影の皇妃【２３３話】ネタバレ

首都が騒然とした。

社交界活動が少ないとはいえ、存在感だけでも影響力が絶対的なベロニカとシークレットサロンの女主人Lがぶつかった事件は、首都の耳目と関心を引くのに十分だった。

「それで、どちらが勝ったのですか？」

「敢えて手を挙げればベロニカ公女殿下ではないですか？追従者まで連れて行ったのですから」

「正直、私もそうだと思います。平民が貴族に匹敵するなんて、私は許せません」

「ですが、必ずしもそうではないようです。サロンに残った貴賓がはるかに多かったそうですし、知人の話ではオペラ劇場の演奏会がとても印象深かったと褒めていました」

社交界はLとサロンの規則に有効的な世論と、貴族は特別待遇を受けなければならないというベロニカに同調する世論に二分された。

サロンを文化として認めて受け入れようという部類と、貴族らしさを前面に出そうという意見が鋭く対立したのだ。

豪史家たちの口を通じて噂が膨らみ、歪曲されるほど同率だった世論は次第に一方に傾いていく。

社交界を支える根源は貴族だ。

特権意識に浸っている貴族たちは、文化を離れて平民と同等の扱いを受ける事実に反発した。

今のようにサロンに向けた反感が大きくなったのは、ベロニカに従う追従者たちの熱烈なアピールも一役買っている。

派閥に入ったばかりの彼らは何とかベロニカの目に入ろうと、自分たちの行動に正当性を与えようと、より情熱的に声を高めたのだ。

「正直、Lが爵位を受けたのも気に入らない」

「そぶりを見せないだけで、不満のある貴族は多いと思いますよ？」

「そうです、帝国に功績を立てたわけでもないのに爵位とは？やり過ぎだと思います」

ベロニカの追従者たちはエレナを公然と中傷し非難した。

それでも足りず、サロンに抗議してベロニカの目印を貰おうと努めた。

いずれにせよ、シークレットサロンの反応は静かだった。

別館の開場以降、補修工事を理由に休場して以来ずっとそうだ。

否定的な世論が社交界に広がったにもかかわらず、公式の発表はない。

「なあ、このまま放置してもいいの？サロンと君のイメージがとても悪くなってる」

泣き面に蜂だからといって補修工事で休場せざるを得ない状況で、噂まで良くないためカリフの胸が熱くなった、

しかし、エレナはゆっくりと紅茶を飲んでいる。

「私だけ心配しているの？」

「どうぞご自由に」

「君は社交界を知らないからかもしれないけど、このままでいたら＿＿＿」

「先輩」

エレナはニッコリ笑って言葉を切った。

カリフの言葉には語弊がある。

帝国で彼女より社交界に詳しい人がいるのだろうか？

断言するがいない。

エレナはティーカップを置き、ゆっくりと話し続ける。

「社交界は生き物です」

「生き物って？」

カリフは目を見開いて瞬きした。

まったく理解できていない表情だ。

「社交界は生きて動きます。自ら維持と増殖をして、急変します。ですから、もう少し待ってみてください」

「だけど・・・」

「不安なのは理解しています。でも我慢して我慢しないといけない時もあります。まさに今のような時期ですね」

カリフはエレナの説得に渋々頷いた。

依然として心配だったが、エレナがそこまで言うのには理由があると思ったからだ。

「信じるところがあるんだね？」

「そんなことないですよ？」

「あるだろう？あるって言って。言ってくれないと＿＿＿」

「しっ、静かに私を信じて再開場の準備に努めてください。その日、開場以来最高に賑わう予定ですから」

エレナは一喜一憂しなかった。

噂や世論に左右される必要はない。

「来ますよ。歴代最高に多くの入場者が」

そしてエレナの予想は的中した。

サロンの再オープン日。

足の踏み場もなく集まった貴賓たちでサロンのメインホールが埋め尽くされる。

予想訪問客を十分に確保したにもかかわらず、普段の２倍を超える人数がサロンを訪れたのだ。

おかげでカリフは脂汗をかいた。

１階と２階のすべての応接室を開放し、ホールを見下ろすことができる２階の廊下といくつかの部屋まで出入りを許可して、ようやく収容できた。

「まだいるの？」

入り口で並んで待っている貴賓たちを見て、カリフは幸せそうな悲鳴を上げた。

エレナはサロンの最上階にある応接間から、押し寄せる貴賓たちを見下ろしている。

「言ったでしょう？社交界は生き物なんだって」

昨日の悪女が今日のレディになるところが社交界だ。

陰口や悪口は言っても、再開場するやいなや犬の群れのように集まってくる。

「正直、サロンに代わる文化空間は帝国にはないでしょう？」

貴族たちは、いつも新しく刺激的なものを求めて彷徨っている。

生計を立てるのが急務の平民たちとは違って、大多数が余裕があるだけに優越感や経験などに執着するしかない。

結局、表向きではないふりをするが、サロンを探すしかないのだ。

「仮面をかぶると自分が来たことを隠すこともできるから、これ以上悩む理由はないのでしょう。もともと飾り気で団結したのが貴族じゃない？」

仮面で顔を隠し、名前と身分を漏らしてはならない。

このような規則がむしろ貴族の二重的な行動を隠す手段として作用していた。

エレナはここまで念頭に置いていたのだ。