こんにちは、ピッコです。
今回は18話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
18話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 戦争交渉②
寒波が押し寄せると、窮地に追い込まれた略奪者たちが一斉に国境を越えてきて、大規模な戦闘が始まった。
一時も油断できない激しい戦闘が繰り返され、不必要な想念は自動的に頭の中から消える。
リフタンは騎士を率いて略奪者を討伐することに集中した。
しかし、敵は巧みに攻撃し、脱出を繰り返し、続く奇襲に資源と人材は急速に底をつく。
敵を最後まで追跡して掃討したくても、ドリスタンの王室軍を刺激するのではないかと思い、国境地帯を越えることもできなかった。
結局、危機感を感じたウェデン王室は、クロイソ公爵を説得するために、再び伝令を派遣する。
リプタンは彼らと一緒に2ヵ月半ぶりに再びクロイソ城を訪れた。
今回は、単に伝令を案内する立場ではなく、ルーベン王の意思を伝える代理人として、城を訪問したのだ。
彼はクロイソ公爵を説得し、早期に紛争を終結させろという王命を思い出し、眉間にしわを寄せる。
彼の君主は面倒な仕事を押し付けることに非常に熟練していた。
「本人が直接出た方が早いじゃないか」
リプタンは不満そうなため息をつきながら城門を通過する。
真冬のクロイソ城は、以前とは違う印象を与えた。
乾燥して乾いた風が吹き荒れる広い荘園はどこか陰気に感じられ、城の左右を囲む森は白い霧に囲まれたまま湿った寒気を噴き出している。
きょろきょろしていたリプタンは、庭を横切ってグレートホールの前に一気にたどり着いたた。
使用人たちに話を任せ、城の中に入る彼の顔は悲壮に固まっていた。
彼も同様に紛争にうんざりしていた。
今回だけは必ずクロイソ公爵を交渉テーブルの前に引き出すつもりだ。
あの男の自尊心のために、すでに数十人の部下を失った。
これ以上の無意味な戦闘は遠慮したい。
「公爵閣下に陛下の伝言を伝えるために来た」
リプタンは彼らを迎えるために飛び出してきた執事長に向かって冷ややかに叫んだ。
彼の威圧的な態度に驚いたように身じろぎしていた執事が丁寧にお辞儀をし、彼らを接見室に案内する。
リプタンは騎士団を率いて大股で階段を上った。
そうするうちに、女中たちと一緒に廊下の片隅にぽつんと立っているマクシミリアンを発見し、目を大きく開ける。
全く予想できない状態で彼女に会ったので、不意に奇襲でも受けたようにくらっとした気分だった。
「すごい美人ですね」
そばから聞こえてきた声に、リフタンはさっと首をかしげた。
ラクシオンが感嘆の声で彼女を見ていたのだ。
リプタンは全身の神経が高ぶるのを感じながら彼を睨みつける。
自分の不快感を感じなかったのか、ガベルがぼんやりと話を続けた。
「公爵家の次女が秀でた容貌を持って生まれたという話は聞きましたが・・・、驚きですね。数年後には西大陸ーの美女に育つのではないでしょうか?」
ぼんやりと瞬きをしていたリプタンは、再び視線をそらす。
その時になって彼は、ガベルから嘆声を誘ったのがマクシミリアン・クロイソでは
なく、彼女のそばに立った亜麻色の髪の少女だということに気づいた。
彼は氷を削って作ったような冷たい雰囲気の少女を見て眉をひそめる。
マキシミリアン・クロイソがすぐそばにいるのに、どんな神経でいれば他の女性に目を向けられるのか、彼としては理解できなかった。
ガベルだけでなく他の騎士たちも、惚けた表情で彼女の妹を眺めている。
全員、戦争が長続きしたせいで目がおかしくなったのだろうか?
マクシミリアンを見るだけで様々な感情を一度に体験することができるが、彼女の妹を見ても何も感じることはない。
むしろ、何故か苛立ちが募るだけだった。
彼らの姿を見たリカイドが不満そうな表情をする。
「われわれは紛争調停のために来たのだ。戦争中に女にぼうっとしているなんて情けないね」
「誰が魂を抜かれたというのですか」
照れくさそうな顔でぶつぶつ言いながらも、ガベルは姿勢を正した。
戦争という言葉に、彼の顔はあっという間に暗くなる。
ここに来る直前、彼らは自分たちの3倍近い数の略奪者たちと一度激しい戦闘をしなけれはならず、ガベルはその渦中に大事にしていた弟子を1人失った。
馬賊の群れなどに命を失うなんて、最初からレムドラゴンの鎧を着る資格がない奴だったと皮肉りながらも、彼は従者のために高い葬儀費用を出した。
大事にしていた部下を失ったのはそれだけではない。
烏合の衆に過ぎなかったドリスタンの民兵たちは、急速に体系を整えた軍隊に変貌し、まるで食糧倉庫に絡むネズミの群れのように追い出し、また追い出してもどこからか再び現れ、執拗に攻撃してきたのだ。
彼らの背後にトリスタン王室の支援があることは明らかだった。
飢え死にしそうな農民たちが、とこで力のある軍馬と鋼鉄の武器を手に入れたのだろうか。
2万人の男たちが指揮体系を備えた軍人に生まれ変わっているという事実は脅威的だった。
「こちらです」
前を走っていた執事が接見室ではなく、3階の階段で彼らを導く。
リプタンは彼を追いかけ、最後にもう一度マクシミリアン・クロイソに目をやった。
すると彼女は不安そうな顔をして日陰に身を隠す。
リプタンは彼女の瞳が霧のように曇っているのをはっきりと見ることができた。
丸みを帯びた顔は幽霊のように青白く、地味な赤褐色のドレスを着た小さな体は緊張でこわばっていた。
彼は再び目をそらす。
彼女があれほど警戒した目つきで自分を眺める理由が、騎士たちがもたらすニュースが心配だからだと信じたかった。
「少々お待ちください。公爵閣下に許可を得てきます」
執事が彼らを大理石の廊下の端に立たせ, 10クベット(約3メートル)に及ぶ巨大なまホガニーのドアの中に消えた。
リプタンはこの前、門前払いを受けた執務室の入口に立って接見許可が下りるのを落ち着いて待つ。
クロイソ公爵は彼らが入ってくるのを十分に時間をかけて許可した。
リプタンは騎士たちを連れて赤い門の中に大股で入る。
クロイソ公爵はライオンの皮で飾られた豪華な椅子に座り、冷たい緑の瞳で彼を見た。
「陛下の伝言を持ってきたと聞いた」
公爵は机の上で不機嫌そうな顔をする。
「どうしてこの城にすぐ伝令を出してくれなかったのかな?」
「陛下は東部国境の状況について詳しく知りたがっていました。そのため、私たちは定期的に報告を上げています」
リプタンは机に向かって歩き、単調な口調で答えた。
公爵がきちんと整理した口ひげをびくぴくと音を立てて皮肉るように言った。
「それで、陛下は何の命令を下されたのかな?」
「陛下は紛争が長期化することを心配されています。今回の紛争にはドリスタンの王室軍が介入していて、ともすれは全面戦争に広がる可能性があります。陛下は状況がそこまで悪化することを望んでいません」
「ドリスタン王室が略奪者を支援しているのが事実なら、平和法によって処罰すればいい」
公爵は椅子の背もたれにもたれかかり、気乗りのしないように言った。
「私の土地を侵略したやつらと妥協することはできない。王も私にそんな屈辱を強要することはできないね」
「ドリスタンの君主を一体何の方法で処罰するというんですか」
リプタンは激しく反論した。
「東の端まで直接軍除を率いて、トルベン王をオシリアの法廷に立たせますか」
公爵の顔が赤くなる。
「他の6人の君主たちが私を助けてくれる!」
「平和協定法は、七国の代表者が制定した法律です。閣下は本当に他の君主たちがドリスタンの支配者を裁判所に立てると信じているのですか?」
リプタンはできるだけ彼に対する敵対感を示さないように努め、落ち着いて話を続けた。
「ドリスタンは七国協定を破棄しようとし、平和法は焚き付けとして使われることになるでしょう。王たちは、教皇に自分たちを裁く権利があるとは考えていません」
「あえて・・・、今私を教えようとしているのか?」
「私は君主の意思をそのまま伝えているだけです」
公爵の怒りに満ちた表情にもかかわらず、リプタンは冷静さを失わなかった。
「陛下は平和協定を脅かす行為は決して容認できないと釘をさしました。したがって、早急に紛争を終息させ、ドリスタンとの不和に終止符を打つことを促すところです」
彼は腕から王室の印章が押された書簡を取り出し、机の上に置く。
公爵はそれをすぐに受け取る代わりに、氷のような白い緑色の目に怒りを込めてしばらく見下ろしていた。
彼はすぐに鋭い声で叫んだ。
「伝言をすべて伝えたのなら、これで退け!」
リプタンは遅滞なく騎士たちを連れて部屋を出る。
ガベルは廊下を出て、ヒューと長いため息をついた。
「あんなに強く出ても大丈夫なのですか?あの人が目の前に出たら普通の迷惑ではないはずなのに・・・」
「礼儀は十分に守った」
リプタンは無愛想に返事をし、階段を大股で降りる。
2階の襴干の前に集まっていた女性たちは、どこへ行ったのか一人も見当たらなかった。
彼はマキシミリアンが隠れていた場所にちらっと視線を投げかけ、黙々と残った階段を降りていく。
下の階に着くと使用人が現れ、彼らを客室に案内してくれた。
「すぐにお食事とお風呂をご用意いたします」
使用人たちが去ると、リプタンは鎧を脱いで下ろした後、窓の前に歩いて行って庭を見下ろす。
青白い冬の日差しが青黒い針葉樹の上に薄い光をまき散らし、草が黄色く死んでいる花壇の上では鳥たちが種をついばんでいた。
彼は窓を開け、彼女がよく散歩していた庭をくまなく見渡し、ため息をつきながら壁に背をもたせた。
数ヵ月間で3、4歳は老けたような気がする。
彼は疲れたため息をついてベッドの上に横たわった。
クロイソ公爵は、最終的にドリスタンとの交渉に応じることを決定する。
他の選択肢があるわけでもなかった。
リプタンは、クロイソ公爵の伝令たちを連れて再び国境地帯に向かい、そこでドリスタン王室軍と交渉を行った。
そのようにクロイソ城と国境地帯を行き来する間に、いつのまにか水の季節が訪れる。
紛争の交渉が順調に終わるとクロイソ公爵は東部の貴族はもちろん、ドリスタンの伝令まで招待して盛大な宴会を催した。
ここ数ヶ月間続いた紛争で被害を受けた封神たちの不満を静めるためだった宴会場はいつにも増して贅沢に飾られており、あらゆる珍しい果物と香辛料で味をつけた食べ物が果てしなく食卓を満たした。
リプタンは演壇にいるクロイソ公爵を眺めながら口元をひねる。
交渉の間、高圧的に行動していた人間が、ドリスタンの使者たちを隣に座らせて、親しく冗談を言う姿に、自然とそら笑いが出た。
しかし、不楡快だった気持ちは、その横に静かに座っているマクシミリアンを見ると、一気に消えていく。
彼女がブドウの実を口の中に押し込むのをじっと見て、喉が渇いていくのを感じてワインをがぶ飲みした。
どういうわけか、彼女は見るたびにますます綺麗になっている。
最近は彼女を見つめるだけでも苦しい気持ちになった。
リフタンは心苦しいため息をつきながら、使用人を呼んで空の杯を満たした。
ヘバロンはそれを見てびくびくと音を立てる。
「敗戦したと思われるかもしかない。なんで死にそうな顔なの?」
「・・・勝利したわけでもないじゃないか」
「4千人余りの兵力で、2万人余りに逹する略奪者を半年間防げは良い成果だ。仲裁も予想より順調に進み、陛下も結果に満足していらっしゃるじゃないか」
ヘバロンはジューシーな指をしゃぶりながらシューと音を鳴らした。
「副団長の功労を否定する人間はいない。今回帰還すれば、騎士団長の任命式があるから覚悟しておいて」
「・・・」
リプタンは何の返事もしなかった。
するとへバロンが目を大きく見開いた。
「まさか私たちの信頼を裏切ろうとしているのではないだろう?」
「私がレムドラゴン騎士団の団長になれば、君たちは自動的にアナトールの家臣になるんだ。辺境の田舎の領主に仕えることで満足できるか?」
「今になって何を言っているんだ。とうせレムドラゴンの騎士団員のほとんとが庶子や平民、没落貴族、下級貴族一族の次男など、領土を得る可能性がない奴らだけじゃないか」
ヘバロンは大声で鼻を鳴らした。
「そんなことに気を使っていたら、とっくに副団長を踏み潰していただろうよ」
リプタンは、「そんな実力があるのか」と皮肉ろうとしたが、我慢する。
ヘバロンはエールを一口飲んで、気楽に付け加えた。
「そして副団長が、あの小さな土塊を再建しようと努力していることはみんな知っている。
私たちはそこで過ごすことを楽しみにしているんだ」
リフタンは、不満な目でうっとりしたリカイドが座った席を睨みながら口元をびくびくさせる。
「もちろん副団長がドラキウム宮殿で地位を固めることを期待する人も何人かいるようだけどね」
「・・・」
「だけど、決定を下すのはあくまでも副団長だ。私たちはすでにリプタン・カリプスの意に従うことに決めた」
彼は黄褐色の瞳で黙々と決断を求めてきた。
静かな顔で杯を見下ろしていたリプタンが、すぐに重く吐き出した。
「今回は私も回避するつもりはない。ルーベン王が剣を下ろしたら受けるようにする」
「当然そうすべきだ」
ヘバロンは満足げに微笑み、エールの入ったグラスを彼の前に置いた。
「副団長が団長になれば、非常に丁寧に待遇してくれる」
「・・・それは楽しみだね」
リプタンはため息をつきながら彼が差し出したグラスを受け取った。
ヘバロンと飲み始めたら宴会が終わるまで飲まなければならないだろう。
ある時は夜が明けるまで飲んだこともあった。
普段なら嫌気がさして避けたはずだが、この日だけはリプタンも喜んで酒の対決に臨んだ。
彼らが大騒ぎしているのを見て高尚なふりをする貴族たちが軽覗しているのが感じられた。
しかし、彼はマクシミリアンの視線を一分だけ自分に引き留めることができれば、どんなドジな行為も躊躇わないほど切迫した心情だった。
彼は彼女の好奇心に満ちた覗線が自分に届くのを感じながら、ヘバロンが与える酒をがぶ飲みしていく。
しかし、そんな情けないことをあざ笑うように、彼女は女中たちを連れて静かに宴会場の外に出てしまった。
リプタンは湯気が抜けるのを感じながら、半分空けた杯を置く。
彼女を追いかけようかという考えがしばらく頭の中をよぎったが、彼女が逃げることは明らかなのでやめた。
これまで何度も森の中であったことに対して謝ろうとしたが、そのつど失敗に終わったのだ。
リプタンは、自分が近づくだけでも一目散に逃げてしまうのに忙しいマクシミリオンを思い浮かべながら唇をひねった。
今や彼女はリフタン・カリプスを難問屋であり、スパイとしてでも足りず、酒飲みだと思っているだろう。
「それは素晴らしい」とリプタンは皮肉っぽく呟いて、残りの酒を飲み干した。
かえって良かったのかも知れない。
どうせ自分が彼女のそばに立つことはないのだから。
それなら、むしろマクシミリアン・クロイソが自分のことをひどく嫌った方がいいかもしれない。
そうなれば、この未練な感情も振り払うことができるだろう。
彼は再びグラスをいっぱいにした。
最高級のワインがうんざりするほど苦く感じられる。
翌日、リプタンは夜が明けるやいなや、騎士たちと一緒にドラキウム宮殿に向かった。
公爵の奉神たちは数週間クロイソ城に滞在する予定であり、王室騎士団はドリスタンの使節団が去るまでここを守っていなければならなかった。
レムドラゴン騎士団の使命は紛争が終わること、その時まで軍事的支援をすることだったので、これ以上ここにいる理由がない。
彼らは広大な農地を果てしなく走った。
時々よく整えられた市場と村が、穂が出始めたばかりの薄い青い田畑の間に位置しており、北側にもう少し上がると、数千匹の羊を放牧する巨大な牧場が現れる。
リプタンは公爵の裕福さに改めて舌を巻いた。
東の領主が王よりも裕福だという宮殿の噂は、全く誇張ではなかったのだ。
彼らは馬に乗って丸4日間、広大な農地を渡った末、ついに公爵領の終わりを意味する北側の域壁を通過する。
ほぼ100クベット(約30メートル)に逹する雄大な城壁を過ぎると、緩やかな平原は終わり、その代わりに高峻なカリク山脈が続いた。
彼らは野山を3、4個越えて、やっと王都に到逹する。
「首都にはどのくらいの期間滞在するつもりですか?」
城門を過ぎて見物人でいっぱいの街を行進していると、ウスリン・リカイドがびったりと馬を走らせて近づいてきた。
リプタンは彼の顔をちらりと見て、無愛想に答える。
「数日休んだ後、すぐに出発するつもりだ。アナトールをあまりにも長く空けておいた」
ウスリンの顔に少し不満の色が通り過ぎた。
「そうしないで、ひと月ぐらい宮殿にいられたらどうですか?春を迎えて多くの貴族たちがこの首都を訪れてきます。私が彼らを紹介しますので、ご親交を・・・」
「遠慮する。余計なことに時間を無駄にしたくない」
リプタンは冷酷に答え、馬に拍車をかけた。
その光景を見守っていたヘバロンがくすくす笑いながら口を開く。
「リカイド家のお坊ちゃまが、また振られましたね」
ウスリンは彼を激しくにらみつけ、手綱を鞭のように振り回し、神経質に馬を早めた。
彼らがドラキウム宮殿に到着すると、使用人たちが出てきて迎えてくれた。
リプタンは馬小屋の番人に遠い道を走ってくるのに苦労した馬の面倒をよく見てほしいと頼んだ後、すぐ謁見室に向かう。
しばらくして、彼らは赤いじゅうたんが敷かれた雄大な部屋の真ん中に片膝をついて座り、王と対面する。
権力の座に座ったルーベン3世は、倦怠の目でトライデンが作成した報告書にざっと目を通し、それを侍従に渡した。
どういうわけか、王はこの前見た時よりも若く見えた。
もじゃもじゃに伸ばしていた髭をきれいに剃った顔は30代半ばにしか見えなかったし、丸くなっていた頬もほっそりとして、一層目鼻立ちがはっきりしていた。
リプタンは生涯で、ルーベン3世ほど変化に富んでいて予測不可能な人物を見たことがなかった。
彼は子供のように気まぐれでも90歳の老人のような慎重さを披露したり、残忍で無味乾燥な人のように行動しながらも、次の瞬間に驚くべき寛大さと包容力を見せたりもした。
宮殿の貴族たちも彼の前では力を発揮できない。
リプタンは、これらをどうやって弄んでやろうかと考えるような金褐色の瞳を見上げ、喉まで上がってくるため息をのんだ。
長い間沈黙で彼らの息の根を止めてきたルーベン王が、ついに口を開いた。
「思ったより長くかかったね」
「ご報告したように、陛下、双方とも感情が高ぶっており、交渉は容易ではありませんでした」
トライデンは丁寧な口調で反論した。
ルーベン3世は彼をじっと見つめ、すぐに息を引き取った笑いで同意を示す。
「クロイソ公爵のこだわりがすごいよね。それで、被害状況はどう?」
「一部の地域が略奪で被害を受けましたが、現在はほとんど復旧しています。死傷者の数字は報告書に書かれた通りです」
王は物思いにふけった顔であごを撫でて、ゆっくりとうなずいた。
「あまり満足できないね。しかし、全面戦争に拡大するところだったことを考えれば、立派にうまくやり遂げたと言えるだろう」
褒め言葉かどうか曖昧な言葉をつぶやいた王が、すぐに寛大な笑みを浮かべる。
「これまでご苦労だった。疲れていると思うが、王室の騎士団が到着し次第、褒賞金を支給するようにしよう。そしてリプタン・カリプス、あなたは・・・」
王の手によって立ち上がったリプタンは、立ち止まって彼を見上げた。
王は拳に頬をもたれたままのろのろと宣言する。
「一週間以内に騎士団長の任命式を行うので、すぐに去ってしまう考えは夢にも思わないように」
リプタンはこわばった顔をした。
覚悟して.いたことではあったが、このように到着するやいなや、それも団長の前で直接取り上げるとは予想できなかったのだ。
彼はトライデンの顔を振り返る.
団長は片手で彼の肩を力強くたたいて、何も言わずに支持の意を示した。
その姿をぼんやりと見下ろしていたルーベン王が形式的に付け加えた。.
「レムドラゴン騎士団の伝統は私もよく知っている。君たちの中に私の決定に反対する人がいるかな?」
騎士たちは皆沈黙した。
ルーベン3世は満足そうな顔で片手を振る。
「ないみたいだね。それでは任命式を準備するように指示を下す。さあ、そろそろおいとまして。君たちから馬の匂いがあまりにも酷くするから」
謁見室の外に出たリプタンは、もう一度同僚たちに意思を聞いた。
彼らは黙々とうなずくことで自分たちの意思を伝える。
もし不満でもこのような悲壮な雰囲気の中では口を離せないという多少冷笑的な考えが頭の中をよぎったが、リプタンはあえて2度間かなかった。
自分は現在、レムドラゴン騎士団序列1位であり、最も強い者が率いるのがレムドラゴンの絶対不文律だったのだから。
数日後、貴族たちが見守る中、リフタンの任命式が行われる。
ルーベン王が直接彼の任命式を主管し、複雑な手続きが終わった後は直ちにトライデンの引退式が続いた。
リプタンは達成感よりも虚しさと寂しさを感じた。
決してそのような感情を表に出すつもりはなかったが、トライデンをが去るとき、しっかりとした柵の外に押し出されたように感じ、より孤独な存在になったようだった。
「やっと家に帰れて嬉しいね」
自分の領地に発つために頭取を務めていたトライデンが、リフタンを振り返りながら話した。
彼は本当に気楽に見えた。
リプタンは感情を抑えながら無愛想に答える。
「私も小言を言われなくなるので、すっきりしました」
「ふーん、心にもないことを、私が知らないと思っているのか?私がいないからと枕カバーを濡らす君の姿が目に浮かぶよ」
トライデンがからかうように言った。
リプタンは苛立たしい目で彼をにらみつけ、しぶしぶとした微かな笑みを浮かべて見せた。
「お元気で」
「君も」
トライデン子爵は馬の上に座り、強烈な目で彼を見下ろす。
「君は30歳まで生き残っていれば、歴史に記録されるほど偉大な騎士になれるだろう。どうか、あまり無謀なことは慎んでくれ」
「肝に銘じておきます」
トライデンは彼の後を追う10人の部下を自分の領地に導いた。
リプタンは騎士たちと一緒に丘の上に立って彼を見送る。
彼の人生を変えてしまった男は、後ろも振り向かずに風のように遠ざかっていった。
ついにリフタンが騎士団長に!
彼を勧誘したトライデンの出番は、これで終了でしょうか?
ここからアナトール領地の開拓に?