こんにちは、ピッコです。
「シンデレラを大切に育てました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
242話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プリシラ・ムーア卿
アイリスの結婚式は、言葉に尽くせないほど華やかだった。
丸屋根の邸宅から王城へと続く道は、色鮮やかな花々と繊細なレースで埋め尽くされ、アイリスは特別に仕立てられた大きな窓付きの馬車に揺られて城へと向かった。
馬車の後ろには、アイリスが財団を通じて後援していた孤児院の子どもたちや、来年春に上級アカデミーへの入学が決まっている女子生徒たちが、誇らしげに花を撒きながら続いた。
それだけではない。沿道の両側には数え切れないほどの人々が集まり、誰もが旗を振ったり花びらを投げたりして二人の門出を祝福した。それは後々まで、「歴代でもっとも愛された王太子妃の婚礼行列」として人々の口にのぼるほどの、歴史的な結婚式となった。
あの輝かしい日の記憶は、二か月後、リリーがウェディングドレスを着たアイリスの肖像画を完成させて持ってきた日まで、色褪せることなく続いていた。
アイリスは、大きな額縁に入った絵を受け取ると、驚きに目を丸くした。
「リリー、私をこんなに綺麗に描いてくれたの?」
絵の中のアイリスは、息を呑むほど美しかった。もし実物のアイリスと全く似ていなければ、単に美化してうまく描けていないのだと思っただろう。しかし、キャンバスの中の女性は紛れもなくアイリスその人であり、誰が見ても彼女の肖像画だとわかる出来栄えだった。
本人の面影を完全に残しながら、これほどまでに美しく昇華させて描くのも、リリーの類稀なる才能だった。純粋に感嘆するアイリスの前で、リリーは誇らしげに肩をすくめながら言った。
「肖像画なんてそんなものよ。本人の美しさを引き出すためなら、ない目や腕だって描くんだから」
「それでも、こんなに綺麗に描くなんて……」
アイリスが気恥ずかしさに頬を染めているところへ、王太子リアンが訪ねてきたという知らせが入った。
王子殿下の訪問だと聞いたアイリスとリリーが、礼儀正しく彼を迎えようと席を立つと、私室に入ってきたリアンは苦笑して二人を制した。
「どうしたんだ? 頼むから座ってくれ。これからは俺の前でわざわざ立たないでほしいな」
「そうおっしゃるなら」
リリーは遠慮なく肩をすくめてすぐに椅子に戻り、アイリスは立ったまま、近づいてきたリアンの甘い口づけを頬に受けた。リアンは愛おしそうにアイリスを見つめたあと、侍従が用意した椅子に腰かけて尋ねた。
「リリーが肖像画を持ってきてくれたんだって?」
「ええ。顔を中心に描いて、ウェディングドレスの細部は後で別に仕上げたの」
説明していたリリーは、ふいにリアンと後ろに控える侍従たちの顔色をうかがい始め、少しだけ身を硬くした。
城に来るまでは、リアンは次期国王となる高貴な王子であり、姉の夫なのだから、公の場ではきちんと敬意を払わなければと考えていた。しかし、彼のいつもの穏やかな顔を見た瞬間、そんな緊張感は綺麗に吹き飛んでしまったのだ。
アイリスが「この子、急にどうしたの?」という表情を浮かべると、リアンもまた妹の戸惑いを察して、気まずそうに苦笑しながら言った。
「今さら何をかしこまっているんだ? 君もアシュリーも、俺にとってはただの可愛い妹たちだ。今まで通り、楽に接してくれればいい」
それは王族を義兄に持つ者としての、とんでもない特権だった。リアンの後ろに控えていた侍従たちが驚きに目を見開くと、アイリスがすぐに窘めるように間に入った。
「今まで通りでいいのは、私たちだけの時だけよ。公の場ではちゃんと礼儀正しくするの」
そうでなければ、周囲から不要な反発を招くかもしれない。リリーは深く頷き、肖像画を仕上げるのがいかに大変だったかを生き生きと説明し始めた。
「アイリスは公務で忙しくて、なかなかモデルになってくれなかったから、顔を描くのが本当に大変だったのよ。でも、ドレスだけは屋敷に持ってきて貸してくれたから、素材の質感までそっくりに描けたわ」
顔は想像で美化して描き、ドレスだけをそっくりに描いたというリリーの冗談に、リアンは顔を上げてアイリスの顔と絵を見比べた。そして、確かな愛を込めた視線を絵に戻して言った。
「いや、ドレスだけじゃない。顔もそっくりだ。アイリスの美しさがそのままよく描けているよ。これはすぐにでも、一番目立つ壁に飾らせよう」
アイリスの顔が真っ赤になった。彼女は、肖像画の飾り場所を侍従に指示するリアンの手をそっと取り、はにかむような笑顔で言った。
「そんなふうに、無理に気を遣わなくていいのに」
「え? 何に気を遣うって言うんだ?」
本当に肖像画がアイリスそのものだと信じて疑わない様子のリアンを見て、リリーは堪えきれずにくすくすと笑い出した。アイリスは恥ずかしさのあまり、思わず軽く彼の手をペシペシと叩き始めた。
侍従が大切に肖像画を運んでいくと、リアンは淹れられたお茶を静かに飲みながらリリーに尋ねた。
「ところで、今日はどうしてアシュリーは来なかったんだ? 久しぶりに顔を見たかったのだけど」
「あの子、最近は工房の仕事が楽しくて仕方ないみたいで、ずっと忙しくしているのよ。今回も何か新しい試みを始めたらしくて、それが街で結構評判がいいらしいわ」
「ふうん、新しい石けんでも開発したのか?」
「ううん、製品のことじゃなくてね。従業員たちが毎日通勤するのが大変そうだからって、アシュリーが馬車を丸ごと一台買い取ったのよ」
「……どういうことだ?」
リアンは不思議そうに眉をひそめた。アイリスがお茶を一口含み、夫に説明を引き継いだ。
「工房の建物が首都の外れにあるでしょう? だから、その反対側に住んでいる従業員たちは、通うだけで一苦労なのよ。歩けば片道で二、三時間はかかってしまうわ。馬車を使えば専用の通り道があるから三十分ほどに短縮できるけれど、一般の労働者が毎日馬車代を払うのは、経済的に大きな負担になるの」
その負担のせいで、反対側に住む従業員たちが遅刻し始め、ついには優秀な一人が辞めてしまったのだという。
アシュリーは、せっかく仕事を教えて一人前に育てた従業員が、通勤の辛さだけで辞めていくのをひどく惜しく思った。悩み抜いた末、彼女は大きな馬車と専用の御者を一人雇い、遠方に住む従業員たちを対象に、無料の「通勤用馬車」として運行を始めたのだ。
「それで、従業員たちの反応は?」
「大好評よ。帰宅時間が劇的に短くなったから、みんな遅刻もしないし、疲労による早退もなくなったわ」
「工房で一日中立ち働いて、さらに毎日往復で四時間も歩いたら、どんなに元気な人でも疲弊して仕事の効率が落ちてしまうものね」
アイリスの言葉に、リアンは深く納得したように頷いた。そういえば、かつてウェルフォード男爵のもとで教育を受けていた頃、彼も首都を横切って歩いた経験があった。
彼にとっては、たまにある少し長めの心地よい散歩に過ぎなかったが、毎日生きるために労働をする人々にとっては、体力を削り取る苦行に近かったのだろう。
「バンス伯爵様は、その件について何かおっしゃっていたかい?」
リアンは、昔からの友人であるダニエルのことは親しみを込めて名前で呼ぶが、その妻であるミルドレッドのことは、今でもきちんと「伯爵様」と敬称で呼ぶ。彼がどれほどミルドレッドを尊敬し、また同時に畏怖しているかがよく分かる一面だった。
リリーはお茶を一口飲み、くすくすと笑いながら言った。
「お母様はね、アシュリーには素晴らしい『商売の才能』があるって、すごく褒めていたわよ」
「それが……? ご褒美か何かに繋がるのかい?」
リアンはよく分からないという様子で聞き返した。彼にとって商売とは、いかに効率よくお金を稼ぎ、利益を出すかというものだ。しかし、今聞いたアシュリーの話はどう考えても支出が増えるだけで、直接的な利益につながるようには思えなかった。
リリーは、彼が戸惑っているのを見て、我が意を得たりと小さく頷いた。
「私も最初はリアンと同じ反応をしたの。でもね、お母様が言うには、商売を長期的にうまく軌道に乗せるには、道具でも資金でもなく“人”が一番大事なんだってことを、絶対に忘れちゃいけないんですって」
そしてアシュリーは、それを誰かに教わるでもなく、現場の痛みを自分で見て、自分で考えて実行に移した。ミルドレッドから見ても、アシュリーには人の心を掴む、十分な経営の才能があったのだ。
お茶を飲んでいたアイリスが、さらに興味深い話を付け加えた。
「それだけじゃないのよ。アシュリーは近々、工房に『乳母』も雇う予定らしいわ」
「乳母……? 一体どこで必要になるんだ?」
リアンは戸惑いながら尋ねた。バンス伯爵家には今、妊娠している者はいない。まさか伯爵夫人ミルドレッドが……?と彼が内心で突飛な想像をして驚いていると、アイリスは夫の早とちりを見抜いて、彼の肘を軽くつつきながら笑った。
「私の話ではなくて、工房で働く従業員たちの話よ。子どもがいる女性従業員たちが、仕事中に我が子を預ける場所に困っているみたいなの」
裕福な貴族や豪商の家なら乳母を雇うし、そうでない貧しい家なら母親が家で子どもの面倒を見る。だがそれは、妻が外へ働きに出ず、家事だけに専念できる場合に限られる話だった。
実際には、女性が家にいて家事だけをしているケースなど、平民の間ではほとんどない。家事が終われば森に行って薪にする枝を拾ったり、家畜の餌をやったり、時には他人の家の洗濯や針仕事を請け負って、少しでも家計を支えるのが普通だった。
アシュリーの工房で働く女性たちも同じだった。これまでは、近くで乳母のような仕事をしている近所の老婆にいくらかの小銭を払って子どもを預けるのが一般的だったが、この国にはしっかりした託児環境が整っておらず、実際には「ただ怪我をしないよう見ているだけ」に近い状態だった。
子どもが病気にならないかはもちろん、きちんと衛生的な食事が与えられているかどうかすら分からない。
「どうせお金を払って外部の乳母に預けるのなら、いっそアシュリーの工房でその乳母を直に雇い、仕事の合間に従業員たちが子どもの様子をすぐに確認できるようにした方が、お互いに安心ではないか――そうアシュリーは考えたのよ」
もちろん、その革新的な思いつきの裏に、母ミルドレッドの社会的な助言がなかったと言えば嘘になるだろうが、形にしたのは間違いなくアシュリーだった。
「それは……もの凄く素晴らしい試みじゃないか!」
アイリスの説明を聞いたリアンは、顎に手を当てて深く考え込み、感心したように声を上げた。そういえば最近、アカデミーに入る年齢にも満たない幼い子どもたちを対象にした、国営の教育施設が一つできたという報告書を読んだばかりだった。二歳から七歳までの幼児を対象にした施設だと聞いて、リアンは当初、思わず舌を打ったものだ。
「そんなに小さい幼児に、一体何を教える必要があるんだと思っていたけれど、親が二人とも働いている家庭なら、教育のためではなく、安全に預かる『場所』として絶対に必要不可欠なものなのだな」
リアンが何かに深く気づいたように呟くのを見て、リリーとアイリスは静かに顔を見合わせた。
リアンはまだ、国王になるための学びの途中にいる。もちろん、完璧なバンス家の人々から見れば、まだ世間知らずで足りない部分も多いだろう。しかし、それでも彼は真摯に現実を学び、他者の意見を取り入れて少しずつ確実に成長している。
――それで十分だと、アイリスは思っていた。完璧な人間などいない。自分にも足りない部分はあるのだから、これからの人生でリアンと互いに補い合いながら、一緒に成長していけばいいのだ。
「それでね、アイリス。ちょっと面白い……いえ、驚くような噂を耳にしたのだけど」
一瞬の沈黙を置いて、リリーが真剣な面持ちで口を開いた。
「どんな話?」
アイリスがティーカップを手にしたまま目を丸くすると、リリーは隣のリアンを一度ちらりと見てから、改めてはっきりと言った。
「プリシラ・ムーアの……あの子が、首都に戻ってきたっていうのは本当?」
昨日、ムーア伯爵家に立派な馬車が一台入っていったという話が、リリーの独特な情報網を通じて耳に入っていたのだ。もちろん、それだけでは彼女の興味を引くような話ではない。だが、その馬車から降りてきたのが、異国風の服をまとい、見事に手入れの行き届いた栗色の髪をした、見覚えのある令嬢だったからだ。
ムーア伯爵家に関係のある、あの美しい栗色の髪の令嬢といえば、真っ先に思い浮かぶのは一人しかいない。プリシラ・ムーアだ。
リリーの鋭い問いかけに、アイリスとリアンの視線が空間でぶつかった。
「……やはり、耳に入ってしまったのね」
二人が否定しないのを見て、リリーは確信を強めて言葉を続けた。
プリシラはかつて、アイリスと王太子妃の座を争って最終試験を受けたライバルだったが、そこで卑劣な不正を働いたことで、王宮から事実上の追放処分を受けたはずの身だ。
世間の人々は、バンス家がプリシラを厳しい修道院へ送るよう求めたのを、ムーア伯爵が親の情で押し切り、ほとぼりを冷ますために彼女を国外の親戚のもとへ逃がしたのだと思っている。だが実際は、その噂とは真逆に近かった。
ムーア伯爵は、一族の恥晒しとなったプリシラを無理やり望まぬ相手に嫁に出すか、一生出られない修道院に幽閉しようとしていたのだ。その冷酷な計画を事前に察知したプリシラが、着の身着のまま必死の思いで国外へ逃亡したというのが真相だった。
「噂が回るのって、本当に早いわね」
アイリスがため息まじりに言うと、リリーは驚いた表情を浮かべた。その戻ってきたという噂が、紛れもない事実だと気づいたからだ。
リリーは目を見開いたままアイリスを見つめ、それから隣のリアンに視線を移して、納得がいかないという風に尋ねた。
「じゃあ、あの子が戻ってくるのを、二人はこのまま黙って放っておくつもりなの?」
「そのままにしておく、とは?」
リリーの激しい問いに答えたのは、リアンではなくアイリスだった。リリーは困惑したような顔でリアンを見てから、アイリスに向かって強い口調で言った。
「お姉様、あの子が過去に私たちに……特にあなたに何をしようとしたのか、もう忘れてしまったの? 彼女はまともな罰も受けずに海外へ逃げて、ただほとぼりが冷めるのを待っていただけじゃない。今からでも、犯した罪に見合う厳格な罰を与えるべきよ!」
「もういいのよ、リリー。彼女は以前、お母様と私の前に自ら現れて、涙を流して直接謝罪をしてくれたわ。だから、その件はもう私たちの中で終わったことにするの」
「リアン……!」
アイリスが全く譲る気配を見せないため、リリーの矛先はリアンへと向かった。リアンはリリーの鋭い視線にびくりと肩を揺らし、アイリスの方をちらりと伺ってから、小声でリリーに弁明した。
「いや、俺だって前に、ムーア伯爵家に正式な処罰を与えようとしたんだ。だけど、その瞬間にアイリスが……」
「……姉上に、もの凄く叱られたんだよ」
少なくとも、リアンも最初はリリーと同じように、プリシラを厳罰に処すべきだという考えだったのだ。リリーは、プリシラを罰しようとした王太子がアイリスに叱られて縮こまっていると知り、信じられないという目で姉を見た。
その抗議の視線に気づかないふりをして、アイリスは優雅にお茶を口に運んだ。そして、カップをそっとソーサーに戻すと、静かに口を開いた。
「私はね、誰にであっても、人生を真摯にやり直す機会は平等に与えられるべきだと思っているの」
「だからって、お姉様が甘やかしたせいで、あのムーア嬢の人生が変わったとでも言うの?」
「私のおかげなんかじゃないわ。あの子は国外にいた間、私たちの想像を絶するほど、本当に、本当に血の滲むような努力をしてきたのよ」
「……努力? ああいうお嬢様が、一体どういうこと?」
リリーの顔に、深い戸惑いが浮かぶ。
アイリスはリアンと一瞬だけ優しい視線を交わすと、小さくため息をつき、プリシラ・ムーアが国を追われてからの日々、一体何をして生きてきたのかを、妹に向かってゆっくりと語り始めた。
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アイリスの歴史的な結婚式と、リリーが描いた見事な肖像画
孤児院の子どもたちや学生に祝福されたアイリスの婚礼行列は、後に語り継がれるほど華やかなものでした。その2か月後、妹リリーが完成させたウェディングドレス姿の肖像画はアイリスの美しさを完璧に昇華させており、訪ねてきた夫の王太子リアンも「本人の美しさがそのまま描かれている」と大絶賛して壁に飾るよう指示します。
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アシュリーが工房で始めた「通勤馬車」と「託児環境」の革新的な試み
もう一人の妹アシュリーは、遠方から通う従業員の負担を減らすため無料の「通勤用馬車」を運行させ、さらに仕事中も我が子を近くで安心・安全に預けられるよう工房で「乳母」を直に雇う計画を進めます。リアンは「商売は道具や資金ではなく“人”が一番大事」というバンス家の経営哲学や、働く親のための預かり場所の必要性を真摯に学び、王としての成長を見せます。
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不正を働いたライバル、プリシラ・ムーアの帰国とアイリスの赦し
かつて王太子妃の座を争い不正で追放されたプリシラ・ムーアが、国外逃亡を経て首都に戻ったという噂が事実だと判明します。厳罰を求めるリリーに対し、アイリスは「人生をやり直す機会は平等に与えられるべき」と語り、過去にリアンが処罰しようとした際も自分が叱って止めたこと、そしてプリシラが自ら涙を流して謝罪し、国外で血の滲むような努力を重ねてきた真相を明かし始めます。