幼馴染が私を殺そうとしてきます

幼馴染が私を殺そうとしてきます【156話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【幼馴染が私を殺そうとしてきます】まとめ こんにちは、ピッコです。 「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

156話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 夜明けの誓い

二人の穏やかで甘美な時間は、夜明けの光が世界を白く染めるまで続いた。

オスカーは、腕の中で静かに眠るレリアの髪や衣服を慈しむように丁寧に整えてから、空間を渡ってシュペリオン城の彼女の部屋へと戻っていった。

誰もいないフレスベルグの隠れ塔とは違い、主の帰りを待っていたレリアの自室は完璧に整えられてはいたが、どこか決定的な物足りなさが漂っていた。夜の闇に紛れてこの部屋へ忍び込むたび、オスカーは「ここさえもすべて、自分だけの色彩で染め上げてしまいたい」という狂おしい衝動に駆られるのだった。

毛布を優しく引き上げながら、オスカーは眠るレリアをベッドの上にそっと横たえた。

冷えないようにと首元まで丁寧に毛布をかけてあげたその時、閉じていたレリアの睫毛が微かに揺れ、その瞼がゆっくりと開いた。

「オスカー……」

微かな、けれどどこまでも優しい声が彼の名を呼ぶ。

オスカーはあまりの愛おしさにしばらく言葉を失ったが、衝動を抑えきれず、吸い寄せられるように再びベッドへと上がった。ほんの少しだけ、彼女の隣に横になるつもりだった。本当に、ほんの一瞬だけ。

けれども、彼がベッドに身体を滑り込ませた途端、レリアは安心したように彼の広い胸の中へとそっと身を寄せた。まるで、ずっと前からそうしたかったかのように自然に。

その健気な感触に、オスカーは思わず息をのんだ。胸の奥をキリキリと締めつけるような切なさと、言葉にできない至高の幸福が入り混じった、あまりにも複雑な感情が彼を支配する。

「オスカー、あなたに……渡したいものがあるの」

ぼんやりと眠そうに目を瞬かせていたレリアが、ふと思いついたように身体を起こした。そして、ベッドの脇にあるサイドテーブルの引き出しから、ひとつの小さな物体を取り出した。

「これ、何?」

オスカーは、彼女の小さな手の中に収められた透明な薬瓶を見つめた。ラベルも何も貼られていない、中身のわからない奇妙な瓶だった。

レリアはすぐには答えられず、気まずそうにしばらく言葉を失ってしまう。

(……つまり、これは……)

なぜ、これほどまでに心臓が緊張で跳ね上がっているのだろう。

オスカーはそんなレリアの沈黙には目もくれず、ただ、不安げに小さく震える彼女の唇に心を奪われていた。

「これはね……あなたを決して一人にしないための、約束の薬だよ」

「……え?」

「実はね、ごめんなさい……これ、致死の毒薬なの。でも、それは──」

レリアは言い淀み、きゅっと口を閉ざした。

この世のどこを探しても、最愛の結婚相手にこんな不吉な薬を渡す人間など、自分以外にいないだろう。深い後ろめたさと罪悪感が胸を刺した。けれど、それ以上に──彼女はオスカーに、目も眩むような「希望」を贈りたかったのだ。

「すごく、すごくゆっくりと命の灯火を閉じていく薬なの。本当は、今からこんな話をするのは早すぎるかもしれないけれど……。何年、何十年が経って、もしみんなが寿命を迎えていなくなってしまった後でも、あなたをこの世界にたった独りきりで置き去りにしないために……」

オスカーは衝撃に目を見開いた。

喉の奥で息を呑みながら、彼女の手のひらにある小さな薬瓶をじっと見つめる。

「無理に今、飲まなくていいのよ。気が進まなければ後回しにしてもいいし、もしかしたら、このまま引き出しの奥に忘れてしまってもいい。でも……どうしても、私の覚悟を先に伝えておきたかったの」

オスカーの真紅の瞳が、熱い涙でじわりと潤んだ。

この瞬間、彼は生まれて初めて、盲信される「神」という存在を心から信じたいと思った。もし、自分の呪われた世界に本当に神がいるとするならば、それは間違いなく、目の前で悲しげに微笑むレリアに他ならなかった。

神は無限に人間を愛し、慈悲を与えるという。

レリアは何度も、もっと地獄のような暗闇の場所に落とされるはずだった自分を救い上げてくれた。結局のところ、彼女は魂ごと彼を光の当たる場所へと引き戻し、永遠の苦しみに満ちた人生を繰り返す自分を許し、全面の愛で受け入れてくれたのだ。

それは、かつての自分からは到底思いもよらない、奇跡のような幸福だった。

自分を生かし、真の安らぎを与えてくれる唯一無二の存在がいるとしたら、彼女を“神”と呼ばずして何と呼べばいいのだろう。

「オスカー……?」

小さく優しい声が、再び彼を呼んだ。

底の知れない無条件の慈しみに全身を包まれるようで、胸がいっぱいになり、破裂しそうだった。オスカーは溢れ出す涙を拭うことすらできず、ただレリアの温かい胸の中に、子供のように顔をうずめて咽び泣いた。

「……もしかして私、あなたを怒らせちゃった?」

レリアは無用な心配をしながら、そっとオスカーの頭を撫でた。子供のように不安げにしがみついてくる彼の様子が、たまらなく愛らしく、同時に胸が締めつけられるほど切なかった。

しかし、無情にも夜明けの光は強くなり、まもなくメイドのベッキーが部屋を訪れる時間が近づいていた。

レリアは後ろ髪を引かれる思いで、名残惜しそうにオスカーの身体から身を引いた。少しの間、ぼんやりと彼の顔を見つめていたレリアだったが、ふと思いついてオスカーの耳元に顔を寄せ、こっそりと内緒話をするように秘密の願いを囁いた。

「さっきのあそこ……後で、夜にでももう一度行ける?」

「……」

さっきは空間を渡った途端、急にベッドへ連れて行かれてしまったせいで、広大な隠れ塔をちゃんと見て回る余裕がなかったのだ。だから今度は、ゆっくりと部屋を見て、周囲の綺麗な庭を散歩してみたいという純粋な好奇心だった。

だが、オスカーはそれを全く違う、蠱惑的な意味へと解釈してしまったようで、その瞳がまたしても妖しい肉食獣のような色を帯びる。

レリアは、彼の表情がどこか熱っぽく曇っていくのを見て、慌てて弁明した。

「そういう不純な意味じゃなくて、私はただ……っ」

「君が望むなら、一生あの場所から出ずに暮らせるようにしてあげるよ」

「……ちがう! そういう意味じゃないのに!」

レリアはしばらくの間、顔を真っ赤にしながら誤解を解こうと必死に言葉を尽くした。しかし、オスカーは満足げに「今夜、また来るよ」とだけ言い残し、何とも意味深な目を向けたまま、静かに窓の向こうへと姿を消したのだった。

 



 

その日の午後、レリアは慎重な足取りで、公爵邸の執務室の奥へと足を踏み入れた。

近いうちに行われる結婚式に関することで、祖父にどうしても伝えておかなければならない事柄があったからだ。

奥へ進むと、大きな窓の外の景色をぼんやりと見つめている祖父の背中があった。

レリアは思わず、その手前で足を止める。

いつもなら威厳に満ちているその横顔には、今までに見たこともないほどの深い心配と、戸惑いの影が滲んでいたのだ。

レリアの脳裏に、少し前に皇子たちやユリアナ皇女を、心を鬼にしてこの屋敷から追い出した祖父の苛烈な姿が浮かんだ。いかに過ちを犯したとはいえ、皇子たちもまた、祖父にとっては血の繋がった大切な孫たちに変わりはなかった。

そんな彼らとの縁を完全に切り捨てたのだから、彼の老いた心は、きっと深く傷ついているはずだった。

「おじいさま……」

「おお、うちの子が来たのか」

ベッドの傍らで目を閉じていた祖父は、レリアの声を聞いた途端、いつもの破顔した優しい表情へと無理に切り替えた。

「……」

レリアはなぜか胸に広がる不安な気持ちを隠しながら、彼のすぐそばへと腰を下ろした。

「そうか、アティアスの結婚式の準備はうまくいっているかい?」

「はい、みんな大はしゃぎで手伝ってくれています。でも……おじいさま、何か心配なことでもあるのですか?」

「そう見えるかい?」

「はい……。もしかして、セドリックやデミアン皇子たちのことが理由ですか? 私のために、あんな……」

すると、シュペリオン公爵の大きくて、年月を物語る深い皺の刻まれた手が、そっとレリアの小さな手の手の甲に触れた。

「そんなことは決してない」

「でも……」

「周囲の子供たちは、冷酷だと私を非難するかもしれん。だがな、レリア……私はもう残り少ない人生で、またしても愛する娘を失い、後悔と絶悔の中で生きていくのは真っ平御免なのだ。幼い頃から、この私の手で大切に育ててきたお前なのだから──」

「おじいさま……」

「もう、あいつらはペルセウス皇帝の都合のいい子飼いにすぎんのだよ」

シュペリオン公爵は苦笑しながら、心配するなとばかりにレリアの手の甲を軽くポンポンと叩いた。

「……では、他に何かお悩みがあるのですか?」

「……そのことなのだがね」

祖父はしばらく言いづらそうに口ごもったのち、覚悟を決めたように視線を合わせて口を開いた。

「レリア、お前が前に私にくれた、あの薬のことだ。エリザベスの、失われた記憶を完全に取り戻すことができるという、あの魔法の薬」

突然飛び出したその話題に、レリアは思わず息を呑んだ。

「はい、おじいさま」

「エリザベスの体調が完全に回復したら、その薬を使うという約束にしていたね」

「はい……はっきりと覚えています」

「今ならエリザベスの身体もすっかり元に戻ったし、もう薬を使ってもよさそうな時期なのだが……」

シュペリオン公爵はそこで一度言葉を切り、深い沈黙に沈んだ。やがて、絞り出すように本音を吐露する。

「この老いぼれの爺さんはね、レリア……その薬を、使いたくないのだよ」

レリアは驚きに目を見開いて祖父を見つめた。

心配と、長年の疲労がありありと滲む、深い皺の刻まれた老顔が間近に迫る。いつもはどんな嵐にも揺るぎもしない巨大な大木のように見えた頼もしい祖父が、その時、生まれて初めてひどく弱々しい存在に映った。

「……すべてを知ってしまった時に、あの子が受けるであろうあまりの苦しみを思うと、この祖父は……私は、とても怖いのだ」

「おじいさま……」

「お前にも、あの子にも本当に申し訳ないと思っている。だが……このままで、今のままでいてはくれんか……」

レリアの手の甲に、震える老いた手がそっと重ねられる。

レリアは躊躇うことなくその手を引き抜き、今度は自分の両手で、祖父の大きくて冷たい手を優しく包み込んだ。しっかりと握り返すと、祖父は驚いたような、救われたような目で彼女を見つめ返した。

「大丈夫です、おじいさま。私に謝る必要なんて、どこにもありません」

「しかし……」

祖父の顔には、身勝手な選択をしてしまったという罪悪感が拭いきれずに滲んでいた。

けれど、レリアにはなぜ祖父がこんなにも申し訳なさそうにしているのか、その痛みが痛いほど理解できた。

本当のところを言えば、母がすべての記憶を取り戻すことを心の底から望んでいた。母が命をかけて守ろうとした幼い我が子が、今こうして立派に成長し、幸せを掴もうとしている姿を、すべて思い出して褒めてほしかった。

でも同時に、母がこのまま何も思い出さないことを強く望む気持ちもあった。

母の過去には、あまりにも残酷で、哀しい出来事が多すぎたからだ。むしろこのまま、過去の呪縛に囚われることなく、今のように無邪気に幸せに生きてくれることの方が、どれほど救いになるだろう。

いや、むしろその方が良いのかもしれない。残されたみんなのためにも。

「私、本当に大丈夫ですから。私も、今のままの優しいお母さんが大好きです、おじい様……」

レリアは大人びた、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、祖父の手をしっかりと握りしめた。いつも自分を盾となって守ってくれた祖父を、今度は自分がその手で守らなければならないと、強く心に誓った。

「……ありがとう、そして、本当にすまないね……」

祖父は立派に、誰よりも優しく成長した孫娘の顔を見て、目尻を下げて微笑んだ。いつの間にか、こんなにも大きくなっていたのだ……。もっと早くこの子を救い出し、抱きしめてあげられなかったことだけが、彼の人生の唯一の悔いだった。

 



 

「壁紙は、絶対にこれがいいと思うの!」

「でもアティアス、その色は新婚の部屋にしては少々明るすぎやしないかしら……?」

「お母様、これこそが最近の首都で一番流行っている、洗練されたお色味なんですよ?」

レリアは、アティアス叔母さんと祖母の熱を帯びた会話の間に挟まれる形で、ソファにぽつんと座っていた。

祖父とのしんみりとした会話を終えた直後、待ち構えていた叔母に強引に連行されて、今の席に座らされていたのだ。

いつの間にか奇跡的に健康を取り戻した祖母は、叔母と楽しそうに意見を戦わせている。その最中でも、祖母はレリアの隣にぴったりと寄り添い、彼女の小さな手を片時も離さずしっかりと握りしめていた。

「ねえ、あなたはどう思う? このおばあちゃんの考えについて」

「うーん、私は……ちょっと暗めの、こちらの落ち着いた色合いの方がお部屋に合う気がするんですけど……」

「レリア……? 本当にそう思うの!?」

叔母が裏切られたと言わんばかりに、不安げな表情でレリアに尋ねた。レリアは少しぼんやりしていたが、助けを求めるように隣にいた母親のエリザベスの方へと視線を向けた。

「私は……ただ、お母さんが選んでくれたものなら、何でもそれでいいです」

静かにお茶を飲んでいた母親は、急に指名されて驚いたように熱い湯呑みをテーブルに置いた。まさか、黙って見守っていただけの自分に急に話が振られるとは思っていなかったのだろう。

「そうね! お姉ちゃんが勝手に選ぶよりも、お嫁に行く娘の部屋なんだから、お母様が選ぶのが一番筋が通っているわよね」

アティアスは手のひらを返し、落ち着いた様子でカラーサンプルを差し出した。

エリザベスは困ったように微笑みながらも、レリアが好んだ暗めの色サンプルをアティアスから隠すようにそっと手元に引き寄せた。すると、自分の意見を却下されたアティアスの顔がぱっと曇る。

「まったく、こんなに煮え切らない人たちを一度に見たことがある!? 新婚夫婦の記念すべきお部屋に、こんな重苦しい陰気な色を選ばせてどうするのよ! もう待ってて! ロミオを引っ張ってくるから!」

アティアス叔母さんはついに我慢の限界を迎えたのか、ばっと勢いよく立ち上がった。そして近くの使用人に命じて、今すぐロミオをここに呼ぶよう大声を張り上げる。

レリアはその台風のような様子を見て、祖母や母と一緒に顔を見合わせ、くすくすと楽しそうに声を上げて笑った。

やがて、完全に巻き添えを食らう形で現れたロミオは、「レリアの新婚部屋の壁紙を今すぐ選んでほしい」と頼まれ、あからさまに不快そうに一瞬顔をしかめた。しかし、すぐにいつもの生真面目な表情に戻り、無難な明るめの壁紙を指差す。すると叔母は我が意を得たりとばかりに、なぜこの色で壁を埋め尽くすべきなのかという理由を、再びとうとうと熱弁し始めた。

「……で、どうして僕がそんな新婚部屋の壁紙なんかを選ばなきゃいけないわけ?」

熱弁を切り抜け、温室への帰り道。ロミオは並んで歩くレリアに向かって、心底納得がいかないという風にぶつぶつと文句を言った。

「……ごめんね、ロミオ」

「いや、君と僕は新婚でも何でもないのに、なんで僕があいつ(オスカー)との愛の巣のデザインを決めなきゃいけないんだ。考えれば考えるほど頭がおかしいよ、この状況」

「本当にごめんなさい。叔母様があなたの美的センスをものすごく信頼しているから……あんな風になっちゃったの。私から謝るから、許して」

レリアは不機嫌の塊のようになっているロミオを、必死になだめて機嫌を取ろうとした。

ロミオはしばらくの間、なおもぶつぶつと言い訳めいた小言を並べていたが、隣を歩くレリアの申し訳なさそうな顔を見ると、大きくため息をついた。

「ねえ、こんなことなら……いっそのこと、僕の部屋も新しく模様替えしちゃおうかな。あのアティアス叔母さんの言う、流行りの新婚部屋みたいにさ」

「……いきなり、何言ってるの?」

「だってそうだろう? あなたとオスカーがこれから先、死ぬまでずっと夫婦のままでいられるなんて、一体誰が保証できるっていうんだ。この国において、離婚制度っていうのはそう簡単に無くならない仕組みなんだからね。……万が一、将来的に離婚した後、もしあなたが本当に望むなら……その時は僕が再婚してあげるから、今のうちに僕の部屋を飾っておこうって話!」

ロミオは早口で捲し立てながら、自らの言葉の異様さに気づいたのか、ふと自分の綺麗な金髪をガシガシとかき乱した。

「もう……最悪だ。グリフィスがあちこちに飛ばしているあの不気味な鳥のせいで、僕の頭までおかしくなりかかっているよ。いい、レリア? オスカーの挙動が少しでも怪しいとか、変だと思ったら、躊躇わずにすぐ離婚しなさい。わかった?」

「……うん」

ロミオはそれだけ言い残すと、しぶしぶながらも、依然としてむっとした様子のまま立ち去っていった。レリアは彼が去りゆく後ろ姿をぼんやりと見つめたあと、無意識のうちに自分の首元をそっとさすった。

自分に向けられている、友人たちのあまりにも深すぎる気持ちのすべてを、今のレリアが完全な形で理解することはできなかった。

それでもなお、レリアは自分の心が出した答えに従い、他でもないオスカーという男を選び取ったのだ。

それがどんなに利己的で、周囲から非難を受けるような選択だったとしても、せめてしばらくの間だけは、この奇跡のような静けさを守り抜きたかった。

とはいえ、友人たちがいつかこの領地を離れたり、誰か別の素敵な人と結婚すると言ったときには、その時は何よりも優先して、全力で祝福するつもりだった。

「はぁ……」

しかし、またしても何も言わずに行方をくらませてしまったカーリクスのこともあり、彼女の胸の気がかりは、それだけでは決して終わらなかった。

レリアは深いため息を一つつき、冷えてきた自分の部屋へと戻るために足を速めた。

 



 

その夜、オスカーは昼間の予定通り、再び窓を越えてレリアの部屋へとやってきた。

レリアは今度こそ、昨夜の誤解を解くためにゆっくりと話し合いの場を持とうと心に決めていた。しかし、部屋に入るや否や、オスカーに有無を言わさぬ力で手を引かれ、そのまま真っ直ぐベッドへと連れて行かれたことで、その健全な計画は一瞬にして水の泡となった。

前の夜よりもさらに、どろりとした濃厚な熱のこもった時間が、二人の間で静かに過ぎていった。

オスカーの内に秘められた情熱は、一度満たされたからといって衰えるどころか、むしろ飢餓感を増すように、ますます強くなっているようだった。

レリアはどこか落ち着かない、気恥ずかしい気持ちを抱えたまま、けれど、自分を射抜く彼の真っ直ぐな真紅の瞳を見つめるたびに、胸の動悸がどうしても激しくどきどきと跳ね上がってしまうのだった。

それは、以前のように彼を恐れているからでは決してなかった。ただ、彼の網膜の奥に潜む底なしの欲望を、本当に自分という一人の人間だけで受け止めきれるのだろうかという、漠然とした不安のせいだった。

もちろん、彼の熱に触発されるように、自分自身もまた内側から変化していくような、何とも言えない快い気持ちに満たされることもあった。何はともあれ、オスカーと肌を重ねて過ごす夜は、彼女にとって紛れもなく、とても幸せな時間であった。

そして、翌朝。

レリアは目覚めると同時に、サービス終了まで残すところ「あと2日」となった、視界の隅のゲームメッセージを静かに確認した。ざわつく心を無理やり落ち着かせるために、重い身体を起こして部屋を出る。

オスカーの激しい愛撫のせいで、いまだに身体のあちこちが痛いほどに強張っていたが、それ以上に頭の中が混乱してどうしようもなかったのだ。

ただ部屋で横になっていると、得体の知れない寂しさと不安から涙がこぼれ落ちそうだったため、せめて身体だけでも動かしていたかった。

2日後には、本当にシステムが消えてしまう。その前に、このお世話になった『錬金復権』に最後のお別れの挨拶を送る予定であり──そんなことを考えながら、廊下の角を曲がった、その時だった。

「……カーリクス?」

彼女の前に、幽鬼のように突如として立ち塞がったのは、数日間行方不明だったカーリクスだった。

レリアは、ひと目で分かるほどに荒れ果てた彼の顔を見て、驚きと痛ましさから、思わず手先でそっと彼の頬に触れてしまった。

申し訳ないという罪悪感から反射的に頭を下げながらも、カーリクスがこれから自分に対してどんな辛辣な反応を示すのか、怖くてたまらなかった。彼は誰よりも意志が強く、一度決めたら曲げない頑固な性格の男だったからだ。

レリアは呆然としながら、消え入りそうな声で再び口を開いた。

「……カーリクス、一体今までどこに行っていたの? 屋敷の食事も、ずっと手をつけていないって聞いたけれど……」

間近で見る彼は、普段の堂々とした体躯よりも少し痩せて、その頬の輪郭もどこか寂しげに削げて見える。

レリアの本気の心配を受け、カーリクスはきまずそうに一度目を伏せ、不器用に入り組んだ唇を強く噛み締めた。そして、胸に溜まっていた重い息を大きく吐き出すと、ようやく重い口を開いた。

「もういい、すべて分かったよ」

「……え、何が?」

「俺が、お前を『送り出す』よ」

「……」

レリアは意味がわからず、目をぱちくりとさせた。

もちろん、カーリクスが普通の人間のように、この絶望的な状況をあっさりと受け入れるとは思っていなかったが……まさか、彼からこんな言葉が飛び出してくるとは想像すらしていなかった。

彼が自分を送り出す。それは一体、どういう意味なのだろう。

「あのオスカーの野郎に一歩譲って、俺がお前を嫁に送り出す、と言っているんだ」

「……え?」

「僕がこの数日間姿を消して何をしていたかというとね、あちこちの国を回りながら、特殊な婚姻の風習がある国について書かれた古い古書を探し出してきたんだよ」

しばらく姿を消していたカーリクスが、いったいどこで何を企んでいたのかが、完全に判明した瞬間だった。

カーリクスは、手に入れてきた知識を誇示するように誇らしげに胸を張りながら、熱弁を振るい始めた。

「その本に明確に書いてあったんだがね、歴史的には、最初に娶られた本妻よりも、後から迎えられた『側室』の方が、実質的に誰よりも深く愛されるケースが非常に多いらしい。もともと、婚姻というシステムはそういうものらしいんだ」

「……」

「お前がオスカーを愛しているというなら、今はそれでも構わないよ。僕だって、どうせお前を一生愛し続けることに変わりはないんだからな」

レリアは彼のあまりにも斜め上すぎる理論に完全に言葉を失い、しばらく呆然としていたが、やっとのことで引き攣った口を開いた。

「カーリクス、私はあなたを側室だなんて……そんな風に考えたことは、一度だってないわ」

「じゃあ、どうするつもりなんだよ?」

「……だから、本当にごめんなさい」

「……何が『ごめん』ってことなんだ?」

カーリクスは、レリアの拒絶の意味が本気で理解できないというように、怪訝そうに額に深いしわを寄せた。そして、彼女との距離を詰めるように、一歩力強く踏み出す。

彼の規格外の大きな体格が遮る視界の圧迫感に、レリアは思わず息が詰まりそうになった。

「私は……あなたと、これからもずっと、大切な友達でいたいのよ、カーリクス」

「大切な友達だって? お前、あの時こっそり僕のところに来て、優しくキスしてくれただろう? あの一幕は、一体何だったんだよ」

「……あの時は」

レリアは痛みに耐えるように、ぎゅっと目を閉じた。

そうだ、これはすべて、過去の自分が犯してしまった身勝手な過ちによって起きた自業自得の連鎖なのだ。

「実はね、あなたの悪くなった目を治すための特効薬を作るために……どうしても、あなたの身体の『協力』が必要だったの。あれは、研究に必要な大事な材料だったのよ! 正直に理由を言えなくて、本当にごめんなさい……!」

「……」

「すべては、私の身勝手なせいです」

レリアの必死の告白を聞いたカーリクスは、深く、長い息を吐き出しながら、がっくりと大きな肩を落とした。

レリアは、今にも崩れ落ちそうに大きく上下する彼の胸元に向けて、慰めの手を伸ばしたい衝動に駆られたが、それすらも彼を惑わせる罪になると、胸の痛みを必死に堪えてじっと佇んでいた。

「なあ……それなら、自分が犯した過ちには、最後まで責任を取らなきゃいけないよな」

カーリクスが、どこか少年のように少し照れたような笑みを浮かべて言った。

「カーリクス……」

これ以上誤解をさせまいと言い訳をしようとしたレリアだったが、その瞬間、カーリクスの大きな手がレリアの細い手首を優しく、しかし確実な力で掴み、自分の胸元へと強く引き寄せた。

「……あ……」

気づいた時には、レリアの手のひらが、カーリクスの逞しく厚い胸板の上にぴったりと固定されていた。

カーリクスは彼女の小さな手を、自らの左胸の、心臓がある位置へと容赦なくしっかりと押さえつける。

「……ちょっと、今、何をしてるの……っ?」

レリアはあまりの展開に完全に戸惑っていた。

突然の強引なスキンシップに驚いたのではない。彼女の薄い手のひら越しに、痛いほどにはっきりと伝わってくる、彼の心臓の「異常な鼓動」のせいだった。

まるで、激しい尋問を受けているかのように、彼の心臓はドクドクと狂ったように拍動していた。あまりにも早く、あまりにも強く脈打っているため、このまま彼がショックで倒れてしまうのではないかと、本気で心配になるほどの速度だった。

「どう? 感じるか?」

「……」

カーリクスは、すべてを見透かしたような、切ない笑みを浮かべて尋ねた。

「お前のせいで、俺の心臓は毎日こうなったんだ。これでも、責任を取らないつもり?」

「……」

「この高鳴りを、俺たちの間にあったことを、ただの綺麗な思い出として片付けてしまうつもりなのか?」

彼に触れているレリアの手のひらが、まるで本物の火に焼かれたかのように、熱く、熱く燃え上がっていく感覚に襲われる。彼女は戸惑いと罪悪感のあまり、次の言葉がどうしても喉に詰まって出てこなかった。

カーリクスは彼女の沈黙を見届けると、諦めたように小さくため息をつき、拘束していた彼女の手をそっと優しく放してやった。

そして、これまでの重苦しい空気を拭い去るように、少しだけ軽やかな口調に切り替えてみせる。

「いいよ。お前がこれからオスカーの野郎と結婚しようが、そんなことは俺の知ったことじゃない」

「カーリクス……」

「それでも、俺はお前を一生、ここで待ち続ける」

そう言い切った彼の表情には、先ほどまでの冗談っぽさは微塵も消え失せており、ただ純粋で、狂気的なまでの真剣さだけが揺るぎなく浮かんでいた。

「僕はずっと、このシュペリオンで、お前のすぐそばに死ぬまでくっついて待っているよ」

「……」

「お前が、俺を『二番目の夫』として喜んで迎えてくれる、その最高な時が来るまでね。分かった?」

「……」

「俺の人生には、お前以外の女は、これから先も一生現れない」

カーリクスは淡々と、しかし絶対の誓いを立てるように語ったあと、それ以上彼女を困らせまいとするように、そのままゆっくりと背を向けて回廊を戻っていった。

言いたいことはすべてお前にぶつけた、というようなその後ろ姿は、どこか不思議なほどすっきりとして、堂々として見えた。

「……」

レリアは、胸の中に解消しようのない複雑なもやもやとした感情を抱えたまま、ただ一人、自分の部屋へと重い足取りで戻るしかなかった。

 



 

 

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