こんにちは、ピッコです。
「ヤンデレを演技していたら本物に執着されました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
52話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 決別の誓い
シャビアンはベルウェン公爵、ルウェインの瞳をじっと見つめた。
勘の鋭い彼は、すでに知っていた。この気高き公爵が嘘をつくとき、その美しい銀色の瞳の奥が、わずかに揺れるということを。
「……」
案の定、ルウェインの動揺した瞳が大きく揺れた。その奥には、深い罪悪感が刻まれている。
思えば以前から、時折こんな表情を見せていた気がする。
「……できないんですね?」
時々、自分を見て優しく笑ったときも。あまりにも幸せそうな顔をしたあとも。
公爵は無意識のうちに、罪悪感に染まった目をしていた。まるで、自分を騙していることに心を引き裂かれているかのように。
その表情の意味を、シャビアンは当時は深く考えなかった。ただ、幸せで胸がいっぱいだったからだ。
――でも、今なら分かる。
(公爵様は、一度も自分を恋愛対象として見てはいなかったんだ……)
抱きしめてくれたことも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたことも、ふかふかの毛布を掛けてくれたことも。それらはすべて、可愛い弟に対してもできることだった。ルウェインは自分を、年の離れた弟のように扱っていたのだ。
「……公爵様は私を……愛してなど、いなかったのですね」
シャビアンは力なく手を下ろした。その途中、指先がルウェインの胸元に触れる。
とん。
その瞬間――ルウェインは反射的に身体を引き、シャビアンの手を軽く払いのけた。まるで、触れられることすら嫌悪しているかのように。
シャビアンの垂れた手が私の胸元に触れた。
どれだけ男のふりをして着飾っていても、私は女――ルウェインだ。
胸に伸びてきた手にあまりの恐怖と驚きを感じ、私は思わず彼の手を叩いてしまっていた。
「あっ……」
どうしよう。この状況を説明することなどできない。
シャビアンは唇を小刻みに震わせながら私を見上げた。その瞳には、恨み、悲しみ、怒り、そして自責の念が渦巻いている。
頭が真っ白になるほどの動揺に突き動かされ、私は逃げるように宮殿の外へ飛び出した。
「お姉様!」
あまりの混乱に、私は無我夢中で妹・ロザリンの宮殿へと向かった。
「顔色が悪いわね? どうしたの?」
ロザリンは私の表情を見るなり、両頬を包み込んだ。
「温かいお茶を持ってきなさい!」
ロザリンが侍女のデミアに命じて扉を閉める隙間から、戻ってきた公爵を見て喜ぶ使用人たちの笑顔が見えた。彼らの目には、シャビアンに狂っていた公爵がようやく正気を取り戻し、すべてが元通りになったように映っているのだろう。
違うのに。まったく逆なのに。私のほうが、シャビアンに惹かれているというのに。
「シャビアンに知られたの。私が彼を愛していないってこと」
私はさっき離宮であった出来事を一息に話した。
「……それじゃあ、どうしようもないわね」
ロザリンは深刻そうにうなずき、お茶を差し出しながら距離を縮めてきた。
「シャビアンとお姉様は、完全に縁を切らなきゃいけないわ」
ロザリンの計画はこうだった。シャビアンの前で冷酷な芝居を打ち、彼に想いを完全に断ち切らせる。そして気持ちの離れた彼が、自ら神殿へ戻って祈りを捧げるように仕向けるというものだ。
「お姉様、人が一番生きる気力を持つのはいつだと思う?」
「……いつ?」
「愛する人がいる時。あるいは――復讐する相手がいる時よ」
ロザリンは自分を指差した。「お姉様。私がその復讐の相手になるわ」
私はため息をついた。
「ロザリン。この件には私にも責任があるわ。お前が勧めたことだけど、最終的にやると決めたのは私よ」
『シャビアンを誘惑しなければ世界が滅ぶ』
その言葉を信じて計画に加わったのは、ほかでもない私自身だ。
「自分の選択の責任は、自分で負うものよ。だから――半分こにしましょう。あなたの計画は?」
もし彼に憎む相手が必要なら、その矛先は私であるべきだ。世界を救うという大義名分があろうと、彼を傷つけたのは私なのだから。
「後悔しない自信はある?」
「うん。後悔しない」
「なら、振り返らないことね」
ロザリンの言葉にうなずいた私だったが、彼女が書いた台本を見た瞬間、すぐに撤回したくなった。
いやいや、これはさすがにやりすぎじゃない!?
『ロザリンは前世でいったい何を見て、何を学んできたんだろう……』
衝撃的な台詞を修正したあとも動揺は収まらなかったが、彼女の脚本にこれ以上手を入れている余裕はなかった。とにかく忙しかったのだ。
神殿へ向かうよう手は打ったものの、シャビアンが故郷へ帰るか、あるいはそのまま行方をくらますかもしれない。最悪の場合、自害する可能性だってある。
そうした不測の事態を防ぐため、私はシャビアンが皇宮にいる間、影たちを率いるレシウスにしつこく頼み込み、監視を強化させていた。名家出身のヨーゼフや護衛のバトゥにも、不審な動きがないか周囲を警戒させておく。
そのうえ――。
「公爵が自分から私を訪ねてくるなんてな」
今度はカリオンのもとまで足を運んでいた。
カリオンは庭の椅子にもたれかかっていた体を起こし、緩んでいた前合わせの帯を締め直した。……いや、まだ胸元がかなり見えているけれど、もう少し閉じてくれないだろうか。
「それで、今日は何の用だ?」
「シャビアン殿下を神殿へお送りするつもりです」
「あの子を神殿へ送る、か。なぜだ? 死なせないためか?」
そうだ。私とシャビアンがこれ以上近づけないようにするために神殿へ送るのだ。よく分かっているじゃないか。
カリオンは黙ったまま私を見つめ、それから小さくうなずいた。
「まあ、私にとっては悪い話じゃないな。公爵も知っているだろうが、あいつらはあの子が死ぬのを望んでいる」
カリオンが面倒そうに、遠くに立っている側近たちを指差した。そう、カリオンの側近たちがシャビアンを陥れようとしていたのだ。
「ですので、陛下にお願いがあって参りました。もし殿下が神殿へ行かれなかったとしても、どうかあの方に手を出さないでください。それはバハト帝国全体を巻き込むことになります」
カリオンの唇が、ゆっくりとつり上がった。
「頼み事には、それ相応の対価が必要だろう? 公爵も、そのうち私の頼みを一つくらい聞いてくれるだろう?」
「……私にできる範囲のことでしたら」
「ちょうど公爵にできることだと思うぞ」
カリオンは赤みを帯びた瞳を細めて妖しく笑った。こうして私たちは、まるで密約のような約束を交わしたのだった。
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ハイルデン帝国の皇女宮。
シャビアンはロザリンの呼び出しを受け、静まり返った廊下を歩いていた。
『最近、公爵様は毎日のように皇女殿下の宮へ通われているそうですよ』
その噂を思い出しながら、シャビアンはぼんやりと目を伏せた。
「いらっしゃいましたか?」
侍女のデミアすら遠ざけた部屋で、ロザリンは自ら扉を開けてシャビアンを迎えた。彼女は余裕のある様子で席に腰を下ろすと、すぐに本題を切り出した。
「私と公爵様が頻繁に会っているのをご存じだったそうですね? 申し上げましたよね。早く諦めて身を引きなさいと。もう公爵様を惑わせるのはおやめください」
「公爵様が私を本当に愛していたと……」
「本当にそう思います? まあ、いいですけど」
ロザリンは爪を眺めるふりをしながら、投げやりに言った。
「それ、私がやらせたんですよ。ルウェイン公爵に、あなたを誘惑しろって」
「な、なぜですか……?」
「ふふっ。面白そうだったからです。あの方の忠誠心を試してみたかった、とでも言いましょうか。愛情というものは、定期的にしつけておかないといけませんからね」
ロザリンは妖しく唇の端を吊り上げた。(わあ、本当に私、悪役令嬢みたい)と心の中で思いながら。
「愛玩動物……ですって?」
シャビアンは自分の耳を疑った。
「どうしてです? 傷つきました? でも、一度よく考えてみてくださいな。公爵様が私の飼い犬なら、あなたは一体何なのでしょう? ――餌か、おもちゃか」
ロザリンは目を細め、追い払うように足先を軽く動かした。
「お帰りなさい。もうすぐ公爵様がいらっしゃるので。出て行かなければ、もっとつらいものを見ることになりますよ」
「どうして……どうして私だったのですか?」
なぜ、あれほど私の心を揺さぶったのか。シャビアンはそれだけを問いかけた。
「弱いからです」
鏡の中のロザリンが肩をすくめたその瞬間、扉を開けてルウェインが入ってきた。青ざめた顔のルウェインを見て、シャビアンは振り返る。
「……今の話、本当なのですか? 公爵様は最初から計画的に私を誘惑していたのですか……?」
シャビアンは無表情なルウェインの服の裾をつかんだ。しかし、ルウェインはその手を避けて冷たく言い放った。
「もう聞こえたでしょう。出て行きなさい」
横からロザリンがさらに追い打ちをかける。
「公爵様は浮気なんて大嫌いなんですよ。だから、この間ずっと苦しんでいらしたんです。早く出て行ってください、これ以上ひどいものを見たくないなら」
ロザリンは挑発するように、ルウェインの首へ腕を回した。
『全部、嘘だったんだ……』
衝撃に耐えられなくなったシャビアンは、部屋を飛び出した。閉まっていく扉の隙間から見えたのは――皇女が公爵の顔を引き寄せ、まるで逆らえないかのような公爵へ、唇を重ねようとしている姿だった。
バタン、と重い扉が閉まった。
閉じた扉の音と、遠ざかっていくシャビアンの足音。
私はようやく張り詰めていた身体を椅子にもたれさせた。
「行った?」
「うん……たぶん、行ったと思う」
今にもキスしそうなふりをしていたロザリンの腕からそっと離れ、私はようやく顔を上げた。胸が痛む。けれど、中途半端な態度はもっと残酷なことになる。
「シャビアンはお姉様への気持ちがすっかり冷めたはずだから……あとは大司祭様次第ね」
すでに大司祭には、シャビアンを神殿へ戻るよう説得してほしいと頼んであった。
「お姉様、ほら、笑って。そのうちシャビアンも感謝するようになるわ。安全な神殿で静かに暮らしていればいいのよ」
ロザリンは優雅に手を広げた。その時、窓の外の背後を誰かが猛スピードで駆け抜けていくのが見えた。
――シャビアンだ。彼が向かっている先は「神の涙」。
かつて私たちが初めて出会い、レシウスが見守る中で私が彼を誘惑しようとした、あの湖だ。
「お姉様! どこへ行くの!?」
ロザリンの声を背に、私は慌てて後を追った。まさか、変なことを考えているんじゃないでしょうね!?
皇女宮を飛び出したシャビアンは、我を忘れて森を駆け抜けていた。枝葉に引っかかって傷だらけになっても気にも留めない。
たどり着いたのは、あの湖だった。
もし自分が死んだら、公爵は少しは後悔してくれるだろうか。
『全部、嘘だったんです』
すべての点が線となってつながる。自分が胸に触れようとした時、ルウェインが反射的に手を払いのけた理由も。
シャビアンは湖へ踏み出そうとしていた足を止めた。岸辺の水が靴を濡らす。
「私が死んでも……公爵様は来てくれない」
湖面に映る自分の青い瞳に、怒りの色が宿り始めた。怒りが胸の奥から湧き上がると同時に、静かだった湖面が大きく波立ち始める。
「全部、壊してやる!」
シャビアンは乱暴に壁眼(へきがん)を投げ捨てた。
彼の父親はかつて言っていた。『美しいものは奪い取り、壊してでも自分のものにすればいい』と。
今ならその言葉が完全に理解できた。愛する相手が自分を嫌い、逃げようとするなら――閉じ込めるしかなかったのだ。
私が湖に追いついたとき、シャビアンは不意に振り返り、岸へ戻ってきた。
その瞳は燃えるように熱を帯びていた。まるで、私を決して逃がさないとでも言いたげな、新たに見つけた生きる理由に燃えているかのような表情だった。
(シャビアンはきっと生きる。私への復讐を果たすためにでも)
私は不思議と安心した。
「さて、次に言うべき台詞は……」と、私はロザリンから渡されていた冷酷な台本を思い出した。今なら何が本当に彼のためなのか分かる。憎むべき相手を心から憎めるようにしてあげることだ。
カタン。
立ち上がった瞬間、足元の人形を蹴ってしまった。ロザリンがそれを拾い上げる。それはドラゴンの精神安定用人形だった。中からは大量の荷物リストが出てくる。
「お姉様、枕に毛布に予備の寝具……馬車が五台は必要よ。やりすぎじゃない?」
「だって神殿じゃ手に入らないでしょう? せめて慣れた寝具くらいは……ヨーゼフやバトゥに手配させようと思って」
「欲しいのは物じゃなくてお姉様本人でしょ。これは没収!」
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シャビアンが神殿へ向かう日。
私はどうしても気持ちが複雑で、皇宮の周辺をうろついていた。だが運命のいたずらか、絶対に鉢合わせしないはずの場所で、彼の馬車と出くわしてしまった。
馬車を止めたシャビアンは降りてきて、私の方へ歩いてきた。数日で見るからにやせ細っている。
私はただ背を向けて立ち去ろうとしたが、その時、シャビアンが駆け寄ってきて私の腰に後ろから抱きついた。
「ぼ、僕、たくさん考えてみたんです。皇女に命じられたから、あんなことをなさったんですよね? 全部が嘘だったわけじゃないんですよね?」
シャビアンが私の服の裾をぎゅっと掴む。
傷つけたくないという私の気持ちが、彼にとっては未練となり、それが苦しみになる。一気に切った方が苦しまない。
「……全部、嘘だったんです。理由を知る必要がありますか?」
私は覚えたての愛想のない表情を作り、彼と向き合った。
「殿下。神殿へ行かれると聞きました。良いご決断です。神殿の最も高い場所、神の代行者へお上がりください」
私はかつてのように、彼の頬に手を添えた。
「……神の代行者、ですか。別の力を持つ存在になったら、どうなさるんですか?」
シャビアンは私の服を掴む手に力を込めた。その声には明確な怒りと狂気が滲んでいる。
「僕が――公爵様を好きにしてもいいんですか? 公爵様が僕を好き勝手に弄んだように?」
いっそ思う存分、私を憎めばいい。その感情を抱いて、精一杯生きろ。
「そうだ。復讐したい気持ちで、怒りたい気持ちで。その感情を抱いて、精一杯生きろ。だから、その手を離してください」
シャビアンの手が離れた。彼はこれまで聞いたことのない、怒りを押し殺した冷徹な声で口を開いた。
「先ほどの言葉を、決してお忘れにならないでください。公爵様」
その言葉を残し、彼はハイレンの地を去っていった。私への激しい執着と、復讐の炎をその瞳に宿したまま。
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「世界の滅亡阻止」のための偽りの愛と、その崩壊
ルウェイン公爵は「シャビアンを誘惑しなければ世界が滅ぶ」という予言のために彼に近づいていたが、その隠しきれない罪悪感と「男装の女性であるゆえの拒絶(手を払いのける行為)」によって、シャビアンに偽りの愛だったことが見破られてしまう。
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生きる気力を与えるための「冷酷な芝居」
シャビアンの絶望による自害を防ぐため、ルウェインは妹ロザリンの計画に乗り、あえて「最初からおもちゃ(計画)だった」と冷酷に突き放す悪役を演じる。愛を失ったシャビアンに、代わりに「復讐の炎(怒り)」を燃え上がらせることで生き長らえさせようとした。
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「純愛」から「狂気的な執着・復讐」への闇落ち
ルウェインの裏切り(誤解)を確信したシャビアンは、かつて父親が言った「美しいものは壊してでも自分のものにすればいい」という言葉を理解する。ルウェインへの愛は、いつか神殿の頂点(神の代行者)へ上り詰め、彼女を支配・監禁して復讐するという激しい執着へと変貌した。