こんにちは、ピッコです。
「抱かれるたびに泣くくせに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
28話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 狂おしい執着の足跡
エーリッヒは、ただひたすらに度数の強い酒を煽り続けていた。
ろくに眠ることもなく、皇帝との重要な会議の最中でさえ、ぼんやりと上の空で虚空を見つめている。まるで、その頑強な肉体から少しずつ魂が抜け落ちていくかのようだった。
静かに、しかし確実に崩れていく主人の姿を見て、側近のサジャルは深く胸を痛めていた。だが、今の彼にできることといえば、ただ無力に気遣いの言葉をかけることだけだった。
「閣下、まだこちらにいらしたのですか……せめて少しだけでもお体をお休めください」
「……眠れないのだ」
エーリッヒはサジャルの心配をそっけなく受け流すと、黙って手を差し出した。新たな報告書を求めるその様子に、サジャルは諦めたように重いため息をつく。
エーリッヒは、クレセンティアの行方を執拗なまでに追い続けていた。誰にも気づかれぬよう、細心の注意を払って。
彼女が屋敷を出たその瞬間から、その足取りを一つ残らず把握していた。密偵である『獅子』たちは、大公妃がカローラ海を渡ったことも、レギナの港に到着したことも、さらには現地の伝道商会へ立ち寄ったことまでも、すべて調べ上げて彼に報告していた。
世間は、大公が大公妃を忘れたのだと噂していた。去った彼女に対して、表向きには何の追跡も見せず、無関心を装っていたからだ。
だが、現実はまったく違っていた。
エーリッヒの執着は、日を追うごとに狂気を帯びていた。彼女の些細な行動、一挙手一投足のすべてを知らなければ、呼吸すら満足にできない。大公妃が港に着いてすぐ、風に飛ばされた少女の帽子を拾ってあげたこと、伝道商会へ向かう途中で温かい飲み物を買って口にしたこと――そんな瑣末な報告を聞いて、ようやく彼は狂いそうな心をかろうじて繋ぎ止めているのだった。
「……ホテルにも立ち寄ったのか?」
報告書をめくるエーリッヒの手が、あるページで止まる。獅子は、主人の問いを予期していたように静かに答えた。
「はい。かつてのロドビニ王朝の王宮を改装したホテルだそうです。ですが宿泊はされず、少し立ち寄られただけのようです」
「そうか……」
エーリッヒは書類を見つめたまま、深い物思いに沈んだ。
彼は、ただただ彼女の影を追い続ける。
クレセンティアが自分のもとを去ってから、エーリッヒは何度も自らの理性に言い聞かせようとしていた。
『クレセンティアは去った。ならば、もう追いかけるべきではない。彼女の望むまま、自由にしてあげるべきだ。それこそが彼女の幸せなのだから』と。
だが、心の奥底では、引き裂かれるような悲鳴が絶えず木霊していた。
『クレセンティアなしで生きられるはずがない。彼女の顔を、あの愛らしい笑顔をもう一度見なければ、私は陽の光を奪われた植物のように、ただ枯れ果てて死んでしまう』
エーリッヒはそんな己の弱さを自嘲した。
しかし、今の彼はまさにその通りに、見る影もなくやせ細り、生命の光を失いかけていた。
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「ここが……博物館になっているのね」
クレセンティアは、目の前にそびえ立つ建物を見上げ、やるせない感慨を抱いていた。
丸いドーム状の屋根を持つ象牙色の建物。それは、彼女の父であるロドビニの先代国王が、かつて別荘として愛用していた場所だった。
レギナのチェカレル地区に到着した彼女が、真っ先に足を向けたのがここだった。
父が亡くなって以来、母が思い出をそのまま残したいと出入りを禁じていたため、もう二度とこの敷地を踏むことはないと思っていた場所。だが今、その重厚な扉は広く一般に開放され、観光客たちが賑やかに言葉を交わしながら、何気なく中へと吸い込まれていく。
「王宮がホテルになっただけでなく、ここが博物館に……」
クレセンティアは寂しげな笑みを漏らし、ぽつりと独り言ちた。かつて自身の世界そのものだった場所が、今や他人のための観光地に成り下がっている事実は、彼女の胸を容赦なく締め付けた。
「ティア、入場券だよ」
「……うん。ありがとう、ヒルダ」
クレセンティアは差し出されたチケットをぼんやりと見つめた。
少し前まで自分の家だった場所に入るために、今では入場券を買わなければならない。その奇妙な現実が、彼女の心を言い知れぬ虚しさで満たした。
『頭では分かっているはずなのに』
すべてを受け入れたつもりだった。ロドビニ王朝が滅び去ったという現実は、帝国にいる間も耳にタコができるほど聞かされてきた。自分なりに覚悟を決めて戻ってきたつもりだったのだ。
だが、それは甘い思い違いにすぎなかった。生まれ育ったレギナの地に戻り、無惨に変貌してしまった現実を直視するたび、彼女の心は激しく揺さぶられた。
「ティア、お墓参りの前に、少しここを見ていく?」
「ええ、そうね」
クレセンティアはヒルダの提案にうなずいた。
本当は、真っ先に家族の眠る墓所へ向かうつもりだったが、この別荘を目にして素通りすることはどうしてもできなかった。
二人は観光客の列に混じり、静かに館内へと入った。ちょうど博物館では、王朝の遺物を集めた特別展示が開催されているようだった。
「見て、本当に綺麗……! ピンクダイヤモンドですって」
「まあ、素敵。大公妃がこれでプロポーズされたっていう、あの有名な宝石かしら?」
廊下を歩いていたクレセンティアの耳に、観光客たちの華やいだ話し声が届いた。
反射的に声のした方へ視線を向けた瞬間、彼女は息をのんだ。
『天使の光』――。
それはかつて、エーリッヒが彼女にプロポーズした際、熱烈な求婚の証として贈った、あの奇跡の宝石だった。
展示室の頑丈なガラスケースの中で、それは何事もなかったかのように冷ややかに輝いていた。
クレセンティアは思わず自らの口を手で覆い、その場に縫い付けられたように立ち尽くした。
『どうして……これが、こんなところに……』
滅びた王朝の遺品として、帝国に没収されたはずの至宝が、今やただの展示物として晒されている。
淡いピンク色のダイヤモンドは、あの日と少しも変わらないまばゆい輝きを放ち、周囲の羨望を集めていた。
変わってしまったのは、あの頃のすべてを失ったクレセンティアのほうだった。
純真で輝きに満ちていた王女は、今や亡国の生き残りとなり、その特徴的なプラチナブロンドを隠すために地味な色に髪を染めている。かつて自分のものだったはずの輝きを、入場券を払って、ガラス越しに一人の見学者として眺めることしかできない。
『レギナの星に、エヴァルトの光を捧げます』
エーリッヒの、あの低く、熱を帯びた優しい声が、突如として耳元に蘇る。
跪き、自分の手の甲に愛おしそうに口づけを落とし、甘く囁いていた美貌の大公の姿が、脳裏に鮮明に描き出された。
『王女殿下、どうか私の妻になっていただけますか?』
澄み切った黄金色の瞳がクレセンティアを射抜き、世界で最も美しい男が、自分だけに向けた特別な微笑みを湛えていた。
王女は初恋の甘いときめきに頬を染め、夢心地のままその手を取ったのだ。
そして、私たちは――。
(これ以上、考えてはダメ……!)
クレセンティアは強く目を閉じ、かぶりを振った。
心臓が破裂しそうなほど激しく脈打つ。彼女は下唇を血がにじむほど噛みしめた。
すべては過ぎ去った、偽りの幻影だ。
彼との幸福な未来を夢見たことも、愛されていると信じ込んでいたことも、そして――無惨に裏切られたことも。
「ティア? どこへ行くの、ティア!」
クレセンティアは身を翻すと、逃げ出すように出口へと向かって走り出した。
背後から追いかけてくるヒルダの声が聞こえたが、振り返る余裕などなかった。これ以上この場所に留まれば、過去の甘い毒に引きずり戻され、二度と立ち上がれなくなってしまう。
「ティア、待って!」
「……ねえ、ヒルダ。見た?」
追いついたヒルダに対し、クレセンティアは震える声で問いかけた。
ヒルダは当惑しながらあたりを見回し、ガラスケースの中の『天使の光』を見つけると、ハッと息をのんだ。
「展示会に、あれまで並べられていたなんて……知らなかったわ。どうして今日に限って、こんな……」
「早く出ましょう。ここにいたくないの」
クレセンティアは込み上げる涙を必死にこらえ、絞り出すように言った。
胸の奥が、引き裂かれるように痛かった。
今にも泣き出しそうな親友の表情を見て、ヒルダはそれ以上何も言わず、静かにうなずいた。
こうして、クレセンティアは追われるように博物館を後にした。
『「天使の光」を見るたびに、レギナの人々が私のことを思い出してくれますように』
かつて、祝福の紙吹雪が舞う結婚パレードの中で、無邪気に笑っていた王女の歌うような声が、冷たい風の中に消えていった。
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誰もが深い眠りについた、静まり返った深夜。
冷え切った大公邸の廊下を、おぼつかない足取りで歩く男の姿があった。
男の手には、琥珀色の強い酒が並々と入ったボトルが握られていた。月明かりが差し込む窓辺で、エーリッヒは立ち止まり、苦しげに顔を歪めて酒を煽った。
灼熱の液体が喉を焼き、胃へと流れ落ちる。
しかし、エーリッヒの表情に酔った兆しは微塵もなかった。あまりにも強い酒を絶え間なく飲み続けたせいで、彼の身体はもはやアルコールに狂うことさえ拒絶していた。
彼が酒を飲む理由は、ただ一つ。
忘れるためだった。どうしても脳裏に焼き付いて離れない、あの愛しい面影を、一瞬でもいいから消し去りたかった。
「……ふぅ」
エーリッヒはふらつく身体を壁に預けながら、かつて大公夫妻の寝室だった部屋へと向かった。
主人が夜な夜な邸内を徘徊していることは使用人たちの間でも周知の事実であり、この時間に廊下を通る者は誰もいない。だが、たとえ誰に見られようと、今の彼にはどうでもいいことだった。
今の彼を止められる人間など、この邸内にも、この広い帝国にも、もう誰一人として存在しないのだから。
寝室の前に立ち、冷たい真鍮のドアノブを回す。
誰もいない静まり返った寝台の脇を通り抜け、彼は迷わずドレスルームの扉を開けた。
「ティア……」
誰もいない空間に向けて、かすれた声で彼女の名を呼ぶ。
エーリッヒはクローゼットを開けると、狂ったように手当たり次第にドレスを取り出していった。何かを探しているかのようだったが、実際には、ただ彼女の痕跡に触れたいだけだった。
床に色とりどりのシルクやレースが散らばった頃、ようやく彼の動きが止まった。
エーリッヒの視線が、胸元に小さな茶色い染みのついた、ライラック色のドレスに留まる。
彼はそれを、壊れ物を扱うようにそっと抱き上げた。
ふんわりとした布地を胸いっぱいに抱きしめると、彼の憔悴しきった顔に、痛々しいほどの微笑が浮かんだ。
彼はこのドレスをよく覚えていた。
初夏の風が吹くガーデンティーパーティーで、彼女が恥ずかしそうに着ていたものだ。
エーリッヒは虚ろな黄金色の瞳をゆっくりと巡らせ、床に散らばるドレスを一着ずつ見つめた。
あちらのドレスは、彼女がよく庭園を散歩するときに好んで着ていたもの。
そちらは、仕立て屋を呼んで新調したばかりの服。
そして――手元にあるこれは、あの温室で、泣きじゃくる彼女を初めてこの腕に抱きしめた日に着ていたドレスだ。
酒で混濁していく意識の中で、それぞれのドレスを身にまとって優雅に、あるいは悲しげに佇むクレセンティアの姿が、鮮やかに再生される。
皮肉なことに、どれほど酒を流し込んでも、彼女に関する記憶だけは、まるで昨日のことのように鮮明に脳裏に浮かび上がるのだった。
だが、思い出の中のクレセンティアは、いつも悲しげな瞳をしていた。
彼に抱きしめられている時でさえ、その頬には涙が伝っていた。
振り返れば振り返るほど、エーリッヒ・フォン・ペテールという男は、取り返しのつかない愚か者だった。
だからこそ、彼女は自分に絶望し、去っていったのだ。
「……はは」
乾いた唇から、かすれた自嘲の笑いが漏れる。
エーリッヒはクローゼットの扉にもたれかかるようにして、その場に崩れ落ちた。
ライラック色のドレスに顔を埋め、深く、深く息を吸い込む。
かすかに残る、彼女の甘い香り。その微かな残り香を、少しでも肺の奥深くに留めようと、彼は必死に呼吸を繰り返した。
だが、抱きしめる布地は柔らかくとも、あまりにも冷たかった。
かつて自分に温もりを与えてくれた、愛しいクレセンティアの代わりには、到底なり得ない。
『クレセンティア、クレセンティア。
お前は私に、探さないでくれと言った。
だから私は、お前の望む通り、必死にこの足を押し留めている。
お前の最後の言葉を、こうして愚直に守っている。
だけど、すまない。
お前を忘れて生きることだけは――私にはどうしてもできないのだ。
お前を失った世界で、お前を忘れることなど、死ぬよりも不可能なのだから』
エーリッヒは、暗闇の中で大きな身体を丸め、一人、声を殺して咽び泣いた。
また一つ、狂気と痛みに満ちた夜が、彼をなぞるように過ぎていく。
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傷つき衰えていくエーリッヒの執着と密かな追跡
クレセンティアが去ってから、エーリッヒは心を病み、強い酒に溺れて見る影もなくやせ細っていた。表向きは彼女を忘れたように装いつつも、裏では密偵を放ち、彼女が港に到着して飲み物を買ったという些細な行動まで執拗に把握し続けていた。
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変わり果てた故郷で過去の愛に直面するクレセンティア
かつての祖国レギナに戻ったクレセンティアは、別荘だった場所が博物館に変貌している事実に直面する。さらにその館内で、かつてエーリッヒからプロポーズの際に贈られた思い出の宝石『天使の光』が展示されているのを目撃し、裏切られた過去の痛みに耐えかねてその場から逃げ出してしまう。
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彼女の残り香にすがる孤独な夜と、守れない「忘却」の約束
誰もいない深夜、エーリッヒは彼女のドレスルームに侵入し、思い出の詰まったドレスを床に散らかしながら、かつて着ていたライラック色のドレスを抱きしめる。「探さないで」という彼女の望みは守りつつも、「あなたを忘れて生きることだけは絶対にできない」と、暗闇の中で悲痛に涙を流す。