こんにちは、ピッコです。
今回は34話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
34話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 好きなものと嫌いなもの②
「いいよ。君の言うことが正しいのか、一度見守るよ」
リプタンが揶揄うように話しては、先に馬を走らせる。
彼は筋肉質の長い脚で血なまぐさい雄馬の力を完全にコントロールしていた.
マックは彼が追いかけやすいように適切な速度を維持していることに気づく。
そのささいな配慮が彼女の胸を暖めた。
この人ほど自分のことを気にかけてくれた人はいなかった。
彼は自分を本当に愛らしい淑女だと思っているようだ。
「馬に乗るのはあまり楽しまなくても、動物は好きだろ?」
彼は突然質問をした。
マックはぼんやりと目を瞬かせる。
「す、好きです。な、なんで分かったんですか?」
「昔、クロイソ城を訪れた時、あなたが庭に座っているのを見たことがある。ひざの上に猫を乗せて撫でていたよ」
マックは誰かが自分を見ているとは思ってもみなかったので驚いた。
いつ自分を見たのかじっくりと記憶を推し量っていると、リプタンが淡々とした口調で話を続ける。
「いちゃついているのが、ずいぶん嬉しそうに見えたよ。柔らかくて平和に見えて、記憶に強く残っている」
「あ、たぶん・・・、キッチンでネ、ネズミ捕りで飼っていた猫だったと思います。か、狩りの実力があまりにも悪くて、よくご、ご飯を飢えさせられていたんです。わ、私がこっそりエサを取って、あげてはいました」
「その代価として、あいつはお前の膝の上であらゆる愛嬌を振りまいただろうね。あと、何が好きなの?」
なぜそんなことを聞くのか訳が分からないという顔をすると、彼が苦笑いした。
「さっきも言ったけど、あなたに関するすべてがベールに包まれている。あなたも自分に関して口に出すことがほとんどないじゃないか。どうしてそんなに自分をさらけ出すのを嫌がるの?」
その質問にマックは心臓がどきっとするのを感じた。
本当に分からなくて聞いてるのかな?
自分は人前で堂々と自分の姿を見せるにはあまりにも多くの欠点を持っていた。
彼がなぜその事実に気づかないふりをするのか理解できない。
マックは少し泣きそうな気持ちを感じながら防御的に吐き出した。
「あ、明らかにすることを・・・、い、嫌がったことはありません」
「よし、じゃあ、何が好きなのか、何が嫌いなのか何を考えて生きているのかちょっと話してみて」
マックは突然意地悪な顔をした。
「リ、リプタンが先に言ってみて。あ、あなたもそんなにく、口数が多い方では、な、ないじゃないですか」
「少なくとも君よりはたくさん話したと思うけど?」
彼が記憶をたとるように眉間をしかめ、すぐに肩をすくめる。
「まあ、いいよ。騎士道精神を発揮してみよう。私は馬とお酒、そして脂っこい食べ物が好きだ。実際、お腹を満たしてくれて舌を楽しませてくれるものなら何でもいい」
彼は道を塞ぐ枝を短刀で切り話し続けた。
「他に何があったつけ・・・、黄金と宝石、名誉、強力な武器・・・。言ってみると平凡だね。私はほとんどの男性が好きなものが好きだよ」
「き、嫌いなものは?」
「うそつき」
彼が一顧の迷いもなく吐き出した。
「そして無能力者。私はその資格もないのに威張っている人間をあまりにもたくさん見てきた。人を騙して食べる人間はもっとたくさん見てきたよ。そんな人間たちがうんざりだ」
マックは一瞬心臓がドキッとするのを感じた。
「さあ、もう君の番だよ」
彼女の動揺に気づかなかったように、リプタンは軽い口調で尋ねる。
マックはすぐに感情を隠した。
「わ、私も・・・、ほとんどの人が、す、好きなものが好きです」
「それは公平な答えではない。ちゃんと言って」
マックは彼の不平をもう少し考えて口を開いた。
「あ、さっきも言ったように・・・、ど、動物が好きです。犬、猫、馬・・・、ひよこやウサギも好きです」
「それから?」
「ほ、本を読むのが好きです。ク、クロイソ城にいたときは、いつもと、図書館にいました」
「確かに執事があなたは図書館にいる時間が一番長いと言っていたよ」
「そうですね。カ、カリプス城の図書館にはめ、珍しい本が多いです。だ、大体、ル、ルースが布団にしていますが」
彼はこっそりと彼女を振り返り、それとなく尋ねた。
「あいつを直ちに図書館から追い出してやろうか?」
「そ、そうすると、彼は一生わ、私の悪口を言うでしょうね」
怖がって引き止めると、リプタンが曖昧な顔をする。
彼は眉間にしわを寄せながら彼女を注意深く見た。
「あいつとずいぶん親しくなったらしいね」
「し、城を飾る時・・・、い、いろいろアドバイスをして、してくれたんですよ。こ、小言がひどくて、うるさいですが・・・、い、いい人だと思います」
どういうわけか彼女の言葉が彼の機嫌を損ねたようだ。
沈んだ目つきで彼女を見下ろしていたリプタンがすぐに首を回して無愛想に吐き出した。
「その通りだよ。気難しくて口うるさいやつだけど忠直な人間だ」
忠直。
それ程重要なことはないというような言い方だった。
「そして嫌いなものは?」
物思いにふけったように静かに馬を走らせていたリプタンが再び口を開いた。
「それまで答えてこそ公平だ」
マックは鞭打ち、飢え、悪口、殴打を思い出す。
しかし、そのように率直に話すことはできなかった。
だからといって嘘が一番嫌いだという彼に嘘をつきたくない。
彼女はためらい、真実の一つを吐き出した。
「じ、自分です」
リプタンは彼女の言葉を理解していないかのようにぼんやりと瞬きをする。
彼女は軽い口調で繰り返した。
「私は・・・、私自身がき、嫌いです」
ちょうど小道が終わり、広い草原が姿を現す。
彼女は彼の言いたいことを聞く前に丘の上に馬を走らせた。
意外にもマックは乗馬を思う存分楽しむことができた。
広々とした丘を走ることは、曲がりくねった山道を行くことより何倍も快適で楽しい。
彼女は冬の日差しが強く降り注ぐ黄金色の芝生を、恐れることなく走り去った。
その間に、だんだん姿勢も良くなり、リフタンが丘の頂上でしばらく休憩を取ろうと言った頃には、腰をまっすぐに伸ばして馬を走らせることができるようになっていた。
「ワインを少し持ってきた」
彼は丘の頂上にある一抱えの木の下で立ち止まり、ひらりと馬の上から飛び降りる。
それから彼女を鞍の上でさっと持ち上げ、口元に笑みを浮かべた。
「体が熱くなったね。あなたの心臓がまるで魚のようにぴちぴち動いているのが感じられる」
マックは乗馬で荒れた息を整え、額についた汗を拭う。
彼の言うとおり全身が心臓になったようにびちびち動いていた。
「か・・・、体の中に小さなさ、魚が入って、い、いると思います」
「かわいい比喩だね」
彼は真っ赤になった頬の上に唇を押し、彼女を地面に下ろす。
それから芝生の上にマントを敷いて座った。
マックは自然に彼の隣に座る。
冷たい風がすぐに乗馬の熱気を吹き飛ばした。
マックはローブを編んで町を丘の下まで見下ろす。
風が黄金色の野原を滑らかに駆け巡っていた。
「う、美しいところですね」
「春になれはもっと見物だ。青い野原に野生の花がいっぱい咲いている」
彼女は期待で胸がふくらむのを感じた。
期待感。
生きながら来る未来を期待するようになる日が来るとは想像もできなかった。
「こっちにおいで。汗のせいで体がすぐ冷たくなる」
リプタンは太い木の幹にもたれかかり、彼女を自分のコートに引き寄せる。
マックはひざの上に座り、小さな瓶のワインをすすった。
驚くほど穏やかな気分だ。
「私にも飲ませて」
リフタンは彼女の腰に指を突っ込み、肩に頭を下げた。
マックは彼の口に瓶を寄せていく。
彼が2、3口くらい飲んで唇を離した。
「なんで自分が嫌いなんだ?」
リプタンは自分の言ったことを軽く見過ごすつもりはないようだった。
マックは困った表情で目を転がす。
答えは一つだけではないか。
彼女は世界で最も愚かな人のように話した。
彼がその事実を無視し続けているというのが、ある面では少し面白く感じられたりもしたから。
マックはわざと平然と吐き出した。
「リプタンは・・・、じ、自分自身がき、嫌いになったことはありませんか?」
「数え切れないほど多い」
彼が少し緊張が解けたように肩から力を抜いて答える。
「けれど、何が嫌なのかという質問に、最初に自分自身だと答えるほど嫌がったことはない」
「それは・・・、そんなに嫌がるところが、な、ないじゃないですか」
彼女の言葉に彼は面白がっているような顔をする。
「そう見えるかな?」
「じ、自分でも・・・、よく知ってるじゃないですか」
「私にはよく分からない。君が教えてくれ」
マックは本気かと言わんばかりに彼を見上げた。
「リ、リプタンは・・・、つ、強いじゃないですか。せ、世界一の騎士で背も高いし、賢いし・・・」
「賢いという言葉は初めて聞くね。熊のように愚鈍なやつだという話はかなりたくさん間いたが・・・」
彼女はしかめっ面をした。
たとえ話し方が洗練されておらず、礼法にも精通していなかったとしても、リプタンは愚鈍なこととは程遠い人だ。
彼の目つきはいつも鋭く、時々吐き出す言葉には洞察力のようなものが窺える。
他人の本音を全部見ているように感じられる時もあった。
「うぅ、愚鈍な人だったら・・・、こ、こんなに尊敬されるなんて、できません」
リプタンは素直に同意できないかのように冷笑的に口元をゆがめる。
彼は木の柱に頭をもたせかけ、無邪気な口調で尋ねた。
「それから、他には?」
「し、信義があり、と、統率力もあり・・・、それから・・・、は、ハンサムじゃないですか」
「私がハンサムだと思う?」
「・・・リ、リプタンもよ、よく知ってるじゃないですか」
「あなたが私の外見についてどう思うか、私がどうやって分かるの?」
マックは呆れたように瞬きをする。
「わ、私も目があります、リ、リプタン・・・、私の審美眼は他のひ、人々と同じなんですよ」
「私がクロイソ城を訪れるたびに、あなたは凶悪なオーガにでも対面したかのように震えていたよ」
リプタンは問い詰めたように言った。
「どうみても魅力的な男性を眺める目ではなかったね。ゴブリンのしわくちゃな顔もそれよりは愛らしく眺めただろう」
「わ、私は・・・、一度もゴ、ゴブリンを見たことがありません」
「要点はそうじゃない」
彼は彼女のあごを引き寄せて自分を見させた。
「あなたは私が近づくだけで卒倒しそうに振舞っていたことだ」
追及するような言い方にマックは当惑する。
彼が自分の態度を気にしているとは夢にも思わなかったのだ。
実際、彼女は彼が結婚式の前までは自分の存在に全く気づかなかっただろうと思った。
「私は・・・、あ、あなたがこ、怖かったです。か、体も大きすぎて、ひょ、表情も冷淡で・・・、リプタンは、い、いつも何かに怒っている人のように見えました」
「・・・」
リプタンはしばらく黙っていた。
マックは彼の腕の中でぎょろぎょろと動く。
彼がやがて口を開いた。
「・・・まだ私が怖い?」
マックはゆっくりと首を横に振る。
じっと彼女を見下ろしていたリプタンが突然頭を傾けて唇を重ねてきた。
マックは熱いうめき声を上げる。
脊椎に沿ってひりひりとした戦慄が流れた。
マックは当惑した表情であたりを見回す。
「リ、リプタン・・・、そ、外でし、したらダメですよ」
「大丈夫だよ。ここはあなたと私だけだよ。もし誰が近づいても私はすぐに気づくことができる」
それから彼女の服の中に片手を押し込んだ。
マックは彼の体から噴き出す熱にぶるぶると震える。
リプタンはとても落ち着いた顔をしていたので、彼女は彼がこんなに興奮していることに気づかなかった。
するとリプタンは彼女の額にキスをし、なだめるように囁く。
「怖がらないで。私は絶対にあなたを傷つけない」
マックは息を止めたまま彼の強烈な顔を見上げて、彼女は彼の頭をぎゅっと抱きしめた。
この人は私を傷つけない。
私を痛くしない。
しがみつくようにその言葉を頭の中で繰り返し、彼の手に身を任せる。
「君から冬の匂いがする」
どのくらいそうしていたのだろうか、リフタンは肩の上に顔をうずめ、深々と息を吸い込んだ。
彼の体からも冬の風のピリピリした匂いがする。
樹皮のピリピリとした匂い、木の葉の匂い、かすかな汗の匂いが入り混じってマックの肺腑をいっぱいに埋めた。
「君の全身にキスしたい。だけど、ここで裸になったら風邪を引くだろう」
彼は肌を裾の上に撫でながら慰める。
マックは全身に火がついたようで寒さなどは少しも感じられなかったが、その事実をあえて口にすることはなかった。
開けた丘の上で裸になる勇気は出なかったのだ。
実際、ここでこうすること自体がしてはならないことだった。
しかし、まったく彼から離れることができない。
リプタンは彼女の尻を撫でながら、首と耳に小さなキスを浴びせた。
「大丈夫、マキシ。あなたを痛くしない。二度とそんなことはしないから」
彼女は彼がいつ自分を傷つけたのか思い出せなかった。
とどうしてそんなに彼を恐れて敬遠したのかも覚えていなかった。
リプタン・カリプスはいつも自分の一部だったように感じた。
彼女は溺れているかのように彼の首を必死に抱きしめる。
切迫した熱情に胸がドキドキする。
マックは彼の熱いキスを受け入れ、次第に無我の世界に迷い込んだ。