こんにちは、ピッコです。
「愛され末っ子は初めてで」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

90話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 第17皇子ラミエル
ラミエルの挨拶が終わるとすぐに、帝国の皇室近衛騎士団はすばやく後退した。
「パルン山の国王陛下が、私たちをとても急かしておられるとのことで、申し訳ありませんが、失礼いたします。」
「どうか無礼をお許しください。聖女様ならば、きっとご理解いただけると信じております。」
「皇帝陛下の親書を届けるというのが、そんなに急を要することなのか。」
彼ら(帝国騎士たち)は私や両親に対しても、それほど丁寧な態度を見せなかった。
『あいつら、帝国の騎士ってやつでしょ?』
皇子を私の婚約者として送り出すという状況にもかかわらず、彼らの鼻っ柱の強さは全く衰える様子がなかった。
『こういう時こそ、お兄ちゃんが何も知らないふりして一発かましてくれたらいいのに。』
まさか帝国の騎士たちってだけでビビってるわけじゃないよね?
帝国って、王族だろうと関係なく、騎士は自分の部下だと単純に思えばいいのに。
その方がずっと楽なのに。
『信じるべきは、人間を信じることだよね。』
まあ、そんな話を信じなくても方法はいくらでもあった。
ラミエルが両親に挨拶をしている間に、彼らの言葉をさりげなく、いや、情報収集として聞いていたのだから。
『せっかく王国に来たんだから、楽しまなきゃな。帝国ほどじゃないけどさ。』
『こんな未開の土地に見るものなんてあるわけないだろ。主神?主神が遣わした聖女?本当に笑えるやつらだよな。』
『あの庶子を皇子だなんて、従者にするんだってさ。誰が聖女じゃないかって疑ってるからだろ、明らかに。』
『気分が悪くなって最悪。あんなところでまともに時間なんて過ごせるわけが――』
『ちょ、口開けてぽかんとしてたら、この後継任務に巻き込まれたの、忘れたの?』
『あちゃー、そうだった。』
本当に耳がふさがるかと思った。
しかも、これを”策”だって?本気?
『国王だけじゃなく、両親や他の貴族たちまで、そんなに甘く見てると思ってるの?』
あんたたちの企みがあるって、こっちだってちゃんと見抜いてて、それに対する対策も立ててあるのよ。
国王があんなに無能で、あっさり退位しても国がうまく回ると思ってるの?
そんなふうに甘く考えてることに腹が立った。
もしこれが私の運命だったら、ただ受け入れて従うと思ってること自体が悔しくて、そして、そんな彼らの姿を目にした瞬間、あまりにも腹が立ってたまらなかった。
『帝国の首都にでもメテオを落としてあげようかな。』
滅亡の際に現れるというタイプには私はあまり関わらない主義だけど、あんなやつを見ると一気に整理してやりたくなる。
でもあいつ、自分が被害者ぶってるんじゃない?
いや、分かってるよ。私はずっと知っていたから。
『どれだけ取り繕っても、誤魔化すことはできなかったもの。』
あんなふうに育てば、感覚だけは無駄に鋭くなるものよ。
誰が自分を嫌ってるのか、憎んでるのか、人が自分をどう思っているのか――ポジティブな感情は心で受け止められず、理解もできないのに、ネガティブな感情だけは異様に鋭く察知してしまう。
私がそんな感情を決して表に出さないようにしているのと同じように。
『そうしないと生き残れないから。』
ただの怠け者の子どもがふらふらしているだけだと思っていたのに。
両親も私も、帝国が“側室のような扱い”で送り込んできた時点で、ある程度は切り捨て要員だろうと予想していた。
それでも、外向けには堂々としている子どもだと思っていたのに、そんな素振りはまるでなかった。
『本当に、本当にひどすぎる。』
子どもは何の心配もなく幸せでいるべきなのに、足りないくらいだよ!
顔も見たことない帝国の皇子が、私はますます嫌いになった。
しかも皇子が偉そうにしているわけでもなく、ただぽつんと取り残されていたというのに。
まるで何も感じていないかのように、気配を気にする素振りすらなかった。
もうそんな周囲の空気を読む段階もとうに過ぎたようだった。
だから本当に、本当に私にとってはとても慣れない行動だったけれど――
「こんにちは?」
誰にでも優しいお姉さんのように、先に声をかけた。
「ご、ごきげんよう、聖女様。」
すると皇子はとても慌てた様子で、その場で体を折ってお辞儀をしようとした。
いったい誰がこんなおかしな礼儀を教え込んだのよ!
たしかに私は“聖女”という称号をもらっているけれど、この子は帝国の皇子で、私は王国の公爵家の令嬢なのよ?
いや、それにしても、たかが5歳の子どもたちなのだから、身分なんてちょっと無視して生きてもよかったはず。
ラウレンシアお姉ちゃんだって、人目がないときは侍女たちと本当に仲良くしてるのに!
「私はアナスタシアよ。」
「え?」
「お母さんが“友達が来る”って言ってたけど、友達じゃないの?」
すると、それまでずっと恐れと怯え以外の感情を見せなかった子が、初めて戸惑いを表した。
あまりにも日常的で平凡な言葉に、ぴしっと張り詰めていた緊張と防御の壁がぐらりと揺れたのがわかった。
もし間違えたら、失敗して何か失うかもしれないと不安だったのだろう。
私は混乱する気持ちのまま、その子の手をぎゅっと握った。
お姉ちゃんが言ってた。
「名前を知って、挨拶もして、手も握ったんだから、もう友だちだよ。」
そして、互いに笑えばいい友だちになれるんだって。
・
・
・
もちろん、ラミエルはその日すぐに笑えはしなかった。
いや、まだ過剰なくらいの礼儀作法も捨てきれずにいた。
『わかるよ。』
私も、家族に対してでさえ、最低限の境界線しか解かなかったから。
それに、もう6ヶ月も一緒に過ごしていたのだから。
闇の中で生きてきた人が、光の中にぽつんと投げ込まれても、かえって信じがたいことだった。
わずか5歳とはいえ、その感覚を身につけるには十分な時間だった。
しかも、「皇子」として教育を受けさせられたのか、言葉こそ少しつかえたが、礼儀作法はきちんと身についていた。
もっとも、それは皇子としての作法ではなく、使用人としての礼儀だったが。
『帝国第17皇子という肩書きそのものが、なんだかとても力なく感じられる。』
チョコが調べたところによると、ラミエルの母親は身分の低い女性だったという。
皇帝とたった一晩を過ごして子どもを授かったその女性は、子どもを産んだ直後に亡くなったそうだ。
『ほんとに、私の話じゃないみたい。』
かろうじて月満ちて生まれたその子は、本当にやっとのことで生き延びた。
母親もおらず、外戚(親戚)すらいない子どもだったが、皮肉にも帝国皇族の特徴を最も濃く受け継いでいた。
銀髪にくっきりとした金色の瞳。
それだけで正当な血筋だと示せるはずだった。
なのに帝国皇帝は、そんな息子を前にこんなことまで言ったのだという。
『ジンボよりも、先々代の皇帝フェハルにそっくりだな!帝国史上もっとも偉大だと言われるあの方に似ているとは。はははは。』
面倒をみるつもりもないくせに、せめて口先だけでもフォローしてやればいいのに。
そのうえ、ラミエルは強い後ろ盾を持つ兄たちから、何度も命の危険にさらされてきた。
『どうやって生き延びてきたのよ、あの子……』
私みたいに魔法で逃げることもできなかったはず。
でも、ただの平凡な皇子ではないようだった。
ラミエルと手を握った瞬間、特別な力があるわけじゃなかったけど、おだやかな羊のような性質がにじみ出てくるのを感じたから。
『ま、帝国では誰も知らなかっただろうけど。』
帝国はパルサンとは違い、聖国や神殿を信奉する傾向があった。
信仰のある国民がいるから、完全には無視できなかったが、少なくとも騎士職以上の人間たちは皆、狂信的なほどに“神の使い”に取り憑かれていた。
この前来た騎士たちも、まさにそんな感じだった。
『私もサイビーみたいだって言われたけど。』
強制的に所属させられてそう言われたせいか、誰かが侮辱しているのを聞くとちょっと気分が悪くなるね。
でも、何にせよラミエルにとってこの王国行きは悪い選択ではなかった。
少なくとも繰り返されていた命の危機からは逃れられるのだから。
『いくら心の狭い人間でも、公爵家に刺客を送ることはできないでしょう。』
もし本当にそんなことをしたら、それこそ国際問題になっていたはずだ。
パルン山一の武人であり、戦場の光と呼ばれる母、そしてその母に劣らぬ父が守る家なのだから。
『だから私は、あの子に子どもらしい時間を与えてあげたいの。』
私が家族から受けたように。
私は今まで何百回も人生を繰り返してきたけれど、あの子にとっては今回が唯一の人生なのだから、なおさら。








