こんにちは、ピッコです。
今回は72話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
72話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 春祭り②
緩やかな丘の上には花冠をかぶった若い女性たちが長い腰帯をなびかせながら踊っていた。
アグネスは躊躇うことなくマックの手を握り、彼らの間に飛び込んだ。
「私たちも踊りましょう!」
マックは、思わず踊る女性たちの中に巻き込まれ、王女と手を取り合って回り始める。
踊りというよりぴょんびょん跳ねることに近かったが、みんなが音楽の音に合わせて田畑の上を楽しく走っていて、そのような軽薄な動きをするのが少しもおかしく感じられなかった。
マックは思わず彼らの後をついて芝生の上を走り始める。
クロイソ城の舞踏会から聞こえてきた優雅な音楽とは種類が違うが、情熱的な旋律が野原の上に響き、女性たちの動きはもう少し速くなった。
軽快なビエルの旋律とリュートの繊細な響きが風の中に入り混じって愛らしい音律を作り出し、そこに楽しい太鼓の音と笛の音、そしてパイプの雄大な響きが加わった。
まるで風になびいているような、朗々とした葦になった気分。
優しいながらも激しい流れが全身を揺るがすのを感じ、マックは生まれて初めて興に乗って踊るというのがどんなことなのか全身で体験した。
女性たちがタンバリンを弾きながら一斉に笑いを噴き出し、見物人まで拍子に合わせて力強く足を転がしている。
そのダイナミックな音楽の中にリュート奏者の清雅な歌声が入り混じっていた。
<その騎士は粉々に砕けた体を拾い集め遠くの空に飛び立ちました。
彼が愛したオークの木は丘の上に一人残って、風の中でか細い枝を振りました。
愛する君よ、雪が解ける季節が来たら私は私の体を裂いて若葉ヘ、あなたのための歌を歌います。
ああ、風が僕の声を君に伝えてほしい>
マックの耳にも、どこか間き慣れた歌詞。
おそらく伝説の中の騎士ウィグルと、彼を愛した精霊の話が込められた歌のようだ。
花冠をかぶった娘たちが明るいメロディーとはどこか似合わない物悲しい歌詞を一緒に歌いながら、さらに活気に満ちて野原の上を歩き回り、マックは楡快な目眩の中で体が揺れるほど大きく笑う。
そのように笑ってみたのが、いつなのかも思い出せなかった。
心臓が太鼓の音に合わせて騒々しく音を立て、全身の血が速く回り、指先まで力強い鼓動が響き渡る。
妙な解放感が襲ってきた。
いつもうずくまっていた肉体を強烈な太陽の光の下でばっと広げ、ひたすら自分の楽しみを追って思う存分体を動かすというのがこんなに気持ちいいことだったのか。
「マキシ」
その瞬間、誰かが突然彼女の腕をつかんだ。
マックは上気した顔で彼を見上げる。
額まで口ーブをかぶったリプタンが、燃えるような目つきで彼女を見下ろしていた。
マックは彼の顔に浮かんだ強烈な欲望に戦慄する。
リプタンは彼女の腕を引きずって群衆の中を切り抜けた。
王女は女性たちの中に入り混じって祭りの余興を楽しむため、彼らには視線も与えなかった。
マックはあごまで冷や汗をかきながらリプタンを追いかける。
音楽の音も、興趣に富んだ人々の声も、はるかに遠く感じられた。
彼は彼女の腰を撫でながら、人目につかないところを探すかのように周囲を急いで見回す。
リプタンを虜にした切迫した情熱を、彼女も感じることができた。
マックの体も、やはり彼の手とキスを渇望するように敏感に燃え上がる。
初めて感じる圧倒的な興奮。
彼に少し腹が立ったことさえも、情熱を煽る要素として作用されているような。
「リ、リプタン・・・」
「こっちにおいで」
彼は彼女を人通りの少ない場所に引き寄せ、まるで我慢できないかのように乱暴にキスをした。
熱い呼吸がじれったい敏感な唇を、目を通してから遠ざかる。
これでは十分ではなかった。
むしろ塩水を飲んだように喉の渇きがさらに激しくなる。
リプタンは首を絞められたようなうめき声を上げ、彼女を一抱えの木に押し付けた。
マックは荒れた樹皮に背中をもたせかけ、彼の首に腕を巻く。
しっとりと濡れた唇が重なり、熱くて柔らかい舌が切なく口の中を遊泳し始めた。
息をするためにしばらく離れることさえ残念で気が気でない。
「リ、リプタン・・・」
我慢した息に肺が裂けるように膨らんだ。
リプタンは怒った猟犬のように彼女の首にキスをまき散らす。
その瞬間、空からけたたましい轟音が嗚り響いた。
マックは驚いて顔を上げる。
祭りの真っ最中だったテントの上に花火が舞い上がり、四方に光をまき散らしていた。
その荘厳な光景に呆然としていると、横からリプタンの押しつぶされた呻き声が聞こえくる。
「ちっ・・・アグネスか・・・」
どうやらあの華やかな花火は、王女の仕業のようだ。
マックは慌てて彼の体を押しのけた。
「何かあったようですね。早く行ってみないと・・・」
「ただ祭りに余興を加えるつもりでああしているんだ。賑やかなのが好きな女性だから」
彼が興奮が冷めないようにふう、と震えるため息を吐きながら赤くなった顔を掃いた。
「なんてこった・・・。エリオットは止めずに何をしているんだ・・・」
「や、やっばり行ってみないと・・・」
もう一度火花が散る音が鳴り響くと、リプタンが挫折に満ちた悪口を吐きながら木に頭を突っ込んだ。
マックは火のように熱く燃え上がった彼の体に押されたまま、どうしていいか分からなかった。
遠くから人々のわいわい歓声が間こえてくると、理性が戻ってきて自分の行動に対する恥ずかしさが押し寄せてくる。
カロン卿も見ていたはずなのに・・・。
自分たちが無我夢中で抜け出すのを見て、彼は何を考えたのだろうか。
頭のてっぺんまで湯気が立ち上り、顔を真っ赤に染めて泣き顔を浮かべる彼女を見て、リプタンが抑えられたため息をつきながら、どうしようもないというように身を引き離した。
「ちょっと待てよ・・・ちょっと落ち着いて・・・」
彼が落胆した少年のように力なく座り込んで、片方の膝の上に額をぎゅっと押した。
マックもその横にしゃがんで、体の熱気が完全に冷めるのを待つ。
満たされない欲求で足の間がずきずきし、口が渇いてきた。
そんな自分があまりにも恥すかしくて、顔を上げることができない。
物悲しい気持ちに包まれて膝の上に頭を埋めると、もう一度空から花火が光った。
リプタンがばちばちと歯ぎしりをする。
「あの滅びる女、すぐに追い出してやる」
「そ、そんなことをしてはいけません。王室から来られたお客さんを冷遇すれば・・・」
「お客さんは何のお客さん、招かざる客だ」
リプタンはぶっきらぼうに発砲し、マックの顔をちらりと見た。
「・・・いつのまにか、アグネスとだいぶ仲がよくなったようだね?」
探っているような質問にマックは曖昧な表情をする。
雰囲気に乗って一緒に祭りを歩き回ったが、彼女は依然としてアグネス王女がどんな人なのかよく分かっていない。
仲が良いと躊躇なく答えるにはどこか難しく感じられる人なので、ぎこちない笑いで返事をごまかした。
「愉快な方のようですね。私にも・・・親切にしてくださって」
「引きずられて疲れてはいないの?」
「大丈夫です。むしろ・・・いつもより元気が溢れているようです」
彼の心配を軽くしてあげたくてそう言っておいて、ひょっとして煽るように聞こえたのではないかと思い、マックは耳まで赤く染める。
その顔をじっと見下ろしていたリプタンが手を上げ、彼女の顔の上に流れた数本の髪の毛を取り除き、耳の後ろに渡した。
マックは震える目で彼を見上げた。
若い葉が彼の鋭い顔に鮮やかな薄緑色の影を散り散りにすると、しばらく黙って見つめていたリプタンが、低い声でつぶやく。
「・・・君が今日みたいに楽しんでるのは初めて見たよ」
「む、村の祭りを見物したのは・・・今回が初めてなので・・・」
マックは彼の強烈なまなざしに囚われて吃った。
リプタンは真剣な顔で尋ねる。
「一年中お祭りを開いてあげようか?」
「と、とんでもない」
「お祭りの資金ぐらいならいくらでも払える」
どうやら冗談ではないようだ。
彼女は白くなった顔でさっと手を振った。
「そ、そこまでする必要はありません。あの・・・来年・・・また連れてき、きてくれるだけで十分です」
その言葉にリプタンの目つきがもう少し深まる。
彼は彼女の言葉を吟味するかのように、そっと目を閉じた。
「そうだね、来年は二人きりで・・・」
だが、その言葉が終わる前に今まで聞こえたものの中で最も騒々しい爆音が鳴り響き、リフタンの眉間には再び深いしわができる。
彼はうんざりして席から立ち上がった。
「もう帰ろう。あの女がアナトールを燃え尽くす前に止めなければならない」
マックは彼についてよろめきながら席から立ち上がる。
リプタンは着こなしを整え、彼女の手を掴んで木の後ろから歩いた。
マックは雲の上を歩くような朦朧とした気分に包まれ、彼の後を追う。
暖かい春風がまるで愛撫するように体の上をかすめて通り過ぎた。
どんな精神で祭りの場所に戻ったのかも覚えていない。
魔法で空に花火を打ち上げたアグネス王女は、リプタンの厳しい非難を聞いて、ようやく唇を突き出して丘の上に設けられた舞台から降りる。
カロン卿は「止められず申し訳ない」とつぶやきながら残酷な表情で頭を下げた。
リプタンは彼らを威嚇的ににらみつけ、見物を求める人ごみを避けて丘から下りてきた。
その後を追ってきた王女が不満そうに呟く。
「そこまで怒る必要はないでしょう。みんな喜んでたのに・・・」
「旅行者の中にあなたの顔を調べる人がいるかもしれません。金髪に青い目をした若い女魔法使いという特徴だけでも「ウェデンの王女」をすぐに思い浮かべることができるじゃないですか!」
彼は王女を振り返り威嚇的に話す。
「どうか自分の身分を自覚してください。あなたはルーベン王が最も大切にしている子です。悪い下心を抱いて接近してくる群れがいるかもしれないということです」
「リプタンはとても神経質ですね。そんな人が接近してきたとしても、私が全部・・・」
反論していた王女が、リプタンの冷たい視線に口をつぐんだ。
しばらく目を転がしていた彼女が、ため息をついて素直に認めた。
「浮かれていて、私がちょっとやり過ぎたかもしれませんね」
「明らかに度を過ぎていたじゃないですか」
リプタンはいつの間にか激しく吐き出し、あたりを見回す。
ローブを深くかぶっていたが、彼を見分ける領地民はいくらでもいるだろう。
さらに、アグネス王女が祭りに参加した皆が見ることができるように、華麗な花火の魔法を披露したではないか。
外地の人たちまで彼らをちらちらと見て何かひそひそ話している。
帰る雰囲気を見ると、すでに領主が魔法使いを連れて村の祭りに参加したという話が広がり始めたようだ。
彼らは、万が一騒動が起こることを憂慮して、直ちに村と繋がった道に移動した。
「少々お待ちください。御者を呼んできますので」
人通りの少ない場所に着くと、カロン卿はすぐに近くのテントへ向かう。
その後ろ姿を眺めながら、王女が少し元気のない顔でつぶやいた。
「訳もなく私のせいで楽しい時間が早く終わったようで申し訳ないですね。祭りをもっと素敵にしてあげようとしただけなのに・・・」
「いいえ、違います。少し驚いたけど、とても・・・素晴らしかったです。あんな魔法があるとは知りませんでした」
慰めるように吐き出した言葉に、アグネス王女の顔がすぐにばっと広がる。
「世界塔にいた時に習った花火の魔法です。見た目は派手で、手で触ってもいいほど温度も低く、燃焼速度も速いので、周りに害を及ぼすこともありません。毎年恒例の祭りの時に使ったりしました」
「単純に・・・見どころのために作ったま、魔法があるんですね」
マックはそっと眉をひそめた。
つい先日、魔力枯渇を経験したので、単純に楽しみのために惜しい魔力を浪費するというのが少し無駄に感じられた。
しかし、あれだけ多くの花火を打ち上げたにもかかわらず、王女は元気そうに見える。
アグネス王女にとって、あれくらいの魔力消耗は何でもないのだろう。
今更、自分と彼女の間にとれだけ大きな格差があるのか、ひしひしと実感しているが、王女がリプタンが馬車を確認しに行った隙を狙って、彼女の耳に当てて小さくひそひそと話した。
「ところで、さっきはまるで伝説のー場面を再演したようでしたね」
「え・・・?」
「踊るマクシミリアンをリプタンが森の方へ連れて行った時です」
マックは火をつけた炭のように真っ赤に燃え上がった。
王女はそこで止まらず、さらに進んだ。
「森で二人で何をしていたのでしょうか?」
「ア、アグネス様!」
マックは悲鳴を上げると、王女がくすくす笑って馬車を止めた場所に逃げるように走って行った。
リフタンは騎手がひどく酔っていないことを確認していたが、驚いた顔で彼女の方を振り返る。
マックは何でもないという意味で頭を振り、急いで馬車の上に乗り込んだ。
まず馬車に乗って壁に寄りかかって座っていた王女が彼女の姿を見て、笑った。
「顔が熟したスモモのようになりました。既婚者なのに、とても純真なのですね?」
「からかわないでください」
「とても難しい要求ですね。マクシミリアンは、からかう面白さがある人なんですよ」
何がそんなに面白いのか、王女が青い瞳をきらきらと輝かせた。
マックは彼女のいたずらな態度にどう対応していいか分からず、冷や汗をかく。
その姿を眺める王女の口元に優しい笑みが漂った。
「今日は一緒に来てくれてありがとう。帰る前に楽しい思い出を作れたようで嬉しいです」
突然の言葉にマックは目を丸くする。
「お、お帰りになられるのですか?」
「もう首都に戻らないと。あの男を説得するのは難しいようですから」
彼女は馬車から少し離れた場所でカロン卿と話をしているリプタンを指差して言った。
窓の外に彼を眺める王女の目つきが笑みを浮かべて柔らかく曲がる。
「元気な姿を確認しただけで満足しなければなりません」
愛情のこもった声にマックはびくぴくと動く。
やはり彼女はリプタンを格別に思っているのではないかと疑っているが、王女がマックを振り返りながら愛嬌たっぷりに片目をしかめた。
「それでも余裕ができたら、一度はドラキウム宮殿に立ち寄ってください。その時は私が首都の隅々を案内してあげます」
「あ・・・ありがとうございます」
「お世辞じゃないです。正式に招待しているのですよ」
彼女は人差し指を立てて強調した。
マックは困った顔で目を転がして、どうしようもないかのようにうなずく。
すると、王女の顔に満足そうな気配が漂っていた。
その姿を見てマックは一抹の不安を払いのけた。
リフタンに愛情を抱いているなら、自分にこんなに好意的な態度を取るはずがないじゃないか。
しばらくして、話を終えたリプタンとカロン卿が馬車の上に乗る。
彼らがそれぞれの席に座って、御者席とつながった仕切りを叩くと、馬車が徐々に祭りの場所から遠ざかり始めた。
マックは窓からアナトールの春の気配がはっきりとした青い野原を眺めた。
風に弱い木の葉がかさかさする音が、まるでドライアドの歌声のように聞こえてくる。
身軽でありながらもほんの少し、寂しい気持ちになった。
お祭りを満喫したマック。
リフタンが彼女の嫉妬に喜んでいた様子が素晴らしかったですね!
アグネス王女も、そろそろ帰還の予定。
マックが首都に向かう日も遠くないのでしょうか?