影の皇妃【２３９話】ネタバレ

メインホールで降りる階段にエレナが登場すると、拍手の声が溢れた。

「本日ファッションショーにお越しいただいた貴賓の皆様にご挨拶申し上げます。Lです」

エレナは胸に手を当てて上半身をかがめて持ち上げる。

「たぶんファッションショーに不慣れな方が多いと思います。しかし、それも過程だと思います。今日を基点にファッションショーはサロンを象徴するイベントとして皆様にアプローチします。では早速始めてみましょうか？」

エレナはファッションショーについて遅々として説明しなかった。

百の言葉より、目で一度見た方が確実だから。

エレナが退場し、シャンデリアの明かりが消える。

真っ暗なメインホールで唯一ランウェイ周辺にだけ光が留まっており、人々を集中させた。

楽団の協奏が始まって間もなくランウェイの端から仮面をかぶった男女が、高慢ながらも優雅な歩き方で歩いてきた。

自信のある歩き方で、ランウェイを埋めた貴賓たちを横切って一番端まで歩いていくと、軽くポーズを取って後ろに戻ってしまう。

初めて経験する珍しい風景に貴賓たちは瞬きする。

しかし、そのような戸惑いも束の間、貴賓たちはあっという間にファッションショーの魅力に浸る。

目が離せないモデルのウォーキング。

感嘆が自ずと出てしまうクリスティーナの新作衣装。

最後に、このファッションショーに招待されたという特別感まで。

貴賓たちの反応は、エレナの予想をはるかに上回るほど熱狂的だった。

「成功ね」

エレナはフィナーレのためにランウェイに全員上がったモデルとクリスティーナに拍手を送った。

無謀かもしれないエレナの意見を尊重し、ファッションショーを受諾して準備したクリスティーナの苦労に感謝したいからだ。

「本日はこの場を設けてくださったLに感謝の言葉を申し上げ、この場にお迎えしたいと思います」

クリスティーナがLを指名すると、貴賓たちは拍手で歓迎した。

リハーサルの時から予定されている状況であるだけに、エレナは自然にランウェイに上がる。

今日の成功を祝う祝辞で口を開いたエレナは、ファッションショーに盛り込もうとした意義を切り出した。

「ファッションショーは首都、ひいては帝国の流行を先導するでしょう。ランウェイを闊歩するモデルの皆さん、とても美して素敵じゃないですか？」

貴賓たちが頷く。

クリスティーナの新商品もすごかったが、そのような作品をさらに輝かせたモデルたちの功労も無視できない。

エレナは笑顔でランウェイの上でポーズを取っているモデルたちをチラリと見た。

「モデルさんの中には平民もいれば貴族もいます。身分を離れて誰もが望むならランウェイに上がることができます。サロンではモデルを正式な職業として育成する計画です」

あちこちから感嘆の声が沸き起こる。

モデルたちの身の上に関する疑問をエレナが乗り出して解消してくれたのだ。

同時に、今まで存在しなかった職業に対する話題を投げかけた。

「私もランウェイに立ってみようか？みんな私に注目して見つめてくれれば、すごく刺激的だと思うけど」

「モデル？職業な収益はどのくらい？」

「簡単なことではないだろう。衣装を生かすためには歩き方や服に専門性も生かさなければならないし。体の管理もしなきゃいけないから・・・」

それぞれ考え方は違っていたが、不慣れなモデルという職業に対する第一印象は好意的だ。

エレナが望んだ身分を超えた和合と正確に一致した反応。

このようなサロンならではの自生力は、文化の中心地として確固たる基盤になるだろう。

大公家でさえ無闇にできないほど固いルーツだ。

（ベロニカ、あなたは今頃どんな表情をしているのかしら？）

エレナは勝者の笑みを浮かべた。

「そこ」

鏡の前に立って横髪を触っていたベロニカの鼻歌が止まる。

身なりを整えていた侍女たちが緊張した。

「ドレスの裾が折れてるじゃない？」

「あ・・・、す、すぐに伸ばします」

侍女は必死になってドレスの裾を広げる。

しかし、シワは直らない。

「申し訳ありません。全部私のミスです。二度としません。どうか、一度だけ許してください」

侍女は青ざめた顔でひざまずき祈った。

数日前、ある侍女が些細なミスで四日間タンスに閉じ込められ死にそうになったのを目撃し、さらに切実だった。

「運がいいわね。今日みたいな日はちょっとしたことで気にしたくないから」

「あ、ありがとうございます。二度とこのようなことがないようにします」

ベロニカの許しに侍女は頭を下げる。

周辺にいた侍女たちも一度も見たことのないベロニカの寛大さに驚いた様子が歴然だ。

ベロニカは再び鼻歌を口ずさみながら髪を撫でた。

今日に限って特に気分が良さそうだ。