こんにちは、ピッコです。
今回は78話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
78話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 出征命令③
リフタンはホールを一気に横切って使用人を呼び止めた。
「すぐにお風呂のお湯を用意して部屋に持ってきてくれ。着替えも」
「分かりました、旦那様」
「入浴後は部屋で食事をする。時間に合わせて料理を準備してくるように」
まるで軍事指示でも下すように無愛想に命令したリプタンが階段を歩いて上がっていく。
マックはスカートの裾をつかんで彼を追いかけた。
リプタンは、行軍でもするかのように、広い歩幅で一気に2階を登り、ドアを開ける。
ルディスが事前に火をつけたかのように、部屋の中にには暖かいぬくもりが漂っていた。
リフタンはカーペットを避けて注意深く中に入り、ブーツを脱いだ。
「あのろくでなしのオオカミたち・・・使えそうなブーツをとてもめちゃくちゃにして」
マックは背後にドアを閉めて歩きながら、彼がしきりに悪口を吐き出す姿を見守った。
水がぼたぼたと落ちる革のブーツからは、リプタンの言葉のようにかすかな悪臭が漂っている。
彼は鼻先をしかめて隅に放り投げた。
マックは棚の上から数枚のタオルを手に取り、彼に差し出す。
「まず水気から拭いてください」
「必要ない。どうせすぐにお風呂入るじゃないか」
「お風呂の準備ができるまで、ぬ、濡れたままでありえないじゃないですか」
「・・・」
彼は床に溜まった水たまりをちらりと見てため息をつきながらタオルを受け取る。
マックはリプタンが暖まるように火かき棒で薪をかき分けた。
床に置かれたふいごを踏みながら薪をいくつか火の中に慎重に投げ入れると、背後からパチパチという音が間こえてきた。
肩越しに首をかしげたマックは、濡れたズボンを脱いでいる彼の姿に息を止める。
完璧な形のお尻が腰を曲げる動きによって硬く締められ、筋肉質の長くて強靭な足がそのまま現れた。
おとなしく視線を向けなければならないという考えが頭をよぎったが、まるで石像になったようにびくともできない。
マックは取り憑かれたように彼を凝視した。
ここ数週間、1日に1度顔を合わせるのも難しい夫だった。
最後にあの体の下に押しつぶされ、彼の欲望を受け入れたのはいつだろうか?
そんな考えをすると心臓がドキドキして頬が熱くなる。
その瞬間、彼女の淫らな視線を感じたりしたように、リプタンが首をかしげた。
マックは暖炉に何か大きな用事でもあるかのように急いで向きを変えて薪を持ち上げた。
露骨に盗み見ていたのがばれたのが恥ずかしくて耳たぶが熱くなってしまう。
どうか、初恋に夢中になるドジのように振る舞うな。
肢体の高い家柄の女性らしく、静粛で優雅に行動しなさい。
自分をやたらに叱っていると、肩越しにロックされた声が聞こえてきた。
「タオルをもう一枚ちょうだい」
脊椎に目を通すような低音に全身の産毛が逆立つ。
マックはタオルを手に取り、露骨に視線を下に置かないようにして彼に差し出した。
リプタンは控えめな動きでそれを手に取り、洗面器に入れて湿らせ、ねばねばした足を軽く磨き始めた。
その姿をちらつかせないために、マックは背を向けて立ち、ぎこちなくスカートの裾をいじる。
しかし、神経は彼に注がれていた。
マックは乾いた唇を潤した。
彼を思う存分眺めて撫でたいという欲求で指先がしびれてきた。
当惑した欲望をぐっとこらえるのをしばらく、自分の夫に触るのはどうかという気がした。
リプタンは夫婦がお互いを望むのは自然なことだと言っていたのではないだろうか。
マックは衝動的に彼の後ろに近づき、硬くて滑らかな背中に手を上げる。
するとリプタンは体をこわばらせ、彼女を乱暴に引き離した。
「・・・やめて」
うなるような声にマックは驚いて後ずさりする。
拒否されたと思って顔がほとんど紫色に染まった。
「ご、ごめんなさい」
どうしていいか分からずに目を伏せると、リプタンが細くうめき声を上げながら彼女を抱きしめた。
「昨日、随行員を助けるために魔力を消耗したじゃないか。無理をして前のように寝たらどうする」
彼は彼女の髪をなでるように水気の残っている手のひらでなでた。
マックは彼の熱い肌の感触に震えるため息をつく。
悦惚感が押し寄せた。
彼の体からは、洗い流せなかった魔物の生臭い血の匂いと、ジャコウの匂い、そして馬の匂いがした。
決して香りとはいえない体臭だったが、リプタンの匂いというだけでも魅惑的に感じられる。
「わ、私は元気です。そんなにたくさんの魔力を・・・消耗したわけでもないし・・・じゅ、十分に休んで・・・今は完璧に回復したんですよ」
彼の胸元に鼻をこすると、リプタンが弱音を立てた。
リプタンは編み上げた髪を指で触りながらいらいらしてつぶやいた。
「・・・その間ずっと我慢して優しくする自信がない」
マックは首をかしげる。
彼が一度でも優しかったことがあるだろうか。
よく覚えていなかった。
最初は慎重にゆっくりと時間をかけて苦労しても、一旦彼女の体に入ると、彼は気が狂った人のように追い詰めたりした。
その時の狂いそうな快感を思い出し、マックは焦れた目で彼を見上げる。
「・・・優しくしなくても・・・大丈夫です」
その言葉にリプタンの自制心は粉々に砕け散った。
彼は彼女をさっと抱きかかえて、唇をむさぼり上げてきた。
マックは水に濡れてすべすべする彼の真っ黒な髪を指に巻きつける。
リプタンの唇は新鮮な水の味がした。
「触るたびにおかしくなりそうだ。なんで人の体がこうなんだろう?全身が溶け出すように柔らかくて・・・指先からつま先まで綺麗じゃないものがない」
「そ、そんなことないですよ・・・」
腰を震わせていたマックは、ふと思い浮かんだ思いに不安な目でドアをちらりと見る。
「リ、リプタン・・・そろそろお風呂のお湯が・・・上がって来るんじゃないですか?」
「それは私を誘惑する前に考えるべきだった」
「ゆ、誘惑しませんでした。こ、これは誘惑じゃなくて・・・」
「私を飲み込みたいというように盗み見て、抱きしめてくれとせがんだ。誘惑じゃなければ何だと言うんだ」
焦れた感覚が逹した頃、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
「ご主人様、お風呂のお湯を用意してきました」
リプタンは頭を上げる。
マックは立ち上がろうとする彼を掴んだ。
こんな状態で止めることはできなかった。
もう少しで緊張が完全に和らげそうだが、彼は彼女を容赦なくベッドに押し込んだ。
「少しだけ我慢して、うん?」
「い、いやです・・・」
マックは生まれたばかりの鹿のように悲しそうに震えながら、水気のある目で彼を見上げる。
リプタンがその姿を見下ろして息を止め、激しいキスを浴びせた。
そうしてやっと理性を取り戻したかのように、彼女の体にシートをかぶせて、急いで自分の体にもガウンを羽織った。
「急いで」
彼がドアを開けると、使用人たちが湯気がゆらゆら上がってくる浴槽を持って部屋の中に入ってきた。
マックは布団の中に顔を隠したまま、手のひらで熱くなった胸を撫でる。
使用人たちが水の温度を合わせて、余分の水が入った水筒を暖炉のそばに置き、服と石鹸、タオルを収納棚の上にきちんと整理しておく。
数分の時間が、数時間のように長く感じられた。.
リプタンもやはり彼女に劣らず焦ったように荒々しく叫んだ。
「いいから早く出て行け」
「も、申し訳ありません」
使用人たちが当惑した顔であたふたと空の水筒を持って部屋を出ていく。
マックはドアが閉まる音が聞こえるやいなや彼のわき腹に食い込んだ。
彼女は熱に浮かれ、朦朧としてリフタンを見上げる。
「なんてこった・・・ここがどこかも分からない・・・」
マックは汗まみれの顔を上げて不安そうな顔をした。
「わ、悪かったという意味ですか?」
「悪いはずがないじゃないか」
リフタンはにっこり笑って彼女の肩に優しくキスする。
マックは安心して彼の頭を抱え、首筋に顔をこすった。
リプタンは微笑みながら彼女を抱きかかえ、ベッドから起き上がる。
「せっかく用意してくれたお風呂のお湯を無駄にするわけにはいかない」
それから、つかつかと歩いて、湯船の中につかった。
マックは熱い肌にぬるぬると巻かれる水の感触にだるいため息をつく。
彼は彼女の首筋と肩に水を汲み上げ、濡れた肌を唇で軽く洗った。
「あなたの肌はいつもすべすべでしっとりして気持ちいい」
「そ、そばかすが多くて・・・み、見せたくないです」
「砂糖をかけておいたみたいで美味しそうじゃないか」
その言葉を証明しようとするかのように、リプタンが肩に生えたかすかな茶色のそばかすをなめた。
マックはスッポンのように首をすくめて顔を赤らめる。
彼はくすくす笑いながら頬にもキスをした。
「よく熟した桃のようにすぐ赤くなるのもいいね」
マックは目を転がした。
彼の話を聞いていると、本当に自分がまあまあの外見をしているのではないかという気がしたのだ。
リプタンの好みは一般的な線からかなり外れていたに違いない。
「体は不自由じゃない?」
「へ、平気ですよ。大丈夫だと言ったじゃないですか」
彼は彼女の顔を覆った髪を取り払いながら注意深く観察した。
まだ完全に心配を振り切ることができない姿にマックはため息をつく。
「本当に、へ、平気です。前は・・・重傷を負った人に・・・次々と魔法をかけたせいで、倒れてしまったんです。あの時のように無理しなければ・・・大丈夫ですよ」
リプタンは彼女の言葉に物思いにふけった。
「ルースはあなたの腕が良かったので、別に手を打つ必要はなかったそうだ。あの新米の騎士があなたに恩を受けたと言って、感謝していると伝えてくれと言った」
リプタンが彼女の魔法について認めるような発言をしたのは今回が初めてだった。
マックは喜びに満ちた目で彼を見上げる。
「や、役に立ったなんて・・・嬉しいです」
「・・・そう、大きな助けになった」
素直にそのように答えながらも、リプタンは複雑な顔をしていた。
ただ愉快そうに見えない表情にマックの気分はあっという間に再び沈んだ。
ルースにまた魔法を習うことにしたと率直に話していいのだろうか。
彼の顔色をうかがっていたマックは、口をぎゅっと閉じた。
余計な話を持ち出して今の身近な空気を壊したくなかった。
実際、彼がこれ以上魔法を学ばないように正確に釘を刺したわけでもないのではないか。
無謀なことさえしなければ大丈夫じゃないか。
そのように自己合理化をして、マックは不快な気持ちを一方に振り払う。
今はこの幸せな時間を存分に満喫したかった。
二人の幸せな時間がもっと続いてほしい!
リフタンがマックの魔法を褒めたのは、これが初めてなのでは?