こんにちは、ピッコです。
今回は23話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
23話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最初の夜
「午後に結婚式を行います」
正午になると執事が召使いたちを連れて現れ、礼服と装身具を差し出した。
リプタンは銀のベルベットと絹の服を見下ろして顔を歪める。
その殺伐とした表情を見て、使用人たちは身をすくめて慌てて後に退いた。
しかし、執事はびくともせずに耐える。
「東部の貴族たちが証人として参加した中で、大司祭が礼式を主管する予定です。急いで準備をしなければ時間を合わせることができません」
彼は、あえてお前などが東部貴族たちと大司祭を待たせるつもりかというように傲慢な覗線を送ってきた。
リプタンは服をひったくるように受け取る。
誰かをずたずたに引き裂きたい気持ちだったが、それはこの竹串のような老人ではなかった。
リプタンは冷たく歯ぎしりするように言った。
「私一人でできるから消えろ」
執事は疑いの目で彼を見つめ、従順に使用人たちを連れて外に出ていく。
リプタンは服を脱ぎ、吐き気のするローブを身にまとった。
中途半端に貴族の真似をした自分の姿を見ていると、嫌気のようなものが起きた。
鏡をのぞいていたリプタンは、裾を引き裂きたい衝動を抑えながら、さっと身を向ける。
しばらくして、再びドアを叩く音が間こえてきた。
リプタンは腰に剣をつけて外に出る。
鋼鉄の鎧で武装したクロイソ城の騎士たちが廊下に並んでいた。
「祭壇にお連れするために参りました」
まるで囚人を連行して行くような光景に、リプタンは歯を食いしばる。
公爵家の騎士たちは彼をものともせず、城内に設けられた神殿に案内した。
リプタンは彼らの後を追って歩き、あらゆる呪いを心の中で浴びせた。
クロイソ公爵家のすべてが呪われますように。
その者の奉神たち、召使いたち、すべてが。
しかし、祭壇の前に立ったマクシミリアン・クロイソを見た瞬間、そのような考えは雪が解けるように消えてしまった。
リフタンは神殿の入り口に立ち止まり、彼女の後ろ姿をほんやりと眺める。
マクシミリアン・クロイソは顔色と同じくらい青白い白いドレスを着ていた。
彼は彼女の真っ白な首筋に沿って、狭い背中と一握りにもならない細い腰で視線を滑らせた。
銀色の光沢が流れる滑らかなスカートの裾が大理石の床の上に雲のように広がっていて、優雅に結ったバラ色の髪の上には真珠の飾りが煌めいている。
自分の目の前に女神が降臨したようだった。
息が詰まるほど愛らしい姿に心臓が締め付けられた。
リプタンは深いため息をつく。
頭の中が混乱と渇望、罪悪感でごちゃごちゃになった。
どうしてこの屈辱的な瞬間に、このような感情を感じることができるのか、自分自身を理解することができなかった。
「入場してください」
彼が入口でびくともしないと、後ろから騎士たちが催促する。
リプタンは祭壇に向かってゆっくりと歩いた。
赤いカーペットが敷かれた道の左右に並んだ貴族たちが、彼に向かって同情と嘲笑のこもった視線を送ってきた。
リプタンはそれをすっかり無視して彼女のそばに立つ。
すると、マクシミリアンが陰になった灰色の瞳で慎重に彼を見上げた。
今にも割れるような優しい目つきに、リプタンはどこかへ果てしなく墜落するような気分を感じる。
彼女は悲しくて惨めに見えた。
魔王の前に捧げられた供え物も、これ以上哀れに見えることはないだろう。
彼の内部でも荒波のように怒りと悲しみが膨らんだ。
自分以外の人がこの場に立っていたら、彼女はこんなに怯えた顔をしなかったかもしれない。
そんな考えをすると彼女に向けられた恨みさえ生まれてしまう。
自分もこの場に立ちたくなかった。
彼女にそのように抗弁したかった。
自分もこうなることを望んでいなかったと。
しかし、彼はそれが嘘だということをよく知っていた。
「これから結婚式を行います」
壇上の上に立った大司祭が厳粛な声で宣言する。
リプタンは祭壇の前まで歩いて行き、マクシミリアンを無視した。
すると、大司祭が高低のない音声で聖書を朗読し始める。
リプタンは儀式が行われる間、祭壇に刻まれた天使の彫刻だけを見下ろした。
しかし、極度に発達した五感が彼を燃やしてしまう勢いで彼女の存在を絶えず認識させてしまう。
息を吸うたびに彼女の甘い体臭が肺腑に落ち、彼女のだぶだぶな袖が手の甲の上をそっと掠めるたびに、彼は気が狂いそうだった。
「リプタン・カリプス、あなたはマクシミリアン・クロイソを妻に迎え、一生を大切にし、面倒を見てくれることを神の前で誓いますか?」
大司祭の威厳のある声にリプタンは頭をもたげる。
みんなが息を殺して彼の返事を待っていた。
「誓います」
「マクシミリアン・クロイソ、あなたはリプタン・カリプスを夫として迎え、一生を従うことを神の前で誓いますか?」
リプタンは彼女の体が今にも切れるような緊張感を感じることができた。
マクシミリアンが忍び寄る声でつぶやく。
「ち、誓い・・・、ます」
彼は首を回して彼女を見ないように必死だった。
ついに大司祭が2人が夫婦になったことを宣言すると、証人たちが席から立ち上がって手を叩いた。
そのすべてが現実のようではなかった。
リプタンは宴会場に向かう人々を眺めながら、冷や汗が湿っぽくにじんだ手のひらをズボンの上にこする。
彼女に何を言っていいか分からなかった。
「じっと立って何をしている?結婚披露宴が待っているよ」
石像のように固まっている彼に、クロイソ公爵が憎らしい笑みを浮かべて近づいてきた。
リプタンは敵意に満ちた目で彼を睨む。
しかし公爵は平然とその眼差しを受け流した。
「結婚式はまだ完全に実現したものではない。私は君が約束を最後まで守ってくれると信じているよ」
リプタンはあごの骨が折れるほど歯を食いしばる。
だが、披露宴が終わって初夜の部屋に入るまで結婚式が完全に実現したわけではないということを、彼もやはりよく知っていた。
彼はしぶしぶ公爵に従って宴会場に足を運んだ。
マクシミリアンが静かにその後を追ってくるのを感じたが、あえて彼女を振り返る気にはならなかった。
悲嘆に暮れた彼女の顔なんて見たくなかった。
リプタンは賑やかな宴会場の中に連れ込まれ、公爵が注いでくれるワインを機械的に口の中に注いだ。
どれほどそうしていただろうか、日が暮れる頃、部下たちが宴会場の中に入った。
リプタンはウスリンが自分に向かって頭を振るのを見て、貴族たちに了解を求めた後、彼がいるところに足を運んだ。
静かに話を交わす所を探すように首を横に振っていたウスリンが宴会場の隅に向かう。
閑静な所に着くと、騎士が慎重に口を開いた。
「騎士たちが義父の奥様を見つけました」
リプタンは顔を引き締めた。
「無事か?」
「とても怖がっていましたが、大きな怪我はないようです。女の子も無事です」
リプタンは安堵のため息をつく。
彼らに何かあったら、自分を許せなかっただろう。
「彼らは今どこに?」
「騎士が保護しています」
ウスリンは少し間をおいて尋ねた。
「本当にこのままお世話になるのですか?」
ぎくしゃくした話題にリプタンは肩をこわばらせる。
彼が何の返事もしなかったので、ウスリンはいらいらして付け加えた。
「何か別の方法があるかもしれません。陛下に助けを求めれば・・・」
「伝令がドラキウムに到着する前に、私の義父が処刑されるだろう」
リプタンは重い目で彼を見る。
「心配するな。君たちまで引き入れるつもりはない。いったん結婚式を挙げれば、団長職を辞任する」
ウスリンの顔は恐ろしく歪んだ。
「笑わせないでください!単身でレクソス山脈に行くということですか!?」
「公爵に軍隊を出してくれと言えばいいだろう?」
「それでも!」
ウスリンは険悪にうなり声を上げるように言った。
「たとえまともな軍隊を出しても、公爵家の騎士は団長の命令に従わないでしょう。卿はレクソス山脈で一人孤立するはずです」
「それは私の問題だ!」
「団長の問題は、すなわち私たちの問題です!」
ウスリンは鋭く反論した。
「団長が騎士団を出れば、残った騎士たちは再び傭兵に戻るか、王室騎士団に編入されるでしょう。どちらにしてもレムドラゴンの騎士団は瓦解します。私たちにそんなことを経験させるつもりですか?」
リプタンはグラスがへこむように手に力を入れる。
彼もレムドラゴン騎士団がどうなるかよく知っていた。
しかし、命を失うかもしれない旅程に連れて行かれるよりはましではないか。
彼の考えを読んだかのように、ウスリンが落ち着いて話を続ける。
「私たちは騎士です。叙任したときからベッドの上で生涯を終えることは諦めました。団長がドラゴン討伐に出ると言ったら、私たちはついて行くだけです」
「君の考えはそうだが、他の人たちはどうなるか分からない」
リプタンはグラスを投げ捨てるように置いた。
「もし私が団長を辞任するのが難しければ、トライデン子爵に電報を送るつもりだ。みんなに意思を尋ね、望む人がいるなら、王室騎士団に入団できるように措置を取るつもりだ。ドラゴン討伐は危険な旅程だ。私の都合で君たちまで命をかけることはできない」
ウスリンは何か反論しようとするかのように口を大きく開ける。
その瞬間、背後からクロイソ公爵の声が間こえてきた。
「こんないい日に、どうしてそんなに声を荒げているのかな?」
その厚かましい言葉にウスリンの顔が赤くなる。
リプタンは部下が火のような性質を我慢できず、毒舌を浴びせる前に先に口を開いた。
「騎士団内部の問題です」
あなたが気にすることではないという意味で冷たく吐き出すと、公爵の口元にひねくれた笑みが浮かんだ。
「寂しい話をしているね。もう君は私の息子ではないか」
リプタンは軽蔑のまなざしで返事をする。
公爵が不機嫌そうに眉をひそめ、すぐに肩をすくめて言った。
「まあ、どうでもいいね。もう初夜の時間だよ。いつまで花嫁を待たせるつもりかな?」
そして、ろうそくが並んだ階段に向かって片手を広げて見せる。
リプタンは乾いた唾を飲み込んだ。
生硬な緊張感で背筋がびしょ濡れになった。
高尚なふりをする顔で杯を傾けていた貴族たちが、公爵の後ろで密かに興味津々な覗線を送ってくる。
リプタンはあごを強く引き締めてゆっくりと足を踏み入れた。
背後からウスリンが急いで彼の名前を呼ぶ声が聞こえてきたが、彼は振り返らなかった。
階段を上っている間に心臓が抑えきれないほど激しく揺れ始める。
リプタンは自分が震えている理由は屈辱感のためだと、何度も自らに繰り返した。
しかし、臆病者のように逃げたい衝動に駆られていることは、どうしても否めなかった。
彼は部屋の前で深呼吸をする。
「中に入ってください」
門を守って立った兵士が生意気に催促してきた。
リプタンは険しい目つきで彼を睨みつけ、ドアノブを引っ張る。
ドアのすき間から燃え盛る暖炉の明かりが漏れた。
リプタンはもう一度乾いた唾を飲み込んだ後、ドアを開けて部屋の中に入った。
すると、マキシミリオンが黄金色のベールが垂れ下がったベッドの上に座っている姿が目に入る。
リプタンは慌ててドアを閉めた。
マクシミリオンが、当惑するほど薄いドレスを着ていたからだ。
ろうそくの下に現われた彼女の豊満な体つきに沿って視線を滑らせたリプタンは、体を貫く熱気に危うく後ずさりするところだった。
当惑したことに、股間が石のように固くなっている。
彼は自己嫌悪で顔をゆがめた。
しかし、まったく彼女から目が離せない。
彼女の髪をほどいたパクチーが光を受けて多彩な色で輝き、青白い肌はふさふさとしたピンク色を帯びていた。
彼は彼女のふっくらとした唇を見て、深く開いたネックラインの下に視線を落とす。
少し中が透けて見える薄いリネンドレスの上にクリーム色の乳房が半分も露出していた。
リプタンは慌てて視線を再び上に向ける。
顔がかっかと火照り、喉がからからに燃えていくようだった。
彼はどうしていいか分からず、彼女が口を開けて何か言ってくれるのを待っていたが、焦りに耐えられず、杯が置かれたテーブルの前に歩いて行った。
すると微動だにしなかったマキシミリアンが鳥のように震え始める。
リプタンは頭頂部に氷水がかかっているのを感じながら彼女を見下ろした。
彼女の灰色の目は、自分がここにいないことを懇願していた。
ナイフで心臓を痛めても、これ以上痛くはならないだろう。
彼は傷ついた表情を隠すために振り向いてグラスを手に取る。
そしてワインをがぶがぶ飲み、興奮を鎮める時間を稼いだ。
いっそ早く終わらせてしまった方が彼女にも幸いなのだろう。
リプタンは感情を排除した顔に戻り、落ち着いて話した。
「服を脱いで」
そして、頭の上に自分の服を脱ぎ捨て、彼女をちらりと見る。
マクシミリアンは聞いたことを理解していないかのように、ぼんやりとした顔で目をばちばちさせていた。
リプタンは眉をひそめる。
傭兵時代、彼の部屋に忍び込んたりした売春婦たちは大部分が自ら服を脱いだ。
裸になってベッドの中に潜り込み、自分の服まで脱がせようとする女性たちを取り外すのに途方に暮れたのが、彼の持つ女性経験の全てだったのだ。
リプタンは彼女の方を向いていらいらして付け加えた。
「私が脱がせてあげないといけないの?」
彼女は驚いたように息をのんだ。
恐怖に満ちた目が光に現れた自分の体にぼんやりと目を通す。
彼女が自分の姿にあまり良い印象を受けなかったということがあまりにも自明だった。
すぐにでも気絶しそうな顔を見ると、自分がオークになったような気分だ。
「ゾッとするように見ているね。私の姿がかなり気に入らないようだね?」
お世辞でもいいから否定してくれることを願って鋭い口調で皮肉ると、彼女がどうしていいか分からず吃った。
「わ、私は・・・」
しかし、その後の話は続かなかった。
惨めで苦い思いで彼は口元をひねる。
今さら何をがっかりしているのか。
彼女が自分を忌まわしく思っていることは、以前から知っていた事実ではないか。
もしクロイソ公爵がいなかったら、彼女は決してここにいなかっただろう。
彼は自嘲的につぶやいた。
「もちろん下級騎士なんかが、孤高の公爵令嬢の心に浸るはずがないだろう」
そう言っておいてギクリとした。
まるで彼女に気に入りたいという意味ではないか。
リプタンは急いで付け加えた。
「脱いで。やるべきことをしなければならないじゃないか」
彼女は床に覗線を釘付けにしたまま動かなかった。
リプタンはマクシミリアンに近づき、慎重にあごを上げる。
子供の頃以来、初めて彼女に触れた。
花びらのようにすべすべした肌の感触に指先が痺れる。
リプタンは感情を隠すために、わざと固く吐き出してしまった。
「初夜を行わなければ婚姻は無効になる。拒否権を行使するのか?」
純銀のように澄んだ瞳の上にかすかな痛みが浮かんでいた。
哀れなほど震えている彼女を抱きしめて慰めてあげたい衝動が湧き出た。
彼はその感情を押さえつけるように冷ややかに吐き出す。
「私がまた服を着て出て行くことを望むなら言って。一度始めたら途中で止まらない」
わざと派手に吐き出した言葉に、彼女が唇を噛んで、ぶるぶる震える手で帯を緩める。
リプタンは彼女が装身具を一人で脱いでベッドの横に置くのを見て息を殺した。
彼女は長い間ドレスのひもをいじくり回していたが、彼が呼吸困難で倒れる直前になってようやく肩紐を解く。
彼女の真っ白な背中と丸い肩が明かりの下に現れた。
だが、どうしてもそれ以上に肌を露出する勇気が出ないのか、彼女が胸元に裾をぎゅっと握る。
リプタンは張り裂けそうな緊張感に耐えられず、急いで彼女の裾を引っ張った。
彼女と同じくらい、自分もこの瞬間を我慢するのが難しかった。
死刑宣告でも下された人のようにぶるぶる震える彼女の姿を見たくもなかったし、このような瞬間に体が甘くてどうしていいか分からずにいる自分もゾッとした。
このすべてを早く終わらせたい気持ちだけだった。
「ちょ、ちょっと待って・・・!」
ドレスが腰まで下がると、彼女は両手で胸を覆う。
リプタンは彼女を睨みつけた。
「手をどかして」
「なんで、なんで、ふ、服を・・・!」
混乱している彼女の姿にリプタンはふと指を縮める。
まさか貴族たちは服を着たまま寝床を持つのか。
過去に何人かの質の悪い傭兵が女性を壁に押し付けたままスカートの裾だけ巻き上げて関係を持つのを見たことがあったが、女性たちがそれをあまり好まないという事実程度は彼もよく知っていた。
リプタンは彼女の時間稼ぎに苛立ちを感じて、せき立てるように言った。
「私が出ることを望んでいるのか、望んでいないのかはっきりしろ」
「・・・」
彼女はとうとう諦めたように腕を下げる。
リプタンは頭の中が真っ白になるのを感じながら、そのまま凍りついた。
彼女は心臓が止まるほど美しかったのだ。
少年時代から積極的な誘惑に苦しめられてきたせいで、女性の裸ぐらいはうんざりするほど見てきたのに気が遠くなってしまう。
彼はごくりとつばを飲み込んだ。
体に火がついても、これ以上熱くなることはないだろう。
彼は彼女の丸い胸、平べったい腹部、細いふくらはぎまで視線を滑らせた。
喉から自然と押さえつけられたうめき声が沸き起こった。
これからは本当に取り返しがつかない。
戻りたいのかも分からなかった。
彼は震える手で彼女に触れ、魂が抜けたようにつぶやいた。
全身の骨が夏の日のバターのように溶けるような気分だった。
義父は自分のために刑務所で苦しめられ、部下たちは自分について四肢に引きずり出されるかも知れない境遇に置かれている。
それにもかかわらず、ひたすら自分だけが天国を行き来していた。
リプタンは頭を下げて彼女の体にキスをする。
長年夢見てきた女性が自分の腕の中にいた。
自制できるはずがなかった。
今日が過ぎたら二度と触れられないかもしれない。
二度と彼女に会えないかもしれない。.
そこには火で造られた天国があった。
苦痛に満ちた悦惚とした楽園があった。
彼は全身を震わせる。
彼女が自分に適応できるようになるまで自制しようと必死になったが、生まれて初めて味わった快楽に自らを持て余すことができなかった。
彼はついに放蕩者のように走り出した。
寝かせておいた情熱が津波のように彼を飲み込み、すべての自制力が砂の城のように崩れていく。
ひどい喉の渇きに悩まされ、リプタンは舌を彼女の口の中にがつがつと押し込んだ。
彼女のうめき声が喉をくすぐった。
内臓が全部溶けそうだ。
細くしなやかな手足、柔らかくしっとりとした肌、甘い体臭など、すべてが彼の魂を奪っていく。
このまま髪の毛一本残さず全部飲み込んでも飲み込めそうだった。
リプタンは荒々しくうめき声を上げ、彼女の欲望をすべて彼女の中に押し込んだ。
「ふぅ」
どんなに気を取られていたのだろう。
くらっとした感覚に浸っていたリプタンは、すすり泣く音にぎょっと頭をもたげた。
熱に浮かされた彼女の顔の上でかすかに涙の跡が輝いた。
リプタンは凍えた目で彼女を見下ろし、尋ねる。
「なんで・・・、泣いてるの?」
彼女は涙を隠すように首をかしげた。
彼は彼女の頬を包み込み、無理やり自分を見させる。
「避けないで」
すると彼女が混乱と羞恥、そして喪失感が揺れる白い瞳で彼を凝視した。
リプタンは顔をゆがめて、彼女の頬から涙を拭う。
彼の内部でも羞恥心と自己恥辱感が野火のように起こった。
彼は敵対感と悲しみ、挫折感が入り混じった状態で彼女をぎゅっと抱きしめる。
子供のころの記憶が襲ってきた。
ひどく寂しそうに見えたあの女の子を、この腕で抱きしめたかった。
誰も傷つけないように守ってあげたかった。
長い間大切に抱いてきたものを、自分の手で滅茶苦茶にしたという事実に呆れてしまう。
リプタンは彼女を抱きしめた腕にしがみつくように力を入れた。
そして涙と汗でびしよびしょ濡れたこめかみに口づけをしながら空虚につぶやいた。
「もうあなたは私の妻だよ。好むと好まざるとにかかわらず取り返しがつかない」
すべてが台無しになったが、それでもこれで彼らは完全に縛られてしまった。
彼は彼女の唇の上にキスをする。
もうどうでもよかった。
彼女がこれで自分を欲しがるようになることは一生ないだろうが、運が良ければ自分は彼女の夫として死ぬことができるだろう。
彼は罪悪感から目をそらした。
彼女には恐ろしい記憶になるこの夜を、自分は何度も繰り返して残りの人生を耐えることになるだろうという予感に身震いしながら。
マックも緊張でどうしていいか分からずにいましたが、リフタンも内心ではとても緊張していたのですね・・・。