こんにちは、ピッコです。
今回は71話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
71話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 春祭り
人の視線を無駄にしたくなかったので、彼らは最も地味な馬車に乗って町に向かった。
リプタンとカロン卿は武装を最小化し、フード付きのローブを着てできるだけ平凡に飾り、マックとアグネス王女も白いドレスの上に暗い色のマントを羽織った。
しかし、村の広場に到着すると、華やかにお洒落をした女性たちの姿が思ったより多く目につく。
王女はすぐにマントを脱ぎ捨てた。
「このまま降りるとしても、あまり目立ちそうにないですね」
「それでも安全のためには姿を消したほうがいいです」
「こういうローブをかぶっていたほうが、かえって怪しく見えるんですよ」
彼女はぶっきらぼうに話し、金髪のキラキラした髪をほどく。
「それに、みんながお洒落をしているのに、私たちだけが鬱陶しくしているわけには
いかないじゃないですか?そうじゃないですか?」
「私は・・・あまり・・・」
「そんなにこわばらないで、力を抜いてください。自分を自慢する機会は逃さないようにしましょう」
彼女が裾を引っ張ると、マックは勝てないふりをして重苦しいマントを脱いだ。
移動する間、不機嫌な顔で緩く寄りかかって座っていたリプタンが口元をぴくびくさせ、すぐに元気がなくなったように肩を落とす。
「好きなようにしてください」
「そうでなくても勝手にしますよ?」
王女が皮肉を言って、また着ようか迷っているマックからマントを取り上げ、お尻の下に敷いて座った。
リプタンの眉間がぐっと縮まる。
王女は無邪気な表情で彼の視線を軽く見渡し、カロン卿は彼らの神経戦に入りたくないかのように遠回しに窓の外を見た。
マックもやはり彼らの顔色をうかがって、訳もなくスカートのしわを伸ばすふりをする。
どれだけそうしていたのだろう、ようやく馬車が止まった。
彼女は長い安堵のため息をつく。
馬車の中を流れる窮屈な空気に息が詰まるところだった。
「かなり広場から離れたところでお祭りをするんですね」
王女は馬車から降りて、カロン卿のエスコートを受けてつぶやいた。
カロン卿は穏やかな笑みを浮かべながら丁重に答える。
「いろいろな出店を設置するには広場は少し狭いからです。それに、春の気配を満喫するには草むらの上が最適ではありませんか」
マックは王女の後を継いで馬車から降りながら、好奇心に満ちた視線で周囲を見回す。
青い光に輝く広い野原のあちこちには多様な色のテントが一定の間隔を置いて建てられており、その間に座板を広げて商売をする人たち、テーブルを囲んで座ってカードゲームをする人たち、路上食堂で酒と食べ物を楽しむ人たちが溢れていた。
「これで近くでお酒でも一杯飲んでいてくれ」
リプタンはあわただしく首を横に振り回すマックを自分のわき腹に引き寄せて、御者にコインを投げる。
年老いた御者が帽子を脱ぎながらぺこりと感謝のお辞儀をして馬車を待合所に運んだ。
商売をするために荷車を引いて出てきた人たちがかなりいるようなのか、テントの裏側には馬車がぎっしりと入っていた。
「今年は旅行客が増えたようですね」
「レムドラゴン騎士団の名声のおかげじゃないですか?きっと、世界最強の騎士団が守護する地に好奇心を持った旅行者が増えたのでしょう」
王女は自分の事でもないのに、誇らしげな顔をする。
マックは彼らの会話を聞き流し、活気に満ちた祭りの風景を夢中で見つめていた。
以前、王女と一緒に市場を見物した時より多くの人が集まっていた。
旅行客と見られる身なりの男たち、帽子を下ろして公演をする吟遊詩人たち、祭りを見に来た若いお嬢さんたちと酒と食べ物を売る婦女たちが数え切れないほどいて、治安のために偵察をする衛兵たちの姿も時々目につく。
「マクシミリアン、あそこです」
祭りの熱気に圧倒され、面食らっているマックを王女が不意に引っ張った。
マックは彼女の後をついてあるテントの前に向かう。
色とりどりの旗で飾られた舞台のそばで、若い娘たちが花冠を売っていた。
「みんな花冠をかぶっているので、売っているところがあると思いました」
アグネス王女は彼らから花冠を2つ買って、1つは自分の頭の上に置き、もう1つはマックの頭にかぶせる。
マックは瞬きした顔でそれに触れた。
突き出た小筋が藪のように曲がりくねった髪の毛に絡む感じがひどく不吉だったが、せっかくの好意を断ることもできない。
ぎこちなくも感謝の笑みを浮かべて見せると、王女が満足そうな顔で一回りした。
「なんだか本当にドライヤーになったようですね。そうじゃないですか?」
「本当に・・・お、お似合いです」
「マキシミリアンも本当に愛しいですよ」
彼女がほほえましく話し、再びマックの手を引っ張る。
「さて、これからはあちらのテントに行ってカードゲームを・・・」
「勝手に歩き回らないでください」
つかつか追いかけてきたリプタンが王女の前に立ちはだかった。
彼はマックを自分の腕に戻し、歯ぎしりをするよう脅かした。
「私の妻は、あなたが勝手に連れて行ってもいい女中ではないのです。ずるずる引きずって歩きたいのであれば、犬でも飼えばいい!」
「あらまあ、言い過ぎじゃないですか?」
アグネス王女はびくびくと唇を突き出し、マックの顔はすっかり青ざめてしまう。
そうでなくても王室でリプタンの忠誠心に対して疑問を抱いていると言っていたのではないだろうか。
もしアグネス王女が気分を害してルーベン王に否定的な言葉でも伝えたらどうしようと、肝臓が豆粒ほどになる。
「リ、リプタン・・・!王女殿下に何と無礼なお話ですか」
「そうです、そうです!無礼極まりないです!」
彼女の相づちにマックはさらに青ざめた。
「貴婦人ヘ・・・そんな風に言ってはいけません。あなたは騎士じゃないですか。礼儀をわきまえないと」
「そうです!そうです!」
慌てた顔でマックを見下ろしていたリプタンが、後ろから合いの手を入れる王女を殺すように睨みつける。
アグネスは瞬き一つせずになんだかんだと言って憎らしい笑みを浮かべながら、マックの手を引いた。
「せっかく遊びに出て、目を覚ましているような気ままな男は放っておいて、私たちは思う存分祭りを楽しみましょう。あなたたちはおとなしく手を組んで立って、私たちがゆっくり楽しんでいるのを見ていてください」
マックは心配そうな目で彼をちらりと見て、勝てないふりをして王女の後を追う。
率直に言って、彼女も自由に祭りを見たかった。
その上、アグネス王女の頑なな態度がただ嫌なわけでもない。
いつももじもじして躊躇う自分とは違って、彼女は興味を感じればひとまず駆けつけて自分の好奇心を思う存分満たさなければ気が済まないようだった。
何か不思議なことが見えると思ったら、王女はマックの手を握って思いっきり走り、思う存分見物し、あらゆるゲームに積極的に参加する。
彼女のそのような情熱的な勢いに巻き込まれ、マックも祭りを楽しみ始めた。
騒々しい雰囲気に不安だった心さえもどこかへ飛んでしまったようだった。
マックは生まれて初めてサイコロゲームをした。
人々の中に混じって路上公演を見ながら、くすくすとした匂いがするビールも買って飲み、薄い小麦粉の生地に正体不明の牛乳を入れて作った小さなパイのかけらを味見したりもした。
聞きなれない料理で腹ごしらえをした後は、王女に押されて棒投げの試合にまで参加することに。
「竿の後ろを掴まないと、遠くまで飛ばされません。ここを掴んで、高く放物線を描きながら飛ぶように投げるんです」
まず、棒を投げて好成績を出したアグネスが親切に説明してくれた。
マックは壇上の上に不器用に上がり、乾いた唾を飲み込んだ。
少し離れた場所にリプタンが腕を組んで立って見守っている。
ここで良い成績を出せば、彼の過度な心配が少しは減るかもしれない。
マックは決然とした表情で長い棒を力いっぱい投げた。
しかし、竿は旗が剌さった場所に到逹するどころか、5クベット(約1,5メートル)もない床を転がる。
顔が一瞬で赤くなった。
自分より先に投げた12歳の子供も、これよりは遠くに投げたのに。
「お嬢さん!竿の先を上に上げて投げないと!」
髭がほうぼうと生えている男が、からからと笑いだして、竿を再び渡した。
恥ずかしくてそのまま壇上から降りたかったが、このまま逃げたら笑いものになりそうで、マックは両目をつぶってもう一度棒を投げる。
今回はかなり高く飛び、2つ目の旗まで到逹した。
マックはリプタンの方を上気した顔で振り返った。
しかし、浮かれた心はあっという間に冷めてしまう。
放浪者のような派手な服装の女性2人がリプタンとカロン卿を取り囲み、妙に体をよじっていたのだ。
彼らのうちの1人がリプタンのそばにくっつくと、一瞬にして胸が熱くなる。
マックは壇上から降りて、すぐに夫に向かって走った。
「リ、リプタン!」
腕組みをして立って面倒くさそうに顔をしかめていたリプタンが、ぎくりと頭をもたげた。
4組の目が一斉に彼女に向かって飛んできた。
一瞬気がくじけたが、マックはすぐに決然とした顔で彼らの間に入り込んだ。
そして、わざと女性たちに厳しい覗線を送る。
「私の夫に・・・何の用事ですか?」
「あらあら、奥さんと一緒にお祭りを見に来たんだ」
女性たちは恥ずかしそうに手を叩きながら、きやっきゃっと笑った。
強い酒の匂いに、マックは眉をひそめて後ろに身を引く。
女性たちが魚の周りをうろついている猫のような笑みを浮かべながら、続けて冗談を言った。
「羨ましいわね、こんなイケメンを夫にして?」
「まったく !ちょっと貸してくれないかな?いい男は分けて使わなければならないでしょう?」
その厚かましい要求に、マックは青ざめる。
静粛さこそ貴婦人の美徳だと知っていたマックにとって、酒に酔って公共の場で既婚者に手を伸ばす彼女たちの行動は、常識の範疇をはるかに越えたことだった。
まるで地獄から出てきた淫女の罠にかかったように格好が悪くなり、マックは必死にリフタンの腕にぶら下がる。
「だ、だめです。貸せません!」
「そんなこと言わないで」
「少しだけ借してよ」
「ちょっ、ちょっびりもダメです!」
マックは泣きべそをかいて、彼らをどうにかしろという意味でリプタンを見上げた。
すると、石のように固まっていたリプタンが、気がついた人のように目をばちばちさせ、片手で荒々しく顔をこする。
日によく焼けた彼の銅色の首筋が赤く染まっていった。
「あ・・・だから・・・」
彼は言葉を求めているかのように吃りながら目を丸くする。
「か・・・貸してあげられないって」
曖昧な言葉に、マックは信じられないと言わんばかりに彼を睨みつけた。
その時、どこからか笑い声が聞こえてくる。
「ああ、もうダメ。これは誰も信じないよ。マゴが、あんなドジな言葉を・・・」
いつの間にか追いかけてきたアグネス王女が、意味の分からない言葉をつぶやきながら、腹を抱えて爆笑していた。
彼女の笑い声がどれほど騒がしかったのか、酒に酔って朦朧としていた女性たちの瞳に焦点が戻る。
「ふーん、せっかくいい男を見つけたと思ったら、女が二人もいるらしいね・・・」
きょとんとした目で王女を凝覗していた女は興が冷めたのか肩をすくめて後ろに退いた。
「しょうがないね、お姉さん。あっちでお酒でも楽しみに行こう」
女性たちはがっかりしたため息をつき、すぐに手をゆらゆらと振りながら振り向いた。
「とにかくお会いできて嬉しかったわ。気が変わってお楽しみになりたいなら、レディン旅館にお越しください」
女性たちが最後まで図々しい言葉を吐きながら、しっぽをゆらゆら振る猫のように優雅に去っていく。
マックは目を細め、その後ろ姿を不満そうに睨んだ。
どうしてあんなに図々しく既婚者を誘惑できるのか。
その時、笑いを止められずぶるぶる震えていた王女がふらふらしながら近づいてきた。
「この男に接近する女は珍しいのに・・・かなり塀が強い人たちですね」
彼女は涙を目の周りから拭い、つま先立ちをしてリプタンの頭に深くフードをかぶせる。
「顔を隠さなければならないのは私たちの方ではなく、あなたでしょう。奥さんの目の前で女たちといちゃつくなんて。ガッカリですよ、リプタン」
「誰がいちゃついたと!?」
リプタンは大声で叫び、マックの顔色をうかがった。
「そうでなくても追い出してるところだったんた。思ったよりしつこくなって・・・」
マックは不信のまなざしを彼に向ける。
「別に・・・お、追い出しているように見えませんでしたが」
ぶっきらぼうな返事にリプタンが困ったようで嬉しいような、曖昧な表情をする。
マックは目尻をつり上げた。
びくびくする彼の口元を見ると、急にかっとなってきた。
彼女はさっと振り向いて王女の腕を引っ張る。
「わ、私たちは祭りをずっと楽しまなければならないから・・・リプタンも好きなようにしてください」
そうして彼が何か言う前に、王女と一緒に走り始めた。
アグネス王女はくすくす笑いながら、力強い足取りでついてきた。
「いい考えですね、マクシミリアン。私たちは私たちで思う存分楽しみましょう」
彼女はあっという間に風のように走り去る。
彼らは困った顔をしている男たちを置き去りにして、音楽の音が流れる青い野原に向かった。
マックが嫉妬している姿に、リフタンも喜びを隠せないようですね。