こんにちは、ピッコです。
今回は64話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
64話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 家族②
翌日、マックは日差しが降り注ぐ寝室で一人で目を覚ました。
かすむ目でがらんとした隣の席を確認したマックは、ため息をついて席から立ち上がる。
驚異的なほど勤勉な男だ。
彼女は元気のない顔でベッドから降りて身支度を始めた。
今日は王女に領地を案内するためにできなかったことをするつもりだ。
庭園造園の進行状況も確認しなければならず、お客さんが不便なく元気に過ごしているのかも几帳面にチェックしなければならない。
いつもの忙しい一日の始まりだったが、それでも気持ちは前よりずっと軽かった。
マックは一晩中暖かく抱いてくれたリプタンの広い胸を思い浮かべながら微笑んだ。
自分へのリプタンの愛情が冷めていないことを確認しただけでも心がいっそう楽になった。
「奥様、こんにちは」
部屋のドアを開けて外に出ると、窓を拭いていた下女たちが快活な笑みを浮かべながら頭を下げる。
「昨夜は安らかに眠れましたか?」
「よく眠れました。お客様は・・・、昨夜、不便なく過ごしましたか?」
「はい、皆さん、安らかに眠れました。今は王女殿下を除いて、みんな部屋で休憩を取っています」
「王女様は?」
「殿下は早朝から領主様とともに練兵場へ出掛けられました」
「領主様と・・・、一緒にですか?」
マックの曇った表情を見て気の利く下女の1人が素早く付け加えた。
「王室の近衛騎士たちも一緒に出かけました。衛兵訓練を見学する計画だとおっしゃいました」
「そ、そうなのですね」
不快な気持ちを読まれたのが気まずくて、彼女は慌てて振り向いた。
昨夜、彼の口を通じて王女に何の感情もないという話を何度も聞いても、二人が一緒にいるという話にすぐに気が立つなんて。
自分はこんなにも嫉妬心の強い女だったのか。
マックは訳もなく熱い顔をこすりながら階段を駆け下りる。
しかし、ロドリゴーと一緒に庭を見ている間も、焦りはなかなか収まらなかった。
夫が他の女性と密会をしに行ったわけでもないのに、なぜここまで窮地に追い込まれた気がするのだろうか。
しばらくの間、彼女はいらいらして庭をうろつき、ついに練兵場の方を向いた。
ぎこちなくて不便でも、彼らと一緒にいるのが気楽だと思ったのだ。
そのような考えをしながら大またに域門を通過すると、突然大きな歓声が聞こえてくる。
マックは練兵場の入り口に立ち、下を見下ろした。
特別な訓練でもあったのか、いつもより多くの騎士が階段の下にびっしりと集まっている。
片方にはアグネス王女、その随行員たちもいて、反対側には見習い騎士たちの顔まで見えた。
彼らが注目する中、2人の騎士が訓練場に出てくる。
マックは目を丸くした。
二人とも兜をしていたが、片方がリプタンだということが難なく分かることができた。
今まさか、決闘をしようとしているのかな?
何の理由で?
彼らが対峙して立って剣を抜く姿を眺めながら、マックは混乱した表情をする。
鎧の形から見て、挑戦者は王女の近衛騎士のように見えた。
まさかお客さんと摩擦でもあったのだろうか。
慌ててまばたきをしていると、近衛騎士が鎧姿とは信じられないほどの速度でリプタンに向かって飛び込んだ。
まるで砲丸が飛んでいくようだった。
マックは悲鳴をあげて後ずさりする。
しかし、その音は雷のような金属性の摩擦音に埋もれてしまう。
リプタンが閃光のように飛んでくる剣を軽く弾き、騎士は直ちに次の攻撃を試みた。
彼らの剣がハチドリの羽ばたきのように速い速度で激しく衝突し、耳をつんざくような音が相次いで鳴り響く。
マックは魂が抜けた顔でその光景を眺めた。
どれだけ強力な力でぶつかっていたのか、彼らが足を踏み入れる度に地面が深く掘られ、あちこちに土ぼこりが霧のように飛び散る。
二つのうち一つが、すぐにでも真っ二つになってもおかしくない対決だった。
そのくらっとする光景をこれ以上まともに眺めることができず視線をそらしてしまうと、近くに立っていたカロン卿が心配そうな顔で近づいてくる。
「大丈夫ですか、奥様?」
「力、カロン卿・・・」
マックはマントの裾を本能的にしがみつくように握り締めた。
「い、今何してるんですか・・・?な、なんでリプタンが決闘を・・・」
「落ち着いてください。決闘ではありません。軽い訓練ですよ」
「か、軽い・・・、訓練ですって?」
彼女は信じられないと言わんばかりに二人を見つめる。
背後からはまだ雷が落ちるような音が鳴り響いていた。
「あの、何が軽いんですか!?ああしていて、け、怪我でもしたら・・・」
「相手はともかく、団長は適当に相手にしてくれているだけです。あれくらいの訓練は私たち同士でもよくします。心配しなくても大丈夫ですよ」
カロン卿を安心させようとしたが、心臓がドキドキする。
腕組みをして立ち、ゆったりとした姿勢で観覧している騎士たちが怪しく見えるほどだった。
「ご機嫌が悪ければ、練兵場の外へお送りします」
カロン卿は心配そうにマックの青白い顔を見下ろして言った。
彼女は自分を支える丁寧な手に無意識のうちに身を寄せる。
その瞬間、チェン、という鋭い音が響き渡り、周囲が静かになった。
マックはひょっとして、リフタンが怪我をしたのではないかと青ざめて振り返る。
幸いなことに、リプタンは石像のように揺らぐことなく立ちはだかっていた。
彼が毅然とした態度で騎士の首に剣を突きつけると、しばらく沈黙で耐えていた挑戦者が手を上げて敗北を認める。
練兵場の中を流れる緊張感が和らぐのを感じながら、マックは安堵のため息をつく。
幸いなことに、2人とも怪我をしたようには見えなかった。
少なからず安心して肩をすくめていると、突然鋭い視線が感じられた。
マックはおずおずと再び下を見下ろす。
リフタンは鎧を脱ぎ捨て、彼女を激しくにらみつけていた。
彼は剣を腰に突き刺し、彼女をカロンから素早く引き離す。
「今何してるの?」
「奥様が訓練の場面にとても驚いたようで、お手伝いしていました」
カロン卿は一歩下がって当惑した顔で弁明をする。
リプタンは鋭い目で彼をにらみつけ、再び彼女に向かって視線を向けた。
「こんなところに来るな。あなたのような人には似合わない」
それから彼女の腕をつかみ、城門に向かってさっと身を向ける。
ガントレットが体を痛めるように締めつける感じで、マックは低いうめき声を上げた。
すると、リプタンが火に火傷でもしたかのように、びっくりして手を放す。
彼女はぎょろぎょろした目で彼を見上げた。
なぜ急に不快に思うのか訳が分からなかった。
「わ、私は大丈夫です。ただ・・・、こんなに激しい対決を見たのは初めてなので・・・、少し驚いただけです」
「マクシミリアンは一度も馬上競技や剣術大会を観覧したことがないんですか?」
突然、アグネス王女が彼らの間に割り込んできた。
マックは突然目の前に飛び出した彼女の顔にびっくりして後ろに退こうとしたが、そのような自分の態度が非常に無礼に映る恐れがあるということに気づき、素早く姿勢を正した。
「はあ、一度も・・・、ありません」
「そういえば、ドラキウム宮殿にも訪れたことがないでしょう?妹さんは、ほぼ毎年来てるみたいだけど・・・、マクシミリアンは首都があまり好きではないんですか?」
望まない話題にマックは冷や汗をかく。
「旅行が・・・、あまり好きではないので・・・」
「それでも一度はカリプス卿と一緒に訪問してください。今度は私が首都を案内してあげますから」
「ご提案はありがたいのですが、私の妻はそんなに遠くまで旅をするほど丈夫ではありません」
マックが何かを答える前にリプタンがきっばりと断って、彼女を再び城門に導いた。
慌てて肩越しに首を回すと、アグネス王女が妙な笑みを浮かべながら肩をすくめる姿が目に入る。
リプタンの無礼な態度に腹が立ったようではなかったが、それほど愉快にも見えなかった。
マックは彼を追いかけながら心配そうに話す。
「リ、リプタン・・・、王女様にそんなに無礼では・・・、ダメです。れ、礼を尽くさないと・・・」
「王女のことはそんなに気にしなくてもいい。あの女は私の神経を掻きながら遊びたいだけだから」
彼は足を踏み出して辛らつに吐き出した。
「領地を案内するのも私が勝手にするから、これ以上付き合ってあげる必要はない。昨日も言ったが、人を勝手に振り回すのには特別な才能がある女だ。絡まっていいことが一つもない」
「はあ、でも・・・、リプタンは道路工事の準備で忙しいじないですか」
彼女の言葉にリプタンの何かが気に入らない人のようにしかめっ面をして、ため息のように吐き出す。
「実は、道路建設をするのに王女の助けを受けることにした」
「た、助けですか?」
「港をつなぐ道路を建てるためにはアナトリウム南側地帯の魔物を綺麗に討伐しなければならない。アグネス王女のような高位魔法使いが助けてくれれば大きな力になるだろう。それに彼女にアナトールを案内する時間を別に与えなくてもいいから一石二鳥じゃないか」
「・・・」
マックはしばらく言葉を失った。
「はあ、でも・・・、アグネス王女様は王室から来たお、お客様じゃないですか。お客様に・・・、そんなことをさせるのは適切ではない・・・」
「そうでなくても、王女の近衛騎士たちも、そのようなことを言って喧嘩を売っていたよ」
リプタンはちっと軽く舌打ちする。
「言いがかりは別にない。先に提案してきたのはアグネス王女のほうなんだけどね」
どうやら先の対決は王女のために発生したようだ。
心配そうな目で見上げると、リプタンがにっこり笑って手袋を脱いだ手でマックの頭を撫でた。
「そんなに心配しなくてもいいよ。本気で不満を表出してきたのではなく、けちをつけて剣を混ぜてみたかっただけだから。アグネス王女の実力なら大きな問題が生じるはずもなく、私も王室特使として来た客を危険に晒すほど気が狂った人間ではないから」
そのように優しく話しているのに、これ以上引き止める言い訳も見つからず、マックは口をつぐんだ。
ただ嫌だと言い張ることもできないのではないか。
「だから余計な心配はしないで、あなたは部屋で休むようにしなさい。しばらくお客さんを迎える準備をして無理をしたじゃないか」
「わ、私が・・・、な、何かお手伝いできることは・・・、ないでしょうか?」
「君が?」
彼は変な言葉でも聞いた人のように目を細める。
その姿に萎縮しようとする気持ちを落ち着かせながら、たどたどしく吐き出した。
「私もい、癒しの魔法ならできるから・・・、た、助けることができることがあるでしょう?」
「気持ちはありがたいけど、いいよ。現在、アナトールには魔法使いもたくさん入っている。本当に助けが必要なら彼らに依頼するつもりだ。あなたがそんなことまで気にする必要はない」
一寸の迷いもない断固たる拒絶に、マックはこれ以上言葉を付けずに口をつぐんだ。
リプタンが自分にさせたい役割はたった2つだけだった。
カリプス城の女主人、そして彼の妻。
彼は自分を世の中に一つだけの家族と思うと言ったが、自分の困難を共に分かち合う仲間とは考えていなかった。
マックは失望の気持ちを隠し、一歩先を歩く彼のそばを力なく歩いた。
マックはその日以来王女のことを全く気にする必要はなかった。
アグネスはほとんど一日中リフタンと一緒にいたからだ。
彼らは早朝から城郭の外に出てアナトリウム南側地帯を歩き回り、そうでない時は一緒に練兵場で何かを議論したり領地を巡回している。
もちろん、二人きりで通うことは決してなかった。
領地の外に出る時はいつもレムドラゴン騎士団と王女の近衛騎士たちが後に続き、領地を巡回する時は随行員たちが続々とついてきている。
それにもかかわらず、マックは不安を消すことができなかった。
リプタンのそばに日差しのように眩しい女性が立っているのを眺めるだけでも胸に鋭い苦痛が訪れる。
窓の外を通して春の気配が鮮明になり始めた庭を眺めながら、彼女は憂鬱なため息をついた。
アグネス王女はまるでマキシミリアンを正反対にひっくり返したような人だった。
威風堂々として自信に満ち、美しい容貌と強さまで備えた女性。
そんな人を間近で見守っていれば、リプタンも結局気が付くのではないだろうか。
自分の妻がどれほどつまらない人なのか、どれほどみすほらしく陰鬱な人間なのかを。
そんな思いをすると背筋がぞっとした。
マックはロゼッタと、ほぼ同時期に暮らしてきた。
夫にさえ他の女性と比較されるするかも知れないと思うと、恐怖心さえ感じてしまう。
マックはいらいらして唇をかんだ。
骨の髄まで刻まれた劣等感をまったく振り払うことができなかった。
リフタンとマックの考え方が違いすぎて・・・。
中々スッキリしない展開です。