こんにちは、ピッコです。
今回は16話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
16話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- みすぼらしい領地
翌日、彼らはすぐにドラキウム宮殿に向かった。
リプタンは次第に遠ざかるクロイソ城を安心して見つめる。
これで本来の自分の姿に戻ることができるだろう。
彼は過去の陰をすっかり吹き飛ばすつもりだった。
幼い日の切ない幻想も、かすかな罪悪感も、時々冷や汗に濡れて目を覚ました母親の残酷な姿も、全て消してしまって騎士リプタン・カリプスとして生きていくだろう。
しかし、そのような決心は、いつも思い浮かぶ彼女の姿に葦のように揺れた。
マクシミリアン・クロイソはとても愛らしい少女として育てられ、彼は毎晩彼女の夢を見る。
そしてその夢は、彼を狂わせていく。
一度も他の女性に注目したことがないので、そもそも何がもっと良くて良くないのかも分からなかったが、彼女の細くてこぢんまりとした体つきと数千種類の感情を隠しているような瞳、小さな鼻と唇、火花のように多彩にきらめいていた豊かな髪の毛が絶妙なほど綺麗だということぐらいは明確に認識することができた。
そしてそのような認識は、まるで針のように彼の神経を絶えず突いてくる。
そんな気分はドラキウム城に立ち寄って王に謁見し、アナトールに戻った後も続いた。
リプタンは窓の外から荒涼とした庭を眺め、真剣に眉をひそめる。
彼が留守中に城壁の建築がどれだけ進んだかを報告していたルースがその様子をちらつかせながら慎重に尋ねた。
「ドラキウム城で良くないことでもあったのですか?」
ぼんやりと物思いにふけっていたリプタンはさっと頭をもたげた。
魔法使いは羊皮紙の山をテーブルの上に置き、ため息をつく。
「また、保守派の貴族たちが文句を言ったようですね」
断定的な言葉にリプタンは否定も肯定もせず、羊皮紙を一枚手に取る。
しかし、文字は頭の中で跳ね返ってばかりいた。
彼はこめかみをこすりながら、席から飛び起きて執務室の外に出る。
冷たい冷気が流れる廊下を歩いている間、浮き上がったように朦朧としていた頭の中がだんだんと落ち着いてきた。
彼は騎士になった年、一緒に貰った古い城をじっくりと見回す。
ここ数年間、お金をつぎ込んだにもかかわらず、ほぼ100年近く放置されていた城は、荒廃した姿を少しも脱却していない。
無意識のうちにクロイソ城と比較したリプタンは苦笑いを浮かべた。
間抜けのような夢想から目覚め、一気に現実に戻った気分だ。
彼は城を出て馬に乗って領地を見回す。
アナトールのみすぼらしい姿が網膜に刺さった。
ゴブリンたちが農作物を略奪していったため、農民たちは常に貧しさに苦しみ、城壁工事のために人夫たちを大挙雇用して賃金を十分に支給したにもかかわらず、収穫量が毎年減って暮らし向きはなかなか改善されない。
この地を人々が住める所にするためには、どれほど多くの血と汗を注がなければならないだろうか。
彼の理性はアナトールが金を食う魔物に他ならないと叫んでいた。
そもそもこの地はルーベン王が彼に封神騎士という名目上の職位を付与するために下した領地に過ぎない。
彼が財産をはたいてここを救済する理由は何もなかった。
しかし、リプタンはこの土地を受け取った後、ありがたくない義務感に苦しんだ。
自分を尊敬する人たちに向き合っていれば存在することも知らなかった良心が痛いし、彼らの命が自分の手にかかっていると思えば、胸が重くなった。
どうしても彼らを放置しておくことができず、これまで貯めておいたお金を振り払いながら城壁を築く途方もない大工事を始めたが、それだけでは非常に足りなかった。
リプタンは倒れていく粗末な小屋としつこい土の道の上を転がる古い車、みすぼらしい身なりの永住者たちを欠かさず見て、落ち着かない顔をして城に帰還する。
半分崩れた砦が目に入ると、気分はさらに沈んだ。
ふと、マクシミリアン・クロイソがカリプス城を見ると、どんな表情をするのかという気になった。
高貴な公爵令嬢は、世の中にこんなにみすぼらしい場所があるということだけでも驚いて、気絶するんじゃないかな?
口からぷっ、と空気の抜けるような笑い声が出てくる。
彼女はまだ自分がむやみに近寄ってはいけない存在だった。
だから一時も早く頭の中から追い出すのが賢明だ。
しかし、毎晩訪れる幻想を一体どんな方法で阻止できるというのか。
彼は夢想に満ちた思春期の少年のように自分をコントロ=ルすることができなかった。
「工事現場は見回りましたか?」
リフタンが帰ってくるのを待っていたのか、執務室で羊皮紙の上に何かをかき回していたルースが顔も上げずに尋ねる。
リプタンは何も答えなかった。
魔法使いが疲れた顔で眉間をこすりながら長いため息をつく。
「お気づきかと思いますが、工事はほとんど進みませんでした。カリプス卿が遠征に出ている間も、何度も亜人種の魔物たちの襲撃がありました。多くの作業員が死亡し、火災が何度も発生したため、木材も失いました。このままでは10年が過ぎても城壁を完成させることができないでしょう」
「結論は・・・」
リプタンはマントを外し、固く吐き出した。
「人材も建築資材も足りないということだね」
「資金も底をつきつつあります」
ルースは力なく首を横に振る。
「カリプス卿、これは底のない水筒を満たすために水を注いでいるのと同じです。ルーベン王も卿がこの地の世話をするという期待はしなかったでしょう!つまらないことに財産を使い果たすことはやめて、これでアナトールから手を引いてください」
リプタンは何の返事もなく机の前に歩いて行き、帳簿に目を通した。
アナトールから入ってくるわずかな税収では、工事費用に耐えられないというのが明白だ。
リプタンは手のひらであごをなでてから、再び振り向いた。
「資金を調逹してくる。あなたは工事を監督してくれ」
「つまらないことです。全部お金の無駄使いですよ!」
リプタンは冷ややかな目で彼をにらみつける。
「私の財産をどう使うかは私が決める。度を越した口出しはやめろ!」
「卿がまさに私の金づるなのに、どうして口出しをしないんですか?このままじゃ私たちは乞食になるんですよ!」
魔法使いは両手を天に向けて振り上げながら悲痛に叫んだ。
リプタンは一発殴りかかろうかと思ったが我慢する。
ルースがあんなに長々と飛び跳ねるのも無理はなかった。
「ウェデンの黄金」をすべてかき集めない限り、この地を再建するのは難しいだろう。
「ちっ、できないことはまた何だ」
彼は部屋の片隅に広げておいた地図をしばらく覗いているうちにぶっきらほうに吐き出した。
「お金は集めてくる。工事を進めてくれ」
「でも・・・」
「私の土地で、私の城だ。放り投げるようなことはしない」
リプタンは冷たく吐き出し、脱いでおいたマントを引き返した。
「覚えておけ。ここを注ぎ込んだお金の数十倍の価値は、「素晴らしい場所」にしてみせる」
「少なくとも百年はかかるでしょうね」
魔法使いは悲観的に鼻を鳴らした。
リプタンは彼を一度睨みつけ部屋を出ていく。
いつまた出兵命令が下るか分からない。
それまでに工事資金を調逹しなければならなかった。
リプタンは翌日、日が昇るやいなや忠実な部下12人を率いてアナトールを離れる。
戦士が富を築く方法は限られていた。
民家を略奪したり、戦場に出て他の領主の財産を奪ってくる。
しかし、そのような蛮行を犯しては、七国平和協定によって西大陸の功績として名指しされてしまうだろう。
もっと健全な方法もあった。
まさにドラゴンの亜種の魔物を討伐することだ。
盤龍やワイバーン、バジリスクなどの高位魔物を捕まえて、魔石や鱗、骨を売れば、1年ぐらいは耐えられるだろう。
リプタンはすぐに2番目の方法に着手した。
部下に実戦経験を積ませる良い機会でもある。
彼は数ヵ月間、ウェデンの西部地域を歩き回りながら盤龍を討伐し、他の領主に代価をもらって亜人種の魔物討伐の代わりをしたりもした。
一度は賞金を目的に西部国境で行われた剣術大会に出場したことも。
そのような彼に対して、騎士の品位を落とす行為を日常的に行っていると非難する人も少なくなかったが、リプタンは気にしなかった。
どうせ貴族たちにとって、自分はテーマも知らずに騎士の真似をする偽物に過ぎないのだから。
それなら、彼らの目に障らないために行動に制約を置く必要があるというのか。
リプタンは貴族たちが体面や威信のためにあえてできないあらゆることをしながら西南部地域のすべての黄金を掃いた。
そして、そんな彼を見て、ルースは幸せそうだった。
「このまま行けば、私たちは南部地域で一番のお金持ちになるでしょう!」
リプタンは呆れた目で彼を見下ろした。
魔法使いは机の前に座って金貨がいっぱい入った箱を開けて、悦惚境に浸っている。
「バジリスク百頭が埋められた墓でも発見したのですか?どうしてこれほどの財宝を手に入れたんですか?」
魔法使いは目を輝かせながら尋ねる。
リプタンは肩をすくめた。
「古代遺跡地で発見したものだ。運が良かっただけだ」
「とにかく黄金の匂い一つは見事に嗅げるのですね!」
ルースは金貨を1枚1枚秤にかけてくすくす笑った。
ルースが記録を終えると、使用人たちが金貨を再び箱に入れて金庫の中に運んだ。
鋭い目つきでその姿を見守っていると、ふと彼が怪謗そうにつぶやいた。
「カリプス卿が発見した遺跡地は古代女王の墓だったのでしょうか?金貨を除いては一様に女性の装身具じゃないですか」
「・・・」
リプタンはわずかに身をすくめる。
ルースがエメラルドとルビー、ダイヤモンドと宝玉、それらが刺さった華やかな王冠を見ながら目を細めた。
その横にはブレスレットとダイヤモンドのネックレス、指輪がたくさん積まれており、銀で作った髪飾りと黄金で作った宝石箱まで。
一様に女性のものだった。
ルースは長い間それらを見下ろしていたが、値段をつけるような目つきを浮かべる。
「どうせなら売ってしまって、金貨に変えて持っくればよかったのに。アナトールには大商人が入ってくることも珍しいのですから・・・」
「売るつもりはない。そのまま金庫に入れておく」
ルースは眉をひそめて反論した。
「硬貨に換えておいた方がもっと有用です。城壁の建築にかかる莫大な費用はさておき、衛兵と使用人を養うのにどれだけ多くのお金がかかるのか知っているのですか?念のために貨幣に交換しておいたほうがいいです」
「領地運営費用はあれで十分じゃないか。貴金属は持っていると価値がもっと上がると。本当に急いでいるなら、その時に売りさばけばいい」
魔法使いは納得できないという表情だったが、さらに問い詰め、持ち上げるのも面倒なのか、再び頭を下げて金貨を数えることに没頭する。
リプタンはひそかに安堵のため息をつきながら、そっと王冠を手に取った。
遺跡地で発見したものもあるが、ほとんどが新しく購入したという事実を知れば、魔法使いが自分の鼓膜を突き破る勢いで小言を言うに違いない。
「私のお金を私がどう使っても何の関係もない」
彼は誰も非難していないのに言い訳をするようにつぶやいた。
自分でも、一体何のつもりでこのような無駄な品物を買い入れたのか分からなかった。
リプタンは王冠を見ていて、それをまた箱の中に戻す。
それから数週間もしないうちに、王室から電報が舞い込んだ。
ドリスタンの日照りが激しくなり、東部国境地帯に再び馬賊の群れが活動し始めたということだ。
リプタンはクロイソ公爵領を離れて半年もしないうちに再び出征命令を受けた。
「今度は私も一緒に行くべきではないでしょうか?」
電報をしばらく見ていたルースが、ボサボサの頭を掻きながら話した。
リプタンは止まり木の上に座っているアガルデに肉を投げつけ、きっばりと首を横に振る。
「あなたはアナトールに残って工事を監督してくれ」
「私は魔法使いであって、領主代理人ではありません」
ルースは手紙を火鉢の中に投げ込み、ぶつぶつ文句を言った。
「そんなこと言わないで、結婚でもしたらどうですか?下級貴族の中でならいくらでもいい妻を見つけることができるじゃないですか。卿が席を外すたびに領地を管理してくれる貴婦人が生を支えるのはもちろんですし、所定の持参金まで貰えるので、儲かる商売じゃないですか」
リプタンは彼に鋭い覗線を向ける。
「とても貴族的な考え方だね」
ルースは肩をすくめた。
「卿はもう貴族です。王が直接爵位を下した封神騎士で、アナトールの領主です。貴族たちが便宜のために結婚するのは変なことではないじゃないですか」
大したことないように吐き出す言葉に、棘でも飲み込んだように喉がヒリヒリする。
マクシミリアン・クロイソも、近いうちに便宜のための結婚をすることになるだろうか。
すらりとした貴族の男が彼女のそばに立っている姿を思い出すと胸に鋭い痛みが起こった。
リプタンは急いでその考えを頭から振り払い、机の前に体を向ける。
「余計な雑言はやめて出征の準備でもしろ!これから数ヶ月間はアナトールに戻るのが大変だろう。その間に必要な予算案から終わらせなければならない」
「だから私は領主代理人じゃなくて、魔法使い・・・!」
「君が魔法使いだということは私もよく知っている。私が毎年莫大な金額の研究費を出しているからね」
「・・・はい」
うなるような言葉にルースはすぐに丁寧な態度を取り、机の前におとなしく座った。
リプタンはため息をつきながら羊皮紙の山を取り出す。
アナトールを管理することから王命に従って出征に出ることまで、傭兵としている時とは比較にならないほど重い責務が彼の肩を押さえつけていた。
魂の抜けた夢想に浸っている場合ではない。
彼はペンを手に取り、1週間以内に騎士団に加わるという電報を書き、アガルデの足のポストに入れた。
リフタンが宝石を買った理由は?
おそらく・・・。