こんにちは、ピッコです。
今回は92話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
92話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 抑えきれない気持ち②
マックはしばらくうとうとしていたが、ルディスがドアを開けて入ってくる音に目を覚ました。
女中は、服も着替えもしないままベッドの端に、不自由なく横になっている彼女の姿を見て、目を丸くする。
マックは飛び起きてルディスのところへ走って行った。
「ル、ルディス・・・リプタンはもうで、出たのですか?ちょっと寝たけど顔を見れなくて・・・」
「旦那様は昨夜、騎士の宿舎でお休みになりました」
「今は・・・どこにいらっしゃいますか?」
「応接室で商人に会っています」
マックは3時間も寝ずに稼いだ目から目やにを取り、乱れた髪は指で適当にとかして外に飛び出す。
階段を下りると、古風によく整えられた応接室に、リプタンとアデロンが向かい合って座っている姿が目に入った。
マックは階段4段を残して立ち止まる。
一人の声が廊下に静かに響き渡った。
「今、大陸で魔法使いを雇うのは簡単ではありません。連れてくるためには世界塔で雇用しなければなりませんが、魔法使い間の規律のために容易ではなく、可能だとしても10日以上はかかるでしょう」
「そんなに長くは待てない。上段の流通網で近い領地に連絡を取って・・・」
リプタンは彼女の姿を見つけて言葉を濁した。
マックは自分でも知らないうちに後ずさりし、すぐに気を引き締めて、大きな階段を下りて応接室の中に入る。
リプタンの顔には鋭い緊張感が漂っていた。
「まだ話し中だよ。出ていて」
「リ、リプタン・・・私も聞きたいです。魔法使いを手に入れるんですよね?それなら私が・・・」
「出て行けと言った」
彼の声は陰鬱に低くなった。
マックは彼を睨みつけ、アデロンの方を向く。
「これから3日以内に魔法使いを手に入れる可能性は・・・ありますか?」
商人が慌てた顔でリプタンの険しい顔とマックの悲壮な顔を交互に見て落ち着いて答えた。
「こんなことを申し上げるのは申し訳ありませんが、事実上難しいです。アナトールの近くに位置する領地は、ロベルン伯爵領とルベイン男爵領だけです。ロベルン伯爵は・・・自分の魔法使いを出してくれる人ではなく、ルベイン男爵は従えている魔法使いがたった一人だけなので、傭兵として送ることはできません」
「ふ、不可能だということですか?」
「マクシミリアン!」
リプタンは忍耐力を失い、激しく叫んだ。
「あなたが割り込む問題じゃない!出ていろって言ったはずだ」
彼の威圧的な態度に自然に体がこわばったが、マックは負けずに彼とまっすぐ向き合った。
「わ、私は・・・あなたの妻です。なぜ私が割り込む問題ではないのですか?」
「これはお前とは関係ないことだ」
切り取るような話し方に胸が針に刺されたようにちくちくする。
マックは親に押し出された子供のような顔をして、ぐっと拳を握りしめた。
「か、関係あります!私は・・・私は魔法使いです!リプタンも知ってるじゃないですか?私が・・・」
「黙れ」
まるで獣がうなるような声に、おのずと体が凍りつく。
彼が怒るのを何度も見たが、今のように冷酷な表情をするのは初めてだった。
リプタンは縮こまったマックを冷ややかに睨み、アデロンに向かって首をかしげた。
「ロベルン伯爵領から魔法使いを引き抜きたい。金貨をいくら払っても構わない。試してみることができるかな?」
「ロベルン伯爵領にも私たちの商団が入っているので、密偵を入れて魔法使いに接触を試みることはできます。しかし、そんなことをして発覚したら、私たちの信用が・・・」
商人が慎重な態度で言葉を濁すと、リプタンが彼の前に重い皮のポケットを置いた。
「成功させてくれれば、この10倍の仲介料を払う。魔法使いにも伯爵が与える労賃の5倍を
出してくれると説得してみて」
商人が重さを計るようにポケットをしばらく見下ろして、ため息を吐きながら首を横に振った。
「とりあえず、試してみます。しかし、あまり大きな期待はしないでください。伯爵領の魔法使いたちは代々ロベルン家を仕えてきた家臣たちと同じで、簡単に説得されないでしょう」
「何があっても説得しなさい」
リプタンはきっばりと話し、席から立ち上がる。
アデロンは彼の後をついて立ち上がり、袋を懐に押し込んだ。
「それでは、二日以内に経過を申し上げます」
商人が二人に頭を下げた後、応接室を出てしまった。
マックはぽつんと立ち、リプタンの顔色だけをうかがっていた。
彼は彼女に覗線を向けずにマントを手に取り、そのまま外に出た。
マックは急いで彼を追いかける。
リプタンの足取りが早まった。
彼を追いかけるために、彼女はほとんど走るようにしなければならなかった。
「リプタン・・・お願い・・・私の、私の話をちょっと聞いてください」
彼は何の音も聞こえない人のように前だけを見て歩いた。
マックは彼の広い歩幅に追いつくために走り回る。
「リ、リプタン・・・!」
ほとんど哀願するように彼の名前を呼んだが、リプタンは振り返らない。
マックは逃げるように階段を下りる彼をにらみつけ、ほとんど飛びかかるようにして彼の服をつかんだ。
リプタンは驚いたように背中をこわばらせ、彼女の手を掴む。
「ちょ、ちょっと待ってください。わ、私の・・・話をちょっと・・・!」
マックは言葉を続けられずによろめいた。
スカートが足に巻きついたせいで体が前にぐっと傾く。
もし彼が彼女の腰を素早く伸ばしていなかったら、階段の下に落ちていただろう。
マックは青白い顔をして彼の腕にしがみついた。
頭上から乱暴な悪口が間こえてきた。
「なんてこった・・・一体何を考えているんだ!危うく大怪我をするところだったじゃないか!」
リプタンは彼女の肩をつかんでゆすった。
マックはスッポンのように首をすくめ、反抗的な目で彼を睨みつける。
「リ、リプタンが・・・わ、私を無視す・・・するからじゃないですか」
「一体どうしたんだ?君のとんでもない話なんて聞きたくないんだって!」
マックは彼の無情な言葉に傷ついた表情を見せないようにまつげを敷いた。
自分が彼が思っているほど弱くないと主張しなければならない状況で、涙やすすり泣くことはできないではないか。
リプタンは彼女を引き離すことができれば、もっと冷たく押し出すことも躊躇わないだろう。
彼がどのように反応するか予想できなかったわけでもなかった。
やっとアナトールの外に出ることにも飛び跳ねたリプタンが、素直に遠征に連れて行ってくれるはずがないということぐらいはマックも分かっている。
マックは感情を落ち着かせ、できるだけ淡々と話した。
「とんでもない話かどうか・・・聞いてもいないのに、なんで知ってるんですか?私の話を・・・聞いて、みることくらいはできるじゃないですか」
「・・・」
彼の唇は固く閉ざされた。
真っ黒に燃え上がる目で彼女をじっと眺めていたリプタンが胸元に腕を組んで陰惨に吐き出す。
「いいよ。話してみて」
あなたが何を言っても私の返事は「だめ」だけだと全身で叫ぶような態度。
マックは乾いた唾を飲み込んだ。
「リバドンに行く・・・道は大変険しいと聞きました。そんな旅に行く途中に・・・ま、魔法使いもなしに行くのは危険なことだと・・・」
「私が勝手に新しい魔法使いを手に入れる」
「て、手に入らないこともあるじゃないですか!ア、アデロンがた、大変だろうって・・・言ったじゃないですか」
「それはあなたが気にすることではない。私が耐えなければならない私の問題だよ」
鉄壁のような態度にマックは結局言葉を失う。
それで会話は終わったかのように、リフタンは振り向いた。
マックは彼の腕を必死につかんだ。
「リプタンが・・・私を信用できないということは知っています。しかし、これまでたくさん勉強して、魔力も増えました。時間内に魔法使いを手に入れることができなければ。わ、私が・・・!」
「やめろ!」
リプタンは辛抱強く声を荒げた。
「私たちが旅にでも行くと思ってるの?君の言う通り、リバドンに行く道は険しい。そんな道に私にあなたを連れて行けって?いっそ死ねと言ってくれ!」
彼の声がホールの中にりんりんと響き渡る。
リプタンは荒々しく髪をかき回し、無邪気に釘を刺した。
「君の魔法がなくても構わない。だから余計なことを言って迷惑をかけるな!」
それから彼女が引き止める間もなく、つかつかと階段を下りてしまった。
マックは立ち去るリフタンの後ろ姿を眺める。
何人かの使用人が廊下の突き当たりで首を突き出して自分をちらりと見た。
マックは顔を赤らめながら急いでその場を去った。
傷心で心が重く沈んだ。
あの冷たい断りに、一抹の自信もすっかり摩耗してしまったような気がした。
気が抜けて魂が抜けたまま部屋に戻ったマックは、力なくドアの前に座り込んだ。
衝撃がだんだん消えていくと、以前には感じたことのない怒りが沸き上がり始める。
自分を危険なところに連れて行くよりむしろ死ぬなんて、世の中にそんな利己的な言葉がまたどこにあるだろうか!
自分自身は何気なく危険を冒しながら、どうやって私には城内にだけいろと強要できるというのか。
人の心は真っ黒に焼かれようが焼かれまいが、自分の心さえ楽ならそれでいいのか。
マックは神経質に額をこする。
このまま彼を行かせたら、彼女はきっと一晩も安らかに眠ることができないだろう。
彼が魔物の毒に中毒になったらどうしよう、薬では治療できない深刻な負傷を負えばどうしよう、何ヶ月も恐ろしい想像で自らを苦しめ、ぐずぐず病むだろう。
それが彼の言う「安楽な暮らし」なのか。
マックは青ざめた顔で薄暗い部屋をにらみつけ、再び部屋を蹴って出て行く。
彼にいくら言っても無駄だった。
まず、騎士から説得しなければならない。
リプタンは危険を甘受する意向があるか分からないが、騎士は違うだろう。
彼らが味方してくれれば、リプタンを説得できるかもしれない。
マックはかすかな希望に包まれて練兵場に向かった。
3日以内に魔法使いを雇うのは事実上不可能な状況。
リフタンがマックを心配する気持ちは非常に分かるのですが、マックは騎士を説得することができるのでしょうか?