こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
今回は322話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
322話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛⑦
シアンは胸が高鳴り、不思議な気持ちを抱いた。
親になるということをこれまで一度も考えたことがなかったような、生々しい感覚だった。
(黙って見過ごすわけにはいかない。)
その奇妙な感覚は彼の理性を麻痺させる。
どうにかして心を抑えようとしても、うまくいかなかった。
言葉にできない衝動に突き動かされ、彼女に会いに行くことを決意した。
「皇太后陛下に会わなければならない。」
フローレンスの皇太后と皇妃は西宮に住んでいる。
親しい間柄ではなかったが、皇后の身分として定期的に挨拶を交わすのは皇宮の礼儀の一環だった。
西宮に赴いたのは、偽ベロニカの会議を祝うために訪れた教会関係者の一行だった。
「陛下、おめでとうございます。」
「皇室の栄光でございます。」
「・・・」
遠慮がちに聞こえる貴族たちの祝辞に、シアンの表情がこわばった。
表向き彼女は大公の公女であり、その名前はベロニカという事実が胸に突き刺さる。
「へ、陛下。」
応接室で貴族たちの祝辞を受けていた偽ベロニカが、シアンが近くに来たという知らせを聞いて慌てて飛び出してきた。
「・・・!」
シアンの体が動揺でわずかに震えた。
少し落ち着け。
これで全てが壊れてしまったらどうする?
平常心を失わないのが彼の信条だったが、この場ではそれを維持するのが難しかった。
口の中でつぶやかれる言葉は、喉に刺さる棘のようだった。
シアンの指がピクリと動く。
だが、彼は彼女に向けて伸ばしかけた手をそっと下ろした。
周囲の視線が多すぎて、自分の感情を露わにすることができなかった。
「客が多いな。」
「はい? ああ、知らせを聞いてお祝いに・・・」
彼女の言葉が途切れると、シアンは周囲を見渡しながら冷静な声で言った。
「礼儀がなっていないな。皇妃と胎児の安定を考えるなら、このように無分別に振る舞うべきではなかった。」
「申し訳ありません、陛下。」
「これで失礼します。」
シアンの冷ややかな指摘に、貴族たちは一礼してその場を立ち去る。
ほとんどがベロニカに良い印象を与えようとする中小貴族たちだったが、追い払うような者たちもいなかった。
最後の一人まで見送り、ようやく彼女と向き合うことができた。
「疲れているようだな。」
「いいえ、陛下。」
「休め。」
シアンは簡潔に言葉を残し、体を翻した。
過ぎ去る彼女の顔には鋭い感情が一瞬浮かんだが、どうすることもできなかった。
調べたところによると、妊娠初期には何よりも安静が重要だという。
また、多くの人と接触すること自体が病気にかかる可能性を高めるため、最大限避けるのが良かった。
だからこそ、彼らを追い返した。
彼らの大半が本心で祝うためではなく、彼女に良い印象を与えようとやってきたのが分かったから、さらに近づけたくなかったのだ。
「陛下、本当なのですか?」
偽ベロニカの会合の知らせを聞いた途端、皇宮にやってきたリンド伯爵が執拗に問い詰めた。
「陛下がそんなことをするはずがありません。皇妃が外部の男性と接触したというのは確実です。そうではありませんか、陛下?」
「・・・。」
「何かおっしゃってください! 私が狂って真相を知りたがっているように見えますか? ねえ?」
リンド伯爵が怒りのあまりかすれた声で叫んだ。
沈黙の中で成り行きを見守っていたシアンが、口をわずかに開いた。
「私の子だ。」
「・・・!」
現実を否定し続けていたリンド伯爵は、その衝撃に耐えきれずにふらつく。
「伯爵。」
「どうしてそんな無責任なことが言えるんですか? 私の娘ですよ。セシリアのためであっても、それは許されるべきことではないのでは?」
リンド伯爵の最後の言葉は、涙に濡れていた。
その心情を理解したシアンは、簡単には言葉を返せなかった。
「皇后を忘れたことは一度もない。」
「この状況でその言葉を信じろと言うのですか?」
「信じる信じないはあなたの自由だ。だが、あなたの目に私の誓いを刻みつけておけ。必ず復讐すると。大公家をこの帝国から根絶やしにする。」
シアンは大公家と同じ空の下で生き続けるつもりなどなかった。
セシリアの魂を慰めるためにでも、あまりにも大切だった彼女とその子供を守るためにも。
そのような真心がリンド伯爵に伝わったのだろうか。
裏切りへの怒りに震えていた彼の怒りが少しだけ和らいだ。
「そうだとしても、陛下に失望したという事実は変わりません。」
リンド伯爵は体を翻して大広間を出て行く。
嵐が過ぎ去ってようやく一人残されたシアンの表情は暗かった。
リンド伯爵をなんとか落ち着かせたものの、他の皇室派の貴族たちはそう簡単にはいかなかった。
ベロニカが大逆者であることを知らない彼らは、シアンの改革意志に疑いを持たざるを得ない。
彼らを説得するには、困難な道を歩むしかない。
「この状況下でも幸運だと思うとは。私は本当に狂ってしまったな。」
シアンの固く結ばれていた唇に、かすかな笑みが浮かんだ。
「失望したのだから、大公家も一緒に滅ぼそうとしないはずがない。」
この状況でも偽ベロニカを心配する自分が情けなく、ため息をつきつつも、彼女の内にある母性に抗うことはできなかった。
それが腹の中の胎児ほどには確かだとしても、大公であろうとどうすることもできなかった。
出産時期などの問題で、ベロニカの復帰が延期される可能性は高かった。
腹の中の胎児がすでに彼女を守る安全装置のようなものだ。
夜が更ける中、シアンは皇妃の寝室を訪れた。
デンが夜勤を担当している侍女と騎士の視線を一時的にそらすのは難しいように思えた。
「・・・。」
そっと近づいたシアンは眠る彼女の顔を見つめる。
今日の一日は苦しいものだったのだろうか。それとも昼間の出来事で心に傷を負ったのだろうか。
彼女は眠りながらもどこか哀しげな表情を浮かべていた。
その様子を見て、シアンの胸は痛み、温かい言葉をかけてやりたいという気持ちで満たされた。
シアンは手を伸ばし、彼女の顔をそっと撫でる。
眠りの中で目覚めることもなく、その手の動きは優しく慎重だった。
「これしかできない自分を許してほしい。」
シアンは最大の毅然さを装いながらも、悲しみを含んだ口調で囁いた。
「そうしなければ君を守ることができないんだ。」
彼女に傷を与えると分かっていながら、それ以外の選択肢がなかった。
その理由は、いつか玉座に戻ってくるであろうベロニカから彼女を守るためだった。
「失念していた。我々には子どもがいるのに。」
一方で、皇権を強化するために皇帝としての義務と責任に追われていた。
しかし、これは違う。
シアンは大切なものを守るためには、命を賭けてでも成功させなければならないと強く決意していた。
彼女と子どもを大公から守るために。
シアンは会議の知らせを受けた後、一度も彼女を訪ねることはなかった。
偽のベロニカが定期的にシアンを訪問していたが、忙しいという口実で送り返した。
また、宮殿内の公式行事にも一緒に参加することはなく、胎児と産後の健康に良くないという理由で遠ざけていた。
シアンにとって、それは避けられない選択。
宮殿内には見張る目が多く、聞く耳も多い。
シアンの些細な動向が貴族たちの間で話題になり、シアンは親皇派である貴族たちの動きを警戒せざるを得なかった。
そんな二人が公式に会えるのは、二か月に一度のガイア教団の使者の訪問日だけ。
ガイア教団は皇室の後継者が生まれるたびに、その健やかな成長を祝福する儀式を行っており、シアンと彼女の子どもも例外ではなかった。
「陛下と皇妃様には、ぜひとも手を取り合っていただけますように。」
シアンはしぶしぶながら、彼女の手をしっかりと握る。
その手はあまりにも冷たく、思わず心配してしまうほどだった。
偽のベロニカは目を固く閉じ、ひたむきに祈っていた。
彼女の切実な態度から、彼女がどれほどお腹の中の子供のために心を尽くしているかが、はっきりと分かった。
シアンはそんな彼女をそっと目に収める。
彼女と共に過ごせるこの時間が、シアンにとって唯一の安らぎだった。
「もう目を開けてください。」
祈りを終えた彼女が目を開くと、最初から彼女だけを見つめていたシアンと視線がぶつかった。
そして、彼女はいつものぎこちない笑みをシアンに向けた。
シアンはその視線を避けた。
平然としているようで、彼女の切ない表情を見たシアンの心はまるで針で刺されるように痛んだ。
彼女への想いを隠そうとして外面を装い、それでも足りず彼女に傷を与えることがどれほど辛いことかを知っていた。
むしろ自分自身を傷つけて彼女を守れるのなら、その方がどれほど良いかと思うほどだった。
シアンは歯を食いしばり、じっと耐える。
もう時間が残されていなかった。
彼女のお腹はどんどん大きくなり、出産の日が近づいていた。
シアンは彼女と子どもを皇宮の外へ逃がす計画を立てていた。
すでに脱出用の馬車から隠れ家までの準備を整えていた。
皇宮近衛隊を改革し、皇権の強化に成功すれば、後に彼女と子どもをどこへでも連れて行けるだろう。
彼女と子どもを守るために、シアンは日々を耐え忍んでいた。
体は壊れるほど苦しい日々だったが、彼にとってはそれが大した問題ではなかった。
腹をくくり、最初からすべてを投げ出す覚悟があったからだ。
だが、人の運命とは予測不可能なものだった。
予定されていた出産日よりも7週間も早く、彼女に陣痛が訪れ始めたのだ。
早産だった。