こんにちは、ピッコです。
「シンデレラを大切に育てました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
222話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 彼女が望むもの
「結構です、陛下。皆が苦しいときには立ち上がって助け合うべきです。」
数日後、城へ招かれたロジャースは、国王から「望むものはあるか」と問われ、少し緊張した様子でそう答えた。
彼の隣には、同じく伝染病患者を看護していた者がいた。
国王はロジャースの言葉にうなずき、隣に座っているエリザベスに目を向けた。
いつもはやや不満げな表情をしている彼女も、国王の前では緊張して背筋をぴんと伸ばして座っていた。
「お嬢さん、名前は何と申す?」
国王の視線がエリザベスに向けられた。
天然痘が広がったとき、病院で人命を救ったと評判の少女――称賛を浴びたその功績で、彼女は父と共に城に招かれていた。
もしかすれば貴族の目に留まり、貴族家に嫁ぐ機会があるかもしれない――そんな期待から、ロジャースは娘にできる限り高価で上等なドレスを着せた。
だが、そのドレス一着でおよそどれほどの食糧が買えるのかを知っているエリザベスの気持ちは、あまり晴れやかではなかった。
「はい、エリザベス・ロジャースと申します。」
「ロジャースの娘か。」
「その通りです、陛下。」
ロジャースがすぐに相槌を打った。
この場には、家族や付き添いなしで、功績を立てた者だけが呼ばれている。
だから娘を同伴するはずがない。
ロジャースの娘だと聞き、人々はエリザベスが何をしたのか興味を抱き、彼女を見やった。
「人々からの称賛が絶えないそうだな。」
国王の称賛に、エリザベスの頬がほんのり赤く染まった。
国王は恥じらう彼女を見ながら、不意に尋ねた。
「望むものを言ってみなさい。叶えられることならば、私が聞き届けよう。」
その言葉に、エリザベスの思考は一瞬止まった。
医者になりたい――そう言いたかった。
だが、この場にいる招待客たちは皆、彼女を注視している。
もし「医者になりたい」と言えば、皆に笑われるのではないか――エリザベスはそう感じた。
あっけにとられていると、彼女の父が慌てて答えた。
「そりゃあもちろん、良い家柄に嫁ぐのが一番です。私の娘ですが、立派なご令嬢にも引けを取らず、まだ婚約者もおりません。」
「そうか?」
国王の視線はロジャースに向けられ、再びエリザベスに戻った。
彼女は「そうではありません」という表情で父を見つめていたが、国王の前で父に反論する勇気はなかった。
「考えておこう。」
国王の返事に、ロジャースは喜びを隠せない笑顔を見せたが、エリザベスの顔は曇った。
子が望むことと、親が望むことはいつも違うものだ。
国王はロジャース父娘の食い違う表情を面白そうに眺め、次の人へと視線を移した。
誰もが似たような願いを口にした。
食事を共にしたいというささやかな野心を抱いた伯爵もいれば、自分が育てた農作物を城に納める機会を得たいという農場主もいた。
いずれも叶えるのは難しくない願いだった。
国王は穏やかに進む場の空気の中で、ミルドレッドへ視線を向けた。
彼女には、わざと最後に質問をするつもりでいた。
国王はヴァンス夫人に対して、何らかの期待を抱いていた。
良い方向であれ悪い方向であれ、ミルドレッドならば場の空気を一変させるに違いない――そう思っていたのだ。
そして、それが何なのかを知りたかった。
「ヴァンス夫人、望むものはあるか?」
国王の問いに、人々の視線がミルドレッドへと集まった。
彼女もまた、国王がわざと自分に最後の質問を投げかけたことを察していた。
ミルドレッドは一度も周囲を見回すことなく、まっすぐ国王を見据えた。
そして彼女は口を開いて言った。
「爵位をください。」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
国王はもちろん、隣でお茶を飲みながら人々の話を聞いていた王妃の動きも止まった。
小声で話していた人々も、部屋の外を歩き回り不足がないか確認していた侍従たちまでも、動きを止めてしまった。
「今、バンス夫人は何と言ったのです?」
ミルドレッドから少し離れた場所にいた老婦人が、隣に座っていた若い貴族にそっと尋ねた。
ミルドレッドの返答を聞いた貴族は、さらに老婦人に囁いた。
「ええ、『爵位をください』と言いました。」
「私の聞き間違いではなかったのね。」
老婦人は目を見開き、ミルドレッドを見つめた。
しかしミルドレッドは背筋を伸ばしたまま、国王をまっすぐ見つめ続けていた。
「爵位だと?」
ついに国王が信じられないというように声を上げると、テーブルのあちこちからざわめきが広がった。
凍りついていた人々が一斉にひそひそ話を始めたのだ。
「爵位ですって?」
「女が?何をするつもりだ?」
「夫に爵位をくれと言われたのだろう。」
「でもヴァンス夫人には夫はいないじゃないか。」
人々の視線が、ミルドレッドの隣に座るダニエルへと向かった。
ダニエル・ウィルフォード伯爵――ヴァンス夫人と婚約していると聞く人物。
ならば結婚後、ウィルフォード伯爵により高い爵位を与えてほしいということなのか。
「ヴァンス夫人、誰に爵位を与えてほしいのだ?」
国王の問いに、再び部屋は静まり返った。
人々は、ミルドレッドがダニエルにより高い爵位を望んでいるのだろうと考える者と、そもそも女が爵位を望むなどとんでもないと眉をひそめる者に分かれていた。
爵位を要求するなんて、と嘲笑う者と、ただ驚く者に分かれた。
しかしミルドレッドは、そんな人々を嘲るように微笑みながら言った。
「はい、陛下。私は爵位を持つ者の妻ではなく、自ら爵位を持つ者になりたいのです。」
まるで何かが爆発したかのように凍りついていた部屋で、年配のある伯爵が突然立ち上がり、声を張り上げた。
「無礼者!」
「ジェラルド伯爵。」
その瞬間、ダニエルが伯爵の名を呼んだ。
彼はジェラルド伯爵の方を一瞥すらせず、人々の視線がダニエルに集まったが、当の本人は全く意に介さない様子で茶杯を持ち上げ、口を開いた。
「お座りください。」
ダニエルの言葉に、ジェラルド伯爵の顔が真っ赤に染まった。
若造が生意気な――そう思ったのだろう。
彼は怒りを含んだ表情で国王を見つめ、声を張り上げた。
「陛下、そんなことは許されません!どこの女が爵位を望むなどと言うのですか?それは国の根幹を揺るがす、危険きわまりない要求です!」
「慌てるな、ジェラルド伯爵。」
国王は呆れたような表情で軽くたしなめた。
その言葉に伯爵はいったん口をつぐんだが、すぐに我慢できないというように再び口を開いた。
「陛下、そんな甘いお考えではいけません。この要求がどれほど危険なものか、お分かりになっていない!」
「なぜだ?国が滅びるとでも言うのか?」
ダニエルが割って入った。
その問いに、ジェラルド伯爵は即座に反応し、声を荒げた。
「その通りです!国が滅びかねないほど危険な提案なのです!」
「ほう、そうか?国のために尽くした一人の女性に爵位を与えたくらいで、この国が滅びるとでも思っているのか?」
国王の一喝に、ジェラルド伯爵の表情が凍りついた。
その様子を見守っていた人々の顔にも険しさが広がった。
「伯爵はなぜあんなに震えているのだ?」
「それはですね。陛下の前で国が滅びるなどと言うとは、正気を失ったのでしょう……。」
人々のひそひそ声とともに、ジェラルド伯爵の顔色からじわじわと血の気が引いていった。
そのときになってようやく、自分がどれほどの暴言を吐いたのかを悟ったのだ。
そんな伯爵を横目で見て、国王はまるで面白がるように胸の前で腕を組み、椅子の背にもたれた。
無言で茶を飲んでいた王妃も、さすがに見過ごせなかったのだろう。
カチリと茶杯がテーブルに当たる音が響いた。
王妃がテーブルの一部を軽く叩くように音を立て、茶杯を置いたのだ。
その事実だけで、人々は国王夫妻がジェラルド伯爵にどれほど立腹しているかを悟った。
「言葉を慎め、伯爵。無礼にも程がある……」
王妃の一言に、伯爵は糸が切れたように崩れ落ちるように椅子へ腰を下ろした。
終わりだった。
そのうろたえた表情に、人々は再び口をつぐんだ。
その間も、ミルドレッドは伯爵など意にも介さぬ様子で背筋を伸ばし、ただ国王だけを見据えていた。
「バンス夫人、あなたの周囲ではいつも騒ぎが起こるな。」
しばしの後、機嫌を取り戻した国王が声をかけた。
相変わらず端正な姿勢で座っていたミルドレッドは、微笑を浮かべて応じた。
「私が器量不足ゆえ、身の置きどころを誤るのでしょう。」
全く自分が無礼だとは思っていない表情と態度で、「無礼をお許しください」と言ったミルドレッドに、国王は呆れて思わずくすりと笑った。
国王は、ミルドレッドのそんな態度がダニエルによく似ていると感じた。
国王の視線が王妃へ向けられた。
王妃はこういう人物を好む。
どこでも堂々として余裕があり、礼儀を忘れない人間。
さらに、自分の仕事を確実にこなす人間。
「爵位を授けよう。」
国王の反応が肯定的に変わると、同席していた人々の顔色も変わった。
それまで「そんなのはあり得ない」という反応だった者たちも、次第にそれぞれの思惑に沿って態度を変え始めたのだ。
これは、前例のない女貴族が誕生することになるのか。
それとも、馬鹿げた話だと笑って無視するのか。
「最も可能性が高いのは、ウィルフォード子爵と結婚させ、その夫に高い爵位を与えることだろう。」
副官の席が解かれ、家へ戻る馬車が走り出すと、人々は胸中を探られた。
いくらなんでも、女に爵位を与えるはずがない。ほとんどの者がそう考えていた。
『百歩譲ってバンス夫人に爵位を与えるとしても、その爵位を継ぐ息子もいないじゃありませんか?』
『そうなると、与える可能性もありますね。継承する息子もいないのですから。バンス夫人が亡くなれば、爵位も領地も再び王宮に戻るのですし。』
人々の意見は、体面を保つための一時的な叙爵もあり得るという派と、決してあり得ないという派に分かれた。
そして、あり得ないという意見を押し通そうとする父を隣に乗せたエリザベスは、帰途の馬車の中で唇を固く閉ざしていた。
『やはり変な女だわ。そうでしょう?爵位を望むなんて。息子もいないのに。息子もいない女が何だっていうの。』
鼻をひねっている父を見て、エリザベスは自分が失敗したことに気づいた。
あの場で、国王に「医者になりたい」と言うべきだったのだ。
バンス夫人のように、望むものは堂々と要求してこそ手に入るのかもしれない。
エリザベスは父に結婚ではなく医者になりたいと告げようとしたが、口をつぐんだ。
長年の経験から、どうせ父は無視するか、馬鹿げたことを言うなと怒るに違いないとわかっていたからだ。
それならば、いっそ国王に直接言う方向に進むべきだろう。
しかし、どうやって?
エリザベスの頭の中は複雑に巡り始めた。
応接室で新聞を読んでいると、マーフィー伯爵夫妻が訪問したというジムの報告に目を見張った。
「何ですって!本当なの?」
「ゲリ、そんな乱暴に言わないで!」
何事かと、私は二人を迎えるため席を立ち、ぎこちない表情を浮かべた。
そしてすぐに、ゲリが何を言っているのか察した。
どうやら、私が上から爵位を願い出たという話がすでに広まっているらしい。
速いことだ。
私は再びソファに腰を下ろし、静かに言った。
「みんな一日中、噂話ばかりしているのね?」
「クラブで聞いたんだ!お前が女王陛下に爵位を求めたって?」
「そのクラブの名前、全部“クラブ”に変えたほうがいいんじゃないですか?」
「ミルドレッド!」
ああ、なんでこうなるの。
私はお玉を持ったままゲリをにらんだ。
そして手にしていた新聞でテーブルを軽く叩きながら言った。
「お兄さん、ここは私の家なんですから、礼儀を守ってくださいね。」
そのときになってようやくゲリが動くのが見えた。
人の家に連絡もなく押しかけてきたのなら、最低限の礼儀は守るべきだ。
ゲリが私の親しい親戚だから、この程度は許されるということだろう。
「ミルドレッド、いや、バンス。お前が伯爵夫人に地位を譲れと言ったって本当か?」
私の指摘に息をのんだゲリが、落ち着いた声で尋ねた。
それなのに、彼が私をバンスではなく“マーフィー伯爵夫人”と呼んだことが、なぜかおかしくて笑いがこみ上げた。
相変わらずゲリは、私を二度結婚したバンス夫人ではなく、マーフィー伯爵のミルドレッドのことらしい。
「そうよ。爵位を頂きたいと申し上げたわ。」
「まったく、ミル!」
今回はサンドラが額に手を当ててからソファに沈み込んだ。
彼女はジムが持ってきたお茶をひと口飲み、信じられないというように尋ねた。
「どうして?どうしてわざわざ爵位なんて求めたの?」
「どうしてって?」
正直、自分でも分からなかった。
私は肩をすくめ、逆に問い返した。
「じゃあ、私は何を要求すればよかったの?」
「ほかにあるでしょ。お金とか。」
「お金は十分あるわ。」
「じゃあ宝石とか。」
「まあ、お兄様。私の婚約指輪をご覧になる?ウィルフォード卿が求婚するときに贈ってくれたものよ。」
私はそう言いながら左手を差し出した。
左手には2つの指輪がはめられている。
どちらもダニエルから贈られたものだが、薬指につけているのは婚約指輪だ。
ゲリは私の態度に少したじろぎ、靴を脱いでサンドラの隣に座った。
そして少しうんざりしたように言った。
「じゃあ、ウォルフォード卿に伯爵位を譲ってくれって頼んだって本当か?」
「それがどうして私の問題になるんです?」
「だって君は伯爵夫人になるじゃないか。」
なんと的外れなことを言うのだろう。
私は左手を引っ込めて膝の上に置き、ため息をついて言った。
「じゃあ、お兄さんがマーフィー伯爵の夫になって、サンドラがマーフィー伯爵になればいいじゃないですか。」
「冗談はやめろ、ミル。」
「本気ですよ。それに、伯爵になってはいけない理由でも?」
「それは……」
「女だからですか?」
私が攻めるように言うと、ゲリは言葉を詰まらせた。
彼は私をじっと見つめ、ため息をついて言った。
「前例がないからだ。」
「お兄様、この国だって数百年前には前例なんてなかったでしょう。勇者ジェダが慣例を破って国を興したじゃないですか。」
「ジェダは勇者だったじゃないか。」
「慣例を破るのが必ずしも勇者でなければならない理由はありません。」
「いや、私が言いたいのは……」
ゲリはそこまで言って口をつぐみ、再びため息をついてソファに身を沈めた。
見守っていたサンドラが、茶杯をテーブルに置き、口を挟んだ。
「ミル、ゲリが言いたいのは、あなたがそのしきたりを破ることを心配してるってことよ。」
「どうして?私が騎士じゃないから?」
私のとげのある言葉に、サンドラの表情がこわばった。
彼女は身をかがめて、穏やかに言った。
「私たちは、あなたが傷つくんじゃないかって心配してるの。」
思わずカッとなってしまった。
ゲリもサンドラも、ただ私のことを案じてくれていただけなのに。
でも、昨日のことで神経がとがっていて、私は彼らにきつく当たってしまった。
罪悪感がこみあげてくる。
私は息をつき、正直に言った。
「きつく言ってごめんなさい。昨日、ある男に攻撃的な態度を取られて、神経質になってたみたいです。」
ゲリとサンドラの視線が交わった。
二人は咳払いをしながら言った。
「わかってる。ジェラルド伯爵が無礼なことを言ったんだって?」
「そうじゃなくても、クラブでもひどいことをしたって悪口を言われてるわよ。」
そうなの?
ゲリが行くクラブでもジェラルド伯爵が無礼だと非難されているとは知らなかった。
もっとも、私が思っている理由とは別の理由で無礼だと言われているのだろうけれど。
私はティーカップを持ち上げて喉を潤し、再びゲリーとサンドラに向かって口を開いた。
「爵位を求めたのは、さっき言った通りです。それ以外には望むものはありません。求められるなら、求めるのが当然でしょう?」
「でも、人々はあなたを非難するでしょう。」
「お兄様。私は夫を二度も亡くし、三度目の結婚を控えているんです。たとえダニエルがウォルフォード伯爵になったとしても、それは私には何の利益にもならないんです。」
ゲリの顔には「それはどういう意味だ?」という表情が浮かんだ。
しかし、サンドラだけは理解を示す表情を見せた。
ほら、これがゲリとサンドラの決定的な違いだ。
私はため息をつき、ゲリに説明するため口を開いた。
「ダニエルが伯爵になったとしても、私がその地位を継ぐ息子を産めなければ意味がないんです。お兄様、私はもう三十一歳です。数か月もすれば三十二歳になります。この年齢で息子を産もうなんて挑戦はできません。」
説明しようと思えばできるが、その必要も感じなかった。
私にはすでに三人の優秀な娘がいるのだから。
そう言って口を閉じると、呆然と私を見ていたゲリが、はっと我に返ったように瞬きをした。
「でも、それでもウィルフォード伯爵夫人になるんじゃないか?」
そうやって他人事のように考えられるなんて羨ましい。
私は二度も夫と死別した妹が、それをまるで自分のことではないかのように軽く考えられるゲリーの知的能力に感心した。
そしてカップを置き、問いかけた。
「もしダニエルが私より先に亡くなったらどうします?私はまたウィルフォード夫人になるんですよ。そのときもお兄様は私を再婚市場に出すおつもりですか?」
応接室に沈黙が訪れた。
この国は何百年もこうした構造で成り立ってきた。
だが、息子を産まないまま夫を亡くした貴族夫人がどうなるか、考えたこともなかったというの?







