こんにちは、ピッコです。
「ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
どういう訳か小説の中の悪の一族、アグリチェ一家の娘「ロクサナ」に生まれ変わっていた!
アグリチェは人殺しをものともしない残虐非道な一族で、ロクサナもまたその一族の一人。
そして物語は、ロクサナの父「ラント」がある男を拉致してきた場面から始まる。
その拉致されてきた男は、アグリチェ一族とは対極のぺデリアン一族のプリンス「カシス」だった。
アグリチェ一族の誰もがカシスを殺そうとする中、ロクサナだけは唯一家族を騙してでも必死に救おうとする。
最初はロクサナを警戒していたカシスも徐々に心を開き始め…。
ロクサナ・アグリチェ:本作の主人公。
シルビア・ペデリアン:小説のヒロイン。
カシス・ペデリアン:シルビアの兄。
ラント・アグリチェ:ロクサナの父親。
アシル・アグリチェ:ロクサナの4つ上の兄。故人。
ジェレミー・アグリチェ:ロクサナの腹違いの弟。
シャーロット・アグリチェ:ロクサナの妹。
デオン・アグリチェ:ロクサナの兄。ラントが最も期待を寄せている男。
シエラ・アグリチェ:ロクサナの母親
マリア・アグリチェ:ラントの3番目の妻。デオンの母親。
エミリー:ロクサナの専属メイド。
グリジェルダ・アグリチェ:ロクサナの腹違いの姉。
ポンタイン・アグリチェ:ラントの長男。
リュザーク・ガストロ:ガストロ家の後継者。
ノエル・ベルティウム:ベルティウム家の後継者
53話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ノエルの狂暴性
「ダンテ」
ロクサナのための歓迎会は思ったより早く終わった。
「はい、ノエル様」
楽しい音楽も止まり、宴会場を埋め尽くしていた観客も引き潮のように抜け出す。
ノエルは物寂しさを感じるほどがらんとした宴会場の真ん中に一人で立っていた。
わずか1時間前までは、ようやくルナに会えると歌を歌いながら、念入りに準備したことが顔負けするほど。
「これがどういうことか説明してみろ」
ノエルの声は静まり返っている。
ちらっと見た彼の顔は強ばっていた。
ダンテはこっそりとニックスに視線を向ける。
彼は宴会場の片隅に設けられていたテーブルの上に腰掛けて、一人でゆったりと杯を傾けていた。
視線が合うと、ニックスはダンテに向かって目尻を追って笑う。
それを見てダンテは眉をひそめて小さく舌打ちした。
いつもそうだったが、ニックスはやはり役に立たない。
「そう言われても、私はずっと外にいたので詳しい状況が分かりません」
普段ならもう少し気難しかっただろうが、今はノエルの気分があまり良くないようで自制した。
ダンテは宴会場の中に入ったロクサナが予想より遥かに早く出てきたという事実が分かっただけ。
そして目の前を通り過ぎていく彼女から冷たい風が吹き付ける感覚があったこと。
その後、宴会場の中を埋めていた人形が外に溢れ出た。
ダンテはそれを見て中に入ってきたのだ。
ノエルは、どうしてこうなったのか到底理解できないという目つきをしていた。
「ルナが明日また話そうと言って部屋に戻った」
その深刻な顔を見てダンテはうつむく。
「旅行で疲れていたようですね」
「そうじゃない!なんだか腹が立ってたみたいで・・・」
今の状況を大したことないようなダンテの反応に、ノエルが声を荒げる。
彼の顔にじわじわと不安感が漂っていた。
「私を・・・、ものすごく冷たい目つきで見ていた」
「やれやれ」
「私はただニックスを紹介しただけなのに、急に寒気を吹きながら、まるで月の女神ではなく、冬の女神であるかのように・・・」
ノエルがソワソワしながら熱心に説明するのを聞いて、ダンテは目元をしかめる。
予定通りであれば宴会が終わる頃にニックスを見せる予定だったが。
残念ながら、ダンテは宴会場の雰囲気が熟す前にロクサナが席を離れた理由が分かるようだった。
けれど、ノエルは不安そうに唇を噛んで突然ダンテに向かって口を開く。
「ダンテ、お前がルナに何か粗相をしたんじゃないのか?」
「え?どうして私が?」
「ペデリアンからずっと君がそばにいたじゃないか」
「ロクサナ様なら、私がペデリアンに到着して挨拶する前から、気分が愉快そうに見えませんでした」
「そうなの?じゃあペデリアンが原因なのか?ルナの機嫌を損ねるなんて、ただじゃ済まないぞ!」
「ロクサナ様の気分が良くないのは、当然ノエル様のせいじゃないですか」
ダンテの言葉にノエルはびくともしない。
「え?それはどういうこと?私が何をどうしたって?」
彼は心から理解できないという表情を浮かべる。
「ルナのためにプレゼントも準備して、歓迎の宴会も開いたけど?」
ダンテはそんなノエルを哀れな人を見るように見つめながら口を開く。
「常識的に考えてみてください。まず、ノエル様が送った手紙で不快だったのでしょう」
「私が送った手紙がどうして?」
「どれだけ包装しても、結局は脅迫状ではないですか。そんな手紙を受け取って喜ぶ人がどこの世界にいるのですか?」
「き、脅迫だなんて。私に、そういう意図は・・・」
ノエルは何も言えないのか口ごもる。
ダンテは哀れさと煩わしさが込められた目で彼を見た。
ところが、突然ノエルがダンテに向かってもう一度荒々しく叫ぶ。
「ほら、やっぱりお前のせいじゃないか!」
その言葉に、当然ダンテは荒唐無稽に。
「なぜそうなるのですか・・・」
「送った手紙は君が書いたんだから!」
「私はノエル様が最初に書こうとした内容をもっと優雅で上品に書き直しただけです。ご存知のように、ノエル様の作文の実力だと、御令嬢は・・・」
最初、ノエルが三日昼夜で念入りに書き、自分に見せたメチャクチャな書信を思い出し、眉をひそめた。
そして、ダンテが驚いた理由がもう一つある。
「どうして手紙の中に髪の毛を入れたのですか?呪いの手紙じゃあるまいし、身の毛がよだつ冷たくなりましたよ」
手紙を封じる前に、ダンテが必死に止めたが、ノエルは聞かなかった。
だから結局、ロクサナは封筒を開けるや否や、降り注ぐ醜い髪の毛を見ることになったのだろう。
それにもかかわらず、ノエルは一点の恥ずかしさも反省もない姿でダンテに反論する。
「ニックスの髪はルナのように綺麗な月光だからさ!だから、直接見ればルナも一目でニックスの存在に気づくと思っただけだよ」
ダンテはこの程度なら愚かな行為も病気だと考えた。
主人を対象にした評価にしては、辛辣で無茶苦茶な考えだが。
ノエルを相手にする時は、いつも急激な疲労感が襲ってくる。
「髪の毛を一本切って送っても気づきませんよ。むしろ、もっと身体的部位を送るなら、まだ分からない話ですが」
むしろノエルがこのように生き生きしている時より、一晩中人形を作ったせいで眠りが足りなくて、夢うつつの状態にいる方が遥かに良いような気がした。
「例えば、あの青い目玉とか、傷跡の残っている右手とか」
「お前・・・!そんなことは邪悪過ぎるだろ!この邪悪な男め!」
「とにかく、率直に言ってロクサナ様があの書信を見て、ノエル様が望んだ通りにここまで来ることを決めたのが奇跡のようなことです」
そして、ダンテがノエルを見ながらニッコリ笑う。
「それで結局、ロクサナ様の好感を得ることには失敗したようですね。それは本当に心がかなり痛むでしょう」
ノエルの顔が無惨に皺くちゃになった。
彼はダンテの言葉に腹が立ったようだ。
そうするうちにノエルは認めたくないかのように命令する。
「お、お前たち!ルナの世話をした子たちを連れてこい!」
彼の話を聞いて宴会場の片隅に目立たないように残っていた人形が動き出す。
ダンテはそんなノエルを見て、また始まったと考えてため息をついた。
しばらくして侍女数人が宴会場の中に入ってきた。
「君たち、ルナと一緒にいた時に何もなかった?」
「何かと言うと・・・」
「もしかしてルナの機嫌を損ねるようなことはなかったという事」
その瞬間、ノエルの前で頭を下げていた侍女たちが体をピクっと震わせる。
「何?」
ノエルはその反応を逃さなかった。
「気になることがあるみたいだね」
薄緑色の瞳に、一瞬煌めく光が通り過ぎた。
「何?早く言ってみて」
ロクサナの思い通りに彼女の世話をした侍女たちは人形だ。
そして人形は嘘を知らない。
ノエルの命を受けた人形たちが、さっき部屋で起きたことをありのまま説明する。
「歓迎パーティーのための装いをお手伝いしている途中、誤ってお嬢様の体に小さな傷を負わせてしまいました」
「え?ルナの体を傷つけたの?どこを、どうやって?」
「イヤリングを取り替えている間に、擦り傷を負ったのか血が出て・・・」
「血まで出たの?」
「ですが、お嬢様が大目に見てくれました」
「え?ルナが許してくれたの?」
少し鋭くなったノエルの目つきが再び和らいだ。
「それなら幸いだね。じゃあ、もしかしてその事で心が解れていなくて、宴会を楽しむ気分じゃなかったのかな?」
彼は原因が分かってスッキリしたようだ。
「私はダンテの言葉のように、もしかしたら本当に私のせいかと心配したじゃないか」
ノエルの表情に余裕と穏やかさが戻る。
「ありがとう。君たちが率直に言ってくれて心が楽になった」
澄んで純粋な光を帯びた顔の上に重ねられた笑みは、春の日差しのように暖かく優しかった。
しかし、相次ぐノエルの行動は少しも穏健ではない。
「ところで君たちのせいでルナとの再会を台無しにされた事は、どうやって責任を負うの?」
ノエルの手に持っていた山羊の仮面が一度振り回される度に、人形の肉が潰れて血が飛び散った。
その姿を見守るノエルの目は限りなく無慈悲だ。
動いてもいいという命令がなかったため、人形たちは動かない。
「申し訳ございません、ご主人様。私たちが未熟なせいで失敗を・・・」
そして、彼らは無感情な声でノエルに許しを請う。
このような状況で人間の感情を真似して哀願したり訴えたりすれば、ノエルがさらに怒るという事実を知っているためだった。
「ご主人様、過ち___」
「ああ、うるさい。どうせ痛くないじゃないか」
ノエルは人形の謝罪を聞きたくないかのように言葉を遮る。
「あなたはもう部屋に戻りましょう、ニックス」
ダンテは顔を顰めたまま目の前の光景を見て、テーブルの上に座っているニックスに顔を向けた。
するとニックスはクスッと笑いながらテーブルから降りる。
「私にも火の粉がかかるんじゃないかと心配してくれるのかな?」
「知っていると思いますが、あなたが綺麗だからではありません」
ダンテの声色はニックスに接する時、情がなく肌寒い。
ニックスはそんなダンテを見ながらも笑顔を絶やさなかった。
「それなら私が大人しくあなたの言葉に従うはずがないという事も分かっていると思うけど」
続いて舞踊家のように優雅に伸びたニックスの手が、その中に持っていた空のグラスを地面に落とす。
ガシャン!
鋭い騒音が宴会場に響き渡った。
その瞬間、ダンテはぎくりと眉間を狭める。
人形たちを殴打していたノエルの手が止まった。
「もう落ち着いて、ノエル」
ニックスは宴会場を離れる代わりに、そのままダンテを通り過ぎてノエルに近づく。
ようやくノエルの閑散とした目つきが、騒音の原因であるニックスに届いた。
「そういえば・・・」
ノエルはふと思い出したように口を開く。
「ルナは思ったより喜んでいる様子じゃなかった」
これ以上、人形に暴力を行使する気がないのか、ノエルは手に持っていた仮面を床に落とした。
彼の前にいる人形は床に倒れ、体を痙攣している。
「生きている前に、この肉体の持ち主とあまり親しい間柄ではなかったのかな?」
ノエルの疑問に、ニックスは首を横に振る。
「それは違う。目が合った瞬間、私にまで隠すことのできない動揺が伝わってきたよ」
しかし、ニックスはすぐに淡々と付け加えた。
「まあ、死んだと思っていたお兄さんが生きて動いているのを見たのだから、混乱してもおかしくないだろうね!」
もちろん、あくまで器が同じだけで、ニックスの中身はロクサナが本来知っていた人物とは全く違うのだが。
「ただ彼女にも時間が必要なだけさ。その程度は君が我慢しないといけない」
ニックスの笑顔を見て、ノエルも徐々に固かった表情を和らげる。
「心配しないで。最後には全部君の望み通りになるよ、ノエル」
甘い囁きがハチミツのように溶けていく。
ノエルの怒りはいつの間にか収まっていた。
しかし、ダンテはそんな二人の姿を見て、反対に顔を歪めている。
「それじゃあ、今日はこの辺で部屋に戻って休んだ方がいいよ。君のルナが明日また話そうって言ったじゃない?最高の状態で彼女に会うためには、君も十分に休息を取っておかないと」
「そうだね、君の言う通りだ」
再び無邪気な笑顔を浮かべたノエルは、ニックスの言葉に大人しく頷く。
まもなくノエルとニックスは、一緒に宴会場のドアに向かって歩き始めた。
ニックスはこれ見よがしに首を回し、ダンテに向かって生臭い笑顔を浮かべる。
その瞬間、ダンテの目に冷ややかな光彩が起きた。
(不良品のくせに、生意気な・・・)
すると、ノエルが足を止めてダンテの方を振り返る。
「あ、そうだ、ダンテ」
「はい」
「その人形は目立たない場所に片づけておいて。失敗作だから」
「分かりました」
ノエルは床に散らばっている壊れた人形に視線も向けず宴会場を抜け出した。
一人残ったダンテは、誰も知らないうちに、低いため息をつく。
ロクサナは電気が消えた暗い部屋に一人でじっと座っていた。
宴会場から抜け出した後、彼女は着替えもせずに沈黙を守っている。
目の前にある鏡には、表情のない女性の顔が映っていた。
しかし、ロクサナの心は見た目ほど落ち着いた状態ではない。
先ほどベルティウムの宴会場で見た少年の顔が鏡上で重なる。
「・・・アシル」
最初にグリセルダから届いた手紙で予感はしていた。
ところが、どうしてこのような状況でアシルの名前が出てくるのだろうか?
しかし、今まで散らばっていたパズルのピースが徐々に元の位置を取り戻していく感覚に。
アグリチェとベルティウムの間に存在すると感じられた妙な繋がり。
ラント・アグリチェは、生前ベルティウムの人形術に関心を持っていた。
もちろん、ロクサナはまだこの件にまつわる詳しい内情を知らない。
しかし、アグリチェがベルティウムの人形術に関与したという事実だけは確信できそうだった。
だからロクサナはノエルの招待に受諾したのだ。
自分の目で直接確認するために。
『こんにちわ、ロクサナ』
だが、本当にアシルと同じ姿をした彼を目撃した瞬間、すでに彼の存在を予想していたにもかかわらず揺れ動く心をどうすることもできなかった。
『会いたかったよ、私の妹』
宴会場の中での出来事をもう一度振り返っている間、鏡に映ったロクサナの赤い瞳が今までとは比べ物にならないほど冷たくなる。
手袋を脱いでアクセサリーを一つずつ外していく。
そうするうちに、ふとロクサナは奇妙な違和感を感じて手を上げる。
さっきわざと怪我をして血を出した左耳に触れた。
ところが、どういうわけか少しの痛みも感じられない。
鏡を覗くと、耳の傷が綺麗に癒えているのが目に入った。
最初は部屋の中が暗くて勘違いしたのかと思ったが、そうではなかった。
こんなに短時間で跡形もなく傷が消えるなんて。
どう考えても不自然なことだ。
もちろん、ロクサナはつい先日まで、このようなことを可能にする人物と一緒にいた。
しかし、今カシスは自分のそばにいない。
それなのにどうして・・・。
「・・・」
しばらくして、ロクサナは頭から外した装身具の一つを持ち、鋭い先端を指に当てて刺す。
当然、指先に赤い血が滲んだ。
しかし、しばらくの時間が経った後、指先から感じられた鋭い痛みが消えた。
指先を擦って血を拭くと、先ほどまであった傷が綺麗に治っているのが目に入る。
「カシス・・・」
ロクサナは、小さく開いた唇の隙間から、頭の中を通り過ぎた人の名前を呟く。
一緒にいる間、一時も無駄にせず、自分に生気を与えてくれたカシスが思い浮かんだ。
すると、まるで今もカシスの痕跡が彼女の体の中に満ちているような感覚に。
動揺する気持ちを抱いて目を閉じる。
今この瞬間、カシスが自分のそばにいるような気がして、少し癒された。
「久しぶりだね、青の貴公子」
ユグドラシルに到着して会議場に向かっていたカシスは、それほど嬉しくない人物に出会う。
ジェレミーだった。
彼はまるでカシスを待っていたかのような姿で廊下に身を寄せて立っている。
カシスの歩みが止まった。
彼は目の前の相手を見つめながら口を開く。
「意外だな。本当にこの場に現れるとは思わなかったよ」
「今は私がアグリチェの首長なのに、このような重要な会合に出席しない理由があるのかい?」
ジェレミーは堂々と言ったが、事実上5家門の間でアグリチェの立場は非常に良くない。
もちろん、他の家門は今回のことをキッカケにペデリアンに圧力をかけようと試みた。
しかし、今回見せたペデリアンの歩みには正当性が十分にあったのだ。
他家の後継者を殺害しようと企てたことは、いかなる理由でも容認できることではない。
これまでペデリアンがアグリチェのように正道を知らずに勝手に行動したとすれば、話は別だが、ペデリアンは今まで常に均衡を守って一度も線を越える行動をしたことがなかった。
今回の件も、ペデリアンの実質的な目標はラント・アグリチェのみ。
当時、彼らは邸内にいた他の家族にも報復できたが、それを行わなかったのだ。
それだけでも事実上ペデリアンは最小限の道義を守ったわけになる。
その上、他の家門もアグリチェが既に飢えて腐っていた腫れ物と同じだったという事実を知らなかった。
そのため、これを機に一度腐った根を滅ぼすのも悪くないと考える。
そこにもう少し個人的な理由を含めると、日が経つにつれて傍若無人になり、みっともない行動を日常的に行うラント・アグリチェに対してウンザリしていたのだ。
そのような理由で、今回ペデリアンがアグリチェに犯したことを黙認することを決定するには、それほど長い議論は必要なかった。
そんな中、自ら頭を下げて入ってきたジェレミー・アグリチェの願いで、黒の家門は辛うじて形体だけが残っていることを許されている状況だ。
「今の席がずいぶん気に入っているようだね、ジェレミー・アグリチェ」
カシスの顔に浮かんだ冷たい笑顔は、どう見ても嘲笑としか言いようがない。
「そうだね。だから挨拶するたびに、ちゃんと黒の首長と呼ぶんだな」
場所があまり良くなかったので、言葉尻に自動的にくっついてきた悪口を、ジェレミーは飲み込む。
(やっぱりこいつは気に入らない。ずいぶん前に死んだと思っていた男が幽霊のように現れたのも気に入らないし)
けれど、どれだけ考えてみてもカシスを生かしたのはロクサナの意志であることは明らかだった。
姉のことを考えて、ジェレミーは喉から込み上げる悪口をグッと堪える。
彼はカシスに聞きたいことがあったのだ。
「青の・・・、貴公子。お前、最近私以外に他のアグリチェを見たことがあるか?」
ジェレミーは、以前からロクサナの行方を捜索していた。
もちろん彼女が望まなければ会おうと無理強いはしない。
しかし、それでもロクサナが元気に過ごしているのか、また今どこに滞在しているのか程度は知りたかったのだ。
けれど、なかなか思い通りにはいかない。
ロクサナの跡を追って、エミリーとシエラの痕跡を発見した程度だ。
あの日、姉はすべてを捨て去るつもりのようだった。
そんな彼女がエミリーとシエラの元にいるはずがない。
そうするうちに、ジェレミーは今日カシスに尋ねるつもりだったのだ。
もしカシス・ペデリアンが3年前に死ななかったのだロクサナの意志であり、また先日アグリチェを倒すのに彼が先頭に立ったのも彼女の計画の一部なら・・・。
想像だけで途方もなくイライラしたが、ひょっとしてカシスはロクサナの所在地を知っているのではないのだろうか?
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