こんにちは、ピッコです。
今回は19話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
19話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 女主人の役目
城の改装は順調に進んだ。
石板の底を剥がした宴会場には滑らかな大理石が隙間なく入り始め、風が吹くたびに騒がしくガタガタ.していた古い窓枠は滑らかに整えて油を塗ったマホガニー窓枠に交換した。
ルースの助言どおり、宴会場とホールの窓、そして最大の客間の8つの部屋とキュバンの窓には高価なクリスタルグラスを付け、騎士たちの宿舎と図書館、食堂にはバルトグラスを、それ以外の部屋と廊下には羊皮紙を加工して作った窓を付け、雨戸を設置した。
それだけでもお城は見違えるほど明るくなった。
使用人たちも薄暗いカリプス城に活力が漂うことを喜んでいる様子だ。
土埃を起こし、慌ただしく行き来する人足のため1日に2回も床を掃いて拭きながらも、使用人たちの表情は明るかった。
「新しく入った家具はご覧になりましたか?とても素敵で、カーテンも本当に美しいですね!早くシャンデリアが完成したらいいですね。間違いなく、ウェデンで最も素敵な宴会場になるでしょう」
「ホールもずっと素敵になりました。窓をすべて交換したらじゅうたんを敷くと言いましたよね?」
廊下を忙しく通っていたマックは、下女たちの明るい声に足を止める。
大きなかごに洗濯物をいっぱい入れて持って移動していた若い下女3人が上気した顔でおしゃべりをしていた。
アデロンの斡旋で新しく手に入れた女中たちだ。
「領主様が帰ってきたらびっくりされるでしょうね?」
「きっと大喜びすると思いますよ。帰還した日、お城の様子を見て腹を立てたそうですね」
マックは笑い声に胸がドキドキするのを感じた。
本当にリプタンが気に入るだろうか。
やりすぎだと思ったらどうしよう?
彼女はすぐにその心配を払いのけた。
ルースもこのくらいは大丈夫だと言ったから・・・。
(落ち着かない顔をしてはいたけど)
彼女は不安を振り切って1階に降りる。
城を飾ることの他に、冬を越すための準備もしなければならなかった。
薪と食糧を倉庫に十分に備蓄しておく必要があり、使用人と衛兵に提供する防寒着を準備しなければならず、馬に食べさせる飼料と水も十分に備蓄しておかなければならない。
リプタンが城を留守にした以上、そのすべてのことは女主人である自分の役目だ。
「奥様、たった今新しく注文した壁灯と火鉢が入ってきました。確認してみますか?」
使用人たちと一緒に木箱を持って城の中に入っていたロドリゴが嬉しそうに話した。
マックはうなずく。
ロドリゴがホールの床に箱を置いた。
箱の中には艶やかで優雅な壁灯9個がぎっしり詰まっていた。
「全部で15箱です」
「ふ、不良品があ、あるかどうか、全部開けて・・・、か、確認して、ホールと宴会場・・・、その後に・・・、ろ、廊下に設置しておいてください」
「火鉢はどうしましょうか?」
「しょ、食堂にふ、二つ・・・。あとはキき、騎士団の宿舎と・・・、びょ、病所に」
「分かりました」
使用人たちは箱を持ってホールを横切って列を作る。
マックは振り向いてグレートホールを出た。
天気はだんだん寒くなってきて、冬を目前にしている。
「ふう」と空気中に息を吹きかけてみた。
マックは、小走りに庭を回って散歩道を遡って馬小屋に向かう。
今日は馬小屋と別館、そして鍛冶屋に寄って必要なものはないか確認するつもりで
帳簿の昔の記録を調べているうちに、過去の女主人は毎年城内の施設を回りながら備品を確認したという事実を知ったのだ。
グレートホールを飾ることだけに気を使いすぎて、その他の施設は疎かにしたことを反省し、彼女は城の南端にある馬小屋から立ち寄った。
彼女が現れると、荷物を運んでいた御者たちが目を丸くしてはばたばたと帽子を脱いだ。
「奥様!下女も従わずに、どのような御用ですか?」
城に来た初日に紹介されたクネル・オスパンという名前の馬小屋番が前に走ってきた。
マックは深呼吸をして、落ち着いて吐き出そうとする。
「みんな忙しいんです。も、もしかして冬に備えて・・・、馬小屋にひ、必要なものはないかと思って来てみました。さ、さらに寒くなると、商人たちが足を引っ張って、減らすからといって・・・」
「ああ、ありがとうございます。奥様。そうでなくてもロドリゴ様にお伝えしようとしていたところでしたが、安心しました」
クネルの顔はすっかり明るくなった。
彼は馬小屋のドアを開け、ランプで中を照らす。
マックは少し眉間にしわを寄せ、上半身だけを押し込んで中をのぞき込んだ。
綺麗に掃除を終えたばかりの広い馬小屋の中には、巨大な群馬20頭が青々と音を立てながら、のんびりと水を飲んでいた。
彼が一番端に位置した馬房を指して言った。
「これを見てください。木がすっかり枯れました。仕切りを新しく変えなければならないようですが、道具が古く木材が不足して困っていました」
「では・・・、う、馬の道具と・・・、も、木材を注文すればいいですか?」
「はい!あ、そして冬を越すには干し草ももっと用意しておかなければなりません」
「ああ、分かりました。もっと・・・、ひ、必要なものは・・・?」
「これで十分です。お気遣いありがとうございます」
老人が睛れやかな笑みを浮かべた。
マックは彼の後を追って微笑み、心の中で安堵のため息をつく。
人前に立つだけでもぶるぶる震えていた自分が、今は他の人と目を合わせて落ち着いて対話を交わしている。
舌が硬く固まって思い通りに動いてくれないのは相変わらずだったが、それでも最近は話をたくさんしたおかげか前よりは吃ることが少なくなったようだった。
彼女は自分の変化に満足して馬小屋を出て広い裏庭を歩く。
城壁が濃い影を落としているため、空気がさらに冷たかった。
彼女は肩を抱き、ショールを引き締めて抱きしめる。
草のにおいを食べた冷たい風が吹き出した髪の毛をあちこち振った。
顔をくすぐる髪の毛をかき分けていたマックは、ふと「雲のようにふわふわする自分の髪の毛が格好いい」と言ったリプタンの言葉を思い出し、足を止める。
頭を上げると、彼が渡ったはずの峰が遠くに見えた。
リプタンは今頃ドラキウムに到着しているだろう。
王都では彼のための祝宴が盛んに行われているはずだ。
彼女は銀色の鎧を身にまとい、貴族の前で功績を称えられるリプタンの姿を頭の
中で描いてみた。
きっと、伝説のワンシーンのように素敵だろう。
今では誰も彼の出身成分を皮肉ったり無視したりすることはできないだろう。
彼を蔑視した貴族の女性たちも、すっかり魅了されるに違いない。
そこまで思いをはせたマックは、急に気持ちが落ち着くのを感じた。
雄大な王宮の宴会場で華やかに着飾った美しい貴婦人たちに囲まれている彼を想像すると、お腹の中に不安感が漂ってきた。
王都には自分など比べものにならないほど優雅で美しい娘たちがたくさんいるだろう。
リプタンは彼らに慕われて自分の決定を後悔しているかもしれない。
この結婚を維持することにしたのが間違いだったことに気づいて・・・。
「こんなところで一人で何をなさっているのですか?」
突然間こえてきた声にマックは不愉快な想像から抜け出し、後ろを振り返る。
黒いチュニックを着た二人の少年が怪謗な顔で自分を眺めていた。
何度か顔を合わせた見習い騎士だということに気づき、彼女は体をまっすぐにする。
少年2人が予備騎士らしい丁寧な態度で胸に手を上げて頭を下げた。
「驚かせて申し訳ありません。夫人に何か問題でもあるのかという老婆心で声をかけざるを得ませんでした」
「ええ、結構です。ほら、心配してくれて・・・、ありがとうございます.あの・・・」
何と呼べばいいのか分からなくて言葉を濁すと、美しい容貌を持った銀髪の少年が素早く自分を紹介した。
「ご紹介が遅くなり申し訳ありません。私は,ユリシオン・ロバルです。来年、騎士の叙任式を控えています」
その横にぎこちなく立っていた背の高い少年も.口を開いた。
「ガロウ・バーキオンです。この友逹と同じ日に騎士の叙任式をする予定です」
「マ、マクシミリアン・・・、カ、カリプスです」
既に自分について知っている相手に改めて自己紹介をするのが恥ずかしくて、マックはぎこちない顔をした。
ユリシオンという名の少年が安心させようとするかのように口元に親切な笑みを浮かべる。
「一人で散歩していたところだったようですね」
「あ、いいえ・・・、な、内部施設をじゅ、巡回していたところでした」
ぼそぼそと言い放った言葉に少年の無邪気な顔が険しくなる。
「城内といっても貴婦人が随行員もいないまま、そんなに長く一人で歩いてはいけません。最近は部外者の出入りも多いので、もし不詳事が起きたら・・・」
「ふ、不詳事ですか・・・?」
驚いた顔で反問すると、少年が慌てて付け加えた。
「怖がらせようという意図ではありませんでした。ただ心配で・・・、あ!よかったら私が貴婦人を護衛してもいいですか?」
「いいえ、そんな・・・。あ、あなたのじ、時間を奪うことは・・・」
「そんなこと言わないでください!貴婦人に奉仕することは、騎士にとってこの上なく栄誉なことです。私は、正式な騎士ではないですが・・・。いざという時は命がけで貴婦人を守ります!」
マックはびっくりするほどの熱烈な言葉に思わず後ずさりする。
そばにいた少年が自重するように彼のわき腹を刺した。
「ユリ、あまり大げさに言わないで」
「大げさだなんて!私はいつも本気で・・・」
カッとなったように叫んでいた少年が、すぐに自分があまりにも過剰反応していることに気づいたのか、口をぎゅっと閉じる。
そして咳払いをした少年が一層落ち着いた口調で言葉を続けた。
「とにかく一人で歩いてはいけません。私が護衛するのが信じられないようでしたら、衛兵を呼びますので」
「城の中を歩いているのに・・・、そ、そこまでは・・・」
「お城だからといって安全だという保障はありません!万が一、貴婦人に何かあり、カリプス卿にお目にかかれば・・・」
少年の顔がすっかり青ざめてしまう。世の中が終わったような表情にマックは冷や汗をかいた。
「そ、そこまで、心配なら・・・、どうか・・・」
少年の顔が一気に明るくなる。
「どこにお迎えすればよろしいですか?」
「・・・鍛冶屋へい、行く途中でした・・・」
「よかったです!実は私たちも鍛冶屋に行く途中でした。私がご案内いたします」
ユリシオンが元気な歩き方で前を歩き始めると、ガロウが肩をすくめて彼の後を追う。
ぎこちない顔でためらっていたマックも、すぐに彼らについて歩いた。
細心の注意を払ってくれるが、基本的に無愛想なリプタンや辛辣極まりないルース、自分の存在を無視する他の騎士たちとは明確に違う少年の手厚い態度が、少し新鮮に感じられる。
(16・・・、いや、17くらいかな?)
好奇心に満ちた顔で彼らを見ていると、前を走っていた銀髪の少年が質問を投げてきた。
「鍛冶屋にどんな特別な用事がありますか?」
「と、特別な用事ではなく・・・、ふ、冬が来たら・・・m商人たちがあ、足を減らすと言っているので・・・、ひ、必要なものがないか調べる途中です」
「そうなんですね!私は組手の途中で剣を壊して鍛冶屋に預けに行くところでした」
少年が陽気に腰にぶら下げておいた剣を指差す。
「お恥ずかしいですが、今月だけでこれで2回目です。ともすると剣を壊して鍛冶屋が私を見ると小言を言うほどです」
顔を赤らめながらも率直に吐き出す言葉にマックはそっと微笑を浮かべた。
過度な親切が少し負担ではあるが、気さくで親切な子供のようだ。
「いつ頃カリプス卿の足先に届くかわかりません。いいえ!卿の足先にでも及ぶことができれば幸いです」
「来年には私たちもレムドラゴン騎士団の一員だ。目標を低く設定しすぎじゃない?」
「ガロウ、あなたはカリプス卿の素晴らしさをまだ知らない。あの方のつま先のつま先ではなく、つま先のつま先のつま先に触れるだけでも大変な成就だと!」
「ああ、そうかい・・・」
ガロウは少し飽きた顔をした。
少年の盲目的な崇敬にマックはなぜか少し楽しくなる。