こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
106話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ペルセウス皇帝の絶望
アウラリア皇城、皇帝の執務室前。
中から聞こえてくる激しい口論に、ドア前を守る宦官たちの表情は蒼白だった。
『一体何があったんだ。』
『数日前からこんな様子だけど……まさか皇后陛下とケンカされたせいで?』
使用人たちはただ口を開けたまま何も言えず、目だけを見合わせた。
静寂が流れて数秒。
ドン!
中から聞こえてきた音に、使用人たちは驚き、恐怖を飲み込んだ。
皇城の雰囲気は数日前から殺伐としていた。
妙な女が皇帝を訪ねてきてからというもの、それが原因でさまざまな噂が飛び交っていた。
『実はあの女は皇帝の元恋人で、それが原因で皇帝と皇后が喧嘩したらしい。』
そんな噂話だった。
それに加えて、後継問題まで取り沙汰され――皇帝はすでに成人した双子の皇子のうち一人を後継者に立てようとしていたが、皇后の考えは異なっていた。
皇帝はまだ健康なので、性急に決定するよりはもう少し様子を見ようという立場だった。
だがその裏事情を知る者はいなかった。
皇后は、新しく生まれた幼い皇子――自分の血を引く子を後継者にしたいと願っていた。
その時、険しい表情の男が執務室に近づいてきた。
宦官たちは彼の姿を見ると、まるで待っていたかのように扉を開けた。
その男は、ペルセウス皇帝が最も信頼していた臣下の一人、アドルフ伯爵だった。
「……!」
中に入ったアドルフ伯爵は、執務室の状況を見て黙り込んだ。
いったい何が起きたのか。
つい先ほどまでぼんやりしていた皇帝が、まるで正気でないかのようにうろたえていた。
「はあ……。」
酒に少し酔った皇帝は、ぼんやりとした表情でソファに座っていた。
周囲は混乱状態だった。
あちこちに投げ飛ばされて壊れたものが散乱し、使用人たちが片付けたばかりだったのに、またしてもこうなってしまった。
幸い、ガラスのような危険物はあらかじめ取り除いていたが、執務室だけに最低限の家具は必要だった。
「陛下、どうかお気を確かに……!」
近づいたアドルフ伯爵が、切ない声で呼びかけた。
彼は皇太子時代からペルセウスと親しくしており、その関係は兄弟のようなものだった。
病に伏してやつれた皇帝の頬を見つめながら、アドルフ伯爵の胸には昔の記憶がよみがえった。
ペルセウスが実の兄弟によって妻を失って以来、このような姿は初めてだった。
あれから十数年が経った今、再びその件でこんなことになったとは思えないが……
『きっと何か大きな出来事が起きたに違いない。』
アドルフ伯爵は正室ではない皇后に向かって、慎重に口を開いた。
「エリザベス様がこの姿をご覧になったら、どれほどお心を痛めておられることでしょう…。ですからどうか、お気を確かに、陛下!」
「…エル、エリザベス…エル…リザベス?」
過去20年間、一度も口にしなかったその名前。
だがアドルフ伯爵は知っていた。
ペルセウスがこの場にとどまり続けていた理由はすべて彼女だったのだ。
エリザベスはいつも彼に訴えた。
立派な皇帝にならなければならないと。
帝国の民全員が誇れるアウラリアのために、光の帝国のために、あなたが耐えなければならないと。
遺言にも似たその言葉を守るために、ペルセウスは多くのものを犠牲にしなければならなかった。
その事実を知っていたからこそ、アドルフ伯爵はその名前を呼ばざるを得なかったのだ。
しかし、ペルセウスの反応はどこかおかしかった。
エリザベスの名前をつぶやいた皇帝の目に、じわりと涙がたまり、ぽろぽろとこぼれ始めたのだ。
「陛下!」
エリザベスが亡くなって以来、皇帝がこのように泣く姿を見るのは初めてだった。
「へ、陛下……」
「アドルフ伯爵……伯爵……」
「はい、はい。陛下。」
「どうすればいいのか……どうすれば……」
曖昧な表情を浮かべる皇帝の様子から、伯爵は何か重大な出来事があったのだと直感した。
皇帝がここまで衰弱するような出来事とは、いったい何が起きたのだ――?
一体どういうことだ….
「生まれてすぐに死んだと思っていた私の子どもが…死んだと思っていたあの子が… エリザベスと私の子どもが。」
「陛下、今一体何をおっしゃっているのですか…!」
「あの子だなんて、まさかあの子だなんて!」
「陛下!」
「うああっ!」
ペルセウスは叫びながら泣き崩れた。
頭を抱えて身動きも取れず、自分の胸を拳で叩いたりもした。
彼は絶叫した。
心が引っくり返るようだった。
まるで死を越えるほど熱くなったかと思えば、一瞬で氷のように冷たくなった。
そんなはずない、ありえない。
現実を否定し続けていたペルセウスだったが、ついに真実と向き合うことになった。
イリス皇女の命令でその子どもを育てたという乳母が、証拠として小さな金の飾りを差し出していた。
幼い子どもを捨てて逃げた当時、金に換えるために売ろうとしたが、売ることもできなかったという。
それは、かつて伯爵の妻が家を離れるときに、エリザベスへと贈った贈り物だった。
『エリザベス。子どもが生まれたら、その足首にこれをつけてあげて。』
『これは……』
『そばにいてあげられなくてごめん。どうか無事で……戻ってきて、一生子どもとあなたを守ってあげる。』
アウラリアの風習だった。
生まれたばかりの赤ん坊の足首に金細工で作った鈴をつけてあげること。
子どもがどこにいても、どこへ向かっても、たとえ両目が見えなくても一生その音を聞き、その音を追いながら永遠に見守ってあげる、という親の愛情が込められた物だった。
子どもが健康で無事に育つことを願う証だった。
ペルセウスが遠い道に旅立たなければならなかったその瞬間、その物は二人の心を落ち着かせ、結びつけてくれる大切な宝物だった。
そうだ、あの時はっきりと誓ったのだった。
あの子を永遠に守ると…たとえ目が見えなくなっても、耳が離れても――どんなに遠く離れても、その言葉を胸に刻み、命をかけて守ろうとした。
――でも、どうしてこんなことに?
フェルセウスの脳裏に、ある衝撃的な光景が浮かんだ。
何の痕跡も残さず、灰になったあの場所。
生まれてすぐに死んだとされ、葬られた小さな墓。
死の淵を越えて戻ってきた者を迎えたのは、愛する者たちの死だった。
子どもを失ってすぐに炎に包まれた妻を思い出し、視界がぐらりと揺れる。
そうだ、確かに……でも、あの子が生きているだって?
イリスの娘だと思っていたあの子が、私の娘だと?
私がこの手で突き放したあの子が、エリザベスの子だと?
「ふっ… ひっ… うわああっ!」
「陛下、陛下!」
拷問を受けているかのように、正気を保つのが難しかった。
ふと頭をよぎった思いに、喉が詰まるような痛みで眉間をしかめた。
『そこは… イリスの娘が行くような場所ではない。答えろ。なぜそこに行った?』
『な、食べる物がなくて… だから……』
『何?』
『お腹が空いて… 食べ物を探しに行ったんです。でも、私は何も盗んでいません!見るだけ見て、すぐに出てきたんです!』
『………』
『ごめんなさい、でも何も盗んでいません。許してください、ごめんなさい……』
両手を必死にすり合わせながら許しを乞うていた子どもの姿が思い出された。
哀れみを誘うほどやせ細ったあの子ども……食べる物がなくて、まるで小鳥のように隠れながら生きていたあの子。
燃える炭のように心臓が疼いた。まるで焼けつくような痛みだった。
――最初に出会ったあの瞬間は、どうだった?
妻にそっくりだった、柔らかな光のようなその目を見て、彼は説明しがたい胸騒ぎを感じていた。
恐れに満ちたその瞳で自分を見つめていた、あの視線。
それは、どこか胸を締めつけるようで、忘れられないものだった――
涙を流した。
『なぜ、なぜ気づかなかったんだ?』
どうして自分がその子に気づけなかったのか?
どうして?あの瞳を見てさえも、なぜ?
「うっ……」
まともに息もできず、激しく取り乱す皇帝を見て、アドルフ白爵は急いで侍従を呼び寄せた。
血管が切れたように目元が真っ赤になった。
まるで血の涙を流すように、彼は拳を握り締めて激しく取り乱していた。
あの子の名前さえ口にするなと、臣下たちに怒っていた自分の姿が思い出された。
子どもが行方不明になったとき、「むしろ死んだほうがよかった」と思っていた。
『死んでも当然だ。どうせ死ぬ運命の子どもだったんだ。皇城で死ななかったのは棺を準備する必要がなかっただけ、幸運だったんだ……』
その記憶がよみがえると、自分でも抑えられないほど感情が込み上げ、息が詰まるほど苦しくなった。
「うああっ!あああっ!!!」
発作のように激しく取り乱す皇帝の姿に、狼狽したアドルフ伯爵は、皇帝の侍医たちが駆け込んでくるのを見て慌てて叫んだ。
「早く、早く!陛下を助けろ!」
侍医たちは取り乱した皇帝を押さえ、鎮静剤を投与しようとした。
だが皇帝は、自分を押さえつける者たちを力で突き飛ばし、まるで狂ったかのように泣き叫んだ。
しばらくして、彼はついに全身から気力が抜けて、脱力した。
似たような光景。
レリアもまた幼い頃のことを思い出していた。
彼女のそばには3人の友達がいた。
禁言の魔法が解け、事実を打ち明けてから2日が経った今も……カーリクスは落ち着かない様子だった。
だが話を聞いてみると、城を抜け出したわけではなかったという。
『そんなに混乱してるのか……』
レリアは結局、真実を打ち明けられずにいた。
「それで?あいつらをやっつけたのか?」
ロミオが皮肉っぽく尋ねた。
レリアは小さく肩をすくめながら笑った。
領地の城の庭園に広がる花畑。
カーリクスを除いた4人は、まるでピクニックに来たかのようにテーブルを囲んでティータイムを楽しんでいた。
雨が止んだ後、天気が良くなったこともあって、より一層穏やかな風景だった。
ただし、交わしている会話はまったく穏やかではなかった。
あの日以降、ロミオは幼い頃の出来事を根掘り葉掘り話し始めており……。
気を落ち着けたあと、彼女は中立地域から皇城に戻った後の出来事をすべて語っていた。
レリアにとっては、再び思い出したくない忌まわしい記憶だった。
でも友達の前だからだろうか、この瞬間だけはその記憶がまるで何でもないかのように思えた。
だから自然とぽつりぽつりと打ち明けてしまった。
話してみたら、顔が火照るほど恥ずかしかった。
まるでつらい経験を親に打ち明ける子供になったような気分だったからだ。
でも代わりに怒ってくれる友達の姿を見ると、なぜか心がスッとした。
ただ、オスカーだけは少し心配そうだった。
レリアはあわてて弁明した。
「…でも本当に何ともなかったの。」
「何が何ともないって?私はそうじゃないと思ってたよ。あの背中!どうして妹を見分けられなかったのかって!」
ロミオが皮肉っぽく応じた。
しかし何かを思い出したのか、眉間にしわを寄せた。
自分も最初はレリアを見分けられなかったことに、何も言えないことを悟ったのだ。
レリアはぎこちなく笑いながらオスカーの目をうかがった。
話を聞いていたオスカーは無表情だった…
オスカーは誰かを殺す直前でもいつもあんなふうに無表情だった。
もしかしてオスカーがセドリックとデミアンを探し出して殺すのではないかという不安がよぎった。
レリアは急いで弁解するように口を開いた。
「本当に大丈夫……」
「もうやめて。」
本当に大丈夫だと弁明しようとしたレリアを止めたのはグリピスだった。
「大丈夫なわけがない。まだ十歳くらいの子供が……」
あの広い皇城でどれほど怖くてつらかったことだろう。
グリピスは言葉を飲み込み、寂しげに視線をそらした。
一瞬で空気が重くなったようで、レリアは気まずくなった。
『こんな話をするつもりじゃなかったのに……』
それでも、双子の兄弟たちがレリアを初めて見たとき侮辱したという話だけを取り出したのは幸いだった。
もしユリアや皇女を押しのけた罪で何時間も自分の膝をついて謝った話までしていたら、空気はもっと重苦しくなっていたことだろう。
「それでも私は本当に大丈夫だった。家族はいなかったけど…あなたたちがいるから。」
レリアがかえって慰めるように言うと、ロミオは大きくため息をついた。
「うちの隊長、虐げられて育ったせいか性格がずいぶん丸くなったな?心が痛むくらいに。」
「何ですって?」
レリアが眉をひそめると、ロミオが言い募った。
「元々君の性格だったらじっとしてなかっただろうに…違うか?年上の兄貴たちにも隊長風をよく吹かせてたし…」
「やめて……」
レリアが歯を食いしばって警告したにもかかわらず、ロミオはクスクス笑っていた。
だが、ロミオの言うことが間違っていたわけではなかった。
神殿で過ごしていたときは、むしろ何の心配もなく元気にしていた。
しかし皇城に戻ってから、その頃の自分は……死への恐怖に囚われ、死なずに生きること以外には何も考えられなかった。
未来を知るという恐怖ゆえに、生き延びなければという思いだけだった。
今、再び過去に戻ったとしても、レリアは彼らの前でおびえた小動物のように小さくなっていたはずだ。
だが、もう違った。
封印の魔法が解けてから、レリアは新たな命を得たように自由を手に入れた。
もうこれ以上、失言を恐れる必要もなければ、寝言を言っていて息が止まるのではと心配する必要もなかった。
願っていた通り、友人たちに事実を告白し、許してもらった。
これ以上望むことはなかった。
「今はあなたたちがいるから大丈夫。」
レリアはまるでようやく自由を得た人のように晴れやかに言った。
そよそよと吹いてくる風さえも心地よかった。
まるで子供時代に戻ったかのように幸せだった。
心に引っかかることがいくつかあったとしても、こんなにも心が軽くなるなんて。
祖父には叔母の秘密帳簿と不正の証拠をすべて渡したので、一族に対する心配も一つ減った。
祖母もまた、以前より早く健康を回復していた。
彼女に残った心配事といえば…。
『カーリクス…あいつは本当にどうすればいいの?』
顔を見て話せば、何かしら説明してくれるはずなのに。
ずっと避けて回ってみたが、答えは出なかった。
とはいえ、夜に訪ねていくわけにもいかず……。
下手にまた夜に行ったら、前のように変態に襲われるかもしれなかった。
そしてもう一つの気がかりは、首都に現れるかもしれない乳母とペルセウス皇帝だった。
最後に――
『この数日間、錬金が妙に静かだな?』
最初はシステムエラーかと思った。
静かでいいのは確かだが、なんだか嵐の前の静けさのようで、落ち着かない気持ちもあった。
借りた恩を返すにはミッションを遂行しなければならないのに、錬金は「ミ」さえも言わずに沈黙していた。
おかげで新たにアップデートされた商売システムでゲームマネーはコツコツと貯まってはいたが……。
『まあ…大丈夫でしょ、きっと。』
レリアは心配を後回しにし、今の平和を満喫することにした。
「そうだ、隊長。この機会に、これからは私たちのこと“兄さん”って呼ぶのはどう?」
「マジで……」
ロミオさえいなければ、もう少し平和が保たれていただろうに。
レリアは子どもの頃に戻ったかのように拳を振り回しながらロミオに駆け寄った。
ロミオは「ひゃっ!」と情けない声をあげながら、レリアの隣にいたグリフィスとオスカーの後ろに隠れた。







