こんにちは、ピッコです。
「言葉遣いには気をつけてください、聖女様!」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
26話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ドレス選びと騒々しい助手
「お嬢様─────っ!!!!!」
遠くから「あははは!」と無邪気な笑い声を響かせながら、ハメルが駆け寄ってきた。嬉しそうな犬が尻尾を振るかのように、両手をぶんぶんと振っている。
私はぎこちなく笑みを浮かべた。
……うん。このまま引き返そうかしら。
だが、すでに遅かった。勢いよく走ってきたハメルは、いつの間にか私の腕に自分の腕を固く絡ませていた。
私たち、いつの間にこんなに仲良くなったんだっけ?
「お嬢様とドレスを見に行けるなんて。このハメル……本当に夢を見ているみたいです!」
魔法を使ってここまで来てよかった、とハメルはくすくすと嬉しそうにつぶやく。
「どう考えても普通じゃないわね……」
今日ハメルと落ち合ったのは、もうすぐ開催される噴水の完成式で着用するドレスを仕立てるためだった。自分のものを新調するついでに、ハメルの分も一緒に作ってあげることにしたのだ。
噴水の制作を担当したのは名匠である。完成式にみすぼらしい格好で出席させるわけにはいかない。ちなみに支払いは、公爵様のカードを使う予定だった。
『私に「値段も数も気にせず、欲しいものは好きなだけ買っていい」って言っていたもの』
まさか「私自身が着るものだけを買え」という意味ではなかったはずだ。
「チャンスというものは、巡ってきた時に掴まなきゃいけませんから」
「それよりも、私すっごく楽しみなんです! 完成式の日には……お嬢様の恋人として公表されるんですよね?」
ハメルは、本当に言い回しが上手かった。
「しかもお召し物までプレゼントしていただけるなんて。これって、もしかしてプロポーズ……?」
「違うわ」
「まあ! きっぱり否定されました! さすがお嬢様!」
――もう諦めよう。
『天才はもともと普通じゃない』なんて言葉もあることだし……。
あの食堂での事件の後、ハメルは何度か証人として呼び出された。だが、それだけだった。被害者だったこともあり、薬の調合や流通に関わっていたわけではない。
それに、公爵様も私のすることには一切口出ししないと言っていた。
ハメルが最後の証人尋問に出廷した日、私も一緒に捜査隊を訪れたのだが――
「――あのお嬢さんは、本当に良い方なのですが……」
捜査官の一人であるヘマンが、ハメルを見つめながら何度も深々と頭を下げていた姿が目に浮かぶ。
「――どうか、公女様がお世話してあげてください。あの子を一人にしておくと、本当に心配なんです」
そんな頼み事までされてしまったのだ。
ともあれ、それ以来ハメルはごく自然な流れで、私の噴水制作の助手となったのだった。
彼女は現在、ベンティオンで暮らしている。
噴水の完成式を事業発表と同じ日に設定したため、どうせどの建物も空いていたのだ。その中でも一番住居らしい雰囲気のある建物を、ヒルデオンが快く貸してくれた。
「社会のためになることをされているのですから。喜んでお貸ししますよ」
おかげでハメルはそこに寝泊まりしながら、噴水の制作を続けている。
『最後に様子を見に来たのは一週間前だったけれど……』
その時点ですでに、大きな型の制作は終わっていた。まだ完成していないにもかかわらず、その素晴らしい出来栄えには思わず感嘆させられたものだ。
苦労して連れてきて本当に良かった、としみじみ実感する。
「ところで、進捗はどう?」
「はい! あとは細かい部分を整えて、仕上げをすれば完成です!」
「もう? まだ一週間しか経っていないのに、もう仕上げの段階なの?」
「ふふ、ハメルさんは何でもこなせる優秀な魔法使いですから!」
……まあ、契約書を読むことだけは少し苦手みたいだけれど。
「完成式の日までには、十分余裕を持って仕上げられますよ」
「ええ。あと少しだけ頑張ってね」
「私の命の恩人であり、光であり塩であり、雇い主であり、美の化身であるお嬢様のためなら……!」
はは……お願いだから、もうやめて。持ち上げるのはほどほどにしてほしい。
苦笑いしながら顔を向けたその時、どこからか騒がしい声が聞こえてきた。
「今、盗んだでしょう!?」
「何を言ってるんですか! 何も盗んでなんていませんよ!」
言い争っていたのは二人の女性だった。
一人は頭の先からつま先まで豪華に着飾った貴婦人。もう一人は質素な身なりの女性。
前者が「盗まれた」と主張し、後者は「濡れ衣だ」と訴えているようだった。
「私はちゃんと財布をバッグに入れていたのに、あなたとぶつかった後になくなっていたのよ!」
「ぶつかってきたのはそっちでしょう! 私はじっと立っていただけなのに、そっちが勝手にぶつかってきたんじゃないですか!」
だんだんと騒ぎが大きくなり、周囲の人々も足を止めて見物し始めた。
ハメルも興味を惹かれたのか、私の腕をくいくいと引っ張る。
「私ちも見ましょう! こういう喧嘩が一番面白いじゃないですか」
「あなた、美しくないものは嫌いなんじゃなかったの?」
「面白さこそ、究極の美しさです!」
何を言っているのよ。
……まあ、私も少し気にはなるけれど。
私たちは人だかりに紛れ込み、二人の様子を見守った。
「警備隊を呼ぶ前に、早く返しなさい!」
「だから私は冤罪だって言ってるでしょう!? 今すぐ警備隊を呼んで確認すればいいじゃない!」
「冤罪ですって? 見た目からして泥棒みたいじゃないの!」
……なんだその、聞いたこともない「人相」だけで決めつける理屈は。
「ど、泥棒みたいな顔……!?」
言われた女性もかなりショックを受けたのか、言葉を失っていた。
隣ではハメルまで理解できないというように首をかしげる。
「うーん。泥棒顔には見えませんけどね。あえて言うなら……」
どちらかと言えば――
「美しいほう?」
ハメルが目を輝かせた。
……うん、もう何も言わないでおこう。
けれど、私が見た限りでも、あの女性がスリを働くようには見えなかった。少なくとも、冤罪を主張する姿は実に悔しそうだ。
それに、あの女性が身につけているブレスレット。
『宝石の勉強をしていた時に見た、有名デザイナーのものに似ているわ』
シンプルなデザインが特徴だが、値段はまったくシンプルではない。もちろん偽物という可能性もあるけれど、細かい細工まで完璧に一致している。あんな高価なものを身につけている人が、スリなどするだろうか?
もちろん、好みが地味で服装だけ質素という可能性もあるけれど……。
それとは反対に、派手に着飾った貴婦人のほうは、どこか安物を寄せ集めたような印象だった。ごちゃごちゃと飾りを立てているが、よく見ればどれも安っぽい。
『あれを見ていると、誰かを思い出すわね……』
あ、思い出した。あの宝石商だ。
私を騙してバスティオンへ連れて行った、あの宝石商の店。あの店も、見栄えだけはいい安物のアクセサリーで溢れていた。
……だからだろうか。
『ん? あれは……スリ?』
私は周囲へさっと視線を走らせた。
二人はまだ言い争いを続けており、見物人はますます増えている。そして、ごった返す野次馬の中に――不審な動きをする人物が目に入った。
『なるほど、そういうことね』
「ハメル」
「はい、公女様」
「すごく大きな音が出る魔法って使えるかしら?」
「はい、できますよ!『キーン』という高音から、『ブオォーン』という低音まで何でも!」
「イェンイェン、ピィーピィーみたいな音は?」
どうしてそんな奇妙な音なの……。
だが、今はそれを気にしている場合ではなかった。
「あとで私が合図したら……その『イェンイェン』という音をお願い」
「何かは分かりませんけど、ハメルにお任せください!」
ハメルは目を輝かせながら、力強くうなずいた。
『よし、準備はできたわ。あとは……』
おびき寄せるだけ。
私は口元に笑みを浮かべたまま、再び騒ぎの中心へ視線を向けた。その間も、指にはめた指輪をそっと弄びながら。
「私の財布を返しなさい!」
「だから、警備隊を呼んで確かめればいいじゃない!」
「警備隊が来る前に、まず私の財布を返しなさいよ!」
「そんなことを言ってる間に警備隊を呼んだほうが早いわ!」
激しい言い争いが続く中――ついに手応えがあった。
ぴくっ。
意識を集中しなければ気づかないほどの、ごくわずかな振動。誰かが私のバッグへ、そっと手を伸ばしてきた感覚だ。
『今だ!』
私はその気配を感じた方向へ、素早く手を伸ばした。
そして――。
「ハメル、今よ!」
「はいっ!」
「イェェェェェェェェン─────っ!!」
甲高い大音量が通り中に響き渡った。
「な、何の音!?」
「うわ、うるさっ……!」
口論よりもはるかに大きな音に、周囲の視線が一斉にこちらへ向く。皆の注目が集まったその瞬間、私はさりげなく横へ視線を向けた。
正確には、私の手首を掴んでいたスリの男へ。
突然の大音量に気を取られた男と、ばっちりと目が合った。
私はそのまま口を開き、大声で叫んだ。
「きゃあっ! スリよ─────っ!!」
男の顔がみるみる青ざめていく。
「スリだって!?」
「スリですって!?」
私の叫びを聞いた人々は、慌てて自分の持ち物を確認し始めた。
「大変! 私のバッグが開いてる!」
「私のポケットにも切り込みが……!」
「えっ、私も!?」
持ち物を確かめた人々は、怒りに満ちた表情でスリをにらみつけた。
男は肩をすくめ、首をぶんぶんと振りながら叫ぶ。
「わ、私は違う! 証拠はあるのか!?」
証拠、ね。
私は肩をすくめると、男の抱える鞄を指さした。
「それをちょっと確認したいのだけど」
「ひっ……!」
男は慌てて鞄を抱え込み、身を引いた。
「だ、駄目だ! 私の鞄に触るな! 他人の持ち物を勝手に調べようとするなんて……!」
「いつまでも疑われ続けるより、中を見せて潔白を証明したほうが早いと思うけれど?」
「…………」
男は固く口を閉ざしたまま、何も答えなかった。どうにかして時間を稼ごうとしているようだ。
さて、このまま誤魔化し続けられるかしら。
「ハメル」
「はい、公女様!」
ハメルが目を輝かせながら近づいてきた。私は彼女にだけ聞こえるよう、小声でささやく。
「できるだけ自然に、偶然の事故みたいにあのバッグを落とせる?」
「もちろんです! お任せください!」
返事が終わると同時に、ハメルが何かを小さく唱えた。
すると、どこからか一本の木の枝が飛んできた。枝は犯人の肩とバッグの持ち手の間に滑り込み――そのまま勢いよくバッグを下へ押し落とした!
「えっ、な、なんで!?」
驚いた男は慌てて鞄を掴もうとしたが、もう遅かった。
ブチッ!
鞄の持ち手が重みに耐えきれず、あっさりと切れ落ちてしまったのだ。
「まあ! なんという偶然でしょう!」
ハメルはわざとらしい棒読みで大声を上げながら、私へ何度もウインクを飛ばしてくる。
『うまくやりましたよね? 私、上手でしたよね!?』
そんな心の声が聞こえてくるようだった。
やがて地面に落ちた鞄が横倒しになり――ジャラジャラと音が鳴り響く。
「きゃっ! それ……私のブレスレットじゃない!?」
「あれ、俺の財布だ! いつの間に……!」
「私の婚約指輪まで!」
「おばあちゃんのいとこの大叔父が遺してくれたブローチまであるぞ!」
盗まれた品々が、次々とバッグの中からこぼれ落ちた。
鋭い殺気が一斉にスリへと向けられる。
「さて、私の役目はここまでね」
そう言うと、私は男の頬を思いきり平手打ちした。
「この先は、皆さんでどうぞ。ちなみに――あの派手な服を着た女性も仲間ですよ」
「えっ、あの女も!?」
「あの人も共犯なの!?」
私が指さしたのは、さっきまで「財布が盗まれた」と大騒ぎしていた貴婦人だった。
「一人が騒ぎを起こして人目を引き、その隙にもう一人が盗みを働く――わざと通行人に因縁をつけて人だかりを作り、集まった人たちの鞄を狙う手口なんですよ」
私が丁寧に説明するにつれ、派手な女の顔はみるみる蒼白になっていった。女は慌てて周囲を見回したあと、向かいの女性を指差す。
「だ、だったら、この女だって仲間かもしれないじゃないですか!」
「この人、本当に……!」
濡れ衣を着せられた女性は、悔しそうに唇を噛みしめた。
……あの様子を見る限り、到底仲間には見えないけれど。
「その人ではありません。さっきから何度も警備隊を呼ぼうと言っていましたよね。そのたびに、あなたが話を逸らして止めていました」
「そうよ! あなたが警備隊を呼ぼうって言っても、この人はずっと大声で騒いで時間を稼いでいたじゃない!」
「何を言ってるの!? わ、私はただの被害者よ! スリとは何の関係もないわ!」
……そんな苦しい言い訳をしても無駄だ。
自分だけ助かろうとすれば――
「何言ってるんだ、セリ! お前も俺の仲間だろ!? 今さら自分だけ助かるつもりか!?」
共犯者が黙っているはずがない。
『犯罪者同士に義理なんてないものね』
どうせ捕まるなら、自分一人だけでは済ませたくないのだろう。
「この馬鹿、何を言ってるのよ!?」
「俺だけ捕まると思うなよ!? 俺が捕まるなら、セリ、お前も一緒に捕まれ!」
「この裏切り者がっ!」
見苦しい押し問答が続く中、遠くから警備隊が駆けつけてくるのが見えた。
うん、これで一件落着ね。
やるべきことを終えた私は、そのまま背を向けた。
「じゃあ、私たちは行きましょうか。ハメル」
「はい、ロエラ・ブリエタ聖女様!」
ふふ……こんなところでフルネームを呼ぶなんて。
苦笑しながら振り返ると、ハメルがいたずらっぽくウインクしてきた。本当に、あの子はどうしたものかしら。
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その頃。
去っていく二人の後ろ姿を遠くから見つめる者がいた。
その視線の先には――
『ロエラ・ブリエタ……?』
遠ざかるロエラの背中を見つめ、その人物は口元にゆっくりと笑みを浮かべた。
「ついに……」
見つけた。
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ハメルとのドレス選びと噴水制作事業の順調な進展完成式典で着用するドレスを新調するため、公爵のカードを手に買い出しへ出かけた主人公(ロエラ)は、破天荒ながら優秀な魔法使いハメルと合流する。食堂の事件を経て捜査官からの後押しもあり助手となったハメルは、ヒルデオンから借り受けた建物で寝泊まりしながら着実に制作を進めており、僅か一週間で噴水の仕上げ段階に入るなど驚異的なペースで準備を終えつつある。
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街頭での騒ぎに隠された「自作自演のスリ手口」の洞察街中で「財布を盗まれた」と主張する派手な貴婦人と、「身に覚えがない」と不当な疑いに反論する質素な女性の激しい言い争いに遭遇する。ロエラは双方の衣服や身につけている装飾品の質(質素な女性の本物の高級ブレスレットと、貴婦人の安物の寄せ集め)や言動の違和感から、この喧嘩自体が周囲の野次馬の視線を引くための囮であり、人だかりの中で別の仲間がスリを働く組織的犯行であることを見抜く。
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