こんにちは、ピッコです。
「シンデレラを大切に育てました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
221話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 絵のモデル
いつの間にか空は薄暗くなっていた。
作業部屋の中を見回していたエナがランプに火を灯すのも知らず、絵に没頭していたリリーは、しばらくキャンバスを見つめたままため息をついた。
何が問題なのだろう。
真剣な表情で絵を見守るリリーを見ていたダグラスは、そのため息に自分まで無意識に緊張してしまった。
だが次の瞬間、リリーは筆を置き、口を開いた。
「お疲れさまでした。」
終わりなのか?
ダグラスはぎこちなく席を立ちながら、今日の作業を始めるときにリリーが言っていた言葉を思い出した。
今日で肖像画が完成するだろう、と彼女は言っていた。
今日で終わりなのだろうか。
それはあまりにも名残惜しい。
ダグラスはジャケットを脱ぎながら、リリーの元へ歩み寄った。
「終わりですか?」
「ええ。もうケイシー卿がやることはありません。」
最後にもう少し手直しは必要だが、これ以上ダグラスがモデルを務める必要はないという言葉に、ダグラスの顔は曇った。
ということは、もうリリーと定期的に二人きりで過ごせる時間がなくなるということだ。
彼はリリーに、肖像画が完成しても訪ねてきて話をしてもよいか尋ねてみようかと迷った。
だがリリーはきっと「何のために?」と言うに違いないと思えた。
しかしそのとき、リリーが彼を見つめながら尋ねた。
「ご覧になりますか?」
「見てもいいのですか?」
スケッチ作業をしていた初めの頃、ダグラスも好奇心から何度か見ようとしたが、リリーが恥ずかしがって見せなかった。
今回、リリーはダグラスのために絵の前から少し身を引きながら言った。
「ほとんど完成しましたから。本来は依頼人が途中で見ながら確認するそうですけど。」
しかしリリーにとって、本格的な肖像画を描くのは今回が初めてで、しかも相手が彼女にとって弱みのあるダグラスだったため、彼の確認なしに絵を完成させることができた。
もちろん、この絵を無償で描いてあげたこともあった。
「ああ、そうでした。初めの頃、服を何度か着替えながら描いたり、色を指定したりもしますね。」
ダグラスはそう言いながら、リリーのそばへ歩み寄った。
どんな服が絵として最も映えるかを考え、服を着替えてスケッチをしたり、場所を変えたり、小道具を使ったりもする。
しかし、リリーはシンプルだった。
彼女はダグラスがきちんと服を着ていればそれで十分だと言い、場所も彼女の作業室だけで、小道具も背もたれのない椅子がひとつあるだけ。
そしてそれはダグラスの性格にも合っていた。
彼がリリーのそばへ近づくと、ふわっとオイルの匂いが漂った。
しかしすぐに、やわらかく爽やかなリリーの香りがその後を追った。
ダグラスはリリーが不快に感じない程度までだけ近づき、キャンバスに視線を移した。
「これですか?」
ダグラスは、絵の中に描かれた自分そっくりのハンサムな男を見て、思わず驚いて尋ねた。
彼の赤い髪と対照的な濃い緑色の椅子、そして彼が着ているジャケットのおかげで、色のコントラストが際立っていた。
「はい。違うと思いますか?」
リリーは、ダグラスの驚いた反応に不安な表情を浮かべて尋ねた。
違うと思う?
彼女はそっくりに描いたつもりだった。
しかしダグラスの反応を見て、気に入らなかったのではないかと心配になった。
だがそうではなかった。
ダグラスは口を固く閉じ、キャンバスの中の自分をじっと見つめたあと、顔を近づけて細部まで観察した。
そして今回は一歩下がって全体を確認したあと、リリーに言った。
「少し良すぎるくらいに描いてくださったのでは?」
その瞬間、リリーの顔がぱっと赤くなった。
良すぎるくらい?
彼女はもう一度絵を見てから、再びダグラスの顔を見つめた。
そして目をぱちぱちさせながら言った。
「そっくりに描いたんですが?」
今度はダグラスの眉が上がった。
彼はリリーを見てから再び絵に視線を戻した。
自分ってこんなにハンサムだったか?
どこへ行っても「不細工だ」と言われたことはない。
もちろんケイシー家の後継者を誰があえて「不細工」と言うだろうか。
しかし、大して「ハンサムだ」と言われたこともなかった。
彼に「ハンサム」と言う人たちは皆、親戚か、女性たちの「素敵」という言葉もただの社交辞令だと思っていた。
ダグラスは、リリーが自分をこんなにもハンサムに描いたという事実に戸惑い、呆然と絵を見つめていた。
もしかして、リリーも自分に好意があるのだろうか?
そんな希望がダグラスの心に芽生えた。
彼はまだ顔を赤くしたまま絵を見つめるリリーをじっと見た。
「もしかして、別の絵でもモデルが必要ですか?」
リリーの瞳が揺れた。
彼女もダグラスの肖像画を描きながら、もっと彼をモデルに描いてみたいと思っていたのだ。
こうした正装姿だけでなく、シャツだけを着ている姿や、本を読んでいる姿も描きたかった。
しかし、そんなことをダグラスに頼んでいいのか分からず、諦めかけていたところだった。
「必要ないなら……」
リリーが何も言わずにいると、気まずくなったダグラスが「それでは戻ります」と言おうとした瞬間、リリーは叫ぶように答えた。
「必要です!」
驚いたダグラスは思わず後ろによろめき、リリーが座っていた絵描き用の椅子につまづきそうになった。
幸い、その椅子が大きな音を立てて床に倒れる前にそれをつかむことができた。
「えっ、ひ、必要だとおっしゃるんですか?」
リリーが座っていた椅子を持ち上げたまま、ダグラスが尋ねた。
今、自分は夢を見ているのだろうか?
呆然とした表情のダグラスに、リリーがそっと近づき、再び言った。
「はい。モデルが必要なんです。」
「じゃあ、その……私がそのモデルになってもいいですか?」
信じられない提案に、リリーの口がぽかんと開いた。
ダグラス・ケイシー卿が絵のモデルになってくれるって?
彼女は、自分のもとに舞い降りた奇跡をどう受け止めればよいのかわからず、固い表情で立ち尽くしていた。
そのとき、ふと頭に浮かんだのはモデル料のことだった。
画家たちは絵のモデルになってくれる人にモデル料を支払う。
美しい体を持っているか、難しいポーズを長時間保てるモデルは、より高い報酬を受け取ることができる。
しかし、ダグラスは貴族ではない。
彼にモデルを頼む代わりにお金を渡す、というわけにもいかなかった。
そこまで考えたリリーは、ダグラスに尋ねた。
「ケイシーさん、モデル料はどうなさいますか?お金はお支払いできませんが……」
当然のように、ダグラスは何も受け取るつもりはないと言おうとしたが、ふとある考えが浮かび、口をつぐんだ。
彼は、リリーと決まった時間を共に過ごせるだけで、すでに満足していた。
だが、モデルになる代わりに何かを求めるとしたら――
「名前を呼んでください」
「……名前を?」
「それをモデル料ということにしましょう」
リリーの口がぱっと開いた。
モデル料の代わりに自分の名前を呼んでほしいという提案に、彼女は「それは駄目です」と言おうとしたが、慎重に尋ねた。
「他のことは、しませんよね?」
「はい。名前を呼ぶことだけにします。」
リリーの瞳が揺れた。
名前を呼ぶ程度なら構わないという気持ちと、これからこうして一つずつ要求されたらどうしようという気持ちが、彼女の中で激しくぶつかり合った。
しかしやはり、ダグラスを描きたいという欲求が勝った。
端正な肖像画ではなく、ゆるやかに崩れた姿や、乱れた表情も描いてみたかったのだ。
「いいですよ、ケ……じゃなくて、ダグラス。」
ひどく長く感じられた時間が流れ、リリーが答えると、ダグラスは自分でも気づかぬうちに大きく息を吐いた。
そして、彼の頭の中にリリーが自分の名前を呼んだという喜びが、じわじわと広がり始めた。
しかし次の瞬間、リリーが再び口を開いた。
「じゃあ、今度あなたが剣の訓練をするときに呼んでください」
「え?いつですか?」
「訓練のときです。剣を振るうところをクロッキーしたいんです」
意外なことに、ダグラスはリリーの言葉の半分しか理解できなかった。
剣を振るうときに呼ぶ、という意味はわかったが、なぜ呼ぶ必要があるのか、そもそもクロッキーが何なのかも知らなかった。
彼は呆けた表情を見せまいと努めながら、もう一度尋ねた。
「私が訓練するとき、何をなさりたいんですか?」
「描いてみたいんです。前から気になっていたので」
そう言って、嬉しそうなリリーは片方へ駆け寄り、自分のクロッキーブックを取り出した。
アシュリーを描いたものを見せながら言った。
「剣を振るう姿も、こんなふうに描いてみたいんです。」
ダグラスの視線がリリーのクロッキー帳に向けられた。
そこには、弓を持ったアシュリーの姿が、さまざまな角度や詳細で描かれていた。
彼女が何を言おうとしているのかは分かった。
しかし、弓を引くことと剣を振るうことは少し違うはずだ。
弓は一か所に立って呼吸を整えて放つ静的な動作であり、剣は絶えず脚を動かし続ける動的な動作だからだ。
そんなダグラスの指摘に、リリーはぱっと笑って答えた。
「だから描いてみたいんです。私はケイ……じゃなくて、ダグラスが剣を振るって体を動かす姿も描いてみたくて。」
ダグラスの目が細められた。
しかし、彼は何も言わなかった。
伝染病が収まり、人々の社交活動も活発になり始めた。
そんな中、真っ先に広まった話題は、城で数人の貴族に処罰が下されるだろうという噂だった。
「ヘンリー子爵?罪状は何です?」
夫の問いに、妻は小さな声で答えた。
「子爵のお母様がいるでしょう。そのお母様を粗末に扱ったそうですよ」
「ヘンリー子爵夫人のことですか?」
男は戸惑った表情を浮かべ、レジナという名と顔を思い出そうとしたが、すぐには浮かばなかった。
それほどまでに、彼女は社交界にほとんど顔を出していなかったのだ。
妻はそんな夫の様子に、「ほら見なさい」というような表情で、にっこり笑って言った。
「そうじゃなくても、みんな何も言わないから、どれほどひどかったのか分からないんです。意地悪な息子を三人も育てたのに、三人とも義母だと偉そうにして……罰を受けるべき連中です!」
息子が三人もいるのに、義母の面倒を見た人が一人もいなかったという言葉に、男の口がぽかんと開いた。
自尊心の強いレジーナ・ヘンリー子爵夫人は、誰の助けも受けず、静かに暮らしていたのだ。
男は、彼女の事情をどうやって国王が知ったのかも気になった。
「あなたの言う通りです。罰を受けなければなりません!いや、大きな罰を与えてほしいものです。」
夫の言葉に、夫人は微笑んだ。
そして夫の頬に口づけをし、ひとつ息をついた。
「だから皆、どんな罰を受けるのか気にしているんですよ。」
男もまた、ヘンリー子爵がどんな罰を受けるのか気になった。
義母を顧みなかった罪なら、大きめの罰金刑程度だろうか――彼は妻の頬に口づけしながら、そう考えた。
しかし二日後、ヘンリー子爵に下された処罰は、社交界をひっくり返すほどの衝撃を与えるものだった。
「爵位を剥奪すると?」
「正確に言えば、爵位を三男に譲ることになったのです」
ダニエルの落ち着いた説明に、ミルドレッドは目を丸くした。
義母を蔑ろにした罪で、国王はヘンリー子爵から爵位を取り上げたのだ。
そしてその爵位は、ただ一人義母に仕送りを続けていた三男に与えられた。
「そんなこと、許されるのですか?」
「もちろんです。歴史的にも前例がないわけではありませんから」
長男が軽率に反逆を企てたという理由で爵位が次男に渡ったこともある。
この場合に比べれば多少衝撃的ではあるが、不可能な話ではない。
「それ、かなり告訴できそうですが、誰も異議を唱えなかったんですか?」
ミルドレッドの質問に、ダニエルは机に身を乗り出した。
そこが面白いところだ。普通なら反発する者もいたはずだ。
義母を世話しなかったヘンリー子爵が非難されるのは当然だが、それだけで爵位を剥奪するのはやりすぎだという意見が国王の机の上にまで上がってきただろう。
しかし今は状況が少し変わっていた。
数週間前までは感染症が流行し、旱魃でビヌの木が枯れてしまい、既存のビヌ供給が不安定になっていた。
そんな状況でレジーナを追放するということは、彼女が感染症で死ぬか、飢えて死ぬかを意味していた。
望むところに爵位を与えるようなものだ。
「こんな状況で、誰がヘンリー子爵をかばえるでしょうか?」
ダニエルの言葉に、ミルドレッドは安堵の息を漏らした。
レジナのことを思えば、これは良い結果だ。
それに、レジナと似た境遇にいながら気づかれずにいた人々のことを思っても、そう感じられた。
国王はヘンリー子爵家の三男に爵位を授けるにあたり、その理由を明確に示した。
三人のうち、ただ一人、母親を気遣っていたのが彼だったからだ。
「皆、気を引き締めるでしょうね。親をきちんと世話しなければ、自分もあのような目に遭うかもしれないと、はっきり見せつけられたわけですから」
「しかも、その爵位は赤の他人ではなく、弟に与えられたのですから、結局は家門に戻ったわけですね」
「その通りです」
ミルドレッドの言葉に、ダニエルは微笑んだ。
ヘンリー子爵個人にとっては非常に重い罰だが、ヘンリー子爵家にとっては大きな損害ではない。
いずれにせよ、義母を虐待したのは事実であり、公式に叱責は受けたが、爵位は依然としてその家門のものだからだ。
「ですが今後、長男たちは独りになった母を虐待することはできません。」
「まあ、見てください、数十年のことです。」
世代が変われば記憶は薄れるものだ。
ため息をつくミルドレッドを見て、ダニエルはにっこり笑った。
彼は彼女に向かって冗談を交えながら、柔らかく囁いた。
「そうはならないでしょう。恩知らずな子がいつの時代にもいるように、兄の失脚を望む弟もまた、いつの時代にもいますから。」
恩知らずな者の弟が兄を敬うだろうか?
そんなことは絶対にない。
ダニエルの皮肉たっぷりな言葉に、ミルドレッドは思わず笑みをこぼした。
「世の中をより良くするのは、必ずしも良い感情だけではないということですよね?」
「嫉妬や憎しみも、人を成長させる原動力になりますから」
ダニエルはそう言って口を閉ざした。
彼は本心からそう思っている。
社会を動かすのは人々の感情であり、良い感情だからといって、必ずしも社会を良い方向に動かすとは限らない。
もっとも、ミルドレッドも同じ考えかどうかは分からない。
彼は少し躊躇いながら、彼女に尋ねた。
「もし、私の言葉でお気を悪くされたなら……」
「いいえ」
ミルドレッドはすぐに首を振り、彼の心配を打ち消した。
彼女もまた同じ考えだ。
嫉妬は、それが人を傷つけるためだけでない限り、素晴らしい原動力になり得るのだから。
ふと、ミルドレッドの頭に良い考えが浮かんだ。
彼女は腕を伸ばし、ダニエルの腰を引き寄せて抱きしめた。
そして胸に顔をうずめ、にっこり笑った。
「おかげで良い考えが浮かびました。ありがとう。」
「嫉妬や憎しみも人間の本能的な原動力だという部分のことですか?」
少し戸惑ったようなダニエルの反応に、ミルドレッドは背伸びをして彼の頬に唇を寄せた。
そして嬉しそうな声で言った。
「ええ。最近、一つ悩みがあったのですが、あなたのおかげで答えが浮かんだんです。」
ダニエルの目が細められた。
彼はミルドレッドの腰を抱き寄せ、自分の体にぴたりと押し付けた。
そして真剣な口調で言った。
「ミルドレッド、それをお話しくだされば、私が解決して差し上げたのに。」
その真剣な表情に、ミルドレッドは再び笑みをこぼした。
果たしてダニエルに解決できることなのだろうか?
彼女はそれが本当に可能かどうか一瞬考えた後、扇を閉じて言った。
「大丈夫です。城からいただけるという褒美を、何にしようか考えていたところなんです」
ダニエルの片眉が上がった。
確かに少し前、リアンが来て「城から褒美が授与される」と知らせてきたことは知っていた。
だがその後もミルドレッドが、何を望むべきかずっと悩んでいたとは思わなかった。
しかし考えてみれば、彼女が悩む理由は明白だ。
金は必要ない。
布を無償で配ったため多少の損はあったが、高級布を富裕層に高値で売ったおかげで大きな損失ではない。
この先も彼女の布の事業が続けば、損失はすぐに埋まり、彼女自身はもちろん、子どもたちまでお金の心配をせずに暮らしていけるだろう。
「何を望まれるおつもりですか?」
ダニエルはミルドレッドを抱き上げ、机の上に座らせられるように手助けしながら問いかけた。
そのおかげで、二人の視線の高さは近くなった。
「それが悩みだったんです。私はもう、特に必要なものはないと思っていたんですよ。」
ミルドレッドの言葉に、ダニエルの首が横に傾いた。
彼は彼女の体を自分の腕に引き寄せながら尋ねた。
「そうですか?」
「ええ。子供もいますし、お金に困っているわけでもない。家もあります。」
「ひとつ、足りないものがあるようですが。」
目を細めながら、ダニエルは暗に指摘した。
とぼけたふりをしていたミルドレッドだったが、その表情に耐えきれず声を上げて笑ってしまった。
そして、ダニエルの頬に口づけをしてから、彼が望んでいた答えを返した。
「ハンサムな婚約者も、いますしね。」
「もうすぐ夫になる婚約者ですよね。」
「ええ、もうすぐ夫になる婚約者ですよ。」
ミルドレッドの返答に、ダニエルの表情がやわらいだ。
彼はミルドレッドの手を取り、その甲に口づけを落とした。
「褒美には何を望まれるのですか?」
ダニエルの問いに、ミルドレッドの瞳が細められた。
まるで戦いに臨むような表情を浮かべながら、彼女は口を開いた。







