こんにちは、ピッコです。
「シンデレラを大切に育てました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

180話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ケイシー侯爵家⑧
「結婚しないで、どうやって生きていくつもりなのですか?」
「神殿の侍女たちは、結婚せずに生きています。」
「侍女になるおつもりですか?」
「いいえ。画家になります。」
ジェネビーブの目が見開かれた。
彼女はあ然としてリリーを見つめたが、リリーはにっこり笑って言った。
「そんな冗談はやめてください、バンス嬢。」
「いいえ、ケイシー侯爵夫人。本気です。絵の勉強をしていて、私の絵を販売しています。母も、私の絵が売れれば認めると言っていました。」
頭がくらっとして、ジェネビーブは思わず額に手を当てた。
画家になるって?貴族の娘が?ケイシー侯爵夫人になるべき女性が?
彼女は無意識に尋ねた。
「ダグラスもこれを知っているの?」
「はい。」
その時になってようやく、ジェネビブはダグラスが最近リリーの絵に興味を持つようになったという話を思い出した。
どうやらギャラリーからの招待も一度も断らず出席していたとか。
フィリップ・ケイシー伯爵がリリーの小さな絵を買ったという話も聞いたことがある。
どんな理由でその絵を買ったのかはわからないものの、そのことで周囲の貴族令嬢たちが驚いたという様子だ。
「画家になるからダグラスのプロポーズを断ったの?」
少し気持ちが落ち着いたジェネビーブは、理解したというように尋ねた。
画家になるという理由でダーグラスにプロポーズを拒絶したのかと思ったようだ。
しかし、リリーは首を横に振りながらその言葉を否定した。
「いいえ。ただ結婚する気がないんです。結婚しなければならない理由がわからないんですよ。」
また何を言い出すのか?
ジェネビーブの目が再び大きく見開かれた。
彼女は口を開けたまま言葉が出てこず、しばらく呆然とした表情を浮かべていた。
そして少し間を置いた後、喉が詰まったような声で尋ねた。
「理由がわからないですって?それは一体どういう意味?」
どれだけ驚いたのか、彼女はリリーに敬意を示すことさえ忘れていた。
しかし幸いにもリリーはそのことを気にせず、落ち着いた様子で言った。
「結婚したら絵を描くのに支障が出ますよ。家事もしなければならないし、夫の世話もして、子供を産まなければいけないかもしれない。最初から結婚しなければ、そんな面倒なことをしなくて済むんです。」
「何を言っているの……?」
とんでもないことを!
ジェネビーブはそう言いかけて止まる。
リリーの言葉は、結婚したくないという独身主義の若者がよく言う理屈と似ていたのだ。
結婚するなら家庭を築かなければならない、それが面倒だというのか。
ダグラスの甥もまた、家に閉じこもり妻と向き合うことや子供を養うことが嫌だと言っていたことを思い出した。
最初から結婚しなければ、そんな面倒なことをしなくて済むという無責任な意見に、まだまだ未熟だと思わざるを得ない。
しかし、彼女の甥が成熟していないだけだと断定するのは難しい。
物足りなさを感じる男性たちは、どのみちそのような考えを抱きがちである。
一方で、リリーはそうではなかった。
彼女は裕福でもなければ、結婚が嫌だからしないというわけでもない。
それほど条件が悪いわけでもなかった。
もしジェネビーブが性格の悪い人物であれば、リリーの発言に反感を抱き、皮肉を言ったかもしれない。
だが、彼女はそのような無礼な態度を取ることはなく、また、その資格もなかった。
「バンス嬢、女性が結婚せずに一人で生きていくのはとても大変なことですよ。先にその道を歩んだ先輩が言う言葉だと思って聞いてください。どんなに優れた女性でも、男性の保護を受ける必要があるものです。」
ジェネビーブの言葉はリリーの反感を引き起こした。
どんなに優れた女性でも、男性の保護を受けるべきだという考えに、リリーは強い違和感を覚える。
保護を受けるべきだって?
世界で最も優れた女性ですら、彼女の母親は男性の保護という枠組みにとらわれている。
そして、もう一人の優れた姉についても同じだ。
リリーがダグラスにリアンが「王子様」だという話を聞いた時、彼女は世の中のすべての男性に失望した。
「王子様」になるような男性が、ただ顔だけが良いだけではなく、責任感もあり、間違い一つしない完璧な人間だなんて!
正直に言えば、リリーがアイリスの王妃候補の試験に何も言わずに協力したのは、彼女の姉が王妃になりたがっていたからだ。
もしそうでなければ、アイリスがリアンを好きだからという理由だけで、王妃候補の試験を受けさせようとしていたなら、リリーはその場で反対していたに違いない。
「ケイシー侯爵夫人、私が画家になるのを助けて保護してくれませんか?」
感情が高ぶりながらも毅然として尋ねるリリーの姿は、まるで彼女が自身の未来を必死に守ろうとしているようだった。
夫人が悪意でそう言ったのだとしたら、それを悔いるべきだ。
もう少し上手に説明するべきだったと後悔している。
ケイシー侯爵夫人はリリーよりも地位も年齢も上の人である。
リリーの行動に不満を抱けば、バンス家全体に損害を与えかねない力を持つ人物だった。
だが幸運にも、ジェネビーヴはリリーのぶしつけな態度を指摘することはなかった。
彼女は静かにこう言った。
「私が言いたいのは、なぜそんな困難な道を選ぶのかということです。バンス嬢、バンス嬢が賢明だと仰るなら、あなたは間違いなくケイシー侯爵夫人になれるでしょう。こんなことを口にするのは心苦しいですが、私たちの家は十分に裕福で、バンス嬢が望むことは何でも叶えられるのです。」
「画家になること以外は、ですよ?」
その言葉に彼女の怒りが込められていた。
ジェネビーヴは思わずその怒りを抑えようと努めていた。
どうしてこんなにも先回りして言い負かそうとする人がいるのか?
彼女は、ダグラスがリリーに惹かれた理由が分かる気がしながらも、少し苛立ちを感じていた。
こんなに若いのに、はっきりと自分の望むことを主張し、それを貫き通せる人はあまりいない。
ダグラスはその毅然とした態度に心を奪われたのだろう。
彼女は、年長者としての余裕を活かして、少し距離を取ることにした。
「では、ダグラスと婚約だけでもしてください。バンス嬢には失うものは何もありませんよね?婚約をしてみてうまくいけば、ケイシー侯爵夫人になれる。もしバンス嬢が真実の愛を見つけたら、そのときは真実の愛を選べばいいのです。」
どうですか?
ジェネビーヴは自分の提案がどれほど受け入れやすいものか、リリーが気づくと思い、微笑みを浮かべた。
どちらにしてもリリーにとって有利な話である。
ダグラスと婚約して、真実の愛に出会えばそれでいいし、出会わなくてもケイシー侯爵夫人になれる。
このため、ケイシー侯爵家には週に何通もの縁談の手紙が届いていた。
特にダグラスは二度も婚約破棄を経験していたため、ケイシー侯爵家が後継者の結婚に焦っているのではないかと思った親族たちが、無作法にも縁談の申し出を送り続けたからだった。
当然、バンス嬢も真実の愛を望んでいるはずだ。
ジェネビーヴはそう考えていた。
しかし、リリーは何かを悟ったような表情で問い返した。
「なぜ私が?」
ジェネビーヴの動きが止まった。
彼女はリリーが嫌だと言うだろうと予測していたが、「なぜ私が?」という問いは予想外で、返答に困った。
「私にとってはささやかな話ですが、どうしてそこまで大きな問題にされるのかわかりません。」
リリーは急いで言葉を続けた。
あまりにも唐突で、自分でも驚く発言だったが、「私がなぜ?」という返答は彼女自身でも少し強引すぎたと思ったからだ。
彼女はジェネビーヴの困惑した隙をついて続けて言った。
「私は絵を描きたいし、絵を描くことを妨げられるのはどんな理由でも避けたいんです。こんな話をすれば怒られるでしょうが、ケイシー侯爵家は今の私にとって最大の障害です。」







