こんにちは、ピッコです。
今回は87話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
87話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 冷戦
雨は数日間止み続けたが、降雪を繰り返した。
雨脚は太くなかった。
霧に近いほど細く柔らかい雨粒がさらさらと降り注ぎ、青々とした葉をしっとりと濡らし、時々黄金色の日差しが薄い雲を突き抜けて入ってきて水に濡れた庭園をほのかに照らしたりもした。
その爽やかな美しさは、マックを落ち着かせ穏やかな気持ちにさせる。
マックは庭が見渡せる窓際に座り、ルースが整理してくれた魔法式を勉強した。
ズキズキしていたお腹の痛みが和らぐ頃には、ハーブ庭園に出て直接薬草を採ってみたり、ルースの塔に立ち寄って新しい本を読んだり、薬を組み合わせてみたりもした。
一人で新しいものを身につけるのは決して容易くなかった。
紙の上にぎっしりとした文字を目が開くほど覗き見るのも大変だったし、指導してくれる魔法使いなしに一人で魔法を練習するのも思ったほどうまくいかなかった。
彼女は途方に暮れて右往左往しながらも、ルースが残した宿題を必死にこなしていく。
今は平穏な日々が続いているが、それが今後も続くという保障はない。
アナトールは激動の変化を迎えている土地だ。
ここには毎日新しいことが起き、その速い変化の中で大小の問題が発生している。
彼女はアナトールでの半年間で多くのことを経験した。
そしてその全てのことを通じて、あらかじめ準備しておくことがどんなに大事なことなのかしっかり学んだ。
(決して時間を無駄に使うことはできない)
彼女はできるだけ朝早く起きて魔法式を勉強したり、薬草を研究したりした。
時々ルースの代わりに負傷者を治療したりもした。
それを繰り返しているうちに、最初は慎重に接していた兵士たちも、次第に彼女の存在を自然なものとして受け入れ始めた。
彼女は決まった時間ごとにきちんと医務室に立ち寄り、少なくとも5人から最大10人まで治癒魔法をかけ、後には各種ハーブ治療剤で風邪や頭痛、不眠症のような小さな病気まで世話することになった。
それほど本格的なことになると、リプタンが気づかないはずがない。
医務室に立ち寄って衛兵たちの小さな傷を治療していたマックは、突然ぞっとする寒気が襲ってくるのを感じ、後ろを振り返る。
リプタンは医務室の狭い入り口に立ち止まり、じっと彼女を睨みつけていた。
彼の冷たいこわばった表情を見て、マックは乾いた唾を飲み込んだ。
彼の後ろに立ったヘバロンは来るべきものが来てしまったというように首を横に振っており、ガベルは今まで口を閉じていたという罪悪感で肩を落とした。
リプタンはトラのようにうろうろしながら彼女の前にやってくる。
「ここで何をしているのか説明してみようか?」
「・・・け、怪我をした兵士がいるということで・・・治療してい、いました」
マックは目を転がして、足をひねった騎士に癒しの魔法をかけた。
彼の目はますます細くなる。
彼女はこわばった笑顔で立ち上がった。
「もう・・・私の仕事は全部、全部終わったみたいですね。それでは・・・失礼します」
それからそっとその場を抜け出そうとしたが、そのまま送つてくれるリプタンではなかった。
彼は彼女の腕をつかんでうなり声を上げる。
「聞くところによると、あなたがここで治療術師のふりをし始めてからずいぶん経ったそうだが・・・なぜ私は今になってその事実を知ったのだろうか?」
「お、お忙しいじゃないですか。こんな些細なことで・・・き、気を使わせたく・・・なかったのです」
リプタンの顔は彼女の言い訳で固くなった。
「私にわざと隠したんじゃないのか!」
「か、隠していませんでした。あえて・・・言わなかっただけで・・・」
「そんなことを言うの?なんてこった、私の妻が一日中何をしているのか、私だけが知らなかった。馬鹿にされた気分だ!私がどれだけあなたのことを心配しているか知っているのに、どうして私に内緒でこんなことができる?」
冷や汗をだらだら流しながら言い訳をしていたマックは、ふと顔をしかめた。
一体自分がどうしてこんな非難を受けなければならないのか?
これまでの努力が頭の中をよぎるとだんだん怒りが出始めた。
彼女は反抗的な目で彼を見上げる。
「わ、私が・・・何をしたんですか?」
「・・・え?」
「私はただ・・・負傷したき、騎士を治療してあげただけです。そ、それは悪いことですか?怪我をした人を・・・た、助けたことがひ、非難されることですか?」
「話を変えるな!この前約束したじゃないか。二度と無理しないって・・・!」
「む、無理はしませんでした!この2週間、い、一度も魔、魔力の枯渇を起こしていませんし、め、めまいも感じたことがありません」
彼女が負けずに立ち向かうと、リプタンの顔にちらっと当惑感が浮かぶ。
マックは矢継ぎ早に言い放った。
「き、危険なこともしませんでした。この城で・・・あ、安全に過ごしながら、ただ、怪我をした人の面倒を見てあげただけじゃないですか」
「あなたは城主の妻だ!どうして君が治療術師の役割までしなければならないのかということだよ!」
「私がで、できるからです!」
マックはそうやっていきなり吐き出しておいて、自分の言葉にびっくりした。
彼女はずっと自分には何もできないという考えにとらわれて生きてきた。
ところが、服従しなければならない夫の意思に反旗を翻し、自分の微弱な能力を主張しているとは。
狂ったりしたのだろうか。
彼女は締め付けられた首の内側に苦労してよだれを垂らしながら、一層丁寧な口調で話を続ける。
「今、この城には・・・治療術ができる人が私以外は、一人も残っていませんよ。前のように無理することも・・・ないと思います。今は前よりもっと・・・魔力も向上して・・・倒れるか心配する必要もないですよ」
リプタンも態度を変えて彼女を優しくなだめる。
「できるだけ早く治療術師を雇う。私はあなたがこんなことをするのが嫌なんだ。どうしてわざわざ買って苦労しようと意地を張るの?」
「なんで私は・・・く、苦労してはいけないのですか?なんでですか、リプタン?リプタンもして・・・ル、ルースもして。騎士たちもあらゆる大変で、け、険しいことをするのに・・・どうして私だけは、だ、駄目だと言うんですか?」
「あなたは私たちとは違う!あなたは公爵家の令嬢だ!」
彼女は顔を真っ赤に染めり。
生まれて初めて誰かを殴ってやりたい衝動にかられた。
「そ、それがどうしたっていうんですか?ア、アグネス王女様も・・・あらゆる険しくて危険なし、仕事をしています!公爵家の令嬢が・・・ど、どうだというのですか!」
リプタンは反論する言葉を見つけることができず、唇を震わせる。
後ろで腕を組んで見物していたヘバロンが小さく口笛を吹いた。
「団長が押されてるんだけど?」
リプタンは彼を睨みつけ、再び彼女を睨みつける。
「王女は幼い頃からあらゆる経験を積んだ大魔法使いだ!どうやってあなたと比較するの?」
あたりからはっと息をのんだ音が聞こえてきた。
ニヤニヤしながら夫婦喧嘩を観覧していたヘバロンさえも手のひらで額を包んだ。
マックは青ざめた顔で力なくうなだれる。
恥ずかしいことに、目頭が熱くなった。
それがたとえ事実だとしても、必ず皆が見る前で話さなければならなかったのか。
悲しみがこみあげてきた。
「私の言いたいことは・・・」
彼女は肩の上に落ちた彼の手を無情に振り払う。
リプタンの口元が衝撃で硬くなった。
マックは彼を睨みつけ、ドアから飛び出した。
「しばらく・・・み、見るのも嫌です!」
見たくもないと言ったが、彼らは同じ部屋を使っている。
リプタンの顔を見るのは避けられないことだった。
それでマックは自らが考えても子供のような方法を選択する。
それは寝たふりをすることだ。
「マキシ、ちょっと話をしよう」
いつもより早い時間に部屋に戻ったリプタンが、いらいらしてベッドの近くをうろつく。
マックは毛虫のように布団を頭のてっぺんまでひっくり返してかぶって横になってびくともしなかった。
すると、リプタンは怒りっぽく布団を引っ張る。
彼女は毛布を強く握り、指がブルブル震えるほどいびきをかいた。
必死の寝たふりだった。
「寝てないのは知ってるよ。起きてみて」
そろそろイライラしてきたのか、布団を振る手がだんだん荒れてきた。
マックは布団を奪われないように必死になり、しっかりと両目を閉じる。
枕元からむんむんする音が聞こえてきた。
「本当にそんなことするの?さっきは私が・・・」
リプタンの声から突然力が抜けた。
彼は布団から手を引き離し、ベッドサイドに腰を下ろす。
しばらく重い沈黙の後、彼は冷たく言った。
「・・・分かった。好きなようにしなさい」
それから靴を脱いでベッドの上にはたばたと横になってしまった。
マックは悲痛な気持ちでできるだけ彼から離れて仰向けになる。
リプタンと言葉も交えたくなかった。
しかし、彼があまりにも簡単に会話を諦めてしまうと、それはそれで腹が立つ。
私は一体何をどうやってくれることを望んでいたのだろうか。
自分を抱きしめ、優しくなだめながら、ひどいことを言って申し訳ないと、本気ではなかったと謝罪することを望んだのか。
彼の冷静な態度に裏切られた気持ちさえ感じた。
冷戦は翌日まで続いた。
マックはリフタンが外に出るまで布団の中に隠れて身動きもせず、彼がしぶしぶと立ち去ってからルースの塔に閉じこもった。
そこで彼女はいつものように本を読んで薬草を配合しながら時間を過ごした。
しかし、リプタンの言葉がふと頭の中に浮かんで、なかなか集中することができない。
彼女は机の上に倒れ込み、崩れ落ちるように唇をかんだ。
いくら努力してもリプタンは自分を認めてくれないだろう。
なぜだろうか。
自分は彼の妻になっていたかもしれない美しい大魔法使いの足先にも及はないはず。
自らもどうしようもないほど、審査が歪んだ。
彼は一日にたった五つ寝室で過ごす時間以外の5時間の領域に自分を含めるつもりがないことは明らかだった。
ただ部屋の中に置いて、たまに撫でさせてくれる飼い猫扱いしたいのだ。
断られることには慣れたと思っていたのに、胸がじいんとする。
彼女は勉強に少しも集中できず、そのように自虐的な考えだけを繰り返した。
そうするうちにふと、普段なら医務室に立ち寄った時間だということに考えが狂った。
マックはしばらくためらった。
昨日、皆が見ている前であのように恥をかいたが、平然と顔を出すほど、彼女は顔が厚くない。
しかし、このまま足を切ると、それはそれでプライドが傷ついた。
みんな私が彼の言葉に衝撃を受けたと思う。
マックは不満そうな顔をした。
実際にそうだったが、彼女は自分が臆病な女性だとほのめかすのが気に入らなかった。
王女の大胆な姿と比較されるのではないかと心配した。
苦心していたマックは結局、ハーブのポケットを持って塔を出る。
騎士たちが自分を見て、「私は置かれたら、すべて落ちていく薬剤を補充するために来た」と言い訳をするつもりだ。
彼女は練兵場の入り口にこっそりと顔を出す。
そして、リプタンの姿が見えないか、城門の後ろに隠れてしばらく周辺を見て、騎士の宿舎に駆けつけた。
横のドアを通じて医務室の中に入ると、手首に包帯を巻いている騎士の姿が目に入った。
彼は驚いた目で彼女を見つめ、素早く体をまっすぐにして丁寧に彼女を見る。
「こんにちは、カリプス夫人。今日はいらっしゃらないと思いました」
「鎮痛効果がある・・・ハーブがほとんど無くなっていたので・・・持ってきました」
彼女は何も聞かずに彼の手首をちらりと見た。
「手首を怪我したんですか?私が・・・癒しの魔法をかけましょうか?」
「大丈夫です。剣がぶつかったときの関節の衝撃を和らげる目的で巻くだけですから」
騎士がこれ見よがしに手を振りながら微笑んだ。
マックは安堵のため息をつく。
もしかするとここに近づくこともできないようにしろとリプタンが厳命を下したのではないか、内心心配していたのだ。
騎士の態度で見ると、自分の出入りを禁じたようではなかった。
彼女はリラックスして窓の机の前に座って、持ってきたハーブを種類別に分類し始める。
騎士は手首に包帯をしっかりと巻いた後、もう一度頭を下げて外に出た。
マックは剣がぶつかる音を聞きながら、木で作った箱の中によく乾かした薬草をきれいに整理して入れた。
そのようにしばらく薬剤を補充しておくと、門から大きな声が聞こえてきた。
「あれ、もう団長と仲直りされたんですか?」
彼女は曖昧な笑みを浮かべる。
「ああ、こんにちは、ニルタ卿」
「こんにちは、貴婦人」
ヘバロンがつかつか医務室の中に入ってきて、大げさな態度で腰を下げた。
「気分は少しよくなりましたか?」
「私、悪くはありません」
本当はめちゃくちゃだった。
彼女はバンという音がするほど激しく箱のふたを閉じる。
彼女の表情を見たヘバロンは、くすくす笑った。
「ああ、わかりました。まだ戦争中ですね」
「わ、私は戦争をしているのではありません」
マックは彼の面白そうな話し方に腹を立てて不満そうな目をした。
しかし、人を選んで食べるのが好きな人らしく、ヘバロンは全く瞬きもしない。
彼女はため息をついて話題を変えた。
「どこか・・・怪我をしていらっしゃったんじゃないですか?」
「ご覧の通り元気です。偵察隊にあげる非常薬を取りに来ただけです」
「た、棚の上にあります。止血剤と・・・解毒剤、そ、そして回復剤を袋に・・・入れておきました」
彼は棚に歩み寄り、袋を持って、軽快な足取りで再び医務室を出た。
マックは机の前に座って南方の医療技術を整理した本に目を通し、日が暮れる前に部屋に戻る。
まだ早い時間だったが、もしかしたらリプタンが早く帰ってくる可能性もあった。
彼女は急いで夕食を食べ、ベッドに飛び込んだ。
今度は本当に彼が帰ってくる前に眠ることができた。
彼女はこれまで勤勉なことが恥ずかしくなるようにとても早く寝て、とても遅く起きた。
マックの堪忍袋の尾が切れてしまいましたね。
リフタンが好きにしろと言ったのは、どういう心境なのでしょうか?
この冷戦はいつまで続く?