こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

154話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑧
リューディガーにこれまで起こった出来事を一つひとつ説明することはできたが、ルカが小さな酒杯を使って無理やりリューディガーを説得しようとしたことには触れなかった。
あまりに執拗なやり方だったし、今のリューディガーがそこまで知る必要はないだろうと考えたためだ。
きっと頭がさらに複雑になるだけだと思ったのだろう。
それが理由なのか、リューディガーはルカと私が一緒にいるたびに、不満そうな表情を浮かべていた。
『まあ、12歳の子供が叔母にあれこれ口を挟むのは少し変な感じだよね。』
それは私も不満だった。
ルカが12歳であろうとなかろうと、関係ない!
『でも、慣れてしまったんだ……。それに、ルカはそう簡単に引き下がるタイプでもないし。』
新たに過保護さを見せつけたルカに、私は大きなため息をついた。
もちろん、このことについては、記憶を失う前のリューディガーと話したことがあった。
『ルカは一体いつまで私の保護者みたいな振る舞いをするつもりなんだろう……。』
『たぶん、新しい保護者が現れたら興味が移るのでは?』
『保護者って?』
『気を配る、別の存在という意味だよ。』
『そんな人が現れるの?』
『ルカもヴィンターバルトの一員です。マイバウムの血を引き、ランバート家の血を受け継いでいますが、ルカの意志にはヴィンターバルトがしっかりと根付いています。そしてヴィンターバルトは、私の女性たちにすべてを捧げるのです。他の誰にも気を配る余裕なんてないほどに。』
『それ、なんだか嬉しいけど複雑な気分になりそうですね。』
『心配しないでください。その時には、私がユディットさんに複雑だなんて思う余地も与えないようにしますよ。』
そう言って明るく笑ったリューディガーの姿が目に焼きついた。
積み重ねてきた思い出を共有する相手がいなくなることは、想像以上に喪失感が大きかった。
(いや、ユディット。希望を捨てないで。リューディガーさんの記憶は完全に消えたわけじゃない。ただ一時的に忘れているだけなんだ。)
私は大きく息を吐き出し、膨らむ不安を振り払った。
もうすぐ首都に到着するところだった。
私は遅れる前にリューディガーに向き直り、決意を込めて彼に向き合った。
「リディガーさん、お願いしたいことがあります。」
「おっしゃってください。」
「首都に行って何か行動を起こす前に、一度私に報告してください。」
つまり、行動に移す前に報告してほしいという意味だ。
それならどう対応すべきかを検討する時間も得られるから。
「先に報告、その後指示ですね?わかりました。心配しないでください。」
リューディガーは心配するなと言ったが、心配しないわけにはいかなかった。
これまでのリューディガーが無茶をしたことはないが、私が三年間かけて教え込んだことが完全に身についてしまい、彼が自由奔放に動き回るのを抑えるほど注意を払うようになっていた。
「一人で誰かと会ったりしないでください。」
「わかりました。」
「私と必ず一緒にいてください。」
「わかりました。」
「一緒にいてください」という言葉に応じたリューディガーの声が妙に冷静で、ほとんど感情のないように聞こえた。
普通なら驚いたり戸惑ったりする状況でも、彼は特に気にする様子もなく、淡々と対応しているようだった。
私の言葉を深く考えずにいるのだろうか……。
不安を抱えながら、私は首都に到着するまで何度も確認したが、リューディガーは「分かりました」としか答えなかった。
実際、それ以外の答えをしたところで、問題になるわけではなかった。
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こうして私たちは首都に到着した。
到着するや否や、私たちはすぐに王宮へ向かい、予期せぬ訪問に驚いた王宮の人々は慌てふためいた。
「おお、ユディット!夏に首都へ来るなんて一体どうしたんだ?」
「おじいさま。」
知らせを聞きつけ、急ぎ駆けつけた先王を前にして、私は心の中で小さなため息をついた。
実のところ、王宮で何かを隠し通すのは簡単ではない。
それ以上に、先王の関心が私に集中していることが多く、隠し事など到底できそうにない状況だった。
だからこそ、私は先に率直に話して援助を求めるほうが得策だと判断した。
私は正直に先王にすべてを打ち明けることにした。
「それが実は……。」
リューディガーが記憶喪失だという話に、先王は驚いて目を見開いた。
先王は困惑したように沈黙し、同じく困った表情を浮かべたリューディガーと、動揺した私の顔を見比べて、やっと私の話が嘘ではないと信じたようだ。
「私が痴呆になる前に、ヴィンターバルトの者が記憶喪失になるなんて……驚きだ。」
「喜ばしいことではありません、おじいさま!」
「喜ばしいというより、驚いたんだ。」
「『驚きだ』という言葉がしっくりきますよ!いくらおじいさまがリューディガーさんを気に入らないと思っても、彼を目の前にして……。」
「まあまあ、ユディット。先王にとって残された時間が少ない中、こうした喜びでもあってもよいではないですか。」
リューディガーが冷静に私を宥めた。
その自然な態度に、先王も表情をほころばせている。
「やれやれ、ヴィンターバルトの連中には情がわかないな。記憶を失おうが、同じだ、全く。」
「たまに的を射たことをおっしゃいますね。私も先王の前では取り入ることができなかった口です。」
リューディガーは一言も言い返さなかったが、二人の間に漂う緊張感を一気に断ち切ったのはルカだった。
「どうせ二人とも、死ぬまで仲良くなるつもりなんてないんでしょ? まず医者を呼んで、解決策を探しましょう。おじさんがこんな状態でいても仕方ないじゃないですか。」
ルカの言葉に核心を突かれた二人は、呆然と口をつぐんだ。
そんな中、王宮医師が現れ、私は彼に事情を説明した。
王宮医師は深刻な表情で沈黙し、しばらく考え込んでから私の視線を見据えた。
私は恐る恐る問いかけた。
「……治療方法はないんですか?」
「まったくないわけではありません。」
医師は真剣な表情で答えた。
その肯定的な返答に一筋の希望を見出した私は、さらに問い詰めた。
「本当ですか? さすが王宮医師ですね。その方法は何ですか?」
「……頭に同じ衝撃を与えることです。それで記憶を取り戻した例があります。」
「……。」
私は黙り込んだ。
もしかして、と思ったが本当にその方法が出てくるとは思いもしなかった。
いや、王宮医師だろう?
あの大層な肩書きを持つ医師団が下した結論が「頭に同じ衝撃を与える」ということなのか?
これは一体!
医師団は莫大な研究費をどこかへ流用していたに違いない。
それ以外に、このような民間療法じみた話を持ち出す理由があるだろうか?
私は医療に対する信頼を疑った。
希望を抱くほど慎重に心を整理しようとしたが、むしろそれが大きな怒りに変わった。
瞬間、頭の先まで熱が上るのを感じ、私は疑念に満ちた目で医師を睨みつけた。
「それでヴィンターバルト家の尊厳を持つ彼が植物人間になったらどう責任を取るつもりですか?」
「そうならないと……思います。私もそれが確実とは申し上げられません。ただ、他に分かっている方法がないのです。少し事例をさらに研究させてください。」
私の鋭い反応に、医師はハッと驚いた様子を見せたが、やがて落ち着きを取り戻し、慎重に答えた。
私は腰をぎこちなく曲げながら視線を合わせた。
自分が遅れて動いたことに気づいた。
リューディガーの問題を考えると、彼がますます繊細になっているように感じる。
それに確実に私が気を張りすぎてしまったこともある。
私はかすれた声で医師に尋ねた。
「殿下の手に記憶を取り戻す鍵がかかっています。どうか最善を尽くしてください。」
「ご安心ください。命を懸けてでも治療法を探し出します。」
医師は力強く答えた。
その言葉に、私はようやく深い溜息をつくことができた。
だが、ここまで来たのに状況が進展していないことが、無性に無力感を与える。
表には出さないつもりでも、顔にそれが出てしまっているのが分かった。
リューディガーが私の手をそっと握り、慰めるように優しく撫でた。
「あまり心配しすぎないでください、ユディットさん。あなたの顔色が良くないと、私の胸が痛みます。」
「ごめんなさい、リューディガーさん。あなたの方がよっぽど大変なのに。」
「いえ……正直言うと、僕はそれほど――。」
「……」
それは当然のことのようだった。
リューディガー本人よりも私の方が苛立ちを覚えていた。
だからこそ、気にしすぎる人は延々と気を使い続ける羽目になるのだ。
この世には、困難に対して無視することができる人と、それを癒すしかない人の二種類がいる。
リューディガーは前者であり、私は明らかに後者だった。
最初から立派に生まれられなかった自分の罪、私の罪。
私は半ば諦めた気持ちで疲れた心を抱え、ソファに深く沈み込んだ。
反対側のソファに座る先王は、険しい表情で何かを真剣に考え込んでいた。
「ふむ……。」
表情は硬かった。
何かとんでもないことを計画しているのが一目で分かる。
私はすぐに先王を止めにかかった。
「おじいさま、変なことは考えないでください。」
「おや、変なこと?そんなことを考えているとでも?」
「この機会に、私とリューディガーさんを引き離そうだなんて考えを持っているのではないかという意味ですよ。」
「いや、私がそんなことを考えるはずがないだろう!」
先王は大声を上げた。
その反応があまりにも過剰だったため、却って怪しく感じてしまう。
「ふむ……それならば、執事の記憶喪失の治療法が見つかるまで首都に留まる必要があるということだな。」
「まさにその通りです。」
「まあ、王室の治療を受けるのが最善だろうな。それでいい、そうしよう。」
私たちがリラナニベルに戻ることに特に問題はなかったが、先王は密かに満足した様子だった。
少しでも私を首都に引き留めたいと思っている先王が、このチャンスを逃すはずがなかった。
先王はやけに楽しげだ。
実際、首都に滞在することで煩わしい問題が発生するのが嫌なだけであり、リラナニベルに戻ったとしても特段困ることはなかった。
「分かりました。でも王宮ではなく、ヴィンターバルトのタウンハウスに滞在します。」
「わざわざ王宮を避けるなんて……。」
「嫌ならリラナニベルに戻りますが。」
「いや、いや。嫌だというわけじゃない。」
先王は慌てて手を振った。
その正直な反応に私は思わず微笑んだ。
「では、今日はもう遅いのでこれで失礼します。明日またお会いしましょう、おじいさま。」
「おお、ちょっと待て、ユディット。ちょっとだけ待ってくれないか……。」
先王は私の腕を掴み、一言も発せず沈黙した。
どれだけの時間が経っただろうか。
しばらくしてようやく先王は私の目を見つめ、重々しい口調で言葉を紡ぎ出した。
「そのショックを与える件だが、案外信憑性がありそうだな。私が試してみるのはどうだ?」
「えっ?」
「いや、執事の安全が心配だからな。こういう時こそ、私のような年寄りが役に立つべきだろう。このおじいさまを信じてくれ。」
「つまり……今、リューディガーさんの頭にショックを与えようと?」
先王はいたずらっぽく笑みを浮かべ、肩をすくめた。
その仕草にはどこか茶目っ気が見えた。
彼の無茶な提案に、私は堪えながらも呆れてしまい、自然と言葉を失った。
そして、ついに堪忍袋の緒が切れて声を荒らげた。
「そんな馬鹿げた話がありますか!執事の安全を心配するとか言いながら、平然と嘘をつくなんて!」
「ただ一回だけだ、一回でいいんだ!あのずうずうしい男の頭を一回だけ叩かせてくれ!」
先王は腹立たしげに声を荒げた。
その言葉に、彼がただの思いつきでそう言っているのではないことを感じ、胸がチクリとする。
「どれだけリューディガーさんを困らせたいのか知りませんが、それはあまりにも馬鹿げています!」
「ただ困らせたくてそんなことを言っているんじゃない!少なくとも私が考える最善の方法だったんだ!」
一方で、口をつぐんでいたルカが重苦しい沈黙を破り、先王の高ぶった感情を冷やすように静かに話した。
「陛下、私は真剣に殿下のことを考えているだけです。」
「ですが、陛下のその言動が、ここであなたを追放する結果につながる可能性があります。」
「健康には気をつけてくださいよ。」
「リューディガー!お前!」
ようやく戻ってきた冷静さが、リューディガーの一言で完全に吹き飛んだ。
先王がリューディガーに詰め寄り、その顔が真っ赤になるのを見た。
リューディガーの言葉に当惑しつつも、すぐに収まりそうにないその様子に、私は深く息を吐いた。








