こんにちは、ピッコです。
今回は60話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
60話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 王女の来訪
アグネス王女は長い旅路にも疲れた様子もなく、力強い足取りで階段を上って華やかに飾った宴会場とアーチ型の高い天井、古代の建築様式に従ったごつい柱と光が降り注ぐ幅が狭く、高い窓ガラスを一つ一つ鑑賞するように眺めた。
「ドラキウム宮殿より古い城だと聞きましたが、管理が行き届いていますね」
「あ・・・、ありがとうございます」
特にそうしようとしなかったにもかかわらず、王女が吐き出す自然な威厳に圧倒され、マックは度を越して丁寧な態度を取る。
少年のような服装をしていたにもかかわらず、彼女からは王族らしい権威があふれていた。
マックは2、3歩離れたところで、彼女が少しも縮こまる気配もなく、手すりに沿って大股で歩き、広いホールを見回す姿を見守った。
王女は女性にしては珍しく背が高かった。
下手でも5クベット2ヘンジ(約174センチ)はあり、手足は鹿のように長くてすらりとしている。
顔はマックが頭の中で想像していた古典的な美人像とは少し距離があった。
唇は顔に比べて少し大きいと思うほど厚くて、アーモンド模様の細長い目元は少し上に上がっていて、高慢な猫のような印象を漂わせている。
顔は矢じりのように尖って細長く、鼻は高くてまっすぐだったが、美しいという言葉よりはハンサムだという言葉がより似合うような鼻。
アグネス王女はロゼッタの繊細で完璧な美しさとは種類が違う、挑発的で強烈な魅力を漂わせていた。
「まるでロエムの要塞に来たようですね」
王女は落ち着いた口調でグレートホールについて感想を述べる。
「もう少し城内をゆっくり見物したいですね。奥様が案内してくれますか?」
王女がマックを振り返りながら、目尻を細く曲げる。
彼女の表情は親しみやすく一見のんきに見えたが、青い瞳には探索するような気配が漂っていた。
マックは思わず肩をすくめてうなずいた。
「もちろんです」
「ありがとう。その前に体を洗って着替えたいですね。お部屋はどこですか?」
「私がご案内いたします、殿下。こちらへ・・・」
後ろに立っていたルディスが前に出て丁寧に腰を曲げる。
王女は微笑んで優雅に身を向けた。
「それでは、後ほどお会いしましょう」
マックは彼女の後ろ姿を少しうっとりした顔で見る。
初対面で早くも王女の勢いにのまれた気分だった。
「お、お客様の部屋に・・・、お風呂のお湯を用意して・・・、あげてください。特に、王女様の・・・、市中には・・・、か、格別に気を使わなければなりません」
「わかりました、奥様」
マックは残りの女中たちに厳重に指示を出し、厨房に降りていく。
広いキッチンには使用人が集まって客のための歓迎会の準備をしていた。
彼女は何の問題もなく進んでいるか確かめながらも、頭の中ではリプタンとアグネス王女がどれほどよく似合っていたかを反剪する。
日差しのように眩しい魅力を発散していた金髪の美女と、危険な雰囲気を醸し出すすらりとしていてハンサムな騎士が並んでいる姿は、マウムユ詩人の話の中から飛び出したように美しかった。
人々が2人が結ばれることを願ったのも無理はないという気がする。
マックはいらいらして唇をかんだ。
本当にあの人とは何の関係もなかったのだろうか。
王女は少し格別に見えたが、それでもとても綺麗で魅力的な女性だった。
自分の目にもそうだが、男性の目にはさぞかしだろうか。
「奥様、子羊を一匹捕まえようと思うのですが・・・、よろしいですか?」
ふと、使用人の1人が心配そうな顔で尋ねてきた。
マックは、大きく開いたドアの外に黒いひげが生えている男性が、子羊一匹を柱に縛っておいて刀を研ぐ光景を見て、慌てて体を向ける。
どうしてもその光景を見ている自信がなくて、彼女はぎこちない笑みを浮かべた後、急いで厨房を出た。
日差しが降り注ぐ広いホールには、下女たちが真っ白なリネンを両腕いっぱいに抱えて忙しく走り回っている。
サウナで熱いお湯を客の部屋に移すために使用人の服の袖はびしょぬれになっており、裏庭では薪を割る音が嗚り響いていた。
馬小屋の番人でさえ、お客さんが乗ってきた馬の世話で忙しそうだ。
マックは彼らが秩序正しく仕事ができるように細心の注意を払う。
まず、お客様が十分に休息を取れるように入浴水と石鹸、きれいなタオルを持ってくるようにした後には、もし飲み物やおやつを望む人がいればワインとビスケット、漬けた果物を提供するようにした。
その他にも必要なものがないか綿密に調べるよう頼んだ後には宴会場に向かう。
夕方には客に歓迎の晩餐をもてなさなければならなかった。
彼女は3、4人の使用人を呼び、宴会場に2つの長いテーブルを置くよう命じる。
それからロドリゴと一緒にテーブルクロスと燭台、そして食器を選んだ。
金、銀、ガラス製の高級食器は盗難の恐れがあるため、女主人である彼女が直接一つ一つ数を数えなければならなかった。
マックは倉庫から高価な黄金の燭台を取り出してくるよう言った後、銀の盆と皿、フォークとナイフの数字を帳簿の上に几帳面に記録していく。
もしかすると間違って数えるのではないかと思って、2度も確認した後は宴会に使うろうそくと薪、酒と食べ物の量まで計算した。
晩餐会で酒と食べ物がなくなることはあり得ないことだ。
だからといって、過度に多くの量を準備して食材を捨てても勿体無い。
多めに用意するけど、やり過ぎないように・・・。
「奥様」
ルディスは帳簿に樽の量を記録していたときに早足で近づいてきた。
「どうしましたか?」
「王女様がお城を案内してくださることができるか聞かれています。どうしましょうか?」
「い、今すぐですか?」
一般の客は、城に到着した直後は休憩を取るのが常だ。
しかし、アグネス王女は、ウェデン北の端から南の端まで降りてくる長い旅路をしても、元気が溢れているようだ。
マックは急いで残りの記録を終わらせ、ロドリゴに帳簿を渡した。
宴会場の外に出ると、濃い青のドレスに着替えた王女が廊下を歩いて出てくる姿が目に入った。
彼女はマックの前に滑り込んだ。
「素敵な部屋を用意してくれてありがとう。壁にかかったタペストリーがとても素敵でした」
「きょ、恐縮です。殿下」
マックが消極的な態度で答えると、アグネス王女はにっこりと微笑んだ。
「そんなに堅苦しく格式ばらなくてもいいです。気楽にアグネスと呼んでください。私も名前を呼びたいのですが、よろしいでしょうか?」
勢いよくこぼれる言葉にマックは呆然と唇をなびかせ、機械的にうなずいた。
王女は満足そうな笑みを浮かべ、彼女の腕を引っ張る。
「グレートホールの外を見て回りたいです。案内してくれますか?」
それから返事も聞かずに階段を下り始めた。
マックは嵐が吹き荒れたかのように彼女の後を追う。
王女の親しみやすい行動に戸惑いを隠せなかった。
彼女が自分に好意的な態度を示すとは思いもよらなかった。
マックは混乱に包まれる。
王女はリプタンと結婚したかったのではなかったのだろうか。
「リプタンは騎士たちと一緒に別館にいるようですね?」
アグネス王女はホールを出て尋ねた。
あまりにも自然に流れる夫の名前に、マックはかすかに顔を固めた。
「あ、おそらく・・・」
「練兵場は後で見物させてくれと言わないとですね。お城の周りを見回りたいのですが、楼の壁の上に上がってみることはできますか?」
マックはためらい、うなずいて彼女を右側の小さな林道に案内する。
衛兵たちが通る狭い道に沿ってしばらく歩くと、外壁に上がる石段が姿を現した。
その前を守っていた兵士が彼女の姿を見て、すぐに身をかがめた。
マックは彼らに王女殿下に城を案内していると説明し、階段を上る。
天気が暖かくなっているとはいえ、まだ早春。
山から下りてくる冷たい風にマックは身震いした。
先立って城壁の上に上がった王女の長いスカートの裾がまるで旗のようにはためいているのが目に入る。
「美しいところですね」
マックは王女について城壁の向こうを眺めた。
まだ溶けていない雪が白く積もっている尖った峰と、急な山裾の上に風が荒々しく吹き付けていた。
王女が遠くの山に向かって視線を固定したまま、なびく髪をそっとかき上げる。
「魔物がうようよする所だというから、魔界のような殺伐とした風景が待っていると思いました」
王女は視察路に沿ってゆっくりと歩き、マックに向かって振り向いた。
「でも、予想していたよりも平和でしたね。村の規模も大きく、市場も発逹したようです。正直驚きました」
「は、春には・・・、傭兵たちがたくさん・・・、訪れるそうです。商人たちも・・・」
マックはロドリゴから聞いた話を知っているふりをして言った。
王女が物思いにふけったような顔であごを撫で、ため息のように吐き出す。
「リプタンが愛着を持っているに値しますね。何十年も放置されていた土地を、ここまで豊かにするためには、きっと大変な努力をしたのでしょう」
憐憫が入り混じったような優しい言い方に、瞬間的に神経が鋭く尖った。
マックは「夫のことを知ったかぶりをするな!」と叫びたい衝動を抑える。
自分の中にそのような乱暴な感情が存在しているという事実に多少驚いた。
彼女は自分の心の狭さがばれるのではないかと目を伏せて口を開く。
「リ、リプタンは・・・、アナトールのために・・・、夜明けから夜遅くまで休まず・・・、働いています」
「リプタンは遠征でもそうでした。誰もあの人が休む姿を見たことがないです。そのため、皆が畏敬と恐怖を込めて彼を「マゴ」と呼んだのですよ」
「マ・・・、ゴ?」
「眠ることも、疲れることもなく、百の命を持っているとされる伝説の中の魔物です」
彼女の口元にふと苦々しい笑みが浮かんだ。
「命が百でもあるかのように行動するからといって、オシリアの聖騎士たちが付けてくれたニックネームです」
リプタンの無謀な行動についてはルースにすでに伝え間いたことがあったにもかかわらず、胸の片隅がぴんと締まった。
マックは、襲ってきた寒気を追うために肩をすくめる。
そんな彼女の姿を観察でもするかのように静かな目つきで注視してきた王女がゆっくりと言葉を続けた。
「ずっとマゴの奥様がどんな人なのか気になっていました。ドラゴンの炎の中に躊躇なく身を投げる人が帰ろうとするところはどんな場所なのか・・・」
言葉が詰まり、マックは乾いた唇を濶した。
責めているわけではないのに、責められているような気がした。
マックはそのような勇敢な騎士の妻になる資格がないことをよく理解している。
アグネス王女だからといって、その事実に気づかなかったはずがない。
その美しく青い瞳に映る自分のみすぼらしい姿を見ていると、だんだん苦しい気持ちになった。
マックは無礼な行動だと知りながらさっと身を向ける。
「か、風が・・・、冷たいです。この辺で・・・、入らないと。や、やるべきことも多いですし・・・」
「・・・そうですね」
アグネス王女は階段を下りてくる前に、もう一度アナトリウムの風光を眺めた。
マックはその姿を見上げ、逃げるように前に進んだ。
胸の中に強い風が吹き始めたように不安で混乱した。
使用人たちは日が傾き始める頃、はしごに乗ってシャンデリアの上にろうそくを乗せて火をつけた。
女中たちは宴会場のあちこちに火鉢を置き、中に赤く熱した炭を入れており、広い食卓の上には美味しそうな食事をきちんと整えておく。
マックは豪華なテーブルの上座にリプタンと並んで座る。
王女とその随行員たちはすぐ向かい側の上座に座り、騎士たちが残りの席を埋め尽くした。
女中たちと幼い侍従たちが彼らの杯にもれなく香りのいいワインをいっぱいに満たすと、リプタンが黄金の杯を持ち上げる。
「遠いところへお越しのお客様を歓迎します」
食卓を囲む人々が一斉にグラスを持ち上げた。
向かい側に座った王女も、応えるようにワインが揺れるグラスを高く持ち上げて優雅な笑みを浮かべる。
「歓迎してくれてありがとう」
「ここまでお越しいただき、お疲れ様でした。さあ、ご馳走になりますからどうぞ」
ある老騎士が豪快に叫ぶと、王女が笑みを浮かべながら杯を口に差し出した。
それを合図に人々が一つ二つフォークとナイフを持って食べ物を食べ始める。
マックは機械的にパンを口に入れ、長いテーブルの周りに密集している人たちに目を通した。
客として来た王室近衛騎士たちは、レムドラゴン騎士団と顔見知りのようなのか、お互いに冗談を交わしながら親しく付き合い、王女も騎士たちと隔意なく色々な話を交わしている。
マックはその姿に半ショックを受けた。
アグネス王女は貴婦人が守るべき礼法や品位などは少しも気にしていないようだ。
彼女は隣の席に座った騎士の肩を殴りながら大声で笑いを噴き出し、朗々と挑発的な声で騒いで皆の注目を集めるなど、自分よりはるかに体が大きい男たちの間でも少しも萎縮した気配がなく存在感を誇示している。
そして驚いたことに、騎士たちは彼女のそのような姿を愉快に受け止めていた。
「明日すぐアナトールを見て回りたいです。卿が案内していただけますか?」
隣の席に座った騎士と楽しく話を交わしていた王女が、ふとリプタンに向かって目を輝かせながら尋ねた。
リプタンはワインで口を潤し、無情に答える。
「ウスリンが案内してくれるでしょう」
「おい、無愛想な領主様。私を粗末に扱う考えをしないでください。あなたに会おうとこの地の果てまで降りてきたんですから」
「お願いしたこともないんですけどね」
彼の無礼な返事に、近衛騎士たちが眉をひそめた。
マックは緊張した覗線で王女の顔色をうかがう。
いくら全大陸に名声を轟かす騎士だとしても、王族にそのように無礼に振る舞うことが許されるはずがなかった。
しかし、顔を赤らめて怒鳴りつけてもおかしくない態度に、王女は面白い話でも聞いたように笑った。
「その性格は相変わらずですね」
それから妙な笑みを浮かべ、マックに視線を向ける。
「それではカリプス夫人が領地を案内してくれますか?」
ナイフで厚い羊肉を切っていたリプタンが、びくっとしながら王女を睨んだ。
急に会話の矢が自分のところに飛んできたことに戸惑い、マックはぼんやりと目だけばちばちした。
そのような反応にも関わらず、アグネス王女が優しく言葉を続ける。
「そうでなくても奥様に関して気になることが多かったんですよ」
アグネス王女は、これまでマックの周りにはいなかったタイプの女性ですね。
なんとか踏ん張ってほしいところです!