こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

29話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最初の協力⑤
リンは分かっていた。
ロマンとキャロンが、自分の弁明を信じないだろうということを。
ヤナは誰が見ても不自然なほど変わっていた。
第二小家の夫婦も、そんなヤナにようやく違和感を覚え始めたに違いない。
だからといって、彼らにじっくり探索する時間を与えるつもりはなかった。
この不確実性を利用しなければならなかった。
ちょうど昨日、マリウスの足を怪我させた偶然の出来事が、ヤナの性格が変わったと錯覚させる助けになったのだ。
彼らが呼び寄せたスミスの証言も、予想を確信へと変えるには大きな助けにはならなかった。
『だから、私が計画的に物を隠しておいて誤魔化そうなんて考えてなかっただろう。』
まだ14歳、感情に振り回される未熟な年頃。
リンは、ただ大人たちの焦った気持ちを逆手に取っただけだった。
油断した彼らを相手にできる、たった一度きりの機会。
このチャンスを通してリンが得ようとしたものは──
「ごめんなさい、ニナベルお姉さん。ヤナが姉さんの彫像をちゃんと管理できなかったんです……でも私は絶対、姉さんのものを渡してなんかいません!」
ニナベルは不安な顔でキャロンの顔を見上げただけで、何も言えなかった。
「それから、チェフ?持ってきてくれてありがとう。おかげで誤解が解けたよ。」
「むしろこっちがごめんね。本当は今日、案内しようと思ってたのに、私が遅れたせいで迷惑かけたみたい。でも君は、何も悪くない。」
「……うん?」
普段聞かれない質問だったので一瞬戸惑ったが、ヤナはすぐに平静を取り戻して笑顔を作った。
第三次ごめんなさい病が発動していたが、これくらいなら大丈夫だ。
「そうだね。」
「あなたのおかげでたくさん学んでいるよ。トゥスレナは何かと特別な気がする。」
『感謝はいいから、早く次の本題に移って。』
二人の計画によれば、次は重要な話題に進まなければならなかった。
本来ならそうするべきだったのに……。
「そうですよね、お母様?」
まさか、自分が一族唯一の小家主として登場するとは思わなかった。
「あなたが小家主?」
「お前の後継者がこんな些細なことで……」
皆の視線が応接室に入ってきた第三の人物へと向いた。
高く結い上げた栗色の髪。
無人種特有の滑らかな肌と、細身の乗馬服に包まれた気品ある体躯。
アウクス・ネーガ。
チェフの親族であり、次代の後継者として確定した女性の登場だった。
無表情な目で応接室を見渡したアウクス・ネーガは、冷たい口調でこう答えた。
「正義の象徴を名乗る者は、その重さを理解しなければならない。後継者を厳しく教育するのは当然の美徳だ、チェフ。もっとも、今はそんな空気でもなさそうだけれど。」
問題なのは、この状況すら彼らの計画にはなかった、という点だった。
『チェフ、この子はどこまで勝手に動くつもりなんだ?』
もちろんリンも、何の情報もないままチェフに協力したわけではなかった。
昨日の夜、リンはオルガを通じて「チェフとネーガ家門の小家主」に関するより正確な情報を入手していた。
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「ネーガ家門の小家主はたった一人で、その小家主の下にもチェフ様直属の部下が一人だけだと聞きました。」
「それだけ?」
「はい。大家主の下で権力が適切に分配されているトゥスレナとは違って、ネーガ家門の後継権力は一か所に集中していて、さらに強力だそうです……。ええと、私の学びが足りなくて詳しくは分かりませんが。小家主は意志が強くて少し怖い印象らしいですが、坊ちゃまはあまり気に入っていなかったようです。」
「ふむ、できるだけ君の後見人とは摩擦を避けた方がいいだろう。」
「でも、なぜ今さらこの情報を?まさか、あの坊ちゃまを誘惑するつもりなんですか?そうするしかないですよね?お嬢様もそう思ってるんでしょう?ニナベルお嬢様より可愛いから可能性ありますよ!」
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ネズミが猫を心配するような態度。
『……チェフは冗談めかしていたが、あながち間違いではない。』
実際、チェフが言葉を飲み込むと、スミスやルーセンら衛兵たちも一言も反論できずにいた。
そこに君の後見人まで巻き込んで、ここまで熱心に庇ってくれるとは。
助けてもらう代償として、どんな要求をされるか、少し怖くなってきた。
『でも、あの人は……どうして私をこんなに気にするんだろう……』
無人の殺気。
その刺すような雰囲気に体が無意識に震えた。
『私生児のくせにチェフと仲良しだって?それとも、自分の息子を利用して利益を得ようって魂胆か?』
どちらが正解かは分からないが、どちらにせよ事実には違いなかった。
「申し訳ありません、トゥスレナ大家主様。うちのチェフが呼ばれたので、どんな用件か知りたくてついてきただけでした。まさかこんな事態に巻き込まれるとは思いませんでした。」
「……謝るべきなのはこちらだな、アウクス小家主。誇れるわけでもない家臣の息子を、二度も面倒に巻き込んでしまった。」
「どうかお気になさらないでください。私の息子はそんな浅はかな子ではありません。きっと彼なりの理由があったのでしょう。」
アウクスはロマンやキャロンとは目も合わせず、ただ大家主とだけ言葉を交わした。
「お父様。遺失物も見つかったことですし……」
ロマンが警備部の業務を締めようとした瞬間、大公が声を荒げた。
「恥ずかしくないのか、ロマン!ろくに状況も確認せず、教師という立場の者に先導されてヤナを追い詰めるとは!」
顔をこわばらせたロマンが、押し殺した声で答えた。
「確認しなかったわけではありません、父上。ただ、池の水を汲み上げて調べることもできず、ノロットはあくまで証言のみで、ニナベルに間違いないと……!」
その時、キャロンがロマンの言葉を遮った。
「いいえ!申し訳ありません、大公様。私たちの過ちです。」
ロマンはキャロンの行動に不満を感じたが、押し殺したため息だけをつき、何も言わなかった。
リンのもとへ急いで駆け寄るキャロンは小さく細い両手をぎゅっと握りしめ、ヤナは申し訳なさそうに身じろぎした。
「あなたにも謝らないとね、ヤナ。やっぱりあなたがそんなことをするわけない。ルーセン先生の教育法を無条件に信じた私が浅はかだった。どうかこの無神経な乳母を許しておくれ。」
しかし、間違いを責めるこの乳母の手の力は容赦なく強かった。
『そうだね、ちょっと怒ったかも。』
一生人形のように優しくしてきた乳母がこんな態度をとったのだから。
でも、ヤナはそのことを責めるつもりはなかった。
彼女は優しく微笑んだ。
「はい、乳母さま。ヤナは大丈夫です。ニナベルお姉さまは、もともと子どもみたいに意地悪なところが少しありますよね。でも、手をもう少し緩めてくれませんか?すごく痛いです。」
ニナベルは、血が出るほど強く自分の唇を噛みしめていた。
「ああ、そうだな。あまりに慌てて、俺もどうしていいか分からなかった……」
間違いを認めてこの場を収めようとしているようだ。
だが、それでは駄目だった。
最初からリンが手にしていた本当の品は、彫像などではなかったのだ。
キャロンが注視している今がチャンスだ。
チェフは自分から話を切り出す様子がなかったので、リンが先に彼が持っていた箱を指差して訊ねた。
「あ、そうだ!チェフ、昨日あげたクッキー、食べた?」
空気を読めないのか、それとも純粋に喜んでいるだけなのか、にこにこ笑ったチェフが箱を開け始めた。
「今食べてみるよ。たぶん傷んでないだろう?」
「うん、作ってそんなに経ってないから大丈夫だよ。匂いもいいし、正直、全部ひとりで食べたかったんだけど、特別に君にだけあげたんだ。私が好きなチョコチップ入りクッキーだから、少し残念……。」
「ちょっと待った!」
捕まった。
「ヤナ、さっき何のクッキーって言った?どこで手に入れたクッキーだって?」
駆け寄ったキャロンが、リンの両肩をがっしりとつかみ、平静を失った顔で問い詰めた。
リンは無邪気な顔で答えた。
「少し前に私の侍女が持ってきてくれたおやつです。チョコチップ入りのクッキーで、美味しかったのでチェフにも……。」
「無神経にもほどがある!古くなったクッキーかもしれないじゃないか?何か問題があるかもしれないのにプレゼントするなんて!」
「え?でも私、もういくつか食べたんですよ?」
「どこが嘘なのよ!」
嘘ではなかった。
リンは確かにチョコチップクッキーを二つ拾い食いした記憶がある。
こっそり食べたおかげで、お腹を壊さずに済んだだけだ。
そんなリンを、チェフが軽くどついた。
「僕は大丈夫です、旦那様。ヤナがあんなに褒めるなら、一度は味見してみたくなりますよ」
「もう、だいぶ湿気ってしまっただろうがな、チェフ。今度同じレシピでまた作ってやるから、それで我慢しろ」
「チェフがいいって言ってるのに、なんでそんなに気にするんですか、奥様?今日の奥様、ちょっと変ですよ」
この一言が、時に強力な魔法になる。
強く不安を煽る行動は、疑われるほど異様な行動と見なされるからだ。
キャロンの目がわずかに動揺した。
「……変なことじゃなくて、心配してるだけだよ。チェフは私たちの家門のお客様なんだ。たとえ少しでも古い食べ物を食べて、体調を崩したらどうするんだ?」
平静を取り戻した彼女がチェフをかばいながら言った瞬間、リンはチェフが持っていた箱を開けて、チョコチップクッキーをひょいと取り出して食べた。
「美味しいですよ、奥様。だから新しく作る必要はないと思います。」
天真爛漫な言葉を口にする二度目。
もうすぐ腹痛が来るかもしれない。
「叱られるのも終わったし、チェフと一緒に戻ってもいいですか?」
困惑した顔でヤナを見たキャロンは反射的に答えた。
「そうだな、戻っ……てもいい。」
でも、何かが引っかかる。
『……ふう。』
予想していたよりも早く、胃が焼けるように痛み始めた。
『さっき飲み込んだばかりなのに、こんなにすぐ反応が出るって?』
まさか、これまでの「ごめんなさい」三連発のせいで、今体に毒が回ったってこと?
今までの謝罪が、毒入り小麦粉団子でも体内に押し込んだかのような結果をもたらしたっていうのか?
「……ヤナ?どうしたの?」
お願いだから。
どれだけ体が弱っていたら、毎回こんな予想外のことが起きるんだ?
気持ち悪さに耐えようと必死で呼吸を整えた。
寝室へ戻ろうと、ゆっくり歩を進めるが、一歩踏み出すたびに脳が痺れるような感覚に襲われる。
そのとき。
柔らかな温もりがヤナをそっと包みながら問いかけた。
「……大丈夫?」
チェフだった。
リンの顔色を素早く読み取った紫色の瞳、そして絶対に箱を手放さない手が視界に入ったとき、今にも吐きそうだった吐き気が少しずつおさまっていくのを感じた。
代わりに、全身の力が抜け始めた。
『シー……ロマン……混乱しているところを見なきゃいけないのに……』
その願いが叶わないまま、意識は次第に遠のいていった。
四回目の失神だった。











