こんにちは、ピッコです。
今回は40話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
40話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 自分にできること⑥
しばらくして、ルースが大きな袋を肩に担いで荷台に薬を積んだ。
マックは彼が乗ることができるように馬車の壁にぴったりと座る。
馬車に乗っていた魔法使いが、ようやく彼女がいることに気づいたかのように、びっくりした表情を浮かべた。
「奥様も行かれるのですか?」
その反応にマックは目を丸くする。
当然、自分も助けに行かなければならないと思っていたのだ。
「わ、私が行くと、邪魔になるでしょうか?」
「いいえ、ほんの少し驚いただけです。奥様が一緒に行ってくれれば、お役に立てますよ」
魔法使いは優しく微笑んで彼女の向かいの席に座る。
間もなく3台の馬車が城門を通りすぎる。
橋を渡るやいなや馬車が激しくガタガタと音を立て始めると、マックは驚いて取っ手をぎゅっと握った。
馬車は急な坂を下るためにぎりぎり前に傾いた。
ひょっとして倒れるのではないかと緊張していると、ルースが首を軽く振りながら話した。
「馬車の車輪には、下り坂でも転落しないように速度を調節する装置がかかっています。そんなに緊張しなくてもいいですよ」
マックは馬車に乗った経験があまりないということがばれたのが恥ずかしくて頬を赤くして取っ手を放す。
そうしてどれだけ移動したのだろうか、無事に坂を下りてきた馬車が東に向かって方向を変えた。
彼女は窓から激しい木々が生い茂る辺ぴな林道を眺める。
枯れた枝が薄氷のかかった乾いた地面の上にクモの巣のような影を落としていた。
その閑散とした風景を眺めていたマックは、緊張と不安でドキドキする心臓を落ち着かせるために小さく深呼吸をする。
しばらくして馬車がある場所で止まった。
「到着しました」
使用人がドアを開けると、ルースが先に馬車から飛び降りる。
その後を追って外に出たマックは、山のように積もった魔物の死体を見て石のように固まった。
切り取られた木の根元がまばらに位置した伐木場の広い空き地に、毛で覆われた巨大な動物の体が山ほど積まれていたのだ。
「ウェアウルフですね。彼らが夜に密かに城壁を登ってきたら、衛兵たちが気づかなかったのも無理はありません。対策を立てておかなければなりませんね」
ルースは地面を転がるオオカミの頭を見下ろしながら淡々と話した。
マックはやっとのことで吐き気を堪える。
二度とあのような醜態を見せることはできなかった。
「魔法使い様!いらっしゃいましたか」
意識的にその恐ろしい光景から目をそむけると、どこからか力強い声が聞こえてきた。
マックは音がした方を向いて首をかしげた。
密生した木々の間にみすぼらしい小屋がいくつかあり、その前に小さな幕舎を張っている騎士たちの姿が見える。
彼らのうちの1人がつかつかとルースに近づいた。
「魔法使い様、リカイド卿が負傷しました。傷をちょっと見てください」
「リカイド卿が怪我をされたんですか?」
ルースの驚いた問いに若い騎士がため息をつく。
「明け方に濃い霧が立ち込めていたため、支援要請の信号に気づきませんでした。他の騎士が到着するまで、あの多くのウェアウルフをリカイド卿一人で相手にされていたのです」
「なんと、リカイド卿は今どこにいらっしゃるんですか?」
「こちらへとうぞ」
ルースは急いで騎士の後を追う。
中腰になっていたマックは、どうしたらいいか分からず右往左往して、使用人たちに馬車の荷物を下ろすよう命令した後、ルースを追いかけた。
彼について薄暗い小屋にこっそり足を踏み入れると、床に一列に並んで横になった負傷者たちの姿が目に入る。
マックは埃が積もった粗末な空間を見て回り、一番近い寝床を見下ろした。
すると、恐ろしいほどの残酷な負傷を負った衛兵の姿が目に入り、彼女は思わず息を切らしてしまう。
衛兵の腕は変な角度で折れていた。
ボロボロのチュニックは土ぼこりと血痕でまだらになり、真っ黒に焼けた顔は痛みで残酷に歪んでおり、妙な悪臭まで放っている。
マックは途方に暮れて後ずさりした。
無闇についてきたものの、負傷者の扱い方など知らなかった。
パニック状態に陥り、ぼんやりと立って冷や汗をだらだら流していると、奥からルースの声が間こえてきた。
「奥様!今すぐ使用人たちにお湯をいっぱい沸かすように伝えてください。お湯がたくさん必要でしょう」
マックはばっと気を取り直して、あたふたと小屋を出て、使用人たちに火をつけ、水をいっぱい汲んでくるよう命令する。
すると、使用人たちが速やかに小屋の前に薪を積んで火を起こし、大きな釜を取り出して泉のほとりに駆けつけた。
その間に騎士の傷の治療を終えたルースが外に出て薬草の入った袋を取り出す。
「負傷者を扱ったことはありますか?」
マックは首を横に振る。
こんな緊急な時に虚勢を張るほど愚かではなかった。
ルースは何の期待もしていなかったかのようにうなずきながら、小さなポケットをいくつか取り出して彼女に差し出す。
「この中に入っている粉は止血剤です。傷口が見えるように服をはさみで丁寧にくりぬいて綺麗な水で洗い、この粉を振りかけてください。血が止まるまで綺麗な布で押さえて止血してください」
「い、癒しの魔法を使うのは・・・」
「私一人でこの多くの人たちをすべて治療することはできません。重傷を負った人10人が限界です。残りは自分で治療しなければなりません」
「あ、わ、分かりました」
マックはおびえた様子を隠してポケットに手に取る。
躊躇う時ではなかった。
彼の指示を一つ一つ頭の中で繰り返しながら震える手でポケットを解いて中を見ていると、ルースが他のポケットを取り出して差し出した。
「このドライリーフは解毒剤です。もしも傷口が紫色に膨らんだり、体から熱が出る人がいたらこの薬草を口に入れて飲み込ませてください。もし意識を失った状態で薬草を食べさせるのが難しいなら、私を呼んでください」
「は、はい・・・!」
「使用人の中には負傷者の世話をした経験がある人が結構いるでしょう。簡単な指示さえ下せば、あとは自分でやりますから、そんなに緊張することはありません」
彼が安心させるように力を入れて話し、残りの袋を持って再び小屋に入っていく。
マックは心の中で祈祷文を覚えながら使用人たちに近づいた。
彼らにルースから聞いた指示を辛うじて伝えると、使用人たちがすぐに準備してきた道具とリネン布、器を持ってそれぞれ小屋と兵舎に入っていく。
マックは悩んだ末、女中たちについて兵舎に入った。
すでに下女たちは負傷者たちを見慣れている。
彼女は彼らの後を追って負傷者たちを見回した。
比較的軽い負傷を負った人もいたが、見た目も尋常ではないそうでないように見える人が大多数だ。
みすぼらしい身なりの男たちが12人、衛兵が7人・・・、他の小屋に収容された彼らまで合わせると、少なくとも40人ははるかに超えそうだった。