メイドになったお姫様

メイドになったお姫様【132話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【メイドになったお姫様】まとめ こんにちは、ピッコです。 「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

132話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 炎上する王宮

ベラが去った後、私室へと戻ったシアナは、へなへなと力が抜けるようにベッドへ倒れ込んだ。

「はぁ……体が水を吸った綿みたいに重い……」

アシルンド王国に到着してからというもの、数か月のあいだ、彼女はほとんど休むことなく動き続けていた。最低限の睡眠と食事だけで、張り詰めた糸を一本も切らさぬよう耐えてきたのだ。

だが、その甲斐はあった。

シアナはふかふかの枕に頬を押し当てたまま、小さくつぶやいた。

「思っていたより、全部うまくいったわね……」

帝国との交渉も無事に終わり、貴族たちの口も完全に封じた。一番の不安要素だった革命軍を含む民衆の反応も、幸いなことにシアナの言葉に強く応じ、積極的に協力してくれている。

「まあ、私が好かれてるからっていうよりは……新しい国への期待が大きかったからでしょうけど……」

シアナは、ここ数か月を共に過ごした民衆の姿を思い浮かべた。

彼らは一様にたくましく、素早く、そして勤勉だった。かつて実の王や王妃が、幼いシアナに口癖のように吹き込んでいた言葉とは、まるで正反対だった。

『平民どもに能力なんて期待する必要はない。あいつらは虫のように愚かで、少しでも隙があれば怠けようとする連中だ』

シアナはふん、と鼻で笑い、冷ややかに目を細めた。

「誰が愚かで怠け者ですって? それ、自分のことを言っているのかしら」

民衆の中には、王族や貴族よりも優れた知識や技術を持つ者が多くいた。考えてみれば当然のことだ。

食べ物があふれ、毎日のように贅沢な舞踏会や、退屈しのぎの果物の皮むきに明け暮れていた王族や貴族とは違い、民衆は違った。生き延びるためには何でもしなければならなかった過酷な日々が、彼らを何よりも強く、賢く育てていたのだ。

シアナは、暗い部屋の中で目を輝かせた。

「小さくて豊かとは言えない国だけど、この国の人たちはたくさんのものを持っているわ。誠実で、賢くて……。だから、民衆を踏みつけていた王族や貴族がいなくなって、少しでも機会が与えられれば、きっとどこまでも成長できるはず」

シアナの脳裏には、まだ見ぬ新しい国の姿が鮮やかに浮かんでいた。

青い空の下で、生き生きと忙しく働く人々。笑い、怒り、悲しみながら、それでも誰にも脅かされることなく、自由と幸福をその手にしていく姿。

なぜか胸の奥が、むずがゆいほどに熱くなった。

ただ地獄のようだと思っていたこの場所を、こんなふうに希望に満ちた場所として思い描いたことなど、これまでの人生で一度もなかったからだ。

ほんのりと頬を染めたシアナは、無意識のうちに、首に下げたどんぐりのペンダントに触れた。

アシルンドに来てから、ラシドとはまったく連絡を取っていなかった――というわけではなかった。ブラックシャドウ騎士団を通じて、数日に一度は事務的な情報のやり取りをしていたのだ。

「でも、声を聞いたわけじゃないし……それに、こっちの仕事もそろそろ一区切りだし」

ならば、これまで大事に取っておいた「二度の機会」のうち、一度くらい使ってもいいのではないか。

そう決意して深くうなずいたシアナが、どんぐりに向かって「ラシド」と呼びかけ、呪文を唱えようとした――まさにその瞬間だった。

バンッ!!!

勢いよく扉が開き、グレイスとチュチュが血相を変えて飛び込んできた。二人は息を荒げ、同時に叫んだ。

「早く部屋を出て、シアナ!」

「王宮で火事が起きたの!」

その衝撃的な言葉に、シアナのエメラルド色の瞳が大きく見開かれた。

 



 

シアナは慌てて部屋を飛び出した。

二人の言葉どおり、王宮のあちこちから真っ赤な炎が牙を剥くように噴き上がり、廊下は黒煙と必死に避難する人々の怒号で満ちていた。

「いったい、どうしてこんなことに……?」

シアナの手を強く引きながら、グレイスが緊迫した声で答えた。

「はっきりとは分からないけど、普通の火事じゃないわ。火元が一つじゃなくて、あちこちで同時に燃え上がってるの。まるで、魔法使いが魔法を使ったみたいに……!」

「……!」

言葉を失うシアナに、チュチュが声を張り上げる。

「とにかく早く外へ出ないと! 火の勢いがすごくて、このままだと王宮があっという間に焼け落ちちゃう!」

だが、焦る二人の言葉に反して、シアナはぴたりと足を止めた。そして、弾かれたように叫んだ。

「花! あの花を持っていかないと!」

「……!」

グレイスとチュチュは息を呑み、大きく目を見開いた。二人とも、シアナから話を聞いていたため、王宮の奥深くに隠されている“神秘の花”の存在を知っていた。だが――。

「今は花のことなんて言ってる場合じゃないでしょ!? 危ないって言ってるのよ! 火がどこまで回っているか分からないのに!」

グレイスが顔をこわばらせて叫んだが、シアナは頑として一歩も引かなかった。

「新しい国には、どうしても必要なものなんです。このまま置いていって燃えてしまったら、これまでの準備が全部無駄になります」

その声は、泣き出しそうなほど切実だった。

グレイスとチュチュは困った表情で顔を見合わせると、意を決したように言った。

「じゃあ、私たちが取りに行くわ。もしくは、足の速い兵に頼みましょう」

「そうね。それがいいわ」

しかし、シアナは強く首を振った。

「花は、王の寝室から続く秘密の通路の先にあります。そこまでの道を正確に知っているのは――知っているのは、私だけです」

「……!」

「私は足が速いですし、王宮の構造も把握しています。だから心配しないでください。お二人は先に安全な場所へ避難してください。すぐに追いつきます!」

そう言うと、シアナは二人の手をすり抜け、燃え盛る奥の通路へと猛然と駆け出した。

「シアナ!」「公主様!」

背後から引き留める声が響いたが、彼女は一度も振り返らなかった。



幸いにも、たどり着いた王の寝室にはまだ火の手がほとんど回っていなかった。

シアナは急いでベッドの奥の壁に駆け寄り、隠された仕掛けに手をかける。カチリ、と音がして壁が静かにスライドし、不気味に口を開ける暗い通路が姿を現した。

シアナは迷わずその中へ飛び込み、暗闇の中を息を切らしながら走り続けた。

やがて、目的の部屋――花が咲く秘密の部屋の前にたどり着く。

「はぁ、はぁ……」

気がつけば、シアナの額からは大粒の汗が伝っていた。荒い息を吐きながら、壁に手をつく。

壁のように見えた重厚な扉がゆっくりと回転し、その奥の空間が姿を現した。

そして――。

静寂に包まれた、淡い光が満ちる部屋。

美しく神秘的な花が咲くその場所に、一人の女性が立っていた。

ずっと昔に、帝国軍によって殺されたはずの……先王妃だった。

一瞬、シアナのエメラルド色の瞳が激しく揺れた。だが、彼女は数秒で恐ろしいほどの冷静さを取り戻した。ここに来るまでに、王宮にこれほどの混乱を起こした人物が「彼女」である可能性を、すでに脳裏で弾き出していたからだ。

(まるで魔法で火を放ったみたいに、あちこちで同時に火が上がっていた……)

先王妃は、希少な能力を宿した魔石をいくつも所有しており、かつてはそれを娯楽のように使っていた。

(しかも、今の王宮には帝国軍が駐留している。警備も厳重なはず……)

そんな厳戒態勢の王宮に忍び込み、一瞬で騒動を起こすことができるのは、王宮の至るところにある秘密の通路を熟知していた彼女以外にいない。

何より、帝国軍が王宮を制圧したあの日――シアナは王妃が死ぬ瞬間を、その目で直接確認してはいなかった。恐怖で震え、周囲をまともに見る余裕がなかったのだ。

(もしかすると、母上は最悪の事態に備えて、私とよく似た容姿の侍女をそばに置いていた。あの人なら、その侍女を身代わりにして逃げ延びた可能性もある……)

だが、どれも当時は可能性が低すぎると思っていた。だからこそ、深く追及しなかったのだ。

(判断を誤ったわ……)

王妃は生きていて、こうしてすべてを破壊するために戻ってきたのだ。

もちろん、今目の前にいる彼女の姿は、最後に見た豪奢な姿とはまるで別人のようだった。

艶やかだった黒髪には白いものが混じり、美しかった唇は乾いて無惨にひび割れている。それでも、他人を蔑むように冷たく光る目だけは、あの頃のままだった。

先王妃は鋭い視線でシアナを見据え、傲慢に口を開いた。

「何ぼんやりしているの? きちんと挨拶しなさい」

ガラスを裂くような冷たい声。その響きを耳にした瞬間、シアナの指先がわずかに震えた。

この口調のあとには、いつも激しい痛みが伴っていた――その記憶が、呪いのように体に染みついていたのだ。

だが、シアナはもう、昔の無力な子どもではなかった。まっすぐに相手を見返し、静かに、凛とした声で言い放つ。

「その手に持っている花を渡してください。大人しく渡せば、放火の件についての処罰は軽く済ませます。情状酌量して差し上げます。少なくとも、死刑は免除してあげましょう」

まるで慈悲の施しでも与えるかのようなシアナの物言いに、先王妃の顔が怒りで引きつった。

「誰に向かって死刑を言い渡しているの!?」

先王妃は花を胸にきつく抱きしめながら、狂気じみた声で言い募る。

「私はこの国の王妃よ! 誰であろうと私の前に立てば、空を仰ぎ見るように、女神を崇めるように頭を垂れるべき存在なのよ!」

先王妃は、まさにそんな夢のような暮らしをしてきた。輝く王冠を戴き、金や宝石で彩られたドレスをまとい、きらめく灯りの下で民を踏みつけ、幸福そうに微笑んでいた。

だが、その日常は一瞬で崩れ去ったのだ。赤いマントを翻して押し入ってきた、あの忌々しい帝国軍によって。

先王妃は唇を噛みしめ、震える声でつぶやく。

「どう考えてもおかしいわ……帝国軍が、なぜ突然この国に攻め込んできたの? 連中はこの国に何の興味もなかったはずなのに……」

そこまで呟いた先王妃は、はっとしたように目を見開き、血走った眼でシアナをにらみつけた。

「まさか……あなたね!?」

「……」

「あなたがあの悪魔みたいな連中をこの国に呼び寄せたんでしょう!? 私たちを踏みにじらせるために!」

先王妃の瞳には、もはや理性の色は残っていなかった。全身を狂ったように震わせながら、かすれる声で続ける。

「あなたのせいで、すべてが壊れたのよ……私の国も、私の暮らしも……それに、私の子どもたちまで……!」

感情があふれ、最後の言葉は悲鳴のように砕けた。やがて先王妃は、ゆっくりと口元を歪めた。怒りとも、哀しみともつかない、見るに堪えない醜い表情だった。

「運の悪い子……あの時、ちゃんと始末しておくべきだったのに――!」

そう吐き捨てると同時に、先王妃はシアナの顔面へ向けて激しく手を振り上げた。

 



 

しかし――その手が振り下ろされることはなかった。

シアナが、その手首を空中でしっかりと、微動だにせず掴み取っていたからだ。

「……っ!?」

驚愕に目を見開く先王妃に、シアナは射すくめるようなまっすぐな目で言い放つ。

「私はもう、あなたに怯えるか弱い子どもではありません」

やせ細り、逃亡生活で衰えきった先王妃とは違い、シアナはここ数か月、侍女として労働をこなしながら、生きるために体を鍛えてきたのだ。力の差は歴然だった。

シアナはそのまま、容赦なくその腕を押し返した。

「きゃっ……!」

先王妃は短い悲鳴を上げ、無様に床へとよろめき倒れ込んだ。シアナは冷徹に、その姿を静かに見下ろした。

(こんなに小さかったんだ……)

かつては世界を支配する巨人のように大きく、恐ろしく見えたその人が、今はひどく小さく、みすぼらしい老女にしか見えなかった。

無言で見下ろしていたシアナは、やがて静かに懐へと手を差し入れた。

取り出したのは、鈍く光る、手のひらほどの短剣だった。

それを見た先王妃の顔から、一気に血の気が引いていく。

「ま、まさか……それで私を刺すつもり……?」

「どうして違うと思うんですか? 何の罪もない私を、あなたはあんなふうに日常的に痛めつけた。なら、その報いを今受けるのは当然じゃないですか?」

「な……っ!」

息を呑む先王妃に向かって、シアナは一切の躊躇なく短剣を振り下ろした。

「きゃあっ!!」

狭い部屋に鋭い悲鳴が響き渡る。

だが、刃は先王妃の額や心臓には突き立たなかった。ただ、彼女の頬を薄くかすめ、床へと突き刺さった。浅い傷から一筋の血が流れる。

しかし先王妃は、まるで命を奪われたかのような強烈な恐怖に、ただ歯をガチガチと鳴らして震えていた。それほどまでに、先ほどのシアナの表情には一切の慈悲がなかったのだ。

「はあ、はあ……」

青ざめた顔で怯える先王妃を見下ろしながら、シアナは低くつぶやいた。

「あなたをこの手で殺すつもりはありません。あなたの卑しい血で、私の手を汚したくはありませんので」

「……っ」

シアナはふっと視線を宙に向け、そのまま淡々と言葉を続けた。

「そこにいるなら、手を貸していただけますか?」

その瞬間、影が伸びるように、どこからともなく黒い甲冑をまとった不気味な騎士たちが現れた。ラシド直属の隠密部隊――ブラックシャドウ騎士団だった。

突然の出現に、先王妃は狂乱して悲鳴を上げる。

「な、何なのよ……こいつらは! 近寄るな!」

シアナはあえて説明せず、静かに命じた。

「その女を拘束してください。王宮に放火した罪人です」

騎士の一人がすぐに先王妃の背後に回り、容赦なくその両腕を取り押さえた。

「離しなさい! 誰に向かって手を出しているの! 私は王妃よ!」

先王妃は必死に暴れたが、大岩を相手にしているかのようにびくともしない。やがて力が及ばないと悟ると、今度はシアナに向かって激しい毒を吐き散らし始めた。

「シアナ! 母親に向かって何のつもり!? 今すぐその男たちをどかせなさい、そして私に跪いて謝りなさい! でなければ――あの頃のように、肉が裂けるまで鞭で打つわよ!」

シアナは無言のまま、冷ややかな目で見つめ返した。

「それだけじゃないわ! 一週間は暗い部屋に閉じ込めて、水も一滴も与えない! そうすれば、また昔みたいに床に額を擦りつけて命乞いするようになるでしょう!? 死にたくなくて必死にもがく、虫ケラみたいにね!」

その罵声が続くほどに、部屋を満たすブラックシャドウ騎士団の空気は、凍てつくように冷え込んでいった。普段は感情を見せない騎士たちの顔が、怒りでわずかに歪み始める。その言葉の端々に、この小さな少女が受けてきたあまりにも凄惨な虐待の記憶が、まざまざとにじみ出ていたからだ。

だが、当の被害者であるシアナだけは、何の感情も示さなかった。ただ、哀れなものを見る目で、淡々と告げた。

「気絶させてください」

その一言が落ちると同時に、先王妃を押さえていた騎士が、電光石火の速さで彼女の後頭部を掌打で打った。

次の瞬間、先王妃の体から完全に力が抜け、糸の切れた人形のように床へ崩れ落ちた。

シアナはその傍らへと静かに歩み寄る。もちろん、安否を気遣ったわけではない。

先王妃の手から転がり落ちた鉢植えを取り上げた騎士に、シアナはそっと手を差し出し、静かに言った。

「花をください」

騎士は一瞬、その痛々しいほどに毅然とした少女の姿に戸惑いながらも、先王妃から回収した“神秘の花”の鉢植えをシアナへと恭しく差し出した。

受け取った鉢植えをしっかりと胸に抱いたシアナは、それまでの冷徹さが嘘のように、ふっと柔らかく微笑んだ。

「ありがとうございます」

その場の緊迫した空気には似つかわしくないほど、無邪気で美しい笑顔だった。騎士は思わず、仮面の奥で息を呑みながら答えた。

「いえ……」

短いやり取りはそれで終わりだった。

シアナはすぐにきりっと表情を引き締め、毅然と言った。

「いつここまで火が回るか分かりません。急いでここを出ましょう」

ブラックシャドウ騎士団は、その小さな主(あるじ)の言葉に、静かに、そして深くうなずいた。

 



 

 

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