こんにちは、ピッコです。
今回は30話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
30話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 魔法使いの助手②
「奥様!」
危なっかしい気持ちでホールを横切って行く途中、背後からロドリゴの声が聞こえてきた。
マックは足を止めて振り返る。
執事が大きな箱を抱えてグレートホールに入ってきた。
「領主様が奥様をお連れするように命じました」
「北のじょ、城門にい、行かれたと聞きましたが」
「ただいまお戻りになりました。今、庭に・・・」
マックは言葉が終わる前にドアの外に走り出す。
東屋を通り過ぎて階段の前に立つと、広い庭で慌ただしく荷物を運んでいる使用人たちの姿が見えた。
マックは目を丸くする。
庭の前には4頭の馬が率いる巨大な荷馬車が立っており、使用人たちはその中から小さな箱を絶えず取り出して城の中に運んでいた。
マックは彼らの前を通り過ぎ、慎重に階段を降りる。
馬車の前で南大陸の商人と見られる服装の男2人と話を交わしていたリプタンが肩越しに首をかしげた。
「マキシ」
マックは飼い主に呼ばれた子犬のようにすはやく彼の前に向かう。
リプタンは商人から馬の手綱を引き取り、そっと前に引っ張った。
すると、嘆声が出るほど美しい雌馬が彼の命令に服従するようにゆっくりと前に出てくる。
「さあ」
彼は馬の長くて優雅な首筋を優しくなでて、いきなり手綱を差し出した。
マックはわけが分からず、ぼんやりと目をばちばちさせていた。
「あまり気に入らない?」
「は、はい・・・?」
何を言っているのか理解できずに反問すると、彼が彼女の手を握って、手綱を無理やり握らせた。
「帰るときにプレゼントを買ってくると言ったじゃないか」
マックは目を丸くして、彼の淡々とした顔と馬の穏やかな顔を交互に見つめる。
すると、彼がまごついている彼女の腕を掴んで馬の顔を触らせた。
マックは震える手で金色のたてがみを撫でてみる。
雌馬が応えるように鼻を優しく彼女の手のひらにこすりつけた。
「私が持っている馬は全部大柄で気性が荒いのであなたには合わないと思ったんだ。まだ幼いやつだが、訓練がうまくできたやつだから扱うのが難しくはないだろう」
「ほ、本当に・・・、き、綺麗です」
半ば取り憑かれた顔でつぶやくと、彼は満足そうな笑みを浮かべた。
「もう君のものだ」
「こ、こんな・・・、す、素敵な贈り物はは、初めてです」
雌馬が愛嬌たっぷりにぷるぷるしながら手のひらに顔をこすってくる。
マックはそっと口のあたりと鼻などをなでながら、彼が渡した驚異的な贈り物をうっとりと見た。
長くて細い足にすらりとした腰、豊かな黄金色のたてがみと賢く見える黒い瞳が絵のように美しい雌馬だった。
バランスの取れた体型とつややかな毛色を見ただけでも優秀な品種だということが分かる。
彼女は上気した声で問い返した。
「あの、本当にも、貰ってもい、いいのですか?」
「君のものだと言ったじゃないか」
リフタンは眉間にしわを寄せながら答える。
「あなた以外にこんなき綺麗な馬の上に乗る資格はない」
その言葉を聞き取ったかのように、雌馬が鼻息を強く吐き出した。
マックは小さく笑い、馬の耳を撫でる。
彼は頭を傾け、その姿をじっと見下ろして尋ねた。
「気に入った?」
「き、気に入りました」
気に入るなんてものではない。
感激で震える声を整えながら、マックは慎重に言葉を続けた。
「わたし、ほんとうに、ありがとう」
すると、彼女をじっと見つめていた男が頭を下げてキスをする。
マックは驚いて一歩後退した。
リプタンは何事もなかったかのように、自然に商人たちに向かって振り向いた。
「私の妻が喜んでいるね。謝礼に5割上乗せしてくれ。あと一、二日はかかると思っていたのに急いでくれてありがとう」
「あらまあ!とんでもないことをおっしゃいます。領主様が頼まれたことですから昼夜を問わず走ってこないと!」
マックは彼らの会話を聞き流し、赤くなった顔を馬の首筋の後ろに隠した。
このように多くの人が見る前で平然と愛情表現をするリプタンに当惑したのだ。
誰かがもし変に見えないかと周りを見回すと、商人との対話を終えたリプタンが彼女の肩を片腕で抱えながら話した。
「部屋に行こう。他の物も見てほしい」
「ま、まだ・・・、あ、あるのですか?」
「今、使用人たちが運ぶ箱が全部あなたのプレゼントだよ」
彼は荷車に詰め込んだ箱を指差した。
マックは口をあんぐりと開ける。
ざっと見積もっても部屋一つは満タンになる荷物だ。
「部屋に移しておけと言った。こっちにおいで」
リプタンは馬の手綱を近くの使用人に渡した後、グレートホールに向かって歩いた。
マックは雲の上を歩くように軽やかに彼のそばを追う。
少し前まで、あれほど憂鬱で不安な気持ちだったということが信じられなかった。
「じょ、城門の修理のために・・・、い、忙しくないですか?」
「指示することは全部指示した。城門が完成するまで騎士たちが順番に警備をすることにしたので、私が守って立っていなくても侵入者たちが領内に入って乱暴を働くことはないだろう」
治安が心配だったのではなく、忙しい時期にリフタンの時間を奪うことが申し訳なくて吐いた言葉だったが、マックはあえて訂正しなかった。
彼らは階段を上り、大きく開いた門の中に入る。
窓から降り注ぐ日差しが赤いカーペットの上に美しい金色をまいていた。
その上を悠々と歩いていたリプタンがふと首をかしげた。
「そういえば、まだちゃんと感想も言ってなかったんだ。お城がとても素敵になった。執事があなたが色々と苦労が多かったと言っていたよ」
突然の褒め言葉にマックは顔を赤らめる。
「き、気に入りましたか・・・?」
「気に入っている。朝、階段を下りてくる時にびっくりしたよ。一瞬、私が一晩で別の城に移ってきたのかと思ったほどだ」
彼の大げさな話し方にマックは安堵のため息をつく。
「き、昨日のこ、ことで・・・、し、心配しました」
「盛んに怒っている最中に、「ところでお城が本当に素敵になったね、お疲れ様」と言うのも面白いじゃないか。いや、そもそも妻が座り込んでいるのを見て、お城なんて目に入るだろうか?全ての城にメッキをしておいたとしても、その瞬間は気にもしなかっただろう」
彼は目を細め、辛辣に吐き出した。
思い出すだけでも怒りがこみ上げるように冷たく揺れる目つきに、マックはどうすればいいのか分からず、目を伏せる。
リプタンは小さなため息をつき、彼女の頭を安心するように撫でた。
「これ以上怒るつもりはないから、そんなにぐったりしないで。プレゼントでも見に行こう」
マックは静かに彼の後を追って歩いた。
階段を上って部屋の中に入ると、山のような箱を整理している使用人たちの姿が目に入った。
もしや手癖の悪い女中がいないかと目を細めて監視していたルディスが彼らの姿を発見し、慌てて頭を下げる。
「いらっしゃいましたか」
「荷物は全部移したのかな?」
「はい、全部で32箱です。確認してみますか?」
リプタンがうなずくと、使用人たちが箱を一つ一つ開け始めた。
マックは果てしなく降り注ぐ贈り物を茫然と見つめる。
南大陸から入ってきた良質の絹と華やかな模様の織物、つややかなキツネの毛皮とヘビの皮で作った帯、金糸で絞りのショールと銀で作った手鏡、そして真珠で飾ってあるヘアピン・・・。
ロゼッタが豪華な贈り物に埋もれていることは数え切れないほど見たが、自分がその主人公になったのは初めてのことで、気がつけられなかった。
彼女は震える声でぼんやりと尋ねる。
「こ、これが全部・・・、わ、私のプレゼントですか?」
「なんで?あんまり気に入らないの?」
眉をひそめて問い返す言葉にマックは慌てて首を横に振った。
彼女の腹違いの妹は、大量の宝石を貰っても瞬きもしなかった。
公爵家の令嬢がこの程度に萎縮した姿を映すと、不思議に思うだろう。
ロゼッタの高慢な態度を思い出し、彼女はかろうじて平静を保った。
「いいえ、違います。あ、あ・・・、ありがとうございます」
彼が安心した顔で残りの箱も開けさせる。
マックはあらゆる富貴栄華に慣れた貴公女のように平然としていようと努めたが、バカのようにしきりに口が開くことを防ぐことはできなかった。
彼が宝石箱からエメラルドが刻まれたヘアピンを取り出し、耳の上部に注意深く差し込んで、首には.きらめくダイヤモンドのネックレスをつけてくれた。
マックは豪華な装身具を見下ろして、どうすればいいか分からなかった。
リプタンはほほえましい顔で彼女の頬に唇を押し付ける。
「思った通り、よく似合うね」
「う、あ・・・、ありが、ありがとう・・・」
真っ赤な顔でつぶやくと、彼の目に満足そうな気配がした。
彼が流れ落ちた髪の毛を指先で優しく渡し、他の装身具も取り出して体に当ててみるようにした。
マックは鏡に映った自分の姿をぎこちなく見る。
リプタンは、まるで彼女が世界で一番尊い王女でもあるかのように接していた。
それが嬉しいながらも不便だった。
似合わない仮面をかぶって舞台に上がった芸人になった気分だった。
「どうしてそんな顔をしているの?気に入らない?」
彼女の気まずい表情を見て、リプタンは眉をひそめて尋ねた。
マックは急いで口を開く。
「いいえ、違います。本当に綺麗です。い、忙しい、日程だったはずなのに・・・、いつこ、こんなにたくさんのプ、プレゼントを買ったのですか?」
「私のためにクロイソ城で使っていた宝石や服を全部置いてきたじゃないか。時間を作ってでも補償してあげないと」
彼はにっこり笑って言った。
マックは呆然とした顔を慌てて隠す。
とげが刺さったように胸の内側がひりひりした。
「き、気を遣ってくれて・・・、ありがとうございます」
辛うじて笑みを浮かべて見せると、彼が安心したように使用人たちにプレゼントを整理しろと言った。
マックは後ろに立って妙な罪悪感を心の中から消し去ろうと努める。
別に嘘なんて何もなかった。
彼が勝手に自分が大事だと勘違いしているだけだ。
そう繰り返してみるが、不便な気持ちはなかなか消えなかった。