こんにちは、ピッコです。
今回は97話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
97話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 行軍②
リプタンは彼女が痛がることを気にせず、両ふくらはぎを十分にこすった後、太ももの上にもハッカの香りがする油をたっぷり塗った。
鞍に擦れて熱い部分を手のひらでしっかりと掃くと、マックはきまり悪そうな顔で体をよじった。
「ああ、もう本当にいいですよ。リプタンも疲れただろうに・・・」
彼女は話を終えることができず、あっ、と息をのんだ。
彼が下着まで膝の下に引きずり下ろしたのだ。
「リ、リプタン・・・!」
「じっとしてて。薬を塗っておかないと、明日馬に乗りにくいよ」
「私がぬ、塗ります!私がやるから・・・!」
「今さら何を恥ずかしがっているんだ」
彼は彼女の太ももの上にそっと腰を下ろし、それから逃げられないようにした。
「訳もなく力を抜かずにじっと横になっていなさい。変なことをしようとしているんじゃないから」
リプタンは引き下がる勢いではなかった。
彼が手のひらに油を十分に塗った後、丸く膨らんだ丘を円を描くようにこすり始める。
マックは耳まで真っ赤になって毛布をぎゅっとつかんだ。
しらふに体を触られるのが恥ずかしくもあり、治療術師の役割をすると大声を出しておいては、彼の看護を受けている境遇が情けないこともあった。
しかし、彼女が苦役になりようがしまいが、リプタンはスモモのように膨らんだ肌に黙々とハッカ油を塗り、硬く固まった筋肉を十分にほぐした後に再び下着を着せてくれた。
「食事の準備ができているか確認してくるから、あなたは横になって休んでいて」
彼は襟首をこすりながら声をひそめてつぶやいた。
狭いテントで窮屈な姿勢で座っていたせいか、彼の顔が少し赤くなっている。
マックはズボンを上げながらうなずいた。
リプタンは重いため息をつき、膝をついてよろよろテントの外に出ていく。
彼女は毛布の上にぐったりと垂れ下がっていて、ふにゃふにゃになった麺のように疲れていた。
マッサージを受けた時は恥ずかしくて痛かったが、筋肉痛は嘘のように落ち着いていた。
マックはすべすべした肌をこすりつけ、腕をつついてうつぶせになり、少しの間眠る。
リプタンは周りが青みがかった闇に沈んでから、再びテントに戻ってきた。
「たき火で焼いた燻製ハムだよ。パンに添えれば食べ応えがあるだろう」
彼は木製のトレイを彼女のそばに置いた。
油がぐらぐら沸いている分厚いハムと拳ほどの大きさのパン3つ、そしてチーズ1つとワイン1本が置かれていた。
リプタンが短刀を取り出して食べ物を食べやすい大きさに切ってくれると、マックはあたふたと持ち上げて口に入れる。
お城で食べた食べ物に比べると身軽だったが、ひどくお腹が空いていたため、普段よりおいしく感じられた。
「もっと持ってきてあげようか」
彼女が大食いで食べ尽くす姿を見守っていたリプタンが無愛想に尋ねる。
マックは首を横に振った。
お盆の上に盛られた食べ物をほとんど平らげた状態だ。
お腹がパンパンにいっぱいになると、ただでさえだるい体が千斤のように重く感じられた。
マックは、魔物がうようよするアナトリウムの山中ということも忘れて、気絶するように眠りにつく。
翌日、騎士団は夜明け前に再び荷物をまとめて行軍する準備を始めた。
マックは顔を洗うどころか、髪をブラッシングする暇もなくあたふたと馬の鞍の上に座る。
リプタンのマッサージのおかげか心配したほどお尻が痛くはなかったが、騎士たちを追いかけることは依然として胸がいっぱいだった。
彼女はユリシオンに案内されてやっと暗い山道を切り抜ける。
騎士は緊張を緩めず警戒しながら速度を上げた。
「心配したように、魔物たちが・・・目立たないですね」
山のふもとに近づくと移動速度が減ると、マックはやっと口を開いた。
横から馬を走らせていたガロウが首を横に振る。
「アナトリウムに生息する魔物の大多数が、ある程度知能を備えた亜人種の魔物です。こういう大規模な軍隊が通る時は、体を張るためにあまり近づかないんですよね。しかし、どこかで隠れて見守っているはずです。昨夜は、森のゴブリン数匹が食料を盗もうと密かに接近したそうですから」
「さ、昨夜ですか・・・?」
彼女が真っ青になって肩をすくめると、ユリシオンはすばやく割り込んできた。
「心配しないでください。不寝番に立つ騎士たちがすぐに気づいて除去しましたから」
「け、怪我人はいませんか?」
「もちろんです!ゴブリンなんかにやられるレムドラゴンではないじゃないですか」
ユリシオンは侮辱でも受けたかのように憤慨し、あごを上げる。
それでもマックは心配が消えず、先を行く騎士たちの姿を几帳面に調べた。
一様に疲れた様子もなく、落ち着いて馬を走らせている。
彼女は立派な騎士たちの間で先頭に立っているリプタンの姿を見ようと首を長くしていたが、すぐに諦めてでこぽこした山道を通ることに集中した。
遠征隊は日が中天に昇ってからやっとアナトリウム山地を抜け出ることができた。
彼らは草原を横切って流れる小川の近くでしばらく休憩を取る。
随行騎士たちは馬たちを水辺に連れて行って水を飲ませ、騎士たちは食糧の袋を開けて遅い朝食を配分した。
マックはレムが小川の水に顔を突っ込み、あたふたと喉を潤している間に素早く顔を洗い、櫛を取り出して乱れた髪をとかした。
やっと茂みのようにもつれた髪をほどいて、きちんと編んでから再び野原の上に上がってくると、ユリシオンがパンとリンゴ一つを渡した。
「とりあえず、これでも召し上がってください。夕方にはもう少しきちんとした食事を用意することができるでしょう。昼間はできるだけ早く移動しないといけないので、火を起こして作った料理を出すのは大変なんですよ」
「あ・・・違います。これで十分です」
手を差し出して食べ物を受け取ると、ふとユリシオンが彼女の手のひらを注意深く見下ろした。
「手が赤くなっています。もしかして怪我をしましたか?」
「手綱に擦れたからです。持ってきた手袋がとても薄いようで」
何でもないように笑って見せたが、ユリシオンの顔はどうなるか分からなかった。
彼は彼女の手のひらにはっきりと刻まれた赤い跡を真剣に見下ろしている。
「具合が悪そうですが、治療を受けなければならないのではないですか?」
「それ・・・ほどではありません」
「そんなことはありません!」
ユリシオンが声を荒げると、馬たちに草を食べさせていたガロウが、彼らの間に突然頭をもたげた。
彼も彼女の手のひらを見て眉をひそめる。
「ユリシオンの言う通りです。ぐずぐずすれば旅行中ずっと苦労するでしょう。癒しの魔法をかけた方がいいんじゃないですか?」
「この程度なら大丈夫です。自分の体に癒しの魔法をかけるのは・・・喉が渇くと言って、自分の血を取り出して飲むのと同じだそうです。致命傷でない以上は・・・自然に回復するように捨てておいた方が・・・ましだと言ったりもするし・・・できるだけ・・・魔力を節約しておきたいです」
「それでも痛いと思うのですが・・・」
彼らの騒ぎにマックは草むらの上にマントを敷いて座り、ため息をついた。
「まったく、だ、大丈夫です。魔法をかけても・・・馬に乗って行くと、またこうなるんじゃないですか?その度に毎回魔法をかけるわけにはいかないじゃないですか。大変でも、体が慣れるようにしたほうがいいです。私の考えでは・・・」
彼女はたくましく両手を広げる。
「このままで、数日もすればたこができると思います。てのひらが固くなれば、馬に乗っていくら走っても、びくともしないでしょう」
ユリシオンは一瞬複雑そうな表情をした。
彼は彼女の手をじっと見下ろした。
見ているうちに何かが浮かんだのか、急いで鞍に結んでおいた荷物の袋を探した。
「とりあえず、これでも使ってください」
マックは厚い革の手袋を見て目を丸くする。
「ユ、ユリシオンが・・・使おうと持ってきたんじゃないですか?」
「念のため余分に持ってきたんです。必ず必要な物ではないので、ご心配なくお使いください」
彼女はためらい、手袋を取った。
正直言って、手のひらが痛かったのだ。
マックは丹念に旱習した柔らかい手袋の中に手を入れてみた。
ほとんど指の一節が残るほどだぶだぶだった。
「ユリシオンは・・・思ったより手が大きいですね」
マックは彼の長い指を今更ながら見つめる。
か弱い体躯に女のように繊細な顔をしているが、やはり男は男だな、と感心すると、ユリシオンの顔が赤くほてった。
彼は照れくさそうな顔で後頭部をかき回し、かばんから革ひもを取り出す。
「手首に手袋を固定してあげます。馬に乗って行く途中に剥がれたら大変じゃないですか」
マックはおとなしく手を任せた。
ユリシオンは不器用に手袋の上にひもを巻いて縛った。
「あまりきつくはないですか?」
「ちょうどいいですよ」
彼女は手袋が脱げないか手をはたいて満足そうな笑みを浮かべる。
「あ、ありがとう。よく・・・馴染みます」
「どういたしまして」
マックは手袋をはめた手でパンを手に取り、食事を終えた。
リプタンは少し離れた場所で騎士たちと一緒に地図を広げて話をしていた。
彼は騎士たちに何か指示を出し、地図をかばんに戻す。
マックはリプタンが自分のところにやってきて話しかけるのを待っていた。
しかし、彼はかすかに眉をひそめ、そのまま背を向け、タロンの背中に鞍を置く。
マックは不愉快そうな様子に目を丸くした。
昨日、優しく面倒を見てくれて怒りが収まったかと思ったら・・・まだ自分が無理やり追いかけてきたことのせいで気分を害しているのだろうか。
彼女は自分の方から先に近づいて声をかけてみようかと悩んだ。
しかし、彼女が決定を下す前に馬の上に座ったリプタンが、騎士たちを冷ややかに催促する。
「ぐずぐずしないで、すぐに出発しよう。これから盤龍の生息地だ。一時も緊張を緩めないように」
騎士たちが一斉に馬に乗って隊列を組んで彼女も急いでレムの背中に鞍を置き、ふらりと飛び乗った。
先頭に立ったリプタンが肩越しに彼女の位置を確認した後、力強く平野を駆け抜けた。
ユリシオンの気遣いが嬉しいですね。
今のところ魔物との遭遇はありませんが、ここからが本番のようです。