こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
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335話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 大切な人③
「……目が覚めたね。」
聞こえてくるシアンの声にエレナの目が揺れ動いた。
シアンはベッドの脇に座り、心配そうな目で彼女を見つめていた。
「へ、陛下?」
エレナが体を起こそうとすると、シアンがそれを制した。
「昨夜はよく眠れたかい?医師によると、安静が大事だそうだから、もっと横になっていて。」
「で、でも。」
「いつも君の意志に従ってきたけれど、今日だけはそれができないことを許してほしい。」
シアンは優しい手つきでエレナの肩を押さえ、彼女をそっと寝かせた。
その後、慎重にもう一度声をかけた。
「昨夜ここにずっといたのですか?」
「そうだ。」
「でも、皇宮はどうするんですか?早く戻らないと、陛下がいないことが分かれば大騒ぎになるんじゃ……。」
シアンが誰であるか。
それはベシリア帝国の皇帝だ。
そんな彼が秘密裏に皇宮を抜け出したと知れれば、天地がひっくり返るほどの事態になりかねない。
皇宮を離れること自体が、大変な事件だった。
「デンがうまく対処してくれるだろう。心配する必要はない。」
シアンは落ち着いた声で言いながら、隣に置いてあった布でエレナの額の汗を丁寧に拭った。
『不思議だわ。』
エレナはその状況の中で感じる自分の感情に戸惑った。
本来なら違和感や疎外感を抱くべきなのに、妙に落ち着いている自分がいた。
「それでも行かなくては。陛下に迷惑をかけたくありません。」
「なぜ君が私に迷惑をかけると思うんだ?」
「それは……。」
シアンが詩朗会に参加していたことが公になれば、宮廷や国家全体に多大な影響を与える可能性があった。
それはつまり、シアンの人生や幸福に、またしても自分が影響を及ぼしてしまうということに他ならなかった。
彼女は、それだけは避けたいと強く願っていた。
「国のためなのか?」
「……。」
「君はいつもそうだな。自分のことを顧みない。私の安否を気にしてくれている」
『かつては、あなたの妻だったからです。』
エレナは思わず口に出そうになった言葉を飲み込んだ。
彼が本当に望んでいるものが何なのか、彼が求めているものが何なのか、エレナには分からなかった。
だからこそ、これ以上自分が彼に迷惑をかけたくはなかった。
同じ過ちを繰り返して、彼を不幸にしたくないと思ったからだ。
『それが本当に理由なのか?』
心の奥から湧き上がる疑問に、エレナは迷うことなく答えた。
そう、本当だ。
シアンが幸せになること、それだけが彼女の願いで、それ以上のものは望まない。
その気持ちは今も変わっていない。
いや、彼女自身の感情など重要ではない。
シアンが幸せになること、それが最優先だから。
それでも、時折、心が揺れる瞬間がある。
まさに今のような時に。
「もうそんなふうにしないで。」
「陛下。」
「君は、僕にわがままを言ってもいいんだ。いや、そうでなければならない。」
「……!」
エレナの目が揺れた。
いつもそうだ。
シアンは優しくも、揺るぎない意志を持って彼女を見つめてくる。
自分の安否を最優先にしてくれる。
その時だった。
シアンが予告もなく手を伸ばして、エレナの額に触れた。
驚いたエレナの顔が赤く染まった。
シアンの温もりが彼女にじんわりと伝わった。
「へ、陛下。」
「熱があるかと思ったが、ただの気のせいだ。幸い熱も大分下がったようだな。これで行かせてもらおう。もっと一緒にいたいが、ここに留まると君が休めなくなる気がする。」
シアンは柔らかく微笑んだ。
けれど、彼の言葉には残念さが滲んでいた。
共にいたい気持ちを抑えながらも、エレナが休息を必要としていることを優先したのだ。
「今話すべきかどうか迷ったが、話す機会がもうないかもしれないと思っている。聞いてくれるか?」
「はい、大丈夫です。お話しください。」
エレナは、動揺した気持ちを抑えつつも、冷静さを保とうと努めて、静かに答えた。
「どこですか?」
「そんな大それた場所じゃない。ただ、一緒に行きたい場所なんだ。」
「一緒に?二人だけで?」
シアンの言葉の中に含まれる微妙なニュアンスを感じ取ったエレナは、戸惑いを覚えた。
「君と私、二人きりだ。」
「……!」
何の遠慮もなく「二人きり」という言葉を強調するシアンに、エレナは困惑した。
『二人きりって……どうして急にこんなことを?』
いつも冷静で集中力を失わないシアンだったが、今日の彼は違っていた。
これまで見せなかった積極性が感じられ、彼の言動には何か大きな変化が生じているようだった。
エレナが驚きに包まれている間にも、彼の態度からは決意のようなものがにじみ出ていた。
「でも、陛下。自重してください……」
エレナは返答をしようとしたが言葉が詰まった。
それは、恥ずかしさや遠慮からではなく、彼女の心の中で「国婚」という重い問題が頭をよぎったためだった。
エレナは感情に押し流されることを抑え、自分に言い聞かせた。
拒絶しなければならない。
感情よりも理性が勝る自分の姿が嫌になったが、それでも仕方がなかった。
国婚は国家間の重大な代表者であり、その目的や理由がどうであれ、事実が明るみに出れば国婚にも悪影響を及ぼすに違いない。
皇帝であるシアンと自分が同行していたという事実だけでも、世間の憶測を招き、国婚に波紋を広げるだろう。
「あなたは……。」
シアンは何か言おうとしたが、口をつぐんだ。
一歩踏み出そうとするたびに躊躇しているようだったが、エレナは決して彼を責めることはなかった。
それは、彼が自分を守ろうとしているのがわかったからだ。
それゆえにシアンも焦らず、時間をかけても、言葉ではなく行動で誠意を示そうと決めたのだ。
「あなたが何を恐れているのか、わかっている。だが、私が一緒に行きたいのは、あなたではない他の女性とだ。」
「え?どういうことですか?私ですよね?他の誰かではないですよね?」
まるで謎かけのようなシアンの言葉にエレナは困惑し、彼を見つめた。
その困惑した表情は、シアンにとってもまた、特別な意味を持っているようだった。
それが思い出せないのが切なく、悲しかった。
シアンはそんなエレナを見て、曖昧な微笑みを浮かべた。
その微笑みは、どこか過去の記憶の中に埋もれているかのようだった。
「久しぶりだな。」
「え?どなたのお話でしょうか?」
「私の不甲斐なさを補うに十分なほど、才覚があり、愛らしさを兼ね備えた後輩だ。」
「後輩?あっ!」
「後輩」という言葉がエレナの脳内を駆け巡った。
その言葉が何かを引き起こし、彼女の目に一瞬の疑念がよぎった。
おそるおそるシアンを見つめ直すと、彼は微笑んだまま、静かに言葉を紡いだ。
「一緒に来てくれるか? ルシア。」
「……!」
エレナの目が驚きと共に大きく見開かれた。
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