こんにちは、ピッコです。
今回は1話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
1話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ
マクシミリアン・カリプスは神経質に応接間をうろついていた。
自分が爪を噛んでいることさえ認識できない極度の緊張感。
「その汚い癖について私が数えきれないほど警告したではないか」
「も、申し訳ありません・・・」
父親の冷たい声にマックは頭を下げ、その姿を眺めながら公爵は舌打ちをした。
「私を恥ずかしくさせるな。お前は身に余る幸運を手に入れた。淫らな行動で家門に迷惑をかけるなら許さない」
「お、お父様の言うとおりにし、し、します・・・。あ、あの方が来次第・・・」
マックはできるだけ落ち着いて話を続けようとする。
「せ、説得してみ、みせます。こ、この結婚をず、ずっとつ、続けて・・・」
「やめろ!」
クロイソ公爵が杖で床を叩きつけた。
「今日一日・・・、いいや、ただ、何時間だけでも落ち着いた言動を見せることはできないのか!どの男が吃音症の妻を欲しがる!?」
「あの、私は・・・」
「リフタン・カリプスは、もう下級騎士ではない!全大陸でも有数のソードマスターになったうえ、レッドドラゴン・セクトを破った「勇者」なのだ!奴が望むなら神殿はいくらでも離婚許可書を出してくれるだろう」
想像するだけでもゾッとするかのように、父親は額を指差して息を切らしている。
「クロイソ家の令嬢が、平民出身の騎士に離婚されるようなことが起きてはいけない!愚かな娘のせいで、家門を嘲弄の種にすることはできない!」
マックは唇を噛んだ。
「自分のせいではない」という反論が喉まで沸き起こる。
彼女はリフタン・カリプスと結婚することを望んでいなかった。
それはリフタン・カリプスも同様に。
誰も望まなかった結婚を、無理やり推し進めたのはクロイソ公爵ではなかったか。
「そもそも、お前がロゼッタの半分だけでも美しかったら・・・、いや、少なくとも正常であれば、あいつの機嫌を取るために罰を受ける必要もなかったではないか!」
一握りのバラの花のように美しい腹違いの妹の姿が思い浮かぶと、一握りにもならない反抗心が砂のように消えていく。
「ルーベン王が彼を婿に迎えたいと言っても、当事者が断ったらそれでいい!全部お前が奴の心を掴むことができず、このような境遇に置かれることになったのだから!」
「で、でも・・・、あ、あの方は、冬、結婚式の、翌日、す、すぐに、出兵を・・・」
その瞬間目の前が真っ白になる。
杖で脇腹を殴られたマックは、荒々しく喘ぎながら体を丸めた。
あまりにも痛くて悲鳴も出てこない。
「敢えて私に言い返すことを考えるな。そのひどい口癖のことばかり考えると腹が立つ!」
門越しから女中の物静かな声が聞こえてきた。
「旦那様、レムドラゴン騎士団が到着しました」
「応接室に案内しろ!」
マックは恐怖に怯えた顔で父親を見上げると、彼は相次いで荒々しく脅しをかける。
「カリプスに婚姻を無効にすることはできないと明確にしろ!もう一度言うが、家門を辱めたら代価を支払わなければならないだろう」
それから、コツコツ音を立てて応接間の外に出てしまった。
マックはよろよろと窓際にもたれかかり、痛みが収まるのを息を殺して待った。
泣いても状況は良くならない。
貴族の女性にとって離婚は死刑宣告に他ならなかった。
単に当事者だけが嘲弄の種に転落して終わることではない。
その嘲弄を洗い流すためには、家門の男性がリフタン・カリプスに決闘を申し込まなければならない。
ドラゴンも退けた騎士に誰が対抗できるだろうか。
結局、公爵家の名誉は汚され、父親は自分を絶対に許さないだろう。
「そうならないように、どうにかして・・・」
しかし、果たしてあの人が自分の言葉を聞いてくれるだろうか。
彼らの結婚は、クロイソ公爵とその奉神騎士の便宜のためだけに行われたのだから。
3年前、レクサス山脈で冬眠中だったレッドドラゴン・セクトが目覚めたというニュースが大陸全域に広がると、エルヌイマ・ルーベン三世は自分の臣下たちに討伐戦に参加するよう命令した。
当然、クロイソ公爵も騎士を率いて遠征にでなければならなかった。
しかし、父親はリフタン・カリプスを私と結婚させることで、その義務を押し付けてしまったのだ。
下級騎士だったリフタンは、公爵の命令に逆らうことができず、式場に引き摺り出されなければならなかった。
「私がロゼの半分だけ美しかったら・・・」
考えが自虐的な方向に流れた。
リフタン・カリプスは美しい外見の男性。
彼の出身に対して嘲弄を浴びせたロゼッタでさえ、騎士団制服を着飾った彼の姿を見て頬を赤らめたではないか。
リフタンならいくらでも美しい貴婦人たちと恋愛を楽しむことができるだろう。
「王の娘と結婚するかもしれないのに・・・。私の哀願で心を変えるはずがないじゃない」
彼らはたった一晩を一緒に過ごしただけ。
翌日、リフタンは「さようなら」という一言も残さず出兵してしまい、その後も電報の一つも送ってくることはなかった。
彼が自分を妻だと思っているかどうか疑問に思えるほどに。
暗淡な心情で顔を包み込んでいると、陰惨な声が耳の中に食い込んだ。
「見応えがあるね」
マックはビックリして顔をサッと上げた。
いつからそこにいたのか巨人のような体躯の男性が扉のそばに立って自分を睨んでいる。
「死地から生きて帰ってきた夫を待ちながらブルブル震えている妻だなんて」
修道服を連想させる濃い青色のチェニックに銀色の軽甲を羽織ったリフタン・カリプスは、マックが覚えているよりも遥かに大きく威圧的に見えた。
「熱烈な歓迎を期待したわけではないが、疫病でも訪れたように震えることはないだろう」
再会して1分も経たないうちに彼を不快にさせたと思い、顔から血の気が引いた。
「ぶ、無事に帰ってきて・・・」
何と言えばいいんだろう?
彼を何と呼べばいいのかも分からない。
後の言葉を濁していると、ふと自分を探っている強烈な視線が感じられ、彼女は慌てて一歩後退した。
どうしてそんな目で眺めてくるのか訳が分からない。
無意識のうちに後ろに下がると、なぜか彼の顔がもっと冷たくなった。
「歓迎するフリでもしてくれ」
彼女は凍りついた。
あの日も彼はこのような目で自分を見下ろしていた。
生肉を噛みちぎる直前の猟犬のように眺めながら・・・。
マックは慌てて目を伏せる。
一度扉を開けた記憶は、塞ぐ間も無く氾濫して溢れた。
「服を脱いで」
結婚披露宴が終わる頃、マックは乳母の手に引かれて寝室に入った。
女中たちの助けを受けて体を綺麗に洗ってベッドに上に座ると、しばらくして夫が部屋の中に入ってくる。
それから緊張感で固まっている自分にそう言ったのだ。
夫婦の間で何か隠密なことがなされるという事実はぼんやりと知っていたが、具体的な知識は皆無だったのだ。
乳母は夫の言葉に無条件に従わなければならず、彼がする全ての行為を黙々と受け入れなければならないとだけ言った。
途方に暮れていると、頭の上に上着を脱ぎ捨てた男が怒った視線を送ってくる。
「私が脱がしてあげないといけないのか?」
マックは乾いた唾を飲み込む。
父親に殴られた時もあんなに痛かったのに、この人に殴られたらどうなるのだろうか。
暖炉の明かりに黄金色に揺れる巨大な肉体が彼女の視界を遮った。
「私の姿がなかなか気に入らないみたいだね」
「あ・・・、あの・・・、私は・・・」
リフタンが彼女に向かって屈んだ。
「もちろん下級騎士などが孤高の公爵令嬢の心を満たせるはずがないだろう」
敵対感のこもった声に、身が持て余すほど震えてきた。
望むならいくらでも鞭打つことができ、さらに過酷な体罰も容認される。
「こっちへ来い。やるべきことをしなければならない」
マックは何をすべきか聞かずにつま先だけを見下ろしていると、頭上に暗い陰が垂れ下がった。
「初夜を行わなければ婚姻は無効になる。拒否権を行使するのか?」
深さの分からない真っ黒な瞳に囚われて、彼女は震えた。
「私がまだ服を着て出ていくことを望むなら、今言ってくれ」
「・・・」
「一度始めたら途中で止まらない」
このまま彼が出て行ってしまったら、父親は自分を許さないだろう。
そもそも自分には何の選択権もなかった。
自分は父親の便宜のための道具に過ぎないのだから。
彼女はリネンドレスの肩紐を引っ張り、ふわふわした袖から腕を引き出した。
「手をどかして」
「な、何で、ふ、服を・・・」
彼女は混乱した顔で彼を見上げた。
表情を詳しく見ることができないため、余計に怖く感じられた。
「私に出て行ってほしいのか、望んでいないのか。しっかりしろ」
肩を震わせながらやっと手を下ろすと、リフタンは腰にかかった服を床に投げつけた。
「もう取り返しはつかない」
夫がする全ての行為を従順に受け入れなければならないという乳母の忠告は、頭の中から消えて久しい。
このように奇怪な行為が実際に起きているということが信じられなかった。