こんにちは、ピッコです。
「幼い旦那様の黒幕妻です」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
41話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 神々の残り香
多少の紆余曲折はあったものの、ローズは正式に私の護衛騎士に任命されることになった。
ウィンターは前回と同じように「適当な新しい身分を用意してあげる」と、あまりにも気軽な口調で言ってくれた。その手際の良さに、身分を偽造すること自体が簡単なことなのではないかと錯覚してしまいそうになる。
だが、ローズ自身は偽名を使うつもりはないときっぱりと告げた。
「どうせありふれた名前ですし、『ローズ』という本名と同じ名前だと言い張ればいいでしょう」
もっとも、それをすんなりと信じてくれる人がどれだけいるかは疑問だったけれど、ウィンターはローズの希望をそのまま受け入れた。皆がキブリンを避けていた頃、唯一彼の世話役を買って出たのがローズだったからだろうか。ウィンターもメネリクも、彼女にはかなり甘い。
おかげで、ローズは満足そうな笑みを浮かべて部屋を出ていった。
私は彼女の隣に寄り添いながら、ずっと気になっていたことを尋ねてみる。
「その名前、そんなに気に入ってるの?」
「デルが初めて私につけてくれた名前だから」
「……そんなにデルのことが好きなんだ?」
ローズはあっさりと、迷いなくうなずいた。
「もちろん。デルは生まれてすぐ捨てられていた私を拾って、育ててくれたんだもの。もともと私は、不死鳥でも何でもない、ただの普通の鳥だったのよ」
「ハトみたいな?」
すると、ローズは眉をぴくりと跳ね上げた。
「あなた、知っている鳥はハトしかいないの?」
「ハトの何が悪いのよ!」
「今度、鳥類図鑑でも見せてやろうかしら……」とぶつぶつ呟いている彼女の声を聞こえないふりで受け流す。
もし、私がキブリンの前世を知らないままこの話を聞いていたなら、きっと純粋に感動していただろう。けれど今の私の頭の中は、疑問符でいっぱいだった。
キブリンの前世はデルのはずだ。それなのに、なぜ自分で不死鳥へと生まれ変わらせたはずのローズのことを覚えていなかったのだろう?
しかも私は、さっきまでローズを気にかけるキブリンに勝手に嫉妬までしていたのだ。
どうにも腑に落ちなくて、私は半歩後ろを歩いていたキブリンをちらりと盗み見た。
キブリンはびくっと肩を震わせると、慌てて私から目を逸らした。
――嫉妬しているのが丸分かりである。
……可愛いから、今回は許してあげよう。
「ローズ、あなた、デルとは違って評判作りを一生懸命やっていたって言ってたよね?」
これ以上は気まずいので、私は無理やり話題を変えた。
キブリンが安堵したように息を吐き出す。事情を何も知らないローズは、素直に言葉を返してくれた。
「ええ。人間を殺さないようにして、ときどきお金や食べ物を配っていたの」
なるほど。それで神殿では、ローズを吉鳥(幸運をもたらす鳥)のように扱っていたわけだ。
「ちょっと待って。じゃあデルは、その逆をやって嫌われていたってこと?」
キブリンが「はぁ……」と深く息を吸い込んだ、まさにその時だった。
廊下の向こうからエレナが私を見つけ、勢いよく駆け寄ってきた。
「お嬢様! お帰りになるのをずっとお待ちしていました!」
「エレナ? どうしたの?」
私の前まで来ると、エレナは息つく間もないほどの勢いで次々と質問を浴びせてきた。
「もちろんです! お嬢様が外出されて戻ってこられたのですもの。お加減はいかがですか? 少しお体を診させていただいてもよろしいでしょうか?」
一方、ローズはキブリンをじっと見つめている。
「私に話したいことがあるって言っていましたよね。今なら話せますよ」
キブリンは緊張した面持ちでうなずき、それから私を振り返った。
「封印が解けた件は、私から説明します」
「……何の封印?」
ローズが不思議そうに首をかしげる。少しの不安はあったものの、ここはキブリンに任せることにして、私はエレナの後に従った。
エレナの部屋は、少し暑いくらいに暖房が効いていた。
私は他の椅子よりも少し低く作られた、自分専用の椅子へどさっと腰を下ろした。
(ああ、やっと緊張が解けた……)
診察道具を取り出していたエレナは、すっかりぐったりしている私を見て心配そうに眉をひそめた。
「冷や汗をたくさんかかれています。あまりご無理をなさらないでください」
「坂道で走りすぎたみたいです。もう大丈夫ですよ」
私は慌ててエレナを安心させるように笑ってみせた。
ワープの後遺症がまだ完全には抜けていないせいで、余計に体がつらく感じるのかもしれない。
デルなら一日に何十回ワープしても平気だったのだろうか。普通の鳥を不死鳥へと変えるほどの力を持っているくらいなのだから。
そう思うと、なんだか不公平な気がしてくる。
同じ蛇なのに、片や世界最強と呼ばれるほどの存在で、もう片やいつもひもじい思いをしているなんて。ここまで差がつくのは、あまりにも偏りすぎじゃないだろうか。
エレナは私を丁寧に診察した後、微熱があると告げた。
薬を飲んでしっかり休むようにと言われてしまっては、そのまま大人しく寝室へ向かうしかなかった。
(キブリン、ローズとちゃんと話せただろうか……)
気になって仕方がなかったけれど、体は重く、様子を見に行くことはできなかった。私は隣の部屋からキブリンが戻ってくる音がしないか、ベッドの中でじっと耳を澄ましていた。
ところがその後、ウィンターから直々に呼び出しがかかった。
向かった部屋にはウィンターが一人で待っており、その表情はどこか思い詰めているように見えた。
「君宛てに招待状が届いている」
「私に、ですか?」
ウィンターはテーブルの上に置かれた一通の書状を、私のほうへそっと押しやった。
「若い令嬢たちのお茶会に来てほしいそうだ。神殿が公爵家を見放したという噂が、もうかなり広まっている。おそらく、こちらの様子を探りに来いということだろう」
なるほど、一番つつきやすくて狙いやすい相手は私、というわけか。
事実なので、特に驚きはしなかった。ウィンターはすっと脚を組み、静かに言葉を続けた。
「さっき(皆の前で)言わなかった理由が気になるだろう? 君にも、我が家のことをきちんと知っておいてほしいと思ってね」
私は招待状を開こうとした手を止め、顔を上げた。
「ネクタリアン公爵家は、底知れない財力と強大な権力を持っている一方で……世間からはかなり評判の悪い一族として知られている」
「……へ?」
私は思わず目をぱちぱちさせた。
小説『悪女は金儲け以外興味がない』の記憶を辿れば、少し調べれば似たような話はいくらでも出てきたので、設定自体にそこまで驚いたわけではない。ただ、ウィンターがそれをあまりにも率直に、私に明かしてくれたことが意外だったのだ。
「リック(メネリク)はもともと家督を継ぐつもりがなく、若い頃は気ままな生活を送っていた。短い間だが、裏社会の街を支配していたこともある。私もそこで彼と知り合ったんだ」
「……っ」
(お母様、どうして急にそんな顔を赤くしているの……?)
ときめくポイントがそこなのかは置いておいて、ウィンターは話を戻した。
「とにかく、私のために当主になると決めてからは、彼なりに世間体を気にするようになった。……なのに、ある日また大騒ぎを起こしたんだ。私を侮辱した神官たちを、片っ端から捕まえて始末してしまってね。その一件以来、多くの貴族はリックのことを『狂人』だと思っている」
「……」
それだけのことをすれば、そう思われても仕方がない。
小説の中ではメネリクはただの脇役だったから実感はなかったけれど、まるで映画化できそうなほど壮絶な経歴である。
ウィンターは少し眉間にしわを寄せた。
「もちろん、私を見る周囲の目も大して変わらない。だから、君が私たちに失望するのではないかと心配だったんだ」
「どうして私が失望するんですか?」
私はウィンターの言葉に、思わず食い気味に聞き返した。
「身分を問わず、同年代との交友関係はとても大切なものだ。だが、ネクタリアンの名を背負っていれば、好意的な目だけを向けられることは難しい。王都へ行けば、多くの者が露骨に距離を置くだろう。私とリックが結婚し、子どもが生まれ、その子の嫁になる未来など……彼らは想像もせずに生きてきたのだから。……だからね、君が悪いわけでも、キブリンが悪いわけでもないんだよ」
なんてことだろう。
ウィンターがここまで丁寧に、我が家の暗部を説明してくれたのは、私がお茶会で周囲から冷遇されて傷つくことを心配していたからだったのだ。たとえ皆が私を避けたとしても、それは決して私のせいではないと、あらかじめ伝えて守ろうとしてくれた。
「お母様……」
胸がじわんと熱くなる。私は思わず、ウィンターの胸へと飛び込んだ。
「……いったい、どこでそんなに感動したんだ?」
ウィンターは戸惑ったような声を出しながらも、愛おしそうに私を抱き上げ、自分の膝の上に座らせてくれた。
「本当にお人好しなんだから。もし知らない人が可哀想なふりをして助けを求めてきても、絶対に相手にしてはいけないよ。おいしいものをあげると言われても、ついて行ってはだめだ。分かった?」
「はい! ご心配なく!」
元気よく返事をしてみたものの、ウィンターの心配は尽きないようだった。先ほどよりもさらに深刻な表情でぽつり、と呟く。
「やっぱり、護衛(ローズ)の護衛が必要だな……」
私はウィンターの膝の上でしばらく丸くなったまま、手元のお茶会の招待状を開いた。
主催者も参加者も、みな「神々の子どもたち」と呼ばれる有力貴族の令嬢たちだった。どうやら、このお茶会はずっと以前から定期的に開かれていたらしい。ネクタリアン家にはこれまで年頃の令嬢がいなかったため、お呼びがかからなかっただけなのだろう。
みんな私と同じくらいの年頃のはずだ。きっと、華やかに楽しくお喋りをするのだろう。
小さなテーブルを囲んで、少女たちが和気あいあいたのしそうに集まっている光景を思い浮かべる。ネクタリアン家と親しい家柄の子どもたちもいるようだし、それほど難しい相手ではないはずだ。
(ちゃんとやり遂げて、ウィンターを安心させよう!)
そう心に決めて、私はウィンターへ向けて明るく微笑んだ。
――しかし、結論から言うと、私のその予想は完全に外れることになる。
「王都のお祭りのほうが、見どころも多くて楽しいに決まっていますわ」
「昨年ソフィア様がおっしゃっていた言葉を、そのままお返しします! 『11年間の人生で、一番楽しかった』って、はっきり仰っていましたよね? 私、ちゃんと覚えていますもの!」
私は引きつった目で、目の前の二人の少女を見つめていた。
(ちょっと、なんであなたたち同士で激しく言い争っているの……!?)
ウィンターも私の扱い(周囲からの孤立)ばかりを気にしていて、まさか令嬢同士が目の前で内ゲバを始めるなんて展開は予想していなかったに違いない。
「うっ……そ、それは10歳のときの話です! 私ももう12歳になりましたのよ!」
ソフィアという名の少女は、私の顔色をちらちらとうかがいながら、どう弁明していいのかわからない様子でうろたえている。別に「王都のお祭りのほうが楽しい」って言っても、私は怒ったりしないのに。
「たった1年でそこまで考えが変わるとでも? 公爵様に気に入られたくて、本心を隠しているだけじゃありませんこと?」
マリンが容赦なく勢いよくまくし立てる。ソフィアは今にも泣き出しそうな顔になってしまった。
「ち、違います! 本当です! 今は公爵邸で開かれるお茶会や催しも、とっても楽しいんです!」
(……このままじゃソフィアお姉様が本当に泣いちゃう)
見かねて、私はようやく口を開いた。
「公爵領には、どんなお祭りがあるのですか?」
マリンがまた口を挟んでくるのを警戒したのか、ソフィアは私の質問にすがりつくようにして答えた。
「たくさんありますわ! 夏の夜空祭り、秋のぶどう収穫祭、冬の星祭りを、それぞれ一日ずつ開催して……それから……」
「うーん?」
私は小さく首をかしげた。
「たった一日ですか? それだけ?」
ネクタリアン公爵家の圧倒的な財力なら、一年中お祭りを開いていたとしても予算が余りそうなものなのに。
「建国記念日や、神殿の祝祭である万聖祭は、ここでは別に祝わないのです。だ、だから……」
ソフィアは私を一度見て、それからマリンを拒絶するようにちらりと睨んだ。
私はさらに、気になった別の疑問を口にしてみる。
「春にはどうして何もやらないのですか?」
花に関する華やかなお祭りを開くのに、一番ちょうどいい季節のはずだ。前世の記憶にある小説『悪女はお金持ちでなければ嫌』でも、確か花祭りが大人気だったはずなのに。
そのとき、それまで静かに戦況を見守っていた、参加者の中で最年長のスカーレットが静かに口を開いた。
「それには、深い事情があるのです、公女様。――ソフィアが申し上げた祭りも、もともとは一週間ほど続く盛大な行事でしたが、今ではかろうじて形式だけを保っている状態なのですわ」
財政の問題ではないはずなのに、一体なぜそこまで縮小されているのだろう?
理由を知りたいのに、むしろ謎は深まるばかりだった。
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1. ローズの護衛就任と、キブリン(デル)を巡る過去の謎
ローズが本名のまま護衛騎士となり、前世のキブリン(デル)に拾われた過去を語る。しかし、なぜキブリンが自分で不死鳥に変えたはずのローズを覚えていないのか、そしてキブリンが口にした「封印」とは何なのかという謎が残る。
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2. ウィンターの深い気遣いと、公爵家の壮絶な悪名
令嬢たちのお茶会の招待状が届き、ウィンターは公爵家が世間から「狂人」と恐れられる悪名高い一族であることを明かす。それは、お茶会で主人公が周囲から冷遇されても「決してあなたのせいではない」と守り、安心させるための気遣いだった。
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3. 予想外のお茶会と、公爵領の祭りに隠された奇妙な謎
周囲から避けられるかと思いきや、お茶会では令嬢たちが主人公の機嫌を伺うように身内揉めを始めてしまう。その会話の中で、圧倒的な財力があるはずの公爵領の祭りが、なぜか極端に縮小・廃止されているという新たな疑問が浮上する。