こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。

345話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- これからの未来④
『王室の招待状だなんて、一体何を考えているの?本当に私に惹かれているってこと?なんなのよ……。』
エレナは王子の真意を測りかねたまま、困惑を隠しきれない表情を浮かべていた。
「誕生日おめでとうございます、L。」
「お誕生日おめでとうございます。」
仮面をつけたまま、サロンに集う人々が祝福の言葉をかけた。
その言葉は無邪気で温かく、偽りのない真心が込められているようだった。
その純粋な祝福を前に、エレナは感謝の気持ちを言葉にする以外に選択肢がなかった。
「おめでとう」という言葉を耳にするたびに、ある人物の顔が浮かんだ。
『陛下は来ないのかしら?』
そんな思いが頭をよぎる。
シアンは帝国の皇帝であり、その存在はエレナにとっても重要だった。
帝国の太陽である皇帝が、平凡な準男爵の誕生日を祝うために直接プレゼントを送るようなことは、帝国の歴史を遡っても類を見ないことだ。
『どうしようもないわね。』
エレナは冷静にその場を受け入れ、サロンを訪れた客人たちに挨拶をした後、ホールを退場した。
そして、別館の上階に向かい、そこに待機していたレンがいる応接室へと向かった。
「来たの?」
「どういう風の吹き回しですか?」
「待つのも退屈だし、君の誕生日だしね。」
レンの気楽な態度に少し呆れながら、エレナは微笑んだ。
するとレンは、黄金の鍵型ペンダントが入った箱をエレナの方へ差し出した。
「これ、持っていって。」
「ただもらえって?」
「君が受け取るに値するものじゃないね。後で本当に大切な人が現れたら、その人にあげて。」
家紋が刻まれた黄金の鍵型ペンダントは、その家門の象徴を示す特別なもの。
その財力と資産をいかなる時も自由に使えることを許可する、という意味を持っていた。
だからこそ、それを受け取ることはできなかった。
いつかバスタージュ家の主人になるべき人物のためであったとしても、それを受け取るべきではないものだった。
「大切な人?そんな人できないよ。それなら受け取って。」
「レン。」
「エレナ。」
エレナが彼の名前を呼び、ためらいのある声を出したが、レンもためらうことなく穏やかに彼女を見つめ返した。
「なぜ受け取れない?僕が付き合おうと言っているわけでも、結婚しようと言っているわけでもない。ただ受け取ってほしいだけなんだ。僕は君に何かを贈るのが嬉しいし、君が笑って幸せになるなら、それでいい。それが僕の喜びなんだ。受け取るのがそんなに難しい?」
「そういう話ではありません。」
「じゃあ、どういうこと?」
レンは少し鋭い視線を投げかけながら問いかけた。
エレナは視線をそらすことなく、真っ直ぐにレンの目を見つめる。
どうして分からないのか、どうして彼が自分をそう見るのかを。
考えてみると、なぜ彼はこんなにも親切で、献身的に彼女の道を作ろうとしているのだろう。
その理由を知っているようで、実際は分からなかった。
過去と現在の綱渡りを生きてきた彼女にとって、全てが慎重であるべきだったからだ。
しかし、今は違う。
過去を乗り越えるために、エレナは現在の感情に正直になるべきだと信じていた。
「ごめんなさい。」
「おい、何がごめんなんだ?受け取るだけでいいって言ってるだろ?」
「そう。それまで含めて全部ごめんなさい。」
そう言ったとき、レンを見つめながら彼女の心は揺れた。
彼が良い人であることは分かっていた。
過去の痛みが蘇らない限りは。
それでも、不安で申し訳ない気持ちが募るばかりだった。
かつては憎しみに近い感情を抱いていたが、今は彼が命を懸けて矢を受け、自分を守ろうとしたことに感謝していた。
信じられない状況でさえ、彼が感じさせたこの感情が「愛おしさ」だと気づき始めていた。
「この人、いったい何なの?」
レンは乱れた前髪を手でかき上げた。その微笑みはどこかつかみどころがなく、ただ惹きつけるものがあった。
「本当にわからないよ。どうして謝るんだ?俺が渡すと言ったのに?」
「レン。」
最後にその名前を口にしながらレンを見つめるエレナの瞳は、さらに優しさと切なさを増していた。
自分では気づかぬうちに、彼女は目の前の男性の真の姿を見ようとしていた。
純粋で、ぶれない視線のその奥には、これまでエレナが知ることのなかったレンの本当の姿があるのかもしれない。
「よし、謝るのは受け入れるよ。だけど、一つだけ聞いていいか?」
「聞いてください。」
「君の目には、俺が天使に見えるか?」
エレナはその突然の質問に一瞬たじろいだ。
何を言いたいのか、どういう意図があるのか分からず混乱しつつも、続きが気になった。
「俺は利己的なんだ。君を救うために死んで、永遠に君の記憶に残りたいと思っている愚かな男さ。」
「え、え?」
エレナは驚きのあまり言葉を失い、反応すらできなかった。
ただ、目の前のレンの真剣な瞳から目をそらすことができなかった。
その表情はこれまでになく真剣だった。
『本気なの?』
最初は冗談かと思った。
死んで記憶に残りたいなんて。
常識を逸脱した話だった。
いったいどんな思考回路を持っていれば、そんな突拍子もない考えが浮かぶのか理解できなかった。
「だから謝るのはやめろよ?俺は与えるのが当然で、お前は受け取るのが当然なんだ。俺が悪い奴だからさ。」
「……」
こんな状況で何が楽しいのか、くすくすと笑うレンを見つめながら、エレナは一言も言葉を発することができなかった。
好きな人にどう接すればいいのか、大切なものをどう扱えばいいのかさえわからない、自分が愚かな人間だと感じていた。
言葉を失ったままのエレナを見て、レンが再び口を開いた。
「これくらいグダグダ言われたら、さすがに折れないか?」
「レン。」
「おい。ここまできたら俺が生きてる意味がなくなりそうだろ。」
レンは速度を緩めることなくしがみつきながらも、口元の笑みを絶やさなかった。
彼が生きる理由はエレナだった。
彼女の笑顔と幸せが、彼を生きる意味へと駆り立てていたのだ。
「俺を置いて何をする気だ?勘弁してくれよ。」
レンは冗談交じりに笑ったが、その目は真剣だった。
そして彼はソファから立ち上がり、一瞬、半分残ったワインを見つめた。
「いいさ。行くなら止めないけど、俺のことを忘れるなよ。」
「レン。」
エレナは、黄金の鍵型ペンダントが入った箱を差し出され、戸惑いながら受け取った。
「ありがとう。大事にする。」
彼女は自分の心を隠しきれず、表面だけでも礼を述べて受け取ったが、心の中では「これが自分のものだ」とは考えなかった。
この品物を返すべき日が来るその時まで、彼女はそれを大切に保管しようと決めたのだった。
「やっぱり、君は察しがいいね。でも、こんなこと言おうとは思ってなかった。」
レンは、ポケットに手を突っ込みながら微笑んだ。
「誕生日おめでとう。」
どこよりも晴れやかな微笑みを残して、彼はゆっくりと応接室を出て行った。
去っていくその背中にエレナは密かに微笑んだ。
「ありがとう、レン。」
慎重なまでに沈黙を守っていた彼だったが、会話を避けることができれば顔を合わせることもなくしたかった。
だが、エレナの努力がそれを変えた。
彼女が心配していた過去の答えを探る時間がなくなり、ようやく笑うことができたのだ。







