こんにちは、ピッコです。
今回は62話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
62話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 領地案内
ルディスと一緒に馬車に乗り、後部座席に並んで座る。
外出準備を終えて出てきた王女が随行員1人を連れて向い側の席に座り、王室の近衛騎士2人とヘバロン、ウスリンは馬に乗って馬車の左右に護衛するように立った。
出発の準備が終わると、御者が手綱を鞭のように振り回し、馬車を城門の外に導く。
マックは窓の目隠しを取り払い、城の外の風景を眺めた。
よく整えられた道の左右には白い白樺がびっしりと並んでおり、その間に暖かい日差しが櫛のように降り注いでいる。
鳥たちがさえずる声を間きながら王女はゆっくりと微笑んだ。
「天気が良くてよかったです。昨日雲の移動が普通ではなくて心配したんですよ」
彼女は窓から顔を出して風に当たり、マックの方を向いた。
「一番最初にどこに行ってみる計画ですか?」
「まず・・・、広場に・・・、行ってみるつもりです」
村の広場は人々が最も多く行き来するところでもあり、市場とも近いので、きっと見どころが多いだろう。
彼女の返事に満足したように王女はうなずいた。
「城に来る時、広場を通ってきました。飲み屋や露店が多かったですね。」
「殿下、まさかこんな時間から飲み屋にこもるつもりはないでしょうね?」
静かに座っていた綺麗な顔の随行員が厳しい口調で吐き出した。
マックは当惑した表情で彼を見る。
男が「ごほん」と咳払いをした後、きれいに片付けたあごひげを触って説明してくれた。
「王女様は止められないほとお酒が好きなのです。どの村に行こうが居酒屋をそのまま通り過ぎることがないでしょう」
「王女様が・・・、村の居酒屋に・・・、行かれるんですか?」
騎士たちが平民が行く居酒屋で時々休息を取るという話は聞いたが、貴婦人が平民が出入り
する居酒屋に行くという話は聞いたことがなかった。
マックがびっくりした顔で見ると、王女は澄ました顔で口を開く。
「あら、私はお酒を楽しむのではなく、情報を収集しに行くのです。宿の居酒屋には旅行者がたくさん訪れるので、世界各地の様々な噂を聞くことができるんですよ」
「そのような情報収集は騎士に任せても十分ではないですか。殿下はただお酒が好きなだけじゃないですか。ともすると騎士たちと酒の席で・・・。王女様の行いを考えると私が陛下に見せる顔がありません」
「私は恥ずかしいことなどしていません」
彼女はややいらだたしい口調で話した。
「私はいじめられるのが嫌いです。人生を共にした人たちが私を除いて自分たちだけで笑って楽しませることはできないんですよ。同僚の間にはすべての楽しさと苦しみを一緒に分かち合わなければならないものです」
彼女は堂々と見た目の良いあごを上げる。
「私はそんな信頼が困難を共に乗り越えてこそ原動力になると信じています」
「その信頼はどうして酒で築かなければならないのですか?」
随行員がしつこく食い下がった。
王女が何かを言い放つかのように唇をびくびくさせ、すぐに面倒くさそうに手を振る。
「ああ、小言はいいかげんにしてください、セビル。飲み屋に行こうとせがんでカリプス夫人を当惑させるつもりはないから」
マックはどんな反応を見せたらいいのか分からない笑みを浮かべる。
王女はほとんど騎士のような生活をしてきたようだった。
魔法使いという肩書きが、普通の貴族女性には許されないことを彼女には許してきたのだ。
マックは自分がもっと多くの魔法ができるようになれば、彼女のように自由に旅行も行ったり、飲み屋にも出入りできるようになるのか、という考えをする。
とんでもないと思う。
領内を歩き回ることも信用できない状況なのに、果たしてリプタンがそのようなことを許してくれるだろうか。
「道がでこぼこしていて、酷く揺れるでしょう。取っ手をしっかり握っていてください」
御者が前席の仕切り板を開け、ガラガラとした声で注意をした。
馬車の中に座っている4人は、それぞれの壁に取り付けられた取っ手をしっかりと握る。
御者の注意どおり、馬車がガタガタと揺れ始めた。
マックは座席で滑らないように足に力を入れたまま地震が起きたように揺れる窓の外の風景を眺める。
すぐに白樺の林道が終わり、力強く流れる小川と水車小屋、そして広い橋が姿を現した。
馬車は下り坂を抜けてアーチ型の橋を渡る。
すると、よく整備された広い道路と木材で建てた建物、そして華麗な色のテントと露店が一つ一つ姿を現した。
マックは思ったより活気に満ちた町の様子に驚く。
大通りには荷車と車が忙しく行き来し、ロバや馬に乗って移動する人々の姿も見えた。
「昨日も見ましたが、結構大きな建物が多いですね」
王女は窓の外を見て驚嘆する。
彼女の言葉通り、大陸の端に位置する小さな町とは思えないほど大きな建物があちこちに目立っていた。
昨年秋に建築中だった3階建ての建物は全て完工した状態であり、道路は拡張工事をしており、路上には商人たちと旅行客で賑わっている。
「レヴィアタンの商団が多くの物品を搬入し、商店の数が増えました」
ルディスが優しく説明してくれた。
「この時期は傭兵も大勢訪れるので、食堂や宿はもちろん、武器屋や鍛冶屋も稼ぎがいいようです」
「居住民が増えたという話は聞きましたが・・・、これほど繁盛したとは思いませんでした」
窓の外を眺めていた王女が静かな声でつぶやいた。
マックは物思いにふけったような彼女の顔を、不安そうな目でちらりと見る。
一体何の魂胆でアナトールを訪問したのか分からないので、その妙な反応が気になったのだ。
「リプタンは早朝から採石場に行ったと聞きましたが、城を拡張する予定なのですか?」
「はあ、港と領地を結ぶ・・・、大きな道路を建てる計画だと・・・、聞きました。そのために行った・・・、のです」
彼女の返事にアグネス王女は目を大きく開け、それからすぐに深刻な表情で言った。
「道路をくぐって港を再整備すると、南大陸と西大陸を結ぶ最短航路ができますね。そうなればアナトールはものすごい商業都市に一気に成長するでしょう」
マックは王女の口調で彼女がその事実をあまり好まないという印象を受けた。
マックは胸がドキっとするのを感じる。
もしかして、リプタンが王室に大きな反感を買ったのだろうか。
それで牽制を受けているのかも知らなかった。
推測に過ぎないが、背後から冷や汗が流れる。
彼女の緊張感が感じられたのか、アグネス王女が突然表情を変えて活発に話を続けた。
「もちろん、その前に魔物問題を解決しなければならないのですが。アナトリウムに散在する魔物の生息地を整理しておかないと、南大陸の対象団が入ってくるよう説得するのが容易ではないでしょう」
「カリプス卿の名声が南の地のどの程度まで影響力を及ぼすかがカギですね」
随行員も一言手伝う。
マックは静かに彼らの表情を見て、馬と馬車が通り過ぎるその複雑な通りと密集した建物を眺めた。
王女の言葉通り、アナトールは大きな都市に成長することになるのだろうか。
多くの人がひしめいていたが、アナトールは田舎の素朴さをすべて脱ぎ捨てることができなかった小さな領地だ。
広場と城門につながる大通りの周辺は繁盛していたが、村の外郭に出ると古い家屋が並んでおり、小さな果樹園を育てたり、垣根を張って羊とヤギ、鶏とガチョウを育てる人が大半だった。
その平和で素朴な田舎の風景が姿を消すことになるかも知れないと思うと、少し残念な気持ちになる。
「市場を見物したいのですが、この辺で歩きませんか?」
馬車に乗って村を半周ほど回った時、アグネス王女が勧めてきた。
マックはうなずきながら隠し板を開き、御者に市場の近くに馬車を止めてほしいと頼んだ。
しばらくして、閑静な道の片隅に馬車が止まると、騎士たちがドアを開けてくれた。
「市場に行くつもりですか?」
マックが馬車から降りながらうなずくと、ヘバロンが後ろに立っているウスリンにうなずいた。
「馬を保管所に預けてきて。貴婦人たちは私が護衛するよ」
「なんで私が・・・」
何か文句を言おうとするかのように眉をひそめていたウスリンが、ちらりとマックの顔を一度見て、口をぎゅっと閉じては馬4頭を引いて、市場の近くに馬が休めるようにした垣根の中に入っていく。
ヘバロンは、御者に近くで腹ごしらえをするようにコインを投げた後、近衛騎士たちを率いてマックと王女を先頭に立たせ、屋台がぎっしり並んだ市場の中に入った。
この前ルースと来た時よりずっとにぎやかだ。
道の左右に商人たちがびっしりとテントを張って商売をしており、魔物の骨や魔石を取り引きする傭兵たちの姿も見える。
彼らをゆっくりと見ていたアグネス王女が、ふと道の片隅のテントを指差した。
「私たちもあそこで昼食でも食べましょうか?」
テントの下には酒樽の土に木の板を乗せて作った粗雑なテーブルがいくつか置かれており、旅行客と見られる古い服装の男たち数人がその前に座ってカードゲームをしながら食べ物を食べていた。
まさか、今あそこに座って食事をしようというのか。
食堂と名付けるのも恥ずかしい水準のみすぼらしい露店を唖然と眺めていると、火鉢に肉を焼いていた肉付きがふっくらとした女の人がテントの屋根に逆さにぶら下げておいた鶏一羽を取り出す。
彼女は鶏をまな板の上に置き、包丁を高く持ち上げた。
マックはびっくりしながら慌てて首を背ける。
雄鶏の悲鳴が鳴り響き、まもなく首を切られた鶏がロープの上に再び逆さにぶら下がった。
マックは再び視線をそらした。
女の人たちが何ともない顔で鶏の首の下に器を下ろして血を受け、エプロンにごしごし手を拭いている。
マックは口元を覆って露天商から背を向けてしまった。
「あ、まだ・・・、お昼を食べるには・・・、早い時間ですから・・・」
「そんなこと言わないで、少しだけ食べましょう。からし菜を塗って、たき火で焼いた鶏肉がどれだけ美味しいことか」
アグネス王女はその原色的な光景にも気分を害していないようだ。
マックは冷や汗をだらだら流す。
そんな彼女をセビルという名の付き人が救ってくれた。
「どうして王女が市場の道端で食事をすることを考えているのですか」
彼は呆れるかのように首を横に振り、その場を大股で通り過ぎてしまった。
「王女は遊びに来たのではなく、王命を受けて視察に来たのです。今度の雑なところを見て回って城に帰りましょう」
「ああ、お説教者」
王女がふくれっ面に椰楡し、どうしようもないかのようにその後をついて歩き始めた。
マックは安堵のため息をついて彼らを追いかける。
アグネス王女はかなり真剣に市場を見た。
領地民の衣服や体格、取引される品物の品質と価格を慎重に調査し、たまにマックに向かって質問を投げかけたりもする。
「治安はどうやって管理するのですか?」
「衛兵たちが・・・、1日に3、4回・・・、町をパトロールします。騎士も・・・、順番に城壁の近くを・・・、監視します。出入りの手続きも厳しい・・・、方です。教区の神殿でもらった・・・、身分札がなければ・・・、領内に入れ・・・、ません」
「犯罪者にはどんな刑罰を与えますか?」
考えたこともない質問にマックは当惑した表情をした。
彼女の代わりに、静かに後ろに立っていたルディスが答えてくれた。
「盗みをしたり詐欺を働いて捕まった人は、普通、被害者に着服した金額の10倍になる賠償金を払うことになっています。もし賠償金がない場合は、それ相応の労役を負うことになります」
「思ったより寛大なのね。ドラキウムではすぐ手首を切ってしまうんだけど」
彼女はあごをなでて、平気で殺伐とした言葉を吐いた。
「殺人者はどうやって処罰するの?」
「太刑をした後、領内で追放したり、絞首刑にしたりします。普通、遺族の意思に従うのですが、犠牲者に家族がいない場合は、領主様の判断で処分が決まります」
ルディスの落ち着いた返事を聞いて、マックはだんだん意気消沈した。
領主の妻になったにもかかわらず、いまだにアナトールについて知っていることがあまりないというのが恥ずかしかったのだ。
「あら、あの店の前にはどうしてお嬢さんたちがあんなに集まっているんですか?」
しょぼしょぼとうなだれていたマックは、こっそり王女が指さす方向を眺めた。
狭い路地に15人以上の村の娘たちが集まって喧嘩をしている。
好奇心を持った王女がマックの腕をつかんで、ちょろちょろと駆けつけた。
「何であんなに争うんですか?」
女性たちは、売り場の上にたくさん積もった色とりどりの布切れの中から一番きれいなものを選ぼうと、熱い神経戦を繰り広げている。
マックが返事をせずに黙っていると、ルディスをちらりと見た。
「あれは・・・、何ですか?」
「腰にかける装身具です。春祭りが始まると、村の娘たちは皆、色とりどりの布を長くねじって腰に結び、頭には花冠をかぶり、野原に出て歌を歌います」
「ウィグルの恋人だったというドライヤーに扮装するのね?」
アグネス王女の質問にルディスは静かにうなずいた。
「伝説によると、精霊は腰に色とりどりの布を巻きつけ、頭には美しい花冠をかぶり、英雄ウィグルを誘惑したと伝えられています。何百年もの間、アナトールの娘たちは春になるとオークの木の精霊に扮装して出てきて野原で歌を歌ったそうです。長い伝統ですね」
王女の目が興味できらきらと輝く。
「面白そうですね。私たちも一つずつ選んでみましょう」
「え・・・?」
「マクシミリアンも初めて迎えるお祭りじゃないですか。一緒に参加しましょうよ」
そうして返事も聞かずに彼女の手をつかまえて娘たちの間に入り込んだ。
マックは悲鳴を上げる間もなく、あっという間に潰されてしまう。
肩で押しのける娘たちの間に押されて髪は散発になり、身なりもめちゃくちゃに乱れたが、王女に腕が掴まれていて抜け出すこともできなかった。
マックは泣きべそをかいた。
「これはどうですか?」
ついに人々を追い出し、真ん中の席を占める王女が紫色の布をひったくって振った。
マックは店頭と娘たちの間に挟まれたまま、夢中でうなずく。
押されたお腹が痛くなり、引っ張る手で服はすぐにでも破れそうだった。
早く抜けて出たい気持ちだけだったが、王女は気に入らないのか、しばらくの間あちこちを見ていたが、さっと投げ出して他の布を見始める。
「マクシミリアンには緑や黄色がよく似合うと思います。髪の毛の色と合わせて、赤色を選んでも似合うと思うし・・・」
「わ、私は・・・、何でもい、いいですよ」
「私は青色にしたほうがいいですよね?私の瞳の色と似ていると思いませんか?」
「そ、そうですね・・・。私は・・・、よく・・・」
マックは押しのけようと必死になっている女性たちの間で泣きべそをかいた。
割り込みをされた女性たちが抗議の声をかけながら裾を引っ張り、髪を押し付ける。
生まれて初めて経験することにまったく気が付かなかった。
そのように半分ほど呆れた状態であちこちに押されるのをしばらく、アグネス王女がついに気に入った2枚を選んで持って商人にデルハム3枚を投げた。
「これ2枚買います!それで足りますか?」
「いいえ、十分です。小銭を・・・」
「お釣りは結構です!」
彼女は陽気に叫び、女性たちの間から勢いよく抜け出した。
マックはあたふたと乱れた裾と髪に触れる。
すぐ後ろで止められずにきょとんと見守っていたヘバロンがため息をついて話した。
「護衛しにくい状況は避けてください。そんなことでひどい目に遭ったらどうするつもりですか?本人の身分に対する自覚をちょっと・・・」
「あら、純朴な田舎娘たちが私を傷つけるのではないかと心配しているの?」
布を広げて嬉しそうに眺めていたアグネス王女が、首を回して彼を嘲笑う。
やや高圧的な態度にヘバロンは素直に訂正した。
「私が失言をしましたね。ひどい目にあったのは、あの娘たちの方です。どんな葦でもかき分けるように人々を押しのけて割り込んで来たから・・・」
皮肉な言葉に王女は鼻で笑って答え、マックに向かって振り向く。
半分魂が抜けていたマックはぎくりと身を固める。
王女は悪意を感じない明るい笑顔で彼女に赤い布を差し出した。
「領地を案内してくれたことに対する感謝の贈り物です。マックの髪の毛の色と似ているので選んだんですよ」
「あ・・・、ありがとうございます」
ぐずぐずしながら受け入れると、王女は満足そうな笑みを浮かべる。
マックは少しさらさらした色鮮やかな赤い布地をぼんやりと見下ろした。
彼女の態度にだんだん頭の中が混乱してくる。
どうして自分にこんなに親しげにふるまうのだろうか。
彼女の疑問とは関係なく、王女はベルトの内側に濃い青色の布をはめ込み、
ルディスにどうかいうかのように見せていた。
「これで合ってますか?」
「そのとおりです。ずり落ちないように長く結んで・・・、こうやって垂らしておくんです」
「マクシミリアンもやってみてください」
「わ、私は・・・、ローブを着ていて・・・」
マックが開いていないローブを広げて見せながら困った表情をすると、王女はどうしようもないかのように肩をすくめる。
「仕方ないですね。ですが、祭りの日には私と一緒に着けてくださいね?」
彼女は優しく微笑んで、再び市場の通りを歩き始めた。
その姿をじっと見つめていたマックは、銀のポケットに王女が渡したプレゼントを綺麗に折って入れ、ゆっくりと後に続く。
彼らはさらに1時間半ほど歩き回った後、馬車で帰った。
その1時間の間、王女は魔石5個と盤龍のうろこ、ワイバーンの皮、そして色とりどりの薬草をむやみに買い入れた。
マックは熱心に交渉する彼女の姿を見てルースのことを思い出す。
魔法使いたちは皆、魔導具の材料や珍しい薬草だけを見れば、気が気でないのだろうか。
「商人たちが危険を冒してアナトールを訪ねてくる理由が分かります。ここには珍しい薬草も多いし、魔石も他の地域に比べてずっと安いんですね」
「うちの魔法使いによると、アナトリウム山地には珍しい植物が多いそうです。それに盤龍の生息地も近いので、奴らの骨や皮、魔石も手に入れやすいのです」
ヘバロンは彼女の購入品をワゴンの荷台に積み込みながら言った。
他の騎士たちに物を気をつけて運ぶように頼んだ王女が、不思議な顔で彼の方を振り返る。
「市場でこんなに堂々と魔物の素材を売っているのに、神殿はあまり干渉しないようね?」
「アナトールでは旧教ところか、信教もあまり力を使えません。教区の神殿があるが、団長が出す寄付金で孤児たちを育てる程度の役割しかできないんですよ。長い間放置されていた地域なので、校区に編入されたばかりです」
彼の返事に王女が何の変哲もなく口を開けて指を弾きながら叫んだ。
「何それ!すごく羨ましいじゃん!」
マックは不思議そうな顔で尋ねた。
「神殿の影響力が・・・、少ない方が・・・、羨ましがることなのですか?」
「魔法使いの立場では羨ましいことです。魔法使いと聖職者は元々仲があまり良くないんですよ。あの人々の目には、私たちは神が定めた摂理に逆らう背教者(背教者)に近いのでしょう」
王女はよろよろと馬車の座席に座る。
マックは馬車に乗り込み、目を転がした。
そういえば、自分に妻の徳目について教えた神官は、魔法使いに対して多少敵対的だったようだ。
マックは不思議そうな顔をして尋ねる。
「どうしてですか・・・?魔法を使うということは・・・、すごいことじゃないですか。高位の魔法使いは普通の騎士より、た、待遇も良いですし・・・」
「それは諸侯の時代が始まった後のことです。領土紛争が始まり、魔法使いたちの身代金が途方もなく跳ね上がりました。どの領地でも魔法使いたちを引き入れようとやきもきし、自然に魔法に寛大な立場を取る信教が生まれたのです。今では魔法使いたちの影響力がとても大きくなって、神殿でも魔法使いを露骨に排斥することはできないが・・・、旧教の伝統的な教義によると、魔法は神の摂理に逆らう悪魔の技術であり、魔物は悪神の被造物です。このように魔物の骨やうろこ、魔石を取引するのは非常に不正なことなんですよね」
彼女が市場で購入した赤い魔石を取り出して覗き込むと、ため息をつく。
「旧教はいまだに魔物の取引を教理で統制しています。そして残念ながらドラキウムは旧交の影響力が強く、魔物の体の中で取引が可能なものは魔石に限定しています。骨とうろこ、革を取引して捕まったら、神殿裁判所に回付されます。魔導具も許容されたいくつかのものを除いては製作できません」
「神教では・・・、認めてくれていますか?」
「神教では魔石と骨、うろこと皮までは自由に取引できます。ただし、魔物の血や肉を取引することは厳しく罰しています」
マックは顔をしかめた。
「そ、そんなことを・・・、何のために買うんですか?」
ドラゴンの亜種の魔物から出る魔石と骨は魔導具の材料になり、うろこと皮は防具として製作するのに使われると聞いたことがある。
しかし、肉と血は一体どこに使うというのか。
到底見当もつかず、眉をひそめると、王女がおどけた表情をした。
「黒魔術や錬金術の材料に使ったり・・・、聞くところによると食べる人もいるとか」
「た、食べるのですか?」
マックはもちろん、後をついて馬車に乗ったルディスと随行員までも嫌悪の表情をする。
アグネス王女はそれらの顔を見て小さく笑った。
「噂だけです。ばれたらすぐに破門されると思いますが、どの狂人がそんなことをするでしょうか?」
「波紋も波紋ですが・・・、そんなものを食べることを考えたということ自体が理解できません」
随行員のセビルが袖で口元を覆いながら、「うえっ」と小さく吐き気を催した。
「とにかく、ドラキウムでは魔導具を製作するのが面倒なのです。材料の購入も一つ一つ神官の許可を得て・・・。闇市が形成されていましたが、値段がとんでもなく高く、首都の魔法使いのほとんどが信教の影響力が強い南部の領地に降りてきて、材料を買い取っていきます」
「じゃあ・・・、アナトールにも魔法使いが・・・、たくさん来られそうですか?」
「見渡すと、すでにかなり多くの魔法使いが訪れたようですが?傭兵と取引をする人たちの中に魔法使いに見える人が何人も見えました。おそらくアナトールが教団の影響力の外にあるという事実がより広く知られれば、より多くの魔法使いが訪れることになるでしょう」
王女の言葉のように多くの魔法使いが訪問することになれば、アナトールに大きな力になるだろう。
ここには魔法使いの数がはるかに足りなかった。
この前のように魔物の襲撃で大勢の人たちが負傷した時、治療術を使える人が少なくとも3、4人はもっといなければならなかった。
「でも訪問者が増えたとしても、冬になるとみんな足を引っ張るだろうし・・・、定着させなければ何の役にも立たない・・・」
じっくりと考え込んでいるが、静かに観察するように眺めていた王女がほのかな口調で尋ねてきた。
「マクシミリアンは新教徒ですか?」
「クロイソ公爵領の・・・、教具の神官は・・・、たぶん旧教派だったと思います。教理について、とても・・・、厳しかったんですよ」
そう言っているうちに、誤解されるのではないかと思い、急いで付け加えた。
「だからといって・・・、魔法を否定したものと、考えるのは・・・、違います。私は・・・、魔法も剣術とか・・・、知略のように・・・、神様がくださった才能だと・・・、思います」
「そう言ってもらえるとありがたいですね」
王女は優しい笑みを浮かべて言った。
どうも自分の機嫌を取るために言った言葉だと思っているようだ。
しかしマックはあえて自分も魔法を学んでいるところだと付け加えなかった。
大魔法使いを相手に、「自分も魔法使いだ」と言うのが恥ずかしかったのだ。
彼女は訳もなく頬を染めて咳払いをし、隠し板を叩いて馬車を出発してほしいと告げる。
「これからどこへ行くんですか?」
「お城に行かないと。市場ですでに時間をお時間をおかけしませんでしたか。私はもう疲れました。日が暮れる前に、今日被せられた埃をきれいに洗い流してゆっくり休みたいです」
随行員が足を伸ばして不満を告げる。
王女と騎士を除いた3人はすでに疲れきっていたので、結局彼らは馬車に乗って村の外郭に沿って移動しながら半分ほどをさらに見て回り、城に戻った。
日はいつの間にか沈み、空は一面に赤みを帯びている。
マックは馬車から降りながら紫色に染まっていく雲と琥珀色の空を見上げた。
王女を相手にしながら一日中緊張を緩めずにいたので、肩と首がこわばって痛かった。
顔をしかめながら体を回してグレートホールに帰ろうとすると、誰かが腰を腕で覆って硬い胸元にぐっと引き寄せた。
マックは驚いて振り返ると、リプタンはまだ武装も解除していない様子で背後に立って彼女を抱きしめていた。
「一日中引きずられて大変だったろう」
「あらあら、何をそんなふうに言うんですか?私が無理やり引きずってたみたいじゃないですか」
ウスリンの助けを受けて馬車から降りてきた王女が口元を覆って揶揄する。
リプタンは聞こえたふりもせずに、片手でマックの肩を抱え、頭頂部に軽くキスをした。
マックは久しぶりの愛情表現に顔を赤く染める。
人前で親密に振る舞うのが依然として恥ずかしかったが、胸は隠すことのできない喜びでバタバタと飛び上がり、首筋にはむずむずした産毛が起きた。
彼が優しく腕をなでてあげると、背筋がぶるぶる震えてくる。
「外に出た仕事はもう終わったんですか?地盤を調べるといって夜遅くまで帰ってくると思ったのに・・・、もしかして何か問題でも起きたのではないですよね?」
馬車の荷台で王女が買った品物を引きずり下ろしていたヘバロンがふと頭を上げながら尋ねた。
リプタンはため息をつきながら彼女の腕を緩める。
「そうでなくても、そのために相談したいことがあるために待っていた。みんなを会議室に集合させろ」
「げっ、この時間に?」
「ああ」
リプタンの断固たる返事にヘバロンがアヒルのように口を突き出した。
マックも不満そうに唇をかんだ。
今日の夕方にも彼と二人きりで時間を過ごすことができないと思うと、イライラしたのだ。
「あなたはもう部屋に戻って休んで。今日ー日お疲れ様」
誰の心も知らずにリプタンがマックの背中をグレートホールに向けて優しく押し出した。
マックはしぶしぶルディスと一緒にそこに足を向ける。
ところが、王女が自分についてきているのではなく、騎士たちを追いかけるのではないか。
アグネス王女はリプタンに自信満々に告げた。
「どういうことか分からないけと、私も参加させてください。旧交を考えて助けることができることなら助けてあげますから」
「それはありがたい言葉ですね」
リプタンは静かにうなずく。
マックは足を止めたまま、ヘバロンとウスリン、リプタンと王女が練兵場とつながった騎士の宿舎に向かって歩いていくのをぼんやりと見守った。
胸が訳もなく息苦しく、お腹の中には妙な不快感が漂っている。
マックはそれを振り払うように階段を駆け上がった。
久しぶりにリフタンと話せると思えば・・・。
アグネス王女に対しての嫉妬に、リフタンは気づくのでしょうか?