こんにちは、ピッコです。
「もう泣いてもいいですか?」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
34話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 鉄血の騎士団
二人の合意で始まった外国語の特別授業は、当初の予想を遥かに超えて、張り詰めた真剣な雰囲気の中で行われていた。
他ならぬイビ自身が、迫りくる試験のことを本気で心配し始めていたからだ。
それには理由があった。
『私の成績、みんなに良くないって噂されてるんだ……』
少し前、他の学生たちが物陰でひそひそと話しているのを、イビは偶然耳にしてしまっていた。
「田舎の名門校で首席だったからって、自分は本当に優秀だと勘違いしてるんじゃないかしら?」
「教授たちは口を揃えて頭がいいって褒めてるけど、今回の試験でメッキが剥がれるんじゃない?」
「頑張ってもせいぜい平均くらいでしょ。ああいう子は、英才院の外なら天才扱いされてもおかしくないんでしょうけどね」
成績が悪いからといって、即座に退学になるわけではない。だから、試験の結果だけでこの学校を追い出されることはないはずだ。それでも、イビは成績が理由でみんなと違うクラスに落とされるのだけは、絶対に嫌だった。
『とりあえず、アルセル様は間違いなく最上位クラスに残るだろうな』
親友のアイリンも同じ危機感を抱いていた。アイリン自身は「私には、三十五人ごとに振り分けられる最上位クラスに残れるだけの実力はない」と自嘲気味に言っていた。だが、朝から晩まで必死に机に向かい、貪るように本を読み続ける彼女の努力を見れば、十分に可能性はあるように思えた。
あのルースカでさえ、最近はみんなと離れ離れになるのを嫌がり、珍しく夢中になって勉強しているのだ。
けれど、人々の言う「本当の実力」がもし試験ではっきり現れてしまい、思ったよりも点数が低かったら――。
『マレス教授が知ったら、「やっぱりお前は大したことなかったな」ってがっかりするかもしれない……』
そんな不安が胸をよぎるからこそ、イビは一心不乱に教科書にかじりついていた。
体調も万全ではなく、慣れない皇宮の医務室という環境。それなのに自分を気遣いながらも急に猛勉強を始めたイビの熱量に当てられ、クロイスもまた、つられるように指導に熱が入っていく。
「レシド語は、とくに動詞の活用をしっかり頭に入れなければならない。ここは……」
そうして、どれほどの時間が過ぎただろうか。熱心な講義の最中、不意に部屋の外からクロイスを呼ぶ国務大臣の重々しい声が響いた。
その声で、クロイスはハッと我に返った。
イビに「もう戻りなさい」と告げようとして窓の外へ目をやると、いつの間にか帳が下り、辺りはすっかり暗くなっている。時計の針は、英才院の門限が間近に迫っていることを示していた。
『私が直接、手を引いて送ってあげたいのだが……』
しかし、扉の向こうには今すぐ決済を求める急用が待っている。それに、昼間に一度、英才院の教職員たちを大騒ぎさせてしまったばかりだ。皇帝である自分がもう一度出向けば、多感な学生たちに余計な動揺を与えかねない。
だからといって、この夜道にイビを一人で帰らせるわけにはいかなかった。
クロイスは傍らに控える侍従長に、短く命じた。
「ロメルと、その配下の騎士を三人、ここへ呼べ」
「ロメル卿を、ですか……?」
めったなことでは取り乱さない老練な侍従長が、思わず驚きに声を裏返した。だが、主君のただならぬ眼差しにすぐさま表情を引き締めると、至急その命令を伝えに向かった。
ほどなくして、騎士団長ロメルをはじめとする四人の精鋭騎士たちが部屋へ到着した。
クロイスは彼らを見据え、厳かな口調で言い渡した。
「イビを英才院まで送り届けろ。寮の自室へ無事に着くまで、お前たちが責任を持って護衛するのだ」
その命令が下った瞬間、ロメルをはじめとする騎士たちは、一様に己の耳を疑った。
自分たちは何者か。皇族の身辺を警護し、ただ一人の主君にのみ絶対の忠誠を誓う、帝国最高峰の「皇室騎士団」だ。その誇り高き精鋭たちが、どこの誰とも知れぬ「イビ」という人物の送り迎えを命じられている。
「陛下。陛下のご命令とあれば、たとえ火の中水の中へも飛び込む覚悟ですが……その、イビという者は、一体何者なのでしょうか?」
クロイスの命令なら、命を捨てろと言われても従う男たちだった。だが、聞いたこともない人物の護衛に、騎士団長であるロメルを筆頭とする精鋭を動員するなど、前代未聞である。隣国の使節が公式に訪れた際でさえ、彼らが直々に護衛につくことなどないのだ。
さすがのロメルも困惑を隠せない。
すると、後ろに控えていた副長格のヒルデが一歩前へ出てクロイスへ一礼し、不満を隠そうともせずに苦言を呈した。
「陛下! 私たちは陛下お一人のためだけに刃を振るう者たちです! どうか、そのような公私混同のご命令はお取り下げください!」
ヒルデが毅然と言い放つと、他の騎士たちも一斉に深く頭を下げた。彼らもまた、クロイスの命令はさすがに行き過ぎだと考えていた。
本宮から英才院までは、歩いて十分ほどの目と鼻の先。しかも、すべて治安の行き届いた皇宮の敷地内である。それなのに、たかがその程度の距離の護衛に自分たちを駆り出すとは。しかも護衛対象は皇帝本人ではなく、正体不明の何者かなのだ。
ヒルデがさらに抗議の言葉を重ねようとした、まさにその時だった。
カチャリ、と静かに扉が開き、侍女たちに服装から髪型まで綺麗に整えてもらったイビが部屋に入ってきた。急ぎで新しく用意された英才院の制服には、昼間の乱暴による足跡も、引き裂かれた跡も一切残っていない。
クロイスはそれまでの厳しい表情を一変させ、柔らかな笑顔でイビを迎えた。
「イビ、この者たちがお前を英才院まで送り届けてくれる」
そう言ってから、クロイスは未だに不承不承といった顔をしているヒルデへ、冷ややかな視線を向けた。
「……ああ、全員で行く必要はないな。嫌がる者を無理に同行させることもあるまい。ロメル卿、お前一人で――」
「それがよろしいかと!! 団長だけいらっしゃれば十分です!」
次の瞬間、ついさっきまで頑なに命令の撤回を求めていたヒルデが、驚異的な速さでイビのもとへ駆け寄った。そして、信じられないほどの満面の笑みを浮かべて、小さな女の子の目線に合わせて腰をかがめる。
「こんにちは、お姫様。あなたがイビちゃん? 私はヒルデっていうの。昔、ちょっと目を悪くしちゃって眼帯をしてるだけだから、怪しい者じゃないのよ。そんなに怖がらないでねぇ」
ヒルデの豹変ぶりに、その場にいたクロイスをはじめ、誰もが静かに凍りついた。
十数年もの間、血生臭い戦場を駆け抜け、荒々しい怒号しか聞いたことのなかったあの鉄血のヒルデが、今、聞いたこともないような優しく甘いハチミツのような声を絞り出している。
――この人、こんな話し方ができる人だったのか。
「こんにちは。私はイビ・エルドンです」
イビが緊張しながらもにこっと笑って挨拶を返すと、ヒルデの顔がパッと華やいだ。
「まあ、なんて可愛らしいのかしら……! お姉さんが英才院まで安全に送ってあげるから、何も心配しなくていいわよ。もうお外は暗いから、怖かったら手を繋いで行こうか?」
「はい!」
イビが嬉しそうに返事をした瞬間、後ろで控えていた男たちが我先にと色めき立った。
「おい、ずるいぞヒルデ! ……お、おじさんはロメルっていうんだ!」
「おじさんとは何だ、失礼な! お兄さんはジークムントだぞ、イビちゃん!」
「私はエイデンだ! よろしくね!」
ついさっきまで「自分たちはクロイス様のためだけに存在する」と豪語していたはずの硬派な騎士たちは、気づけば皇帝のことなど綺麗さっぱり忘れて、前後左右から競い合うようにイビを取り囲んでいた。
「うう……」
イビは、制服のスカートが少しきつく感じるほど膨らんだお腹を、そっと両手で押さえた。
ことの始まりは、部屋で勉強をしている最中だった。侍従長のおじさんが「おやつはどうだい?」と、にこやかにワゴンを押して入ってきたのだ。銀色の蓋が開けられると、中には宝石のように色鮮やかな焼き菓子がずらりと並んでいた。
クロイスが「ちょうどいい、少し休憩にしよう」と言って、それらを次々とイビの口へ運び始めたのだ。ちょうど頭を使ってお腹が空いていたこともあり、香り高い紅茶と甘いお菓子の組み合わせに、イビの気分はすっかり浮き立っていた。
ただ、一つだけ重大な問題があった。
あまりの美味しさに、明らかに食べすぎてしまったことだ。
「はあ……」
己の意気汚さを反省し、イビが小さくため息をつくと、すぐ後ろから過保護な声が降ってきた。
「どうしたんだい、イビちゃん? お腹が痛いのか? つらいならおじさんが抱っこしてあげようか?」
「いいえ! 私、ちゃんと歩けます、ロメルさん!」
イビが一生懸命に首を横に振ったにもかかわらず、騎士団長ロメルは「女の子を歩かせるなんて」と、その提案を簡単には諦める気がない様子だった。
すると、すぐ後ろを歩いていた他の騎士たちが、ロメルを一斉に睨みつけた。
「ご令嬢に対して、軽々しく『抱っこしてあげる』などと言うのは不敬ですよ、隊長」
「その通りです。そんなに心配ならば、今からでも御車(みくるま)を用意してきた方がよろしいのではありませんか?」
「そうですね。本宮から英才院まで、こんな小さなお足で歩いて帰らせるなど、さすがに配慮に欠けます」
「もしイビちゃんが無理をして歩いて帰ったと陛下がお知りになったら、我々は一列に並べられて首をはねられるかもしれませんよ」
「首をはねられる」という物騒な単語に、イビの顔がさっと青ざめた。
すると、すぐ隣でイビの手を引いていたヒルデがくすくすと上品に笑い、小声で優しくささやいた。
「ふふ、冗談よ。あの人たちは昔から、ああやって大袈裟に騒ぎながら遊んでいるだけだから、気にしなくていいわ」
その言葉に、ロメルが心外だとばかりに声を張り上げる。
「おいおい、上官に向かって『遊んでる』とは何だ、ヒルデ!」
ロメルが文句を言っても、ヒルデは眉一つ動かさず、涼しい顔で切り返した。
「隊長、そんな大声を出したらイビちゃんが驚いてしまいます。侍医の先生のお話を聞いていなかったのですか? とにかく今は精神的にも安静にさせなければならない、と仰っていたでしょう」
「う、それはそうだが……」
医師の言葉を引き合いに出されると、ロメルはそれ以上声を荒らげることもできず、不満そうにぶつぶつと呟くしかなかった。
イビは、自分を大袈裟に囲んで歩く大人たちの賑やかなやり取りに、未だに現実感が湧かなかった。
『この人たちが……あの、皇室騎士団……』
英才院に来てから、イビはその組織の恐ろしさを叩き込まれていた。帝国最強の武人たちで構成され、皇族だけにその命を捧げる絶対的な騎士団。その詳細な内情を、輝かんばかりの目で熱く語ってくれたのは、同級生のルースカだった。
――「俺は英才院を卒業したら、アカデミーじゃなくて皇室騎士団に入りたいんだ」
いつだったか、食堂で一緒に食事をしていた際、ルースカが夢を語っていたのを、イビはふと思い出した。
将来何をするか、という定番の話題になった時のことだ。
アルセルは当然のようにアカデミーへ進学するつもりだと言い、アイリンは王都に残って実家であるテリンス家の事業を手伝うつもりだと話した。イビが「私はお世話になったから、いつか皇宮に残って働きたいな」と言うと、自然と視線はルースカへと向かった。
「じゃあ、ルースカ様もアルセル様と一緒にアカデミーへ行くんですか?」
そう尋ねた瞬間、ルースカは飛び上がるようにして激しく首を横に振った。
「勝手に俺の将来を決めるなよ! 俺は小さい頃から、絶対に皇室騎士団に入るって決めてるんだ!」
そこから、ルースカの「騎士団語り」が始まったのだ。おかげでイビは皇室騎士団という存在の凄まじさを、否応なしに理解させられることになった。
――「……騎士団の誰もが、大陸のどこへ出しても通用する最精鋭ばかりだけど、その中でも特に伝説的なのは、隊長のロメル卿。それから、先の継承戦争の最終決戦で、片目を失うほどの重傷を負いながらも陛下を文字通り命懸けで守り抜いた、ヒルデ卿なんだ」
ルースカはその二人について、まるで神話の英雄を語るかのように熱弁を振るっていた。
話は果てしなく長かったが、要するにルースカが言いたかったのは、
『皇室騎士団は帝国最強の容赦なき軍団であり、その騎士たちは人間の限界を超えた強さを持ち、血も涙もなく敵をなぎ倒す冷徹な怪物たち』――ということだった。
……確かに、そう聞いていたはずだった。
「ねえ、イビちゃん。やっぱり隊長みたいなおじさんに抱っこされるのは嫌よねぇ? だったら、お姉さんが優しく抱っこしてあげようか?」
イビは隣で慈愛に満ちた笑みを浮かべる眼帯の女性を見上げた。
どうやら、自分がルースカから聞いて思い描いていた「血も涙もない皇室騎士団」像は、本物の彼らとはずいぶんと違っているようだった。
「やっぱり、お姉さんに抱っこされる方が安心するわよね?」
ヒルデは花の咲くような笑顔のまま、イビに尋ねた。きょとんと大きな目を瞬かせているイビの反応が可愛くてたまらないらしく、それを利用してロメルをからかってやろうという魂胆が見え隠れしている。
「陛下に突然呼び出された時は、一体何事かと思ったけれど……」
実のところ、皇室騎士団は、昼間に英才院で起きた出来事の報告をすでに受けていた。
――「幸いお命に別条はなく、大きな怪我もなかったとのことですが、乱暴を働いた不届き者どもが、陛下のお体に触れたと聞いております」
その第一報を聞いた瞬間、騎士団の詰所(つめしょ)は一瞬で氷点下にまで凍りつき、全員の表情が般若のように険しくなった。皇帝の衣服を掴もうとした相手が、いくら英才院に籍を置く貴族の令嬢たちだったとはいえ、もし主君の体に万が一にも傷が残るような事態になっていたら、今頃どうなっていたことか。
もちろん、クロイス自身も並の騎士など足元にも及ばないほどの実力を持つ武人だ。そのため、本来なら彼らが心配する必要などどこにもない。
だが、相手があまりにも弱すぎる子供だと、かえって守るのが難しいこともある。それに皇帝は、自身の身に降りかかる危機に対しては非常に無頓着で、面倒くさがって防御すら生真面目にせず、そのまま放置してしまう悪癖があった。もしその結果、万が一にでもかすり傷一つ負うようなことがあれば――。
『それは、私たち皇室騎士団全員の生涯の恥だ』
だからこそ、騎士団の面々は怒りで表情を険しくさせていたのだ。
そんな中、再び皇帝からの緊急の呼び出しがあり、今度は自分ではなく「別の人物」の護衛を命じられた。それも、昼間の騒動の当事者であるあの少女の護衛を、だ。
ヒルデは最初、命令を受けた時、その背景を理解しつつも、内心では「こんな時だからこそ命令を断り、陛下の御側(おそば)に残らせてほしい」と直訴するつもりでいた。
しかし、扉を開けて入ってきたイビの姿を見た瞬間、その堅物な決意は綺麗さっぱり霧散した。
クロイスが、先代の悲劇を理由に「もう幼い子どもを本宮へ連れて参るな」と厳命して以来、本宮で小さな子どもの姿を見ることは完全に途絶えていた。ごく稀に、騎士団員の家族が挨拶に訪れる程度だったのだ。
現在、ヒルデの手には、クロイスが用意した外国語の教科書と、侍従長が持たせてくれたお菓子が詰まった鞄が握られていた。子ども用の小さな鞄だったため、大柄なヒルデが持っていると、まるで大人の指でおもちゃの鞄を摘んでいるかのように小さく見えた。
歩いている間中、騎士たちは退屈させるまいと、イビに次々と声をかけ続けた。
「抱っこしようか?」
「おんぶの方がいいかい?」
「それとも、お兄さんの肩に乗るかい? 肩車してあげよう!」
彼らにとっては、こんな綿菓子のように小さくて脆そうな生き物に、これほど長い夜道を自分の足で歩かせていること自体が、まるで罪悪感を刺激される虐待のように思えて仕方がなかったのだ。
「あっ、英才院だ! あそこが、英才院へ続く門ですよ!」
しばらく歩くと、夜闇の先に、英才院の敷地へと続く重厚な境界門が見えてきた。あの門をくぐり、もう少し進めば見慣れた寄宿舎だ。
見慣れた景色が目に入ったことで、イビの足取りは自然と軽くなった。騎士たちも彼女の小さな歩幅に合わせつつ、少しだけ歩調を速めたが、それでも彼らにとっては普段の歩き方に比べれば、這うような遅さだった。
「英才院の学院長が、昼間の騒ぎはすべて完璧に収まったと言っていましたからね」
それに、皇宮の警備兵が厳重に立つこの境界の門で、わざわざ騒ぎを起こそうなどという命知らずの者は存在しない。何より、イビが自分たち皇室騎士団の保護下にある以上、何者であれ彼女の髪の毛一本すら傷つけさせるつもりはなかった。
だが、門が目の前に迫ったその時、英才院の敷地内から突然、一人の人影が猛然と姿を現した。
「イビ――ッ!!」
夜の静寂を切り裂いてイビの名を呼び、一直線に駆け寄ってきたその人物は、あまりにも速かった。門を守っていた警備兵たちですら、制止の声をかける暇すらなかったほどだ。
人影は、一心不乱にイビのいる場所を目指して突進してくる。
「っ、曲者(くせもの)!」
騎士たちは即座に獲物を狙う鷹の目になり、イビを自分たちの屈強な背後へと完璧にかばうと、一斉に腰の剣の柄へと手をかけた。緊迫した空気が走る。
その時、騎士たちの分厚い壁の後ろに取り残されたイビは、迫りくる人影を見て大きく目を見開いた。そして、臨戦態勢の騎士たちの足の間を器用にすり抜けながら、大声で叫んだ。
「アイリン!」
「えっ?」
騎士たちが毒気を抜かれたように動きを止める。
走ってきたアイリンは、自らに向かって飛び込んできたイビの小さな体をきゅっと力いっぱい抱きしめ、その愛おしい頭に自分の頬を強く寄せた。
「大丈夫!? 痛いところはない!? まあ、その顔はどうしたのよ、やっぱりひどく怪我をしてたんじゃない! だからこんなに帰るのが遅かったのね!?」
怪我をして寝込んでいたのはイビの方なのに、夢中になって質問を浴びせるアイリンの声は、今にも泣き出しそうに震えていた。
まるで何年も生き別れていた家族が奇跡の再会を果たしたかのような光景を前に、騎士たちは苦笑しながら剣から手を離し、固く抱き合う二人のそばへとゆっくり歩み寄った。
「本宮にはどうしてこんなに長くいたの? それに、あの……シアン教授が皇帝陛下だったっていう件は、結局どうなったの? あっ、それからイズリエラたちの処分はどうなったか何か聞いた!?」
「あ、アイリン……お願いだから、一つずつ話してくれないかな……っ」
矢継ぎ早に繰り出される質問の嵐に、イビは目を白黒させて困惑するしかなかった。
アイリンは自分の取り乱しぶりにようやく気づいたように、名残惜しそうにイビから手を離し、改めて心配そうに親友の顔のガーゼを見つめた。
そして、ふと自分とイビを取り囲むように立っている、やけに体格の良い大人たちへ視線を向けた瞬間、その顔が不思議そうな表情へと変わった。
「えっ……この人たちは誰? ……って、ちょっと待って。その制服の紋章、まさか皇室騎士団の――」
「「「「……ふっ」」」」
騎士たちは、自分たちの恐るべき正体に気づいたこの少女が、いよいよ恐怖のあまり腰を抜かすか、あるいは非礼を詫びて慌てふためくのだろうと、内心で得意げに身構えた。
しかし、彼らの予想は完全に裏切られることになる。
アイリンは驚きに目を見張ったものの、次の瞬間には、プロテクターのようにイビを自分の背後へときゅっと抱き寄せ、一歩も後ろへ引くことなく、威嚇するように騎士たちを正面からじっと睨みつけたのだ。
その鋭い視線だけで、アイリンがこの「帝国最強の怪物たち」に向けて何を言いたいのかは、痛いほど十分に伝わってきた。
――『うちのイビに気安く近づかないで。あっちへ行って、この大男たち』
言葉にせずとも放たれたその強烈な拒絶のオーラに、百戦錬磨の皇室騎士団は、今度こそ完全に言葉を失って立ち尽くすしかなかった。
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周囲の噂を跳ね返すための真剣な居残り授業
周囲の「田舎の首席なだけで本当の実力はないのでは」という心無い噂を耳にしていたイビは、最上位クラスに残るため、そしてマレス教授をがっかりさせないために、クロイス(シアン先生)と真剣な猛勉強に打ち込みました。
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皇室騎士団の陥落と過保護な帰り道
皇帝以外の護衛を拒んでいたはずの帝国最強の「皇室騎士団」でしたが、着替えて現れたイビの愛らしさに一瞬でメロメロになり、帰り道では食べすぎてお腹が膨れたイビを過保護すぎるほど甘やかしながら送り届けました。
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親友アイリーンの鉄壁の警戒心
門の前でイビを心配して待っていた親友のアイリーンは、涙ながらに再会を喜んだ直後、イビを取り囲む大男たちが泣く子も黙る「皇室騎士団」であると気づいても一歩も引かず、イビを守るように鋭い視線で彼らを牽制しました。