こんにちは、ピッコです。
今回は4話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
4話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ④
クロイソ公爵は少しも自分の長女を愛していなかった。
マクシミリアン・クロイソは、彼に生まれて初めて莫大な挫折を与えた存在であり、羞恥心を感じさせただけでは足りず、家の行く手さえ阻んで役に立たない娘だった。
彼女が成長するにつれて、公爵の心の中にはそのような怒りが大きくなる。
そして彼はその怒りを加減なく娘に注ぎ込んだ。
礼儀作法を教えるという理由で肉が膨れるほど殴るのは普通のことであり、他の人たちの目につく日には皮膚が裂けるほどに鞭打ちした。
公爵は些細な過ちを決して許すことはなかった。
マクシミリアンの不完全さは家の中の不完全さ。
殴ってでも完全な形に作り直さなければならないのだ。
この全ては未熟に生まれたマクシミリアンの過ちであり、自分のする行為は妥当だった。
いくら責めても過ちを直せない彼女が悪いのだ。
彼女は間違った存在だった。
何の役にも立たない、生まれてはいけない存在だった。
マクシミリアンは耳にタコができるほど、そのような言葉を聞いて育ってきた。
家の障害物。
家門の恥。
愚かで見窄らしい女。
ネズミのような女。
父親の鞭打ちと軽蔑的な視線の中で、彼女の人格はひどく縮小した。
彼女は心の奥底で諦めていた。
死ぬまで一生、自分はこう生きていくのだろう。
誰も望まない、恥じらい軽蔑のマクシミリアンとして・・・。
「マック!しっかりしろ!」
肩を振る強い手に、マックは目を覚ます。
目の前で真っ黒な瞳が自分をじっと見下ろしていた。
状況を把握できず、ぼんやりと目をパチパチさせていると、リフタンは額にくっついた髪を耳の後ろに流す。
その親密な行動でパッと気がついた。
彼女は慌てて立ち上がり、あたりを見回す。
「こ、ここは・・・?」
「宿だ。馬車で移動中にオーガの襲撃を受けたのを覚えているか?あなたが気絶している間に、森を抜け出してジェノと近くにある村に入った」
リフタンは背中に大きな枕を当てて答える。
マックはクッションに背中をうずめて当惑した顔で彼を見上げた。
「飲んで。ずっと冷や汗をかいていたから、水分を補給しないと」
ゆらゆらする水をぼんやり見ていると、彼が眉を顰めて催促してくる。
「毒でも入れたんじゃないかと思ってるのか?早く飲んで」
彼女はすぐにコップを受け取り、水を飲む。
ぬるま湯が胃に入ると、少しムカムカした。
顔を顰めて器を置くと、男は片眉を吊り上げる。
「どこか不便なところでもあるか?」
「あ、いえ・・・」
「もし痛いところがあるなら言って。神官を呼ぶから」
「あ、違います。だ、大丈夫ですから」
目を細めていたリフタンは、すぐに水の器を持ってテーブルの方へ歩いていく。
彼が後ろに下がってからようやく部屋の中の風景を完全に見ることができた。
みすぼらしい部屋だ。
壁と床はすべて木で出来ていて、かなり広い空間にあるものはベッドと卓上、そして椅子2つが全て。
マックは蜘蛛がいるのではないかと天井を注意深く調べる。
明かりの当たるところに微かに蜘蛛の巣が光っていた。
幸いなことは、ベッドは綺麗だということくらい。
ひょっとしてカビ臭くないかと布団の匂いを嗅いでいたマックは、ふと眉をひそめる。
まさかと布団の中にそっと手を入れてみると、滑らかな素足に触れた。
その時になってようやく、自分が男性用チェニック1枚だけ羽織っていることに気づき、マックは震えた。
下着も着ていない状態だ。
「あ、あの・・・。ふ、ふ、ふ、服は・・・」
テーブルの上に置かれたタオルと水皿を整理していたリフタンがチラッと彼女を一度見つめ、大したことないように答える。
「私が脱がした。君が吐いたせいで汚くなったからな。今着ているのは私のチェニックだ。君が服を1着しか持っていないから仕方なく私の余分の服を着せた」
マックはフナのように口をパクパクさせる。
服1着持ってくる間もなく引っ張ってきておいて、自分のせいだというように言うことに呆れなければならないのか、気絶している間に何気なく服を脱がされたという事実に衝撃を受けなければならないのか、一瞬見当がつかなかった。
「あなたは一日中意識を失っていた。食事を注文してくる」
「あ、あの、あの・・・」
リフタンはサッと出て行ってしまう。
彼女は素早く下に着るものがないか周りを見渡した。
彼が脱いだ防具だけがベッドの横に適当につまれていただけで、部屋の中のどこにも荷物カバンと推定されるものは見えない。
仕方なくシーツを小鼻の甲の上まで引き上げると、リフタンが部屋に戻ってきた。
彼は目に見えて分かるくらいに眉間を狭める。
「今になって隠しても無駄だ。体を拭いたときに全部見たのだから」
「全部、全部、拭いたのですか?」
甲高い声で反問すると、彼は冷笑的に唇をひねった。
「何度も言ったが、あなたは私の妻だ。3年前も体を交ぜた関係じゃないか。今さら何をそんなに恥ずかしがる?」
マックは頭の先からつま先まで真っ赤に燃え上がる。
怯えた様子だったのか、彼の顔が一気に険悪になった。
「着替えさせただけだ!私が手を出すのが嫌だったなら気絶なんてするべきではなかった」
彼女は肩をすくめる。
彼が非力な貴族のお嬢さんは仕方がないとか、大したことないことで失神して煩わされたとか、毒舌を吐いた。
マックは目頭を赤くしながら這い入る声で呟く。
「ご、ごめん・・・、なさい」
するとリフタンは口を固く閉ざして部屋の外に出てしまた。
マックは落胆して項垂れる。
再開してから一日も経たないうちに、もう何度彼を怒らせてしまったのだろうか。
本当にこのまま彼について行ってもいいのだろうか。
マックはイライラして唇を噛んだ。
リフタンが今は妻として扱っているが、その気持ちが変わらないという保証はなかった。
いや、変わるのは時間の問題。
今も十分に自分を嫌っているが、私が何の役にも立たない存在だという事実に気づくことになれば、これよりさらに苛酷な態度を取ってくることは明らかだ。
リフタンは全大陸に名を馳せた騎士だった。
これから数多くの貴族や王族から社交の集まりや宴会に招待されることになるだろう。
マックは自分がそのような地位に誇らしげに見せるほどの否定感ではないことをよく知っていた。
きっと間もなく彼もその事実に気づき、自分を虐待し始めるだろう。
そうなる前に、家に帰って父親の慈悲を求めたほうがいいのではないだろうか?
マックは剣を握ってそびえ立っていた彼の姿を思い出した。
彼が鞭を振るとどうなるか想像するだけでもゾッとする。
(でも・・・、まだ一度も殴ってない)
ふと思い浮かんだ考えに、彼女は眉間を顰めた。
自分のせいで酷く怒っているにもかかわらず、彼は手を上げてこない。
もしかしたら父親ほど残酷な人ではないのかもしれない。
けれど、マックはその考えにあまり期待をかけなかった。
まだ再会したばかり。
今後、自分の立場がどうなるか一寸先も予測できなかった。
じっくり考えていると、ガタンという音が聞こえてきた。
リフタンが湯気がそよそよと上がってくるパンとスープが置かれた盆を持って部屋に入ってきていた。
「野菜スープと麦で作ったパンだ。食べて寝るように。今夜はこの宿に泊まって、明日、日が昇り次第すぐ発つつもりだから」
彼はベッドサイドの棚の上にトレイを置くと、マックは瞬きをする。
怒って出て行ってしまったのに、すぐ何事もなかったかのように食事を持って帰ってくるなんて・・・、まったく見当のつかない人だった。
「何をぼーっとしている?冷めないうちに早く食べて」
彼はスープの入ったボウルと木製のスプーンを手に取る。
「あ、ありがとう。い、いただきます・・・」
マックはスープをかき混ぜてふうふう吹いてから一口掬って口に入れた。
少し熱かったが火傷するほどではない。
彼女はさらに数口食べる。
食欲はあまりなかったが、具の多い香ばしいスープを食べると、ちくちくしていた胃が少し収まった。
マックは熱心にスープをかき混ぜながらチラリと男を見る。
リフタンはベッドの横に椅子を引いて座り、剣の手入れをしていた。
「・・・食べずに何をそんなに見つめている?」
後頭部にも目がついているのかな?
盗み見ていたのがバレたのが恥ずかしくて、彼女は頬を赤らめる。
「あ、あの・・・、あの、ところで・・・」
スプーンでスープをかき混ぜながら、モジモジと口を開けると、リフタンがチラリとこちらを見た。
「き、着替える、服が、な、ないのですが・・・」
「今は遅い時間だから、そのまま寝てくれ。明日、私が新しいものを買ってあげよう」
「私の、私の服は・・・」
「宿で働く女中に洗濯するように頼んでおいた」
「そ、それじゃあ・・・、し、下・・・、下着だけでも、返してくれたら・・・」
その瞬間、信じられないことにリフタンの顔が目立って赤くなった。
彼は口のあたりを手のひらで擦りつけ、すぐに平然と答える。
「破れたから捨てた」
「え・・・?」
「脱がそうとして破れてしまったんだ」
イライラするようなぶっきらぼうな叫び声に肩をすくめながらも、マックは問い返さざるを得なかった。
「そ、そもそもなぜ、下、下着まで・・・、ぬ、脱がしたのですか・・・?」
その質問に彼は少し戸惑っているようだ。
ギョロギョロと目を回していた男が、シーツを盾のようにギュッと握っている彼女の姿を睨みつけ、すぐにカッと叫ぶ。
「じゃあ、私にどうしろって!青ざめて息もできないのに・・・、その酷い下着が胸を締め付けていて、紐だけでも解こうとしただけだ。だけど結び目が上手く解けなくて引っ張ったら・・・。私は、上下が一つに繋がっているのも知らなかった!」
マクシミリアンは、頭から湯気が立つほど赤く燃え上がった。
彼が下着を全部見たと思うと、死にたいほど恥ずかしくなる。
下着は乳母が夫の心を掴むためだと無理やり着せたものだ。
強要に勝てず、その恐ろしいものを身に纏ったが、本当に彼に見せるとは夢にも思わなかった。
今にも窓から飛び降りたい衝動に駆られて顔を包み込むと、リフタンは小さくため息をつきながら口を開く。
「私が明日、下着も新しく買ってあげるから、そんな表情しないで。それとも私のでも貸そうか?」
「あ、いいえ!だ、大丈夫です・・・」
マックは首を横に振る。
人の下着を、それも彼のものを着るつもりは目やにほどもない。
しかし、だからといって男性用チェニック1枚だけ羽織っていると、訳もなく気分が焦った。
マックはスプーンでスープをかき混ぜながらリフタンの顔色をうかがった。
すると、彼が神経質な視線を投げかけてくる。
「いつまでかき混ぜるんだ?早く食べて。パンも手につけていないじゃないか」
彼女は慌ててスープを口に入れる。
しかし、もともと食が細い彼女は、既にお腹が膨れていた。
マックはパサついたパンを口に含むことすら考えられず、スープをもう少し食べて器を置く。
「半分も食べていないじゃないか」
「しょ、食欲が、な、なくて・・・」
「ワガママを言うな。領地に着くまで豪華な食事は夢でも見ない方がいい。口に合わなくても我慢して食べないと」
まるで行儀の悪い子供を諭すような言葉にマックは顔を赤らめた。
リフタンが苛立たそうに付け加える。
「それとも、移動中ずっと気絶して迷惑をかけるつもりか?」
「た、食べます・・・」
結局、もう数杯飲んだが、胃がムカムカして到底これ以上食べることができなかった。
マックがすぐにスプーンを置くと、男は眉をひそめる。
しかし幸いなことに、さらに強要する代わりにため息をつき、器の入った盆を受け入れた。
「貴族のお嬢様の口に合わせるには、これから大変だね」
リフタンは舌打ちをして背を向ける。
しきりに変わる彼の気持ちに全く適応できない。
親切に食事を提供してくれたかと思えば、すぐにまた怒る。
私の言動がそんなに気になるのだろうか。
心の中では余計なものを連れてきたと後悔しているのかもしれない。
いや、そもそもどうして私を・・・。
否定的で卑屈な考えが浮かぶ。
リフタンの顔色をうかがっていたマックは、これ以上我慢できず衝動的にその疑問を吐き出した。
「えっ、どうしてあの、わ、私を連れて、行くのですか?」
「え?」
器を持って外に出ようとしたリフタンが立ち止まり、マックの方を振り返った。
「それはどういう意味?」
「わ、わ、私と、け、結婚・・・、し、したかったんじゃないのですか?そ・・・、それなのに、どうして私を連れて行くのか・・・、わ、分からないのです・・・」
彼の顔が目に見えてこわばると、彼女は乾いた唾を飲み込む。
吃るのが気になって顔をしかめるのか、それとも単に自分の質問が不快だったのか見当がつかない。
マックは躊躇って付け加えた。
「いや、そもそも・・・、わ、私たちは、あ、いや・・・、あ、あなたと私は夫、夫婦というには、あ、あまりにもお互いのことを知らずに・・・、そ、そして、あなたなら・・・、あえてわ、私を連れていかなくても・・・、い、いくらでも・・・」
「その鳴き声をやめろ!」
リフタンが突然大声で叫び、ベッドの横に近づいて盆を下ろし、猛烈に彼女を睨んだ。
「いっそ正直に言え!私と一緒に行きたくないと!」
「そ、そうじゃなくて・・・!」
「違うとは何だ!クロイソ城ほど大きくなくても、私の城もあなたのように小さな女性一人が住むには十分広い!そして、私はお金も十分にある。前のように豪華に暮らせるのではないかと心配しているのなら、やめてくれ!」
マックはスッポンのように首を縮めた。
リフタンはなぜ自分が父親の城で過ごした時よりも見窄らしい生活を送るのではないかと心配しているのだろうか?
彼女は手を振ってあたふたと答える。
「そ、そういう、心配では!た、ただ・・・、なぜ、なぜ、私を連れて行くのか・・・、き、気になって・・・」
「あなたは私の妻だ。私たちの結婚は教団で正式に認められた本物だ!あなたを私の家に連れて行くのは、あまりにも当然のことではないか。問い詰めると、あなたが結婚してからも父親の家に住んでいたのが間違っている」
「で、でも・・・、り、離婚したら・・・」
「・・・え?」
リフタンがマックの肩を乱暴に掴んだ。
彼の顔に浮かんだ怒りに息が詰まってきた。
今度こそ正しいかもしれないと、彼女は恐怖で目を閉じる。
しかし、いくら待っても重い衝撃は訪ねてこなかった。
そっと目を開けると、恐ろしいほど冷たく燃える真っ黒な瞳が目の前で自分を睨んでいるのが見えた。
やっと怒りを抑えるように、肩を掴んだ手が微かに震えている。
「離婚?今、私と離婚したいってこと?」
「あ、いや・・・、そ、そうじゃなくて・・・」
「そうじゃないなら何だ!もしかして他に男がいるのか?」
マックは彼の言葉を理解できず、炎が揺れるような目を怖がって見上げた。
すると、リフタンは威嚇的に顔を突きつけながら噛み付くように口を開く。
「私が死ぬほど戦っている間に、他に男が出来たのか」
「ち、違います!そ、そうじゃありません!」
必死な口調で答えると、彼の手から少し力が抜けた。
しかし、依然として表情を晴らさないまま、彼は激しく怒鳴りつける。
「じゃあ、一体どうして離婚の話が出てくるんだ!」
「み・・・、み、みんなが・・・、あ、あなたが帰ってきたら、わ、私と離婚して、王女様と結婚する、って・・・、そ、それで・・・」