こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

89話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ミスティック商団
ラシードは窓辺に立ち、シアナが去っていく姿を見守っていた。
「体格は小さく、足も短いのに歩くのが本当に速いな。」
まるで短い足で素早く動くリスのようだった。
「かわいいな。」
ラシードはくすくす笑った。
そんなラシードをすぐそばでじっと見つめている人物がいた。
それは護衛騎士のソルだった。
ソルの顔は、何か信じられないものを目撃したかのような表情で曇っていた。
ソルは長年ラシードに仕えてきた従者であり、さらに戦場までも共にしてきた人物だった。
そのため、ラシードの人生の大部分を見守ってきたと言っても過言ではない。
「血の皇太子」と呼ばれる異名とは裏腹に、ラシードは-穏やかだった。
怒りを露わにすることもなく、言葉遣いも穏やかだ。
しかし、それはただの外見にすぎなかった。
「実際には、人間として何かに縛られることを嫌うほど冷静だ。」
ラシードは、人々に対して一抹の愛情も持ち合わせていなかった。
何の躊躇もなく相手の首を切れるほどに。
そんなラシードが、シアナと一緒にいるときだけは、まるで普通の人間のように見えた。
「いや、それでも普通と言うには無理がある。整った顔立ちの男が、あんな風に子犬のような顔をすることなんて滅多にないだろうからな。」
ソルは複雑な表情で尋ねた。
「陛下、シアナ様のことがそんなにお気に入りなのですか?」
ラシードは、一切の迷いもなく顎を軽く動かして答えた。
「うん。」
ラシードは目を伏せて話を続けた。
「驚くほどだよ。どうしてこんなにかわいいのか。」
「……」
「毎日おいしいものを食べさせたい。抱っこして膝に乗せて頭をなでてあげたり、退屈したら肩に乗せて散歩に行きたい。そしたら本当に楽しいだろうな。」
夢見るような顔で気が緩んだラシードの言葉を聞きながら、ソルは目を細めてじっと見つめた。
「シアナ様を見て考えることがそれだけですか?」
「それだけ?」
ラシードは目をぱちくりとさせてソルを見つめた。
まるでそれ以外に何があるというのか、とでも言うような表情で。
そこには、まるで動物を愛おしく思うような純粋な感情しかなかった。
ソルはその言葉を簡単には信じられずに尋ねた。
「一つだけお伺いします、陛下。もしシアナ様が宮殿を出て行きたいとおっしゃったら、どうされますか?」
不意をつかれた質問に、ラシードの目が微かに変わった。
ラシードは冷ややかな目で問い返した。
「それはどういう意味だ?」
「いえ、それは仮定の話です。シアナ様はもともと公主でいらっしゃいましたから、何も言わずとも宮女として生活することが窮屈に思われるのは当然のことです。いずれ城を出て行きたいとお思いになるのではないでしょうか。」
「……」
シアナはラシードの助力を借りて皇宮の宮女となった。
そのため、シアナには他の宮女たちにはない制約があった。
シアナが宮女を辞め、皇宮を去りたいと思えば、ラシードの許可が必要だった。
ソルは、そのような時が来てもラシードが平然とシアナを送り出せるのかと尋ねているのだった。
「……」
ラシードはいつの間にか自分の肩に乗ってきた小さな動物たち3匹(白いフェレット、ハムスター、鳥)を眺めていた。
ラシードは自分の気に入った動物を見つけると愛情を注いだ。
そっと見守り、大切に扱った。
そして必ず守ることが一つあった。
小さな動物たちを決して束縛しないこと。
ラシードは動物たちの首に紐をつけたり、宮殿の窓を閉めて彼らを閉じ込めるようなことはしなかった。
彼らが望むなら、どれだけでも外の世界へ飛び立てるように。
とはいえ……
ラシードは目を伏せて言った。
「シアナが宮殿の外へ出たいと望むなら、送り出してやらなければならない。」
「本当にですか?」
と尋ねようとしたソルは、思わず口を閉ざした。
ラシードの表情が一瞬険しく変わったからだ。
「ああ……」
不用意な発言でラシードの気分を損ねてしまったかもしれないと考えたソルは、目を細めて視線を落とした。
それでも幸いだったのは、自分の発言がどこまでいっても「もしも」という仮定の話であったことだ。
「シアナ様がいきなり皇宮を出ていくとおっしゃることなど、きっとないだろう。」
シアナは滅びた王国に対して何の未練も見せたことがなかった。
詳しい事情は分からないが、シアナが自分の祖国に特別な愛情を抱いていないことは明らかだった。
それどころか、シアナは皇宮で宮女として過ごすことをそれなりに満足しているようだった。
「仕える公主様が皇太后に寵愛され、さらには短期間で中級宮女に昇進したのだから、それも当然のことだ。」
滅びた王国の公主として死ぬか、監獄に入れられるよりも、はるかに良い状況だった。
とはいえ、変数はある。
たとえば、誰かが現れてシアナを公主として迎え入れ、極めて手厚くもてなしたいと言った場合には……。
「まさか、そんなことが。」
ソルは不吉な想像をかき消そうと頭の中で無理やり押し込めた。
・
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帝国の首都へ向かう道中。
豪華な馬車の中には、二人の男女が座っていた。
「ミスティック商団」の商団主の娘キャロラインと、その弟キルアンだった。
くるくると巻かれたオレンジ色の髪を持つキャロラインが目を細めて尋ねた。
「キルアン、またそれを見ているの?」
姉とそっくりなオレンジ色の髪を持つキルアンが見つめていたのは、懐中時計の中に収められた小さな肖像画だった。
肖像画には、丸みを帯びた顔立ちと純粋なエメラルド色の瞳を持つ少女が描かれていた。
その少女は、今や滅びた王国の公主、シアナだ。
キャロラインが鼻を鳴らし、少し皮肉を込めて言った。
「もういい加減にして。アシルロード王国が滅びたその日、シアナ公主は死んだのよ。」
キルアンは猫のように鋭い目を光らせた。
「シアナ公主様は死んでいない!」
「そうね。遺体が発見されていないのは確かだわ。」
公式には、シアナ公主は行方不明とされていた。
しかし、キャロラインはシアナ公主が死んだと考えていた。
「王でさえまともに逃げられず死んだのよ。弱い公主なら尚更言うまでもないわ。」
だが、弟のキルアンは全くそう考えていない様子だった。
「アシルロード王国にまで人を送り込んで公主を探させたけれど、全く成果はなかったわ。」
キャロラインはため息をつき、愚かにも未練を捨てきれない弟を見つめた。
「キルアン、あなたがシアナ公主に特別な感情を抱いていることはわかるわ。でも……。」
キャロラインは自分をじっと見つめるキルアンの瞳に視線を戻した。
キャロラインはキルアンの額を軽くつつきながら言った。
「私たちは遊びにここへ来たわけじゃないのよ。宴会に参加して帝国の皇室と親交を深めるために来たの。」
「……」
「シアナ、シアナって。そんなことばかり考えていて、何か困った状況でも作り出したら、絶対許さないからね。分かった?」
姉の言葉に、キルアンはまるで野生の猫のように鋭く顔を上げた。
キルアンは苛立った声でキャロラインの手を払いのけ、叫んだ。
「心配いらないよ。そんな失態を犯すほど俺は間抜けじゃない!」
そう話しながらも、キルアンの両手はシアナの肖像画をしっかりと握りしめていた。
キャロラインは言葉を失ったように眉を寄せ、彼を見つめた。
キルアンはそんな姉から視線をそらし、再び懐中時計の中に収められた肖像画を見つめた。
小指ほどの小さな肖像画の中のシアナは、微笑んでいた。
まるで何の心配もないかのように、穏やかで柔らかな表情で。
かつて刃物のように鋭かったキルアンの表情は、今では悲しみに満ちていた。
「シアナ公主様、一体どこにいるんですか……。」
キルアンはシアナが生きていると信じていた。
その信念の半分は、シアナが決して死ぬはずがないという確信から、もう半分は直感から来ていた。
幼い頃から、キルアンの直感は驚くほど的中することで知られていた。
姉のキャロラインでさえ「馬鹿にしていたけれど、直感だけは確かなものがあるのね」と認めるほどだった。
しかし、いくら探してもシアナの手掛かり一つ見つからない現状に、不吉な思いがキルアンの心を覆っていた。
「戦争中に奴隷商人の手に渡り、どこかの国で奴隷として売られてしまったのではないだろうか。」
ボロボロの服を着て傷だらけになり、目に涙を浮かべながら働いているシアナを思い浮かべると――。
その瞬間、キルアンの顔色が青ざめた。
「シアナ公主様!」







