こんにちは、ピッコです。
今回は93話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
93話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 抑えきれない気持ち③
広い訓練場の中には遠征を準備する騎士たちと彼を助ける召使いたちがごった返していた。
マックは武器を点検する騎士たちと神経質になったように、足を踏み入れる軍馬たちの間を素早くかき分けて通り過ぎる。
もしかしたらリプタンと出くわすかもしれないと思ったが、幸いにも彼の姿は見えなかった。
おそらく、出発する前に建設現場を見回るために出かけたのだろう。
彼女は騎士の合間に見慣れた顔を探して目を丸くした。
しばらくして、衛兵所の近くで自分の背丈ほどの剣を手入れしているヘバロンを見つけることができた。
彼女はまっすぐ彼のところへ向かう。
「ニルタ卿・・・ちょ、ちょっとお話できますか?」
木で作った椅子に腰をかけて剣身に油を塗っていたヘバロンが頭を持ち上げた。
「どうされましたか?」
彼が面倒なそぶりを隠さずあらわにして身を起こす。
マックは少し怯んだ。
同僚たちが危険にさらされているという知らせにヘバロンは普段の楽天性をすべて失ったように見えた。
「あ、昨日のことで・・・申し上げたいことがあるんですが」
「おっしゃってください」
彼女は少し緊張してあたりを見回した。
何人かの騎士がこちらをちらりと見たが、皆あまり関心を傾けている様子ではなかった。
彼らはみな自分たちの武器や馬を点検し、実力をつけるのに余念がなかった。
マックはいらいらした手でスカートの裾に触れながら、できるだけ落ち着いて口を開いた。
「リバドンに行くには、ま、魔法使いがいなければならないと聞きました。私が、その役割をしたいのです」
ヘバロンは彼女の言葉に驚いたように目を見開く。
彼が姿勢を正して考え込んだような目で彼女をじろじろと見下ろした。
「奥様、ありがたいのですが・・・団長に許可は受けたんですか?」
マックは顔を赤く染めた。
「リプタンは・・・わ、私の話を聞いてくれようともしません。他の・・・騎士さんたちの考えはどうなのか、知りたいです」
「・・・」
ヘバロンはすぐに答えることができず、間を空けた。
「団長がロベルン伯爵家から魔法使いを引き出してくると言っていましたね。敢えて奥さんが危険を自任しなくても方法を探すことができるでしょう」
「ま、魔法使いを連れてこられなかったら・・・その時どうするつもりですか?」
「その時は私たちだけでも・・・」
「リバドンまで、一人も怪我をせずに・・・行けるということですか?」
彼の角張ったあごが固くなる。
敢えて答えを聞かなくても、その表情だけで十分だった。
マックはより強い口調で話し続けた。
「ニルタ卿も・・・ご、ご存知だと思います。.その間ずっと医務室にいながら・・・私の実力もかなりよくなりました。メドリックの話によると、傭兵団で働く生半可な治療術師より・・・わ、私の方がましだそうです」
「カリプス夫人」
ヘバロンは困った顔で口を開いた。
「奥様は確かにオ能があります。私たちもその点においては驚いています。正直に言って、奥さんにルースの代わりをしてもらいたいと思っていなかったわけではありません。しかし、奥様、遠征はそれほど簡単なものではありません。今回は前回のように奥様のために馬車を引いていくこともできません。奥さんは私たちと一緒に一日中馬に乗って移動しなければならず、都市に至るまでずっと野宿をしなければなりません。魔物の危険にさらされる可能性があります。ところで、奥様は癒し系の魔法以外はできないじゃないですか」
マックは頭を高く上げて反論する。
「防御壁を・・・大きく保つのは大変だけど・・・わ、私の一身ぐらいは守れます」
一度も防御壁の強度を試したことがないので確信することはできなかったが、マックは
わざと自分に満ちた表情をして見せた。
自分の安全よりもリプタンと一緒に行くことがもっと重要に感じられたから。
リプタンが危険を冒すつもりなら、自分も危険を冒すだろう。
「じゃ、邪魔にならないように・・・やります。だから・・・」
「遠征は鍛えられた騎士たちにとっても手に余る仕事です。でも奥さんは・・・」
ヘバロンは彼女の体に注意深く目を通し、無礼に思えるほど言葉を濁す。
必ず馬を買う前に健康状態を計るような目にマックはしかめっ面をした。
「わ、私が何ですか?」
「奥様の体力ではお手上げだと思います」
「で、でも・・・ル、ルースも遠征に出たじゃないですか?」
ルースは彼女より背が高かったが、ほっそりとした体格で、いつも夜を徹して本を読んでいたため、顔色は青白く気力がなかった。
あの魔法使いよりはむしろ自分の方が活動的なくらいだった。
「私は・・・ルースより健康でげ、元気も溢れています。ルースができるなら、私もできると思います。もちろん、私はルースより経験はないけど・・・。誰でも・・・さ、最初はあるものじゃないですか?」
「すごい説得力ですね」
ヘバロンが笑っているのか、しかめっ面をしているのか分からない曖昧な表情を浮かべる。
マックは彼が葛藤していることに気づいた。
しばらく黙ってあごを撫でていたヘバロンが負けたように両手を上げた。
「分かりました。2日以内に魔法使いを見つけられなかったら、一度団長を説得してみましょう」
「ありがとう!」
マックは明るい笑顔を浮かべる。
ヘバロンはかすかな笑みを浮かべながら首を横に振った。
「お礼はやめてください。団長が最後まで許可しないこともあります」
「そ、そうかもしれないけど・・・」
恐怖に怯えていたリプタンの姿を思い出し、マックは顔色を曇らせる。
ヘバロンも彼を相手にするつもりで目の前が真っ暗になるようだ。
その姿に突然、自分が彼を過度な苦境に立たせたのではないかと不安になった。
マックは彼の顔色をうかがい、躊躇いながら尋ねた。
「わ、私が一緒に行った方が・・・や、役に立つことは役に立つんですよね?」
ヘバロンは何と答えたらいいか分からないかのように目を丸くして、すぐにうめき声をあげて打ち明けた。
「もちろんです。私たちの内部では、「老魔術師でも連れて行った方がいいのではないか」という言葉まで出ていましたから」
「メ、メドリックは旅を・・・で、できる状態ではありません」
「知っています」
彼は長いため息をついた。
「奥様が同行してくださるなら、私どもとしては大変助かります。しかし、遠征は本当に大変なことです。軽く考えたのならもう一度慎重に・・・」
「か、軽く考えたのではありません。覚悟も・・・できています。城に残って・・・し、心配ばかりしているなら・・・か、体が大変な方がいいと思います。そして・・・」
自分は大変なことや辛いこと、全部よく耐えてきたと言おうとしたが、不思議に思うような気がして、マックは微笑でごまかした。
ヘバロンが意中を探るように緑色の瞳で彼女をじっと凝視し、大笑いをした。
「それは心強いですね」
マックはヘバロンとの会話を終え、すぐ医務室に向かう。
メドリックは薬草袋を床に並べて遠征に出る技師たちのために常備薬を準備していた。
彼女は彼を助けるために袖をまくり上げて机の前に歩いた。
メドリックは小さな布袋に干し薬草を詰め込んでいたが、心配そうな表情で彼女を見た。
「奥様、顔色が悪いです。今日は部屋で休みましょう。薬を準備する仕事くらいは私一人でできますから」
「少し・・・寝そびれただけですから。大丈夫ですよ」
「昨日、伝令が持ってきた消息のためですか?」
彼はプラスチック製の壺を棚から取り出し、ため息をついた。
「ああ、心配です。歳月を重ねるごとに魔物の数はさらに増えるばかりで、不家事によるものです」
「メドリックも・・・遠征に出たことがあるのか、経験がありますか?」
「小規模な討伐にはよく参加しました。私は癒し系の魔法以外に才能のない下級魔法使いで、たいてい後方から支援するレベルだったのですが。若い頃は長期遠征も何度か行ってきました」
ヘラでとろりとした軟膏をかき回していたメドリックは暗い表情をした。
「遠征隊と一緒に旅立つ魔法使いがいないからそうなんですね。治療術師を見つけられなかったら、私がついて行きます」
「そんなことないですよ!私が行こうと思って聞いているんです。メドリックを送るつもりじゃないから・・・し、心配しないでください」
メドリックは驚いたように目を大きく開ける。
「奥様が?領主様が許してくださったのですか?」
彼の反応にマックは顔を曇らせた。
城に来て1ヵ月も経っていない魔法使いまでこのような反応を見せるほど、リプタンの態度が頑強なのだろうか。
彼女は力なく首を横に振る。
「こ、これから・・・説得してみようと思います」
「奥様は去年から魔法を習ったとおっしゃいましたよね?討伐の経験はありますか?」
「と、討伐の経験はないですが・・・魔物に何度か出くわしたことは・・・あります」
2度も気絶したという言葉を喉の奥に飲み込んでしまった。
二人ともそれなりの事情があった。
最初は離婚されるかもしれないという心配から何日もまともに食べることも寝ることもできない状態で魔物を目撃してそうしたもので、二度目は魔力を限界まで消耗したために起きたことだった。
今はあの時より体ももっと健康で、魔力の調節も上手にできる。
「正直に言って・・・そんなに遠いところまで旅をしたことはありません。普通・・・魔法使いはえ、遠征で何をしますか?」
「攻撃魔法を使うことができる上級魔法使いは、戦闘中に騎士と共に戦います。ただ、私のような治療術師は邪魔にならないように安全な場所に避難していて、戦いが終わると負傷者を治療してくれる仕事を主にします」
彼は少し照れくさそうな顔をした。
「普遍魔法をいくつか身につけただけの私のような下級魔法使いは、事実上戦闘中にはほとんど役に立ちません。私は負傷者たちを治療する時以外には食事を準備したり、馬たちに水と餌を与えるなどの雑用師の役割をしました」
「そ、そうなのですね」
もし、リプタンを説得することに成功すれば、自分も遠征隊のために食事を準備し、馬の世話をしなければならないのだろうか。
一度も料理はしたことがないので、マックの顔の上に暗雲が立ち込めた。
「それでは・・・魔物が現れた時は・・・戦闘が終わるまで隠れていなければなりませんか?か、隠れる場所がなかったらどうしましょう?」
「長距離遠征には通常、騎士たちの世話をする随行員たちが一緒について行きませんか?魔物が出没したら、こうやって・・・」
メドリックは机の上に羊皮紙を1枚置き、その上に2本の線を引く。
「二つの隊列に分かれます。騎士たちは前面に出て魔物と戦い、その間に修行騎士たちは後ろに下がって食糧と馬を保護します。魔法使いもこの時、後方に一緒に退けばいいです。随行員が警戒してくれるので、戦闘中に無防備な状態になる心配はありませんね」
メドリックの説明にマックは不安が少し和らぐのを感じた。
彼女は彼に質問し続け、騎士が持ち歩く布袋に必須の薬草を詰め込む。
メドリックはその経験からの助言を惜しみなくした。
戦闘中にできるだけ騎士たちの障害にならないようにするコツや、キャンプをする時に虫に剌されない方法、道に迷った時に星を見て正しい方向を探す方法まで・・・。
マックは彼のすべての話を頭の中に刻み込み、再び心を引き締めた。
そのように医務室で時間を過ごしたところ、彼女は日が傾く頃になって域に戻って食事をして寝床に入る。
リプタンが戻ってきたらもう一度話をしてみようか、という気もしたが、彼の頑強な拒絶が思い出され、話しかけるのが怖かった。
アデロンが結果を発表するまで黙っていたほうがよいだろう。
彼女は必死に眠りについた。
リフタンの説得は成功するのでしょうか?
メドリックの豊富な知識が素晴らしいですね!