抱かれるたびに泣くくせに

抱かれるたびに泣くくせに【37話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「抱かれるたびに泣くくせに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【抱かれるたびに泣くくせに】まとめ こんにちは、ピッコです。 「抱かれるたびに泣くくせに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介とな...

 




 

37話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 高鳴る焦燥

バタン!

フィリピナの部屋から響いた激しい音に、廊下の隅に立っていた侍女たちは互いに顔を見合わせた。彼女たちの目は静かだったが、そのうんざりとした表情から、部屋の中で何が起きているのかは十分に伝わってきた。

フィリピナ・ザンダーはもともと良い主人ではなかったが、ここ数年で彼女は最悪の主人へと変貌していた。いつも機嫌が悪く、侍女たちを八つ当たりの相手にするのは日常茶飯事だった。頬を叩くのは当たり前で、髪をつかまれ、足で踏みつけられた侍女すらいた。

彼女のせいで、すでに何十人もの侍女が仕事を辞めていた。それでも侍女たちがこの侯爵邸で働き続ける理由は、ひとえに「高い給金」だった。今の時代、縫製工場の二倍もの給料を払くれる家はそうそうなかったからだ。

「みんな出ていけ!」
「うっ、ううっ、ううっ!」

勢いよく扉が開き、侍女の制服を着た女性が涙を流しながら飛び出してきた。廊下にいた侍女たちは、またもや冷ややかな視線を交わした。

(また一人、辞めることになりそうね……)
(もしかしたら来年あたりには、縫製工場の三倍の給料になるかも。受け取る給料が少なくなるかもしれないけど。それまで耐えられるなら、という話ね)

「今度はまた何が原因なの?」
「ミロ衣装室で、お嬢様からの注文を受けないって言ったらしいわよ。それが原因よ」

部屋から出てきた別の侍女が、同僚たちに事情を説明した。彼女たちは、もう慣れっこだと言わんばかりにあきれたようにうなずいた。

帝国最高峰にして、流行を先導するミロ衣装室。フィリピナは毎シーズン、そこですべてのドレスを仕立てていた。しかし同時に、衣装室から最も嫌われる客でもあった。何かにつけて勝手にデザインを変えようとし、既存のデザインに難癖をつけるからだった。

もしフィリピナの服のセンスが優れているなら、まだどうにか我慢もできただろう。だが残念ながら彼女は、「派手でさえあれば何でもいい」と思っている最悪のセンスの持ち主だった。せめてミロ衣装室の服をそのままの美しさで着てくれればいいのだが、彼女はそんなことも知らず、「自分のおかげでミロ衣装室が繁盛しているのだ」と周囲に得意げに語っていた。

衣装室の主人であるアティナ・ミロからすれば、腹立たしいことこの上なかった。

長年フィリピナに振り回されてきたアティナは、ついに強硬手段に出た。フィリピナをブラックリストに載せ、彼女からの注文を一切受け付けないことにしたのだ。

「きゃああっ! あああっ!」

怒りを抑えきれないフィリピナの甲高い叫び声が、屋敷中に響き渡った。侍女たちは慣れた手つきで耳を塞ぐ。
しばらくすれば叫び声も収まるだろう。そうして少し落ち着いた頃、彼女はまた別のことで怒り出すのだ。それが、売れない作家崩れの彼女の日常だった。

「お嬢様、ご気分はいかがですか?」

フィリピナの悲鳴がようやく静まった頃、一階から上がってきた別の侍女が仲間たちに尋ねた。彼女は深く息を吸い込むと、死にそうな顔をして口を開いた。

「大公邸から、お嬢様宛てにお電話がありました」
「大公邸から……?」

侍女の言葉に、仲間たちは戸惑った表情を浮かべた。そして好奇心に満ちた目で、再びフィリピナの部屋の扉を見つめた。まだ怒りに震えているであろうお嬢様が、その報せにどんな反応を見せるのか、興味津々な様子だった。

その頃、フィリピナは深刻な表情で受話器を握りしめていた。

彼女は電話機のコードが許す限り遠くまで離れ、誰にも聞かれないように声を潜めた。部屋から追い出された侍女たちが扉にぴったりと耳をつけていることなど、彼女は微塵も気づいていなかった。

「……それ、本当なの?」

フィリピナは電話の向こうの相手に鋭く問い詰めた。
電話の相手は、大公女の侍女長だったアネットである。ヘレナの側近だったアネットは、主人が追放されると同時に権力を失っていた。

しかし、アネットにとって最大の問題は権力などではない。彼女は大公女の侍女長でありながら、使用人たちの間でまるで存在感がなかった。ほとんど仕事をしてこなかったからだ。

そんな彼女が地位を維持できていたのは、ひとえにヘレナの庇護があったからにほかならない。ヘレナが失踪し、エバルトへ追放されると、アネットは一瞬にして収入源を断たれた。主人に従ってエバルトへ行くこともできたが、アネットはそれを断った。彼女の忠誠心はヘレナという人間ではなく、彼女の持つ「金」に向けられていたからだ。

新たな金づるを探し求めたアネットが目をつけたのが、大公邸の情報を欲しがっているフィリピナだった。フィリピナが大公を片思いしており、彼と結ばれるためにヘレナにとり入っていたことは周知の事実だった。

アネットは巧みにフィリピナに近づき、利害関係を一致させた。定期的に大公邸の動向をリークする見返りに、フィリピナから多額の金を受け取っていたのだ。

今日は連絡を入れる日ではなかったが、アネットは急ぎ足でフィリピナに電話をかけていた。それほどまでに、「大公妃の帰還」というニュースは一大事だった。

「それで? ヘレナはあの女が戻ってきたことを知っているの?」
『知りませんよ。あの方が知っていたとしても、どうしようもないでしょう。エバルトからも追い出されたそうですし』
「それでもペテル家の大夫人じゃない。私の姑でもあるし……」

フィリピナは電話のコードを指にぐるぐると巻きつけながら、唇を歪めた。
大公妃が帰ってきた。それも、子どもまで連れて。
その事実に、フィリピナの胸は激しく波立った。她的な目は欲望にギラギラと輝き始める。

「小公子だなんて、そんなわけないでしょ。あの子の父親がエーリッヒ様だという証拠がどこにあるの? あの女が今までどこで誰と関係を持っていたかなんて、誰に分かるっていうのよ」
『ですが、大公殿下が嫡子だとお認めになったと……』
「さあね。家の大人たちが何を考えているのか、様子を見てみないと」

フィリピナは冷笑を浮かべた。
祖父であるトビアス侯爵は、「大公の隣の座を望むのなら、焦らずじっくり待て」と言っていた。だが、ただじっと待っているだけでいいのだろうか。こんなに絶好のチャンスが巡ってきたというのに。

アネットとの電話を切ると、フィリピナは不気味な鼻歌を口ずさんだ。大公妃の帰還を聞いたときは天が崩れ落ちる思いだったが、やはり天は自分の味方だと彼女は確信した。

久しぶりに機嫌を良くしたフィリピナは、再び受話器を手に取り、交換手に別の相手の名前と住所を告げてにやりと笑った。

一方その頃、大公邸の執務室では。

「私も小公子様にお会いしたかったのに!」

執務室の真ん中で、サジャールが不満げな声を上げていた。
デスクに座るエーリッヒは、ソファに腰掛けているクレセンティアの目を盗むように、サジャールに鋭い目配せを送った。

「ラフィに会いに来たんじゃないだろ。いい加減にしろ」
「今日は会えると思っていたのに、また空振りで残念なんです」

エーリッヒが睨みつけても、サジャールの愚痴は止まらなかった。彼はどうやらラファエルと対面するのを心底楽しみにしていたらしい。

サジャールはクレセンティアが帰還した日、皇命によって皇宮へ出向いていたため、ラファエルとの初対面を逃していた。彼が戻ったときには、長旅に疲れた子どもはすでに眠りについていたのだ。その後も多忙な業務に追われ、なかなか顔を合わせられずにいたサジャールは、不満を隠そうともしなかった。

「大公妃殿下にそっくりなら、さぞ可愛らしいでしょうに。この屋敷で、私だけ若君にお会いできていないんですよ」
「がっかりさせて悪いけど……」

皇帝からの書信に目を通していたエーリッヒが顔を上げた。彼は落ち着いた低い声で、どこか誇らしげに告げた。

「ラファエルは、私によく似ている」
「えっ!?」

サジャールは落胆の声を上げ、慌ててソファのほうを振り返った。しかしクレセンティアは表情を変えず、静かに紅茶を口に運んでいるだけだった。

エーリッヒはクレセンティアの様子をこっそりとうかがいながら、咳払いをした。彼女は特に不機嫌でもなさそうだ。それを確認したエーリッヒは、さらに言葉を重ねた。

「私の幼い頃と、瓜二つだった」
「まあ……。それなら、可愛らしさのかけらもなかったのでしょうね」

サジャールはわざとらしく肩をすくめた。
二人の男の会話を無視しているふりをしていたクレセンティアは、そのやり取りに思わず小さく吹き出した。

彼女が今この執務室にいるのは、エーリッヒが「シャルルの報告を一緒に聞こう」と誘ったからだった。かつては大公邸を追い出されるまで一度も入れてもらえなかったこの部屋に、今こうしてソファに座っていることが、どこか不思議で落ち着かなかった。

(今の彼は、自分の日常を私と共有しようとしている……?)

彼が一緒に過ごさない時間は夜の睡眠時だけであった。
とはいえ、エーリッヒがクレセンティアと同じ寝室で眠ることはなかった。帰還初日の夜、彼女は同じ部屋で過ごすことになるのではないかと怯えていたが、エーリッヒは新たに広々とした寝室を用意してくれた。

それどころか、彼は自分に大きなベッドを譲り、自分は応接室のソファに体を丸めて横になっていた。「そのほうが楽だから」と言っていたが、クレセンティアは、それが自分の警戒心を解くための演技なのだと思っていた。

時間が経てば、いつか本性を現すはずだ。そう身構えていた。
しかし、エーリッヒは相変わらずだった。彼は彼女に指一本触れず、昼間も必要なとき以外は必要以上に近づいてこなかった。かつてのように「ティア」と親しげに呼ぶことすら、あの再会の瞬間以来なかった。

まるで、わざと自分と距離を置いているかのように。

(どうして……?)

以前は目が合っただけでも熱を帯びた目を向けてきた男が、今ではまるで紳士のように振る舞っている。いざそうされると、クレセンティアは逆に調子が狂ってしまうのだった。

(まさか、もう私に魅力を感じなくなったわけ……?)
「……私が何を考えているっていうの!」

ふと頭をよぎった考えにハッとして、クレセンティアは慌ててティーカップを置いた。まるで自分が彼からの愛を求めているような思考回路に、自分で自分に呆れてしまう。

「やっぱり……」

そのとき、エーリッヒの低く引き締まった声が執務室の空気を引き締めた。

「あの者たちは、皇帝陛下が送り込んだわけではなかったんだな」

皇帝からの書簡をデスクに下ろしたエーリッヒが、苦々しげにつぶやいた。彼はクレセンティアに視線を移し、深刻な表情で告げた。

「クレセンティア、また君に謝らなければならないことができたかもしれない」
「どういうことですか?」

クレセンティアは緊張で喉を詰まらせ、ティーカップから手を離した。エーリッヒは椅子から立ち上がり、彼女の隣へと歩み寄る。

「レギナで私たちを襲った連中の雇い主が分かったんだ」
「……誰なのですか?」

乾いた唾を飲み込みながら見上げるクレセンティアに、エーリッヒは重い口を開いた。

「トビアス・ザンダー侯爵だ。ジグとブラントナー、それぞれの国に刺客を送っていた。ただ、ジグでの計画が失敗した後も、トビアスは独自に動き続けていたらしい」
「……!」
「まだ決定的な証拠はない。だが、ほぼ確実だ」

エーリッヒは説明を加えながら、彼女の顔色を慎重にうかがった。クレセンティアの顔が青ざめるのを見て、彼はあわてて付け加えた。

「だが安心してくれ。君とラフィが帝国にいる以上、これ以上は手出しできないはずだ。トビアスといえど、帝国の首都で大公の家族を直接襲うほど無謀ではない」
「……それじゃあ、フィリピナ嬢のせいなの? 彼女があなたに執着していて……私が邪魔になったから?」

震えるクレセンティアの声に、血の気が引いていく。
トビアス・ザンダー侯爵は、溺愛する娘の望みを叶えるためなら手段を選ばない男だ。娘のティーパーティーに招待するためだけに、わざわざクレセンティアを訪ねてきたことからも、その異常な溺愛ぶりがうかがえた。

「そうだとしても……私が、そこまで彼女にとって目障りだったというの?」
「……」

クレセンティアは言葉を失った。フィリピナが大公妃の座を狙っているのは知っていたが、まさか自分を亡き者にしようとするほど狂気的だとは思いもよらなかった。

(帝国に戻ってきて、本当によかった……)

外向きには「療養中」とされている彼女がレギナで死んでいれば、病死として処理するのは容易だっただろう。しかし、今や彼女は大公邸にいる。エーリッヒの言う通り、大公の家族に手を出すことは容易ではない。だからこそ、あの宿屋で彼女を確実に始末しようと必死だったのだ。

「私が君とラフィを守る。だから、もう怯えなくていい」
「……ありがとうございます」

クレセンティアはかすかにうなずいた。彼を完全に信用しているわけではないが、この状況において、大公邸に戻るという選択が自分たち母子を守るための最善策だったという確信に変わりつつあった。

「殿下、それでは――陛下への謁見はいつ頃になさいますか?」

黙って二人の会話を聞いていたシャルルが、絶妙なタイミングで話題を切り替えた。

「殿下と大公妃殿下のご予定に合わせて、こちらで調整いたしますが」
「謁見……? 私もですか?」

クレセンティアが首を傾げると、エーリッヒが説明した。

「ああ。皇帝陛下が君に会いたがっている。以前も招待状を送ったが断られたそうだな。今度は私と一緒に、改めて皇宮へ来てほしいそうだ」
「……」

クレセンティアの表情がスッと曇った。
かつて皇帝からの招待を拒絶したのには明確な理由があった。皇帝が自分の家族の死に関与していると知っていたからだ。今さら皇帝の顔など見たくもないし、情けをかけられる筋合いもない。

「それはお断りします。私は皇帝陛下にお会いするつもりはありません」

きっぱりと拒絶するクレセンティアを見て、エーリッヒはわずかに眉をひそめた。

「……やはり、そう言うと思ったよ」
「何がですか?」
「皇帝陛下も、君の性格をある程度察しておられたようだ。君が拒むのなら、自分が直接大公邸まで足を運ぶと仰っていた」
「――なんですって?」

予想外の言葉に、クレセンティアは目を見開いた。帝国の最高権力者である皇帝が、自ら大公邸にやって来るというのだ。それを門前払いするわけにはいかない。

「……分かりました。それなら、お迎えするしかありませんね」
「聞いたか、サジャール?」

エーリッヒはクレセンティアから視線を外さないまま、室内に声を響かせた。

「承知いたしました。陛下にはその旨をお伝えします」

サジャールは深々と頭を下げ、直ちに執務室を出て行った。先ほどまでの軽口が嘘のように、その背中は敏腕補佐官のそれに戻っていた。

「よし。皇帝陛下をお迎えするとなれば、準備が必要だな」
「準備、ですか?」
「あぁ。『アティナ・ミロ衣装室』にカタログを取り寄せさせた。もうすぐそこの者が届けてくれるはずだ」

思いがけない衣装室の名前に、クレセンティアはきょとんとした。自分とは一生縁がないと思っていた最高級の店だったからだ。

「そんなところまで手配してくださったんですか?」
「当然だ」

エーリッヒは淡々と答え、ふっと優しく微笑んだ。

その夜。

クレセンティアは、新しく美しく整えられた寝室のベッドに腰掛けていた。
窓の外には、夕日を受けて黄金色に輝く金盞花の花畑が広がっている。眩い光が次第に夜の帳に飲み込まれ、世界が深い青色へと染まっていくのを、彼女はぼんやりと眺めていた。

(一体、彼に何があったというのだろう……)

レギナを離れ、大公邸に戻ってきてからのエーリッヒの態度は、かつての彼とはまるで別人だった。指一本触れず、生活の細部にまで気を配り、彼女を脅かす者から徹底的に守ろうとする。

『本当に、彼を信じてもいいの……?』

心の奥底でくすぶる不安を消し去ることはできない。しかし、かつての冷酷な暴君の面影はそこになく、ただ彼女と子どもの安全だけを願う男がいた。

「……油断してはだめよ」

自分に言い聞かせるように呟きながら、クレセンティアはふかふかの寝具に体を預けた。
静寂に包まれた夜のなか、今日も何事もなく、穏やかな時間が過ぎていく。

 



  • フィリピナの焦燥と裏の繋がり:愛用するミロ衣装室からブラックリストに載せられ激昂するフィリピナは、大公妃の帰還を知ると、大公邸の情報を売買していた侍女長アネットを通じて再び野心を燃え上がらせる。
  • 襲撃事件の黒幕と皇帝の影:レギナでの襲撃事件の黒幕がトビアス・ザンダー侯爵である可能性が浮上する中、エーリッヒはクレセンティアとラファエルを徹底して守る姿勢を見せ、さらに拒絶するクレセンティアをよそに皇帝の直接訪問という新たな事態へと直面する。
  • 変貌したエーリッヒと揺らぐ心:かつての冷酷さから一転して細やかな配慮と紳士的な態度を見せるエーリッヒに対し、クレセンティアは彼の真意を図りかねながらも、その変化にとまどいと複雑な思いを募らせていく。

 

 

【抱かれるたびに泣くくせに】まとめ こんにちは、ピッコです。 「抱かれるたびに泣くくせに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介とな...