シンデレラを大切に育てました【１３６話】ネタバレ

リリーはフレッドの要求に唇をかんだ。

馬車はある。

ウィルフォード男爵の馬車は全部で2台。

1台は2人乗りで、もう1台は4人乗りで、さっきお母さんが乗って出かけたのは二人乗りだった。

だから4人乗りの馬車が残っているだろう。

しかし、彼女はフレッドが馬車を要求した理由を知っていた。

アシュリーを引っ張っていこうとしているのだ。

絶対にそうするわけにはいかない。

彼女はフレッドをにらみつけて言った。

「お金は払える。でも馬車はない」

リリーはそう言いながらアンナを見る。

彼女が時間を稼いでいる間、早く行って人を呼んで来いという合図だ。

幸い、アンナは彼女の合図に気づき、後ずさりして引き下がり始めた。

「動くな！」

「あああっ！」

しかし、アンナの動きに剌激されたフレッドがアシュリーの首にナイフを押し付けながら叫んだ。

それと同時にアシュリーが悲嗚を上げ、後ずさりしたアンナも驚いて悲嗚を上げる。

「アシュリーに手を出すな！」

リリーは驚いて叫んだ。

アシュリーの首に傷一つでもつけてみろ。

彼女はフレッドをにらみつけ、すぐに言い訳をした。

「アンナはあなたが要求したお金を取りに行くだけだ」

「馬車は！」

リリーはフレッドの叫び声に唇をかみしめて言った。

「今残っている馬車がない。馬車に乗るためには外に出て呼んでこなければならない」

「嘘つくな！」

フレッドはリリーの言葉を嘘だと思って叫んだ。

この家がどれほど裕福なのか、耳にたこができるほと自慢話を聞いている。

それがほら吹きだとは思わなかった彼は、当然バーンズ家の馬車が数台だろうと思っていた。

「ほ、本当です」

フレッドに捕まったアシュリーは涙ながらに言った。

彼女も家に4人乗りの馬車が残っていることを知っていたが、リリーが嘘をつくのには確かに理由があると思った。

彼女はリリーを助けるためにすすり泣き続ける。

「本当に馬車はありません。朝、男爵様とお母様がそれぞれ乗って出て行ったんですよ」

アシュリーの言葉にフレッドはしばらく言葉を失った。

この家に馬車がないって？

彼はしばらくリリーを見つめ、すぐに正気に戻った。

こんな場合ではない。

「じゃあ、馬車を呼んでこい！早く！」

「呼んでくるよ、呼んでくるからちょっと待てって」

「呼ばないで何してるの？早く呼んできて！」

リリーはフレッドの叫び声にとんでもない顔をする。

アンナは人々の助けを求めて出かけた。

ここからリリーまで馬車を呼んで出て行ってしまうと、温室にはアシュリーとフレッドだけが残る。

彼女はフレッドとアシュリーだけを残すつもりはなかった。

「私はアシュリーをあなたと二人きりで置いていくつもりはない」

「リリー！」

リリーの言葉にアシュリーは驚いて叫んだ。

彼女も安全に出かけてほしい。

しかし、一方ではリリーが自分をこの男と二人きりで置いていかなくて安心した。

「アシュリー！」

その時、温室の外でアイリスが叫んだ。

彼女は走って行ったアンナに知らせを聞いて走ってきたが、使用人たちが止める。

「お嬢さん、大丈夫ですか？」

ルーインは他の使用人たちにアイリスを預けた後、温室に入ってきてアシュリーに尋ねた。

彼女はフレッドに捕まり、青白い顔でうなずく。

同じ時刻、ミルドレッドとダニエルが乗った馬車は市内を走っていた。

家に帰るには少し時間がかかる。

ミルドレッドは固い表情で窓の外を眺めていた。

家には人が多い。

シェフを含めてダニエルの使用人だけで3人、執事、下女まで2人で、計6人だ。

だから子供たちは安全だろう。

しかし、それでもフレッドが約束の時間が過ぎても約束の場所に来なかったということがもやもやした。

単純に用事ができて出られなかったのか。

彼女はダニエルにそのように聞くつもりだった時。

ダニエルの顔が突然こわばった。

彼はミルドレッドの手を取り、静かに言った。

「家に用事ができたようです」

「仕事ですか？どうしたんですか？」

「わかりません。でも・・・」

絶望が感じられる。

小さくてかすかだったが、誰かの絶望だ。

ダニエルは以前にも家で誰かの絶望を感じたことがあった。

ガーシンがあまりにも煮詰めて硬くなったジャムを作った時だった。

幸いなことに、材料はもっと残っていて、彼は誰かが気づく前に硬くなったジャムを捨てて新しく作ることで絶望を振り切った。

ダニエルはガーシンの話をして付け加える。

「今回も料理人かもしれませんが・・・」

子供たちの一人かもしれない。

ダニエルがどうしても言えない言葉に気づいたミルドレッドの顔が青ざめた。

どうしよう？

馬車はまだ町を通っている。

ダニエルはミルドレッドがここがどこなのか確認するのを見て、彼女の手を握った手に力を入れた。

それを感じたミルドレッドは彼の方を振り返る。

「今すぐ家に帰りましょうか？」

「行けますか？」

あるのならすぐ行かなくちゃ！

ミルドレッドの激しい反応にダニエルは苦笑いした。

彼はミルドレッドを引っ張りながら言った。

「こちらへどうぞ」

こちらへ？

ミルドレッドは彼がとのようにしようとしているのかも知らずに、子供たちの心配にさせる通りにダニエルの膝に座った。

彼はミルドレッドを抱きしめながら言った。

「ちょっと目眩がするでしょう」

次の瞬間、馬車の中ががらんとした。