こんにちは、ピッコです。
「悪役令嬢の推しに選ばれました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
38話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 容赦ない断罪
公女様が席を外された後――。
「……」
「……」
私たちの間には、重苦しく気まずい沈沈黙が流れていた。
私のあからさまな不機嫌を感じ取ったのか、令嬢たちは互いに視線を交わしながらこちらの様子を伺うばかりだ。当のレディ・サンチェスも、自分が度を越した不躾な振る舞いをしたと自覚しているのか、おとなしく口を閉ざしている。
だが、その沈黙も長くは続かなかった。
場の空気をどうにか取り繕おうとしたのか、レディ・サンチェスが遠慮がちに私へ声をかけてきた。
「その……レディ・アンシ」
「なんでしょうか」
「大丈夫ですか? なんだか最近、公女様がレディ・アンシに少し厳しく当たっていらっしゃるように見えたものですから……」
思わず呆れてしまった。まったくの見当違いもいいところだ。
私の表情が険しくこわばったことに気づいたのか、レディ・サンチェスはなおも痛ましそうな顔で言葉を重ねる。
「もしかして、裏では公女様にきつく扱われていらっしゃるのではありませんか?」
どこかで何度も見たような、聞き飽きたやり口だった。
いかにも善意や心配を装いながら、巧みに人と人との仲を引き裂こうとする悪質な話し方。相手を深く思いやっているように見せかける、あざとい表情まで含めて。
(セラフィナの友人だというだけあって、くだらない悪知恵ばかり吹き込まれたのね)
私は冷ややかに口元を緩めた。
「そんな事実は一切ございません。公女様はいつだって私に良くしてくださいます」
きっぱりと言い切ると、レディ・サンチェスは納得がいかない様子で語尾を濁した。
「ですが……」
「公女様は、ほんの少し不器用なだけです。……昔の私と同じように」
食い下がる彼女の言葉を、私は容赦なく遮った。
「どういう意味……ですか?」
「皆さんもよくご存じでしょう? かつて私が社交界で『レディ・ロペスの侍女』と陰口を叩かれていたことくらい」
私のあけすけな自己嘲笑に、レディ・サンチェスは気まずそうに肩をすくめた。私はそんな彼女を冷たい眼差しで射抜く。
「まあ、その不名誉な噂を広めるのに、一役買われた方もこの中にいらっしゃいますけれど」
「レ、レディ・アンシ! 私は……!」
「当時の私は、レディ・ロペスやグスト卿にどう接すればいいのか分かっていなかったのです」
慌てて弁解しようとするレディ・サンチェスを手で制し、私は彼女の目をまっすぐ見つめた。
「あの人たちの言うことには決して逆らえないのだと、自分自身の尊厳よりも彼らの利益を優先しなければならないのだと、固く信じ込んでおりました。――ですが、今の私は違います」
「……」
たまらず先に目をそらしたのは、レディ・サンチェスのほうだった。
「そして、私がここまで自分を変えることができたのは、すべて公女様が手を差し伸べてくださったおかげなのです」
私は落ち着いた、しかし揺るぎない声で続けた。
「公女様は、私の惨めだった人生を変えてくださったかけがえのない恩人です」
私の熱を帯びた言葉に、周りの令嬢たちはそれぞれ胸に刺さるものがあったのか黙り込んだ。しかし、レディ・サンチェスだけがあからさまな不満を顔に滲ませている。
(何をそんなに腹を立てているの?)
「もちろん、レディが公女様の本当のお人柄をよくご存じないのは理解しております。ですが私でしたら、よく知りもしない事柄について軽々しく口を挟むくらいなら、黙って口を閉ざすほうを選びますけれど」
皮肉を込めて言い捨てると、私は踵を返してその場を立ち去ろうとした。だが、ふと思い直して振り返る。
「そういえば……公女様に『エヴァンス首席司祭に引き合わせてほしい』と、駄駄をこねて無理を言っていたのはどなたでしたかしら?」
「む、無理を言ったですって!?」
レディ・サンチェスの顔が瞬く間に朱に染まる。それでも私は動じず、言葉を畳みかけた。
「そして、その厚かましい願いを聞き入れてくださったのは、一体どなたでしたでしょうか?」
「……確かに、その通りですわ」
読書会のほかの令嬢たちが、小さく頷きながら私の言葉に同意した。聖職者の頂点に立つエヴァンス首席司祭との面会など、本来なら一令嬢が軽々しく口にしていい頼みではない。
『しかも、エヴァンス首席司祭は公女様が最も苦手とされている相手なのに……!』
胸の奥から湧き上がる怒りに、私はぎゅっと拳を握り締めた。
公女様はご自身の感情を必死に押し殺し、変わろうと血の滲むような努力をなさっているというのに。何も知らないくせに好き勝手な噂を囁くなんて、到底許せることではない。
「つまり、それほどまでに公女様は、レディ・サンチェスに対して寛大に接してくださっていたということです」
激昂しそうな感情を必死で抑え込み、私はあえて穏やかに微笑んだ。
「ですからこれからは、皆さんの公女様に対する誤解が少しでも解けることを切に願っておりますわ」
「も、申し訳ありませんでした……」
「私たちも、これからは発言に気をつけます……」
むしろ他の令嬢たちのほうが身の縮む思いでうつむいていた。だが、最後まで己の非を認めようとしない者が、たった一人だけいた。
「レディ・アンシ、少々言い過ぎではないかしら!?」
そうキーキーと声を張り上げたのは、ほかでもないレディ・サンチェスだった。彼女は胸を張り、私に食ってかかるように叫ぶ。
「もちろん、公女様が以前よりずっとお優しくなられたのは認めますわ! それでも私たちとしては、公女様のほうからもう少し私たちに歩み寄ってくださればと思っているのです! そうすれば、私たちの中に積もっていた誤解だって、自然と解けるのではありませんか!?」
さりげなく「私たち」と主語を大きくし、読書会のほかの令嬢たちまで自分の味方に引き込もうとする卑劣なやり口。
「本当に、皆様もそうお考えなのですか?」
私は呆れたように肩をすくめると、視線を残りの令嬢たちへ向けた。
「今、レディ・サンチェスは『私たち』とおっしゃいましたわね。でしたら、お三方の本音も直接お伺いしましょうかしら」
「え?」
「わ、私たちですか!?」
突然矛先を向けられた令嬢たちは、驚いて目を丸くした。
「今でもまだ、公女様に対して嫌な誤解を抱いていらっしゃいますか?」
正直、かなり意地悪な踏み絵のような質問だ。この社交の場で「はい、今でも公女様を不信に思っています」などと口にできるはずがない。
けれど――最初につまらない我儘を押し通したのはレディ・サンチェスなのだ。それを勝手に「全員の総意」のように扱われるのは看過できない。
私の問いかけに、令嬢たちは気まずそうに顔を見合わせる。
「ええと……」
「それは……」
しばしの躊躇の後、一人の令嬢がおずおずと口を開いた。
「正直に申し上げますと、公女様とお話しする際はとても緊張いたします。ですがそれは、公女様があまりにも気品に満ちた高貴なお方だからですわ。自分が何か不作法をしてしまわないかと心配なだけで……」
「私も、公女様が私たちに意地悪をなさったなんて一度も思ったことはありません」
別の令嬢も勢いを得て言葉を重ねた。
「えっ……?」
私は思わず目を瞬かせた。二人の表情があまりにも真剣だったからだ。公女様の機嫌を取るための表面上の調子合わせではない。心の底からそう感じている目だった。
「もちろん、レディ・アンシほど特別に親しく接してくださるわけではありませんけれど……それは元々お二人の絆が深いからですもの」
「ええ。実際にお会いするまでは、もっと冷酷で近寄りがたい方だと思い込んでおりましたけれど、思っていたよりもずっと気さくで温かい方でした」
最初に話した令嬢が、少し恥ずかしそうに頬を染めながら続けた。
「実は私……少しふくよかな体型を気にしておりましたの。ですが公女様は、以前私にこうおっしゃってくださいました。『お気になさることはありません。健康のために体重を整えるのは素敵なことですが、他人の無遠慮な視線のために無理なお召し替えや食事制限をする必要はありませんよ。今のあなたも、十分に美しく魅力的です』と……」
そう語る彼女の頬は赤く染まっていた。
「正直に申し上げて……救われるような思いでした」
その瞬間、レディ・サンチェスの顔が引きつった。無理もない。
『あんなに太っているのに、これ以上お菓子を召し上がるなんてお可哀想に』
以前、レディ・サンチェスが遠回しな嫌味で彼女を傷つけていたのを私は知っていたからだ。
さらに、話はそれだけで終わらなかった。
「むしろ、公女様とレディ・アンシが私たちの読書会に加わってくださったことに、心から感謝しております」
そう言って胸を張ったのは、レディ・シュードだった。
「ご存じの通り、社交界において私たちの読書会は決して華やかな存在ではありませんでしたから」
どこか自虐を込めた口調で語る彼女がちらりと向けた視線は、この読書会の「癌」が一体誰だったのかを明確に物語っていた。
「ですが、お二人が参加してくださるようになってからというもの、最近では他の高貴な令嬢方までもが私たちの活動に興味を示してくださるようになったのです」
レディ・シャウッドは誇らしげに微笑み、きっぱりと締めくくった。
「ですから、私たちの読書会はお二人に大きな恩があると言っても過言ではありませんわ」
「……ッ」
壁際に追い詰められたレディ・サンチェスは、悔しそうに唇を噛みしめた。
(あれ……?)
その時、私は部屋の物陰に思いがけない「違和感」を見つけた。
離れた柱の陰から、見覚えのあるドレスの裾がちらりと覗いていたのだ。
あれは……公女様の瞳と同じ、気品ある鮮やかな青色の生地。そして今日、公女様がお召しになっていたドレスそのものだった。
『公女様!? えっ、どうしてあんなところに隠れていらっしゃるの……!?』
・
・
・
(レディ・アンシが……あんなにも必死に私のことを庇ってくれていたなんて……)
物陰に潜んでいたエヴァンジェリンは、胸の詰まる思いでぎゅっと拳を握り締めた。
(そんなことも知らず、私は『彼女に新しい友達ができたから疎外されているのだ』なんて愚かな嫉妬に駆られていただなんて……!)
押し寄せる罪悪感と情けなさに胸が引き裂かれそうになった、その時だった。
「まあ、公女様?」
甲高いわざとらしい声が、静かな廊下に響き渡った。
(まさか、この声は……)
エヴァンジェリンが不快感に眉をひそめて振り返ると、そこにはひときわ華美に装飾されたドレスを纏ったセラフィナが立っていた。今すぐ王宮舞踏会へ飛び込んでも浮かないほど、煌びやかに着飾っている。
(よかったわ、今日は私の方が公女様よりずっと目立っているわね)
気分転換を口実に外出し、あわよくば素敵な貴族の紳士との出会いを期待して気合を入れて仕立ててきたドレスだ。セラフィナは己の姿に優越感を抱きながら、両手で抱えた立派な花瓶を揺らし、優雅に歩み寄ってきた。
「お見かけいたしましたので声をかけさせていただきましたの。このような場所でお会いするなんて奇遇ですわね。ごきげんよう、お元気でしたか?」
「……」
「……」
同時に、読書会の部屋を満たしていた会話がピタリと止まり、あたりは静まり返った。
エヴァンジェリンは悔しさのあまり唇を噛み締める。
(わざと……みんな聞こえるように大声を上げたのね!?)
セラフィナの企みは明白だった。エヴァンジェリンが物陰で令嬢たちの会話を盗み聞きしていた事実を曝露し、彼女と令嬢たちとの関係を修復不可能なまでに気まずくさせようという嫌がらせだ。
エヴァンジェリンがハッと部屋の方を振り返ると、セラフィナの邪悪な思惑は見事に的中してしまっていた。
部屋の中の令嬢たちは息を飲み、驚愕の表情でこちらを見つめている。特にレディ・サンチェスは、顔から血の気が引いて紙のように真っ白になっていた。
(レディ・アンシは……?)
エヴァンジェリンが慌ててラリテに視線を送ると、彼女もまた複雑な表情で立ち尽くしていた。
(どうしよう……大変なことになってしまったわ……)
胸が締めつけられるような自己嫌悪と恐慌がエヴァンジェリンを襲う。
(レディ・アンシは……あんなにも真心で私を守ろうとしてくれたのに……私は彼女たちの陰口を盗み聞きするような惨めな真似をしていたなんて……!)
自己嫌悪が頂点に達した、まさにその瞬間だった。
「きゃっ!?」
あざとく慌てた声を上げて、セラフィナが派手に体勢を崩した。
ドレスに合わせた無理な高ヒールのせいで、足元を滑らせたのだ。
だが問題は、彼女の腕の中に抱えられていた「凶器」だった。
白いガーベラが生けられた、並々と水が注がれた重厚なガラスの花瓶。それがセラフィナの傾いた身体とともに大きく弧を描いた。当然、中の冷たい水が勢いよく外へ放たれる。
「公女様っ!?」
ラリテの切迫した叫びが響いた。
――ざばぁんっ!!
激しい水音が耳を打つ。エヴァンジェリンは反射的に強く目を閉じた。
……しかし、いくら待っても肌に冷たさは届かない。
「え……?」
エヴァンジェリンが恐る恐る目を開けると、そこには絶句する光景が広がっていた。
「レ、レディ・アンシ……!?」
まるで頭から水を被ったネズミのように全身びしょ濡れになったラリテが、息を荒げながらエヴァンジェリンの身体を必死に検分していたのだ。
「公女様、お怪我はございませんか……!? どこも痛むところはありませんか!?」
エヴァンジェリンの無事を確認すると、ラリテは心の底から安堵したように胸を撫で下ろした。
「ああ……本当によかった……」
幸いにも、エヴァンジェリンはドレスの裾に少し水滴が飛んだ程度で済んでいた。
自分を盾にして全身で水を被ったラリテの姿に、エヴァンジェリンの胸から激しい感情が一気に溢れ出した。
彼女は震える手でラリテの両肩を強く掴むと、激昂した声を張り上げた。
「今それを心配している場合ですか!!」
「こ、公女様……!?」
『えっ、どうして急に怒られているの!?』とでも言いたげに、ラリテは地震にでも見舞われたかのように目を丸くして狼狽している。
エヴァンジェリンは手命にバッグから最高級のシルクのハンカチを取り出すと、ラリテの顔や首元についた水滴を荒い鼻息とともに拭い去った。
「ああ、もう……こんなにびしょ濡れになってしまって……!」
取り乱したエヴァンジェリンは、ずぶ濡れになったラリテのドレスをどうにかしようと慌てふためき、ふと顔を上げた。その視線の先にいたのは、固まっているセラフィナだった。
「……レディ・ロペス!!!!」
地獄の底から響くような鋭い一閃に、セラフィナは肉食獣の前に投げ出された小動物のように全身を強張らせた。
かつてのエヴァンジェリンであれば、どれほど不快であっても冷徹に無視するか、あざ笑う程度で済ませていた。感情を爆発させて大声を上げるような真似など、誇り高い彼女の自尊心が許さなかったからだ。
気高く、冷徹で、氷のように近寄りがたい公女。それがラリテと出会うまでのエヴァンジェリンの評価だった。
しかし、今は違う。
(公女様が……あんなにも本気で怒り狂っている姿なんて、見たことがない……!)
セラフィナは恐怖のあまりゴクリと唾を呑み込んだ。
「これは一体、何の真似ですの!?」
「わ、私は……ただ、足を滑らせて……」
セラフィナは青ざめた唇を戦がせることしかできず、その場にすくみ上がった。日常的にエヴァンジェリンへ強い劣等感を抱いていたのは事実だが、今回の件は完全に予期せぬ自身の不手際だったのだ。
しかし、激怒したエヴァンジェリンは弁明の余地すら与えない。
「覚えておきなさい」
氷よりも冷たい眼差しでセラフィナを射抜き、地を這うような低い声で宣告する。
「今日のこの侮辱、絶対にこのままでは終わらせませんから」
「……ッ」
セラフィナは頭から氷水を浴びせられたかのように血の気を失った。
青ざめるセラフィナを一瞥したエヴァンジェリンは、ラリテの濡れた腕を力強く掴むと、優雅かつ素早く翻身した。
「私の屋敷へ参りますわよ!」
「えっ!?」
「専属医に全身を診察させ、お湯を準備させて体を清め、お召し替えを整えませんと……!」
「着替える……のですか?」
「当たり前です!」
混乱したラリテは「え?」と間抜けた声を繰り返すことしかできない。
(えっ、お医者様を呼ぶほどの重病人扱いなの……!?)
ラリテの戸惑いなど気にも留めず、エヴァンジェリンはしっかりと彼女の手を握り締め、大股で外へ歩き出した。
あまりの迫力に、読書会の他の令嬢たちもどうしていいか分からず、オロオロと公女の後を追う。
「レディ・アンシ、なんて健気で素敵なお方なの……!」
「公女様をお守りするなんて、本当にかっこよすぎますわ……!」
その混乱に乗じて、レディ・サンチェスがそっと令嬢たちの列に紛れ込もうとした、その時。
「レディ・サンチェス。ご自身の立場をお忘れではありませんこと?」
背後を見ずとも察したエヴァンジェリンが、立ち止まることもなく冷酷に言い放った。
「まさか、私について来るおつもりではありませんわよね?」
「え……? 公女様、それは……その……」
「金獄二度と私の視界に入らない場所で大人しくしていらっしゃい。あなたの不愉快な顔など、二度と見たくもありませんの」
容赦のない追放の宣告に、レディ・サンチェスは返す言葉もなく、ただその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
言いたいことだけを言い捨てると、エヴァンジェリンは濡れたラリテを庇うように抱え、堂々と屋敷を後にした。
残された部屋の入り口で、レディ・シュードが静かにレディ・サンチェスの傍らへ歩み寄った。
「レディ・サンチェス」
その氷のように冷ややかな声に、レディ・サンチェスは鞭で打たれたかのように肩を震わせて振り向く。
レディ・シュードは完璧で、しかし一切の温度がない笑顔を浮かべた。
「次回より、こちらの読書会へのご参加はご遠慮いただけますかしら」
それは、社交界における明確な「追放宣言」だった。
レディ・サンチェスの顔から完全に血の気が引いていく。
「レ、レディ・シュード!? お、お待ちになってくださいまし!」
なりふり構わず去っていくレディ・シュードの後を追いかけ、レディ・サンチェスは惨めにも走っていった。
静まり返った廊下には、セラフィナだけがぽつんと取り残されていた。
(私……一体、何をしてしまったの……?)
呆然としたまま、セラフィナは震える自分の手元に視線を落とした。
花瓶の中の水は半分以上が失われている。
あと少しで、あの恐ろしい公女に直接水を浴びせてしまうところだったのだ。
ラリテが間に割って入ったおかげで、公女自身が濡れることだけは免れた。それが幸運だったのか、不運だったのかすら判別がつかない。
(公女様が……私に向かって、あそこまで感情を露わに口をきいてくださった……)
セラフィナはあまりの恐怖と事態の重さに、視界が真っ暗に揺らぐような眩暈を覚えるのだった。
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レディ・アンシ(ラリテ)の忠義と公女への厚い信頼公女の不在時、レディ・サンチェスが悪意ある揺さぶりをかけるも、ラリテは公女(エヴァンジェリン)が自分を変えてくれた命の恩人であると毅然と言い返す。さらに他の令嬢たちも公女の真摯で温かい人柄を次々と証言したことで、サンチェスの陰湿な目論見は完全に打ち砕かれた。
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セラフィナの画策と、身を挺して公女を守ったラリテ物陰で会話を聞いて涙ぐんでいた公女の前に、派手に着飾ったセラフィナが現れ、盗み聞きを暴露しようと大声を上げる。直後にセラフィナが高ヒールで体勢を崩し、抱えていた花瓶の水を撒き散らすも、ラリテが間一髪で盾となって全身に水を被り、公女を無傷で守り抜いた。
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公女の激怒と、サンチェス・セラフィナへの容赦ない断罪自分を庇って濡れたラリテの姿に激怒した公女は、セラフィナへ冷酷な報復を予告。ラリテを介抱しながら屋敷へ連れ帰る際、同調しようとしたサンチェスを視界から即座に追放し、残された読書会メンバー(レディ・シュード)からもサンチェスへ正式な追放宣告が下された。