こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
今回は320話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
320話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛⑤
セシリアの不在はそれほど大きく感じられなかった。
国母の死にもかかわらず、ベロニカが皇后の役割を欠けることなく果たしていたからである。
公式スケジュールを消化する中で、シアンとベロニカが共に過ごす時間も自然と増えていった。
たまたま目が合ったとしても、ベロニカはどうしてよいかわからず、うつむいてしまう。
その慌てた様子を見るたびに、シアンの疑念は徐々に確信へと変わりつつあった。
(もしベロニカが公女の代役なら・・・大公の罪は決して軽くはない。)
天高くそびえるかに見える大公だが、その親戚ではなく代役として皇后に据えられたのは、政治的な安定を保つための危険な措置だ。
権威は地に落ち、宮廷を嘲笑うような行動は貴族たちの批判を免れない。
しかし、皇太子の即位式にアベラを参加させることで、ラインハート家はこの責任を軽減しようとしていた。
(反撃の機会となるかもしれないな。)
鉄のように堅固な大公家を揺るがし、内部に入り込む隙が生まれるかどうかは分からない。
ワインの杯を軽く回しながら考えに沈んでいたシアンは、外国の貴族たちとの会話中に偽のベロニカを目にする。
偽物という疑念が次第に深まる中、驚くほど本物のベロニカと似ているその外見に、周囲の感嘆の声が絶えなかった。
双子と言っても信じられるほど、そっくりだった。
だが、それだけではない。
偽のベロニカは、完璧な振る舞いで社交界のマナーを守り、貴族たちと親しく交流していた。
優雅な手の動き、微笑、そして穏やかな言葉遣いは、彼女が大公家の一員だという信頼を得るに十分な気品に溢れていた。
しかし、そこまでだ。
偽物は本物にはなれない。
彼女がどのような目的を持っているかは分からないが、大公家の人間であることには変わりない。
シアンの視線に気づいたのか、偽ベロニカがちらりと目を向けた。
その瞬間、ふと視線が交錯する。
無関心で冷たいシアンの目と対照的に、偽ベロニカは一瞬戸惑いを見せ、不自然な笑みを浮かべた。
「・・・!」
瞬間、シアンの顔が驚愕に染まった。
その微笑を目にした途端、抑えようのない異様な感情が胸を大きく揺さぶる。
理解不能なその感情を隠そうとして、シアンは視線を勢いよく逸らした。
当然のことだが、動揺する偽ベロニカの表情をシアンは確認することができなかった。
(一体どうしてこんなことになるんだ?)
突然速くなる心拍と、この不可解な感情の絡み合いに、シアンはすっかり困惑した。
その後、シアンは意図的に偽ベロニカから距離を置こうとした。
しかし、皇帝や皇后と共に参加するイベントが多いため、偽ベロニカと顔を合わせる機会は増えるばかり。
目を合わせまいと努めたものの、避けられない状況が訪れるたび、彼女は一切躊躇せず曖昧な微笑を浮かべていた。
――あの微笑だ。
許可もなく、無遠慮に胸の奥深くへ入り込み、シアンの心に痕跡を残していく。
目を閉じても、別の仕事をしていても、思わず浮かび上がってくるその微笑――。
それは、無意識に考えさせられる微笑だった。
建国記念日の行事の時も、こんなことがあった。
純白の宮廷礼装に着替えようとしていたシアンが、ちょうど控え室から出てきた時、遠くから靴音を鳴らしながら慌てて走ってきたベロニカと鉢合わせた。
「遅れて申し訳ありません、陛下。」
息を整える偽ベロニカに、シアンは理解が追いつかなかった。
建国記念碑の文を発表するために南門に直接向かえばいいだけのことなのに、どうしてわざわざ本宮まで戻ってくる道のりを選んだのかが理解できなかった。
その疑問を抑えきれなかったシアンは、初めてベロニカに尋ねる。
「ここに何の用だ?」
「陛下と一緒に行こうと思いまして。」
「・・・!」
恥ずかしそうにしながらも、偽ベロニカは驚くほど自信満々に答えた。
その答えはまるで何度も練習してきたような完璧さだ。
しかし彼女を見ていると、シアンの中に妙な感覚が沸き上がる。
一度も感じたことのない鮮烈な感覚が、緊張と警戒に包まれた内側の何かを徐々にほぐしていくような、そんな感覚だった。
シアンは返事をせずに歩き出した。
この奇妙な感情が顔に現れることを恐れ、無表情を装った。
その背後を偽ベロニカが少し遅れてついてきた。
シアンには見えなかったが、彼女は謎めいた微笑を浮かべていた。
記念式が終わり、首都はお祭りの雰囲気に包まれた。
財政が厳しい皇室に代わり、大公家が建国記念を祝い、酒や肉を振る舞う。
これは意図的に皇室よりも大公家に感謝を感じさせる狙いがある明白な策略だった。
その夜、皇宮では建国記念晩餐会が開かれた。地方貴族たちも敬意を表するほど、皇室最高の宴が催された。
「あっ!」
気分が良くなりすぎた貴族の一人が、シアンの礼装にワインをこぼすという不敬な失態を犯した。
「し、失礼しました、陛下!」
「誰でも過ちを犯すものだ。気にするな。」
シアンは一言も発せずに宴会場を立ち去る。
責める権力もない皇室を侮った貴族たちの嘲笑が聞こえてきたが、それを無視して。
彼らが増長し横柄になるほど、シアンの心は怒りに燃え上がっていく。
彼にとっては好機が増えるばかりだった。
近くの控え室に入ったシアンは、ワインで汚れた服を脱いだ。
体に染みついた匂いがどうしても気になり、どうにかして洗い流さなければならないように感じた。
ノックの音が聞こえた。
「入れ。」
ちょうどシャツのボタンを半分ほど外し終えた頃、偽ベロニカが部屋に入ってきた。
侍女に着替えを持ってくるよう命じたはずなのに。
シアンの表情が曇った。
「どうして君が持ってきた?」
上着を脱ぎかけていたシアンと目が合った偽ベロニカの顔が赤く染まる。
髪をかき乱すように手を動かし、声を震わせながら答えた。
「私が・・・持ってきたかったからです・・・。」
「無駄なことだ。君に期待して何か頼むことはない。」
シアンは感情を押し殺してきっぱりと線を引く。
「どれだけ近づこうとしても無駄だ」と自分自身に言い聞かせるように。
しかし、それは彼自身への警告でもあった。
さらに自分を揺るがすことは許さないと心に誓っていた。
そう言いながら、偽ベロニカは傷ついた表情を隠そうと努めながら、わずかに微笑んだ。
「期待していませんから。」
「何?」
「ただ、一度だけお目にかかれたことで十分です。それだけで嬉しかったのです。」
そう言い残し、少し悲しげな表情を浮かべた偽ベロニカは静かに控え室を去っていった。
彼女が置いていったシャツと礼服を見つめながら、シアンは深いため息をつき、言葉を失った。
彼女はいったい何者なのか。
どうして自分の心をこんなにもかき乱すのか。
偽ベロニカであることを知っていても、彼女の前ではなぜか落ち着けない自分に戸惑うばかりだった。
「・・・もうたくさんだ。」