢中になっていなかった。
彼女を思い出す時には柔らかくて切ない感情が押し寄せ、笑うのを見ると心が暖かくなった。
だが、今彼が感じるのはその時とは比較もできないほど強烈で、一方では不快でさえある感情。
彼女を思い出す時には充足感度ころか心の片隅が乾いていく気分であり、妙な渇きのようなものが起きた。
一度は彼女に話しかけるつもりで精一杯着飾って宴会場に出たこともある。
しかし、彼女はいつものように顔だけ出しては、逃げるように外に出てしまった。
その姿を見た時は鏡の前で一時間ほどうろついていた自らがバカのように感じられた。
リプタンは落胆した様子を隠し、ヘバロンに向かって無頓着な口調で尋ねる。
「おい、俺がそんなに怖そうに見えるか?」
最高のワインを水のように飲んでいたヘバロンは目を見開いて彼を見た。
次の瞬間、彼の顔の上に面白がっている様子が浮かぶ。
「どんな気弱な貴婦人が副団長を見て、腹を抱えて笑うと思う?」
リプタンはかろうじて無表情を保つ。
ほとんど予想していた事実を死んでも認めたくなかった。
思索になっていた彼女の顔をわざと頭の中から消し去り、気まずそうに話した。
「団長が社交性を養えなんて、何度も言ってうるさくするじゃないか」
「だから最近、副団長がすごく綺麗に着飾っているんだろう?」
ヘバロンは頭からつま先まで彼に目を通しニヤニヤする。
リプタンは腰についた剣の柄をしっかりと掴んだ。
「死にたいのか?」
ヘバロンは大げさに怯えた顔をする。
「その威圧感が問題だよ!冗談とは通じないから、下手なことも言えない。元々、私たちのような人間はできるだけニヤニヤしていてこそ、人々が怖がらないんだよ。傲慢な顔をしているのに、人々が忌避せずに耐えれると思う?」
ー理ある言葉にリプタンは口をぎゅっと閉じた。
チャンスは今だと思ったのか、ヘバロンはそこで止まらず、だらだらと酷評を並べ立てる。
「それに副団長は陰惨な雰囲気まで漂わせるんだ。黙ってじっと見つめてくると、私まで心臓がひんやりする。舞踏会場の真ん中に立っている時も、まるで戦場に立っているかのように、刃を引き締める人に、どんな度胸で話しかけるんだ?よく鍛えられた騎士たちも怖がっているのに、貴婦人たちが縮こまるのも当然だ」
それは、自分の体に他人の魂が入らない限り、彼女の怯えた視線を避けることは難しいという意味だった。
リプタンは初めてこの熊のような男の厚かましい態度を羨ましく感じる。
ヘバロンは自分より背が半分ぐらい高かったし、体重もたくさんあったけど、その気になれば、誰とでも自然に付き合うことができた。
彼は苦々しい気持ちを隠しワインを一口飲んだ。
「ところで、副団長がそんなに真剣に悩むなんて」
ヘバロンが満足げな表情を浮かべて言った。
「いよいよ団長の座を引き継ぐ覚悟ができた?」
「・・・飛躍するな」
リプタンはぶっきらぼうに吐き出して席から立ち上がる。
露骨に席を避けようとする姿にへバロンが太い眉をしかめた。
「今、騎士団にいるやつらのほとんどが団長を慕う気持ちでレムドラゴンに入団したんだ。王室騎士団入団の提案も振り切って入ってきたリカイドのようなやつもいる。みんなリプタン・カリプスが大将だと思ってるんだ!いつまでも傭兵出身だと言って逃げるつもりだ?」
「簡単に言わないでくれ」
リプタンは彼に厳しい視線を向ける。
ヘバロン・ニルタは没落貴族の生まれで西欧民族の明確な特性を持っていた。
同じ傭兵出身だとしても、どん底の自分に比べれはずっとましな状況だ。
そんなやつが簡単に身分なんかと言うのに癇癪が起きてしまう。
「ウェデンには保守的な貴族が多い。故意に不利な立場を自任する必要はない」
ヘバロンは鼻を鳴らした。
「どうせ私たちは異端者だ。貴族たちが何と言おうと、私たちは私たちの規則だけ優先すればいい」
無知なほど単純な論理にリプタンは嫌気がさし、にぎやかな宴会場を抜け出した。
情けないことに、半分にもならない女の顔色ばかりうかがっている場合ではなかった。
悩まなければならないことが山積しているのに、何の滑稽なことだというのか。
彼は首の飾りを外し、きちんと整えた髪を乱した。
このうんざりする勝利の宴会もあと一週間で終わりだ。
クロイソ城を離れれば、女性の目を引くために道化師のように着飾る馬鹿なことも永遠にさよならだ。
リプタンは薄暗い空を見上げ、自分の部屋に足を向ける。
そして、その翌日からは宴会場に近づくこともなかった。
朝から晩まで練兵場で剣を振り回すリフタンを見て、団長は諦めのため息をつく。
「ここ数週間、変なほどおとなしいと思った。腕がうずくのかな?」
「もうすぐドラキウムに出発するじゃないですか。腕から油気を抜いておかないと」
リプタンは無愛想に吐き出して虚空に向かって剣を振り下ろす。
胸に腕を組んだまま、その姿をじっと眺めていたトライデンが階段を下りて、腰につけていた剣を抜く。
「よし。私もむずむずしていたところだった。久しぶりに一本勝負してみようか?」
リプタンはため息をつきながらバスタードを下ろした。
5時間も休まず剣を振り回していたので、全身が汗まみれだ。
彼は湿った額をぬぐいながら、脱いでおいたコートを手に取る。
「やめましょう。団長の腕を最初から使えなくしたくはありません」
「おやまあ、私の副官が恥をかくのではないかと心配しているようだね」
団長が練兵場の上を見上げながら冗談を言った。
頭をもたげたリプタンは、窓際に寄り添って座った貴族の女性たちを見て眉をひそめる。
宴会のない昼間は、あんな風に騎士たちの訓練を見物したり、のんびりと散歩やティータイムを楽しむのが日常のようだった。
生涯怠惰とは吸ったことのないリプタンには不思議にさえ感じられる光景。
「貴婦人に奉仕することこそ騎士の真の義務だ。美しいお嬢さんたちに面白い見どころをプレゼントしよう」
「あなたはまたそんなとんでもないことを・・・」
呆然として首を横に振ったリプタンはふと身を固めた。
5階の窓際に座ったマキシミリオン・クロイソの姿が目に入ったのだ。
遠く離れていたにもかかわらず、彼は彼女の好奇心に満ちた視線をはっきりと感じることができた。
急に口が渇いてきた。
「・・・いいですね。暇つぶしにしばらくお付き合いしましょう」
「私は君の傲慢不遜さが本当に好きだよ」
コートを脱ぎ、軽い防具を羽織ったトライデンが姿勢を正しながら、ゆったりとした笑みを浮かべる。
「一発食らわせるかいがありますね」
リプタンは鼻を鳴らし、再び剣を持ち上げた。
トライデンは片手で剣をぐるぐる回し、稲妻のような速さで彼に接近する。
まもなく、チェン、チェン、と刃がぶつかる音が響き始めた。
リプタンは猛烈に攻撃を跳ね返し、彼女がまだ自分を見ているかどうかを確かめたいという衝動を抑え込んだ。
あの小さな頭の中に、少しでも強い印象を刻み込むことができれば、一日中戦えと言われても、できるような気がした。
相手は自分なんか眼中にもないのに、自分一人でやきもきするのがだんだんいらいらしてきた。
「どこに気を取られているの?」
リフタンの注意力が離れたことを感じたトライデンが重い一撃を放つ。
かなり威嚇的な攻撃に、一瞬全身の神経が尖った。
ぎりぎりで攻撃を防いだリプタンは、やや乱暴に剣を振り回して反撃に出る。
するとトライデンの口元がこわばって、腕の動きが目に見えて鈍くなった。
リプタンは正気に戻り、素早く後ずさりする。
「ちっ、腕に無理をさせるつもりはありませんでした」
剣を急いで下ろして心配そうな顔で彼の腕を探ると、トライデンが不満そうな表情をした。
「誰が勝手に終わらせるんだ?私はまだ続けられるんだよ」
「こんな馬鹿なことに、やっと回復中の手を使えなくするつもりですか?」
リプタンはいらいらして大声で叫んだ。
女の前で力自慢をしようとして団長に怪我を負わせたなら、自分を許すことはできない。
長期間続いた遠征期間中に無理をしたため、団長の腕は以前よりはるかに弱くなっていた。
リプタンは彼の手首を真剣な目で確認し、すぐに立ち上がる。
「魔法使いのところに行って、回復魔法をかけてもらったほうがいいですね」
「君、だんだん老婆心が強くなるね」
トライデンはよろめきながら剣を再び腰にかけた。
「私は騎士だ。力のない老人の扱いはやめろということだ」
「上官の様子をうかがうのは副官の義務です。私の態度が不満なら、早く回復してください」
リプタンは意地を張るトライデンを強制的に魔法使いの前に連れて行き、治癒魔法を受けさせる。
しかし、腫れた手首が完璧に回復するのを見ても、気分は少しも良くならなかった。
普段の自制力と統制力はどこに行ったのか、とんでもないことだけを繰り返す自分にうんざりする。
「そんなにしかめっ面しないで」
トライデンは彼の肩を叩いて、ため息をついた。
「一度勝負してみようと言ったのは私ではないか。君が適当に手加減していたら気分を害しただろう」
「・・・団長は、元々軽く力を抜いていたじゃないですか」
リプタンは彼の手を離し、反論する。
トライデンは肩をすくめてマントを手に取った。
「君は騎士になって以来、これほど長く戦場を離れていたことがないじゃないか。焦るのも当然だよ」
リプタンは頬が赤くなるのを感じた。
団長は自分がそわそわしているのに気づいていたようだ。
トライデンは鋭い目つきで彼を見つめながら言った。
「でも今夜だけは宴会場に顔を出すように。これが最後の宴会だよ。これまでお世話になったのだから、城主にお礼を言わなければならないのではないか」
「被害補償交渉は全部終わったんですか?」
トライデンはうなずいた。
「もう王宮に戻って陛下に状況を報告すれば終わりだ。しばらくは自由に過ごせるよ」
その言葉に安堵感を感じてこそ正しいだろう。
しかし、空虚感と喪失感だけが押し寄せてきた。
リプタンはそのような感情を振り払うように無感覚に吐き出した。
「嬉しい言葉ですね」
団長は繰り返し宴会に出席することを頼み、医務室を離れる。
リフタンが団長になるのも近い?
最終日の宴会で、彼はマックと話す機会があるのでしょうか?
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