悪党おじさんと暮らしています!

悪党おじさんと暮らしています!【44話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪党おじさんと暮らしています!】まとめ こんにちは、ピッコです。 「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

44話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 黄金の馬車

「いい?」

「うん、いいよ! でも、おじいさまはいつ来るの? お花がしおれちゃうのに……」

カッセル叔父様の様子が、昨日から明らかにおかしかった。

私が「おじい様の家へ行く」と言い出して以来、ずっと体調が悪いふりをしては、大袈裟に苦しそうな声を上げているのだ。そして今日は、なんと私が外に出るのについて、このお気に入りの花屋にまでのそのそとやって来た。

別に一緒に行こうなんて一言も言っていないのに、「今日は花屋に行かないのか?」と、叔父様の方から先に大きな手を差し出してきたのだ。

一瞬、叔父様の姿を騙った全くの別人なのではないかと本気で疑ってしまったけれど、やっぱりこのいじわるな叔父様本人だった。

「来るだろうな。ああ、それにしても腕が痛くてたまらない」

「……叔父様、それなら大人しくお薬を飲んでよ」

どうせ薬も飲まないくせに。

私は今日も、おじい様が迎えに来てくれるのを、首を長くして今か今かと待ちわびていた。

「叔父様、ねえ。おじい様に話しかけてみなよ」

カッセルは自分を呼ぶアイカの無邪気な声を聞こえないふりをした。

実は昨日からずっと、あの派手な黄金の馬車に大切な姪を乗せて、イルロード公爵に連れ去られてしまう最悪な夢ばかりを見ていたのだ。

孫のことを待ち続けている、あの強欲な父親の並々ならぬ執念は、夢の中にまで現れてカッセルを悩ませていた。

そして今日も、アイカは予定にない突然の外出をして、こうして花屋へと足を運んでいた。

「ピーナッツ、ちょっとこっちへ来い」

「なんで?」

アイカはにっこりと可愛らしく笑いながら、途中で歩みを止めた。そして、丸い宝石のような金色の瞳を細めてじっと見つめると、その場に小さくしゃがみ込んだ。

「行かないもん」

「え? なんでだ」

「また叔父様が私に『おや』って言わせようとして、意地悪くからかうんでしょ」

「何だよお前、今度は叔父さんの親切まで疑うのか?」

「……」

アイカは黙ったままカッセルを見つめた。いつもなら生意気で気の利いた受け答えをするはずのアイカが、珍しくそのまま黙り込んでしまった。

あの凄惨な過去の出来事を不意に思い出したのだろうか、小さな両手で自分の口元をそっと隠してしまう。

カッセルが眉をひそめ、もう一度その小さな肩に声をかけようとした、まさにその時だった。レギア家の侍女が慌ただしい足取りで店内に駆け込んできた。

「ご主人様! イルロード公爵閣下の馬車が、たった今お屋敷にご到着されました!」

「何だと?」

あの老人が、なぜ予定を早めて今ここへ来るんだ。

「おじい様が来た!」

「おい、お前……待て!」

アイカは弾かれたように勢いよく立ち上がると、カッセルの制止も聞かず、玄関の方へ向かって一目散に駆け出していってしまった。

おじい様が来た!

私は抱えていた花を落とさないようぎゅっと抱きしめ、一目散に玄関へ向かって走った。

「あ、そうだ。カバン!」

途中で立ち止まり、部屋に置きっぱなしの荷物のことを思い出す。まあ、あとで取りに来ればいいや!

そのまま外へ飛び出すと、ちょうどおじい様が乗った大きな黒い馬車が、レギア家の立派な正門をくぐって入ってくるところだった。

その後ろには大きな荷馬車も続いていて、積み荷の上には何か巨大なものが、地味な布で厳重に覆い隠されていた。

足をばたばたさせながら胸を高鳴らせて待っていると、やがて黒い馬車が私の目の前で静かに止まった。扉が開き、最初に見慣れたおじい様の豪華な杖が見えた。

しばらくして踏み台を使ってゆっくりと降りてきたおじい様は、私と目が合うなり、顔全体のシワを深くしてにっこりと嬉しそうに笑った。

「おお、私の可愛い天使!」

「おじい様!」

私は持っていた花を片手に、勢いよく駆け寄っておじい様の腰に抱きついた。おじい様は私の持っている花に気づくと、さらに優しく顔をほころばせた。

「こんなに小さな手で、どうしてこんなに綺麗な花を持ってきてくれたんだい。おじい様、感激して今にも心臓が止まってしまいそうだよ」

「おじい様への、大好きなプレゼントです!」

「もう外へ出かけていたのかい? 本当はおじいちゃんが直々に迎えに来るつもりだったのに。どうして今日来ることが分かったんだい。中で温かくして待っていればよかったのに」

「だって、早く会いたかったんだもん! でも、どうして今になって来たんですか?」

少しだけ頬を膨らませて不満を言うと、おじい様は不思議そうに白い眉を上げた。

「おやおや、うちのお姫様、それはどういう意味かな?」

「私、おじい様のこと、昨日からずっとずっと待ってたんですよ!」

「昨日から?」

「はい! おじい様のところへ行こうと思って、カバンまで完璧に準備してたんです!」

私はおじい様に、昨日抜けたばかりの間の抜けた歯茎を見せながら、カッセル叔父様が昨夜行った数々の悪事(だまし討ちで歯を抜いたこと!)を次々と身振り手振りで告げ口した。

「おお、それは本当に大変だったな。だが、乳歯は綺麗に抜けないと新しい大人の歯がまっすぐ生えてこないからね。よし、おじい様が後で叔父様をしっかり叱っておこう」

「……うーん。でも、可哀想だから少しくらいなら叱ってもいいですよ」

「少しくらいかい?」

私はこくこくと素直にうなずいた。叔父様は嘘つきで意地悪だけど、おじい様のあの頑丈な杖で本気で叩かれたら、さすがに痛そうで可哀想だから。

「おじい様、ところで後ろのあれは何ですか?」

私が後ろの荷馬車を指差すと、おじい様は待ってましたとばかりに、ぱっと表情を少年のように明るくした。

「おやおや、これはいけない。ヒメド、何をしているんだ。早く外しておやり!」

おじい様は、お抱えの優秀な護衛騎士であるヒメドに、その大きな荷物を指さして命令した。どう見ても普通の馬車と同じくらいの圧倒的な大きさがある。

(まさか、おじい様は私に象でも連れてきてくれたんじゃないかしら……?)

……でも、いくらなんでも象はさすがにないかな。

「お嬢様、どうか驚かれませんように」

ヒメドは爽やかに微笑みながら、荷物を覆っていた大きな布の端をつかんだ。私は不安と期待でどきどきする胸を、小さな片手でぎゅっと押さえた。

ばさっ――!

黒い大きな布が、風をはらんでダイナミックに翻る。そして、ついにその巨大な贈り物の正体が姿を現した。

「うわっ!」

私はあまりの眩しさに思わず目を細め、両手で顔を覆った。

「ずいぶん待たせてしまったな。本当はもっと早く持ってきてやりたかったのだがね」

光が強すぎて目が痛くて半分しか開けられないまま、私は目の前で燦然と輝く贈り物を見つめた。

……えっ。

黄金の馬車が、本当に届いた。それも、おもちゃなんかじゃない、本物の、人が乗れる黄金の馬車が――!

「わあ……」

あまりの光景に、開いた口が塞がらず感嘆の声が漏れた。

「おお、本当に本物を持ってきやがった。あんた、これからは毎日それに乗って出かけるつもりかい?」

脳内の隣で、白狐のセレが呆れ果てたように呟いた。

「うちの可愛いお姫様は気に入ってくれたかな? どうだい?」

「お嬢様、こちらの中もぜひご覧ください!」

ヒメドがさらに得意げな顔で声をかけ、黄金色の重厚な扉を大きく開いた。中には高級な黒いビロード張りの座席があり、その中央には、なんと小さな黄金の馬車の精巧な模型が飾られていた。まるで本物の馬車をそのまま魔法で縮小したかのようだ。

「おお、なかなか格好いいじゃないか」

またセレの感心した声が聞こえた。私は嬉しさのあまり思わず両手で再び目を覆った。

「わああ! すごく、すごく素敵です!」

黄金の馬車が本当に現れるなんて夢にも思わなかったけれど、まさか太陽の下でこんなにも美しく眩しく輝くとは思わなかった。おじい様が贈ってくださった黄金の馬車は、私が今まで見たどの乗り物よりも豪華で立派だった。

「膝の傷は、もうすっかり大丈夫そうだな」

ふいに、背後から聞き慣れた低い叔父様の声が聞こえた。

私はおじい様の首にがっしりと抱きついたまま、勢いよく振り返った。すると、ひどく不機嫌そうな顔をしたカッセル叔父様が、ぶつぶつと文句を言いながらこちらへ近づいてくるのが見えた。

「イルロード公爵。アイカが言っていたのは一体何の話だ? 昨日からあなたを待ちわびていた、だと?」

「……そのようですね」

叔父様は珍しく気まずそうに後頭部をガリガリとかいた。その瞬間、おじい様は何かを察して慌てたように顔をしかめ、目を閉じながらこめかみをトントンと押さえた。昨日、カッセルが仕組んだ手紙の嫌がらせを思い出したのだろう。

「い、いやいや! アイカ! 今日は祖父がこうして来たんだ。思いきり遊ぼうじゃないか。うちの姫君と過ごすために、今日の私の予定はすべて白紙にしてきたのだからね!」

「本当ですか!? おじい様最高です! じゃあ、私、お部屋にバッグを取りに行ってきます!」

私は飛び上がるほど大喜びした。そうなのだ。おじい様の家へ本格的に行くための、あの重いバッグを取りに戻らなければならない。

「そうだな。さあ、バッグを持っておいで。うちのかわいい子が行きたい場所なら、おじい様がどこへでも連れて行ってあげよう」

私は嬉しくなって、おじい様の腕からぴょんと飛び降りると、玄関へ向かって再び元気に駆け出した。

「……っ!」

「アイカ、危ない!」

セレの鋭い声に、私は本能的に急ブレーキをかけてその場で立ち止まった。大きな扉がすぐ目の前に迫っていた。

私はふらりと頭を揺らした。

その瞬間、目の前には、久しぶりに見る「見慣れない光景」が唐突に広がっていた。

「あ……」

セレの魔力のおかげで、失われた視力そのものが完全に元に戻ったわけではなかったけれど――だが、まったく予想していなかった生々しい過去の光景が脳裏にフラッシュバックし、涙がぽろぽろと熱く頬を伝い落ちた。

景色はすぐに激しく流れ去り、私の視界は瞬時にいつもの状態へと戻る。

私はあまりの衝撃と恐ろしさに、小さな唇を強く噛みしめた。あり得ない。そんなはずは――。

「……アイカ、大丈夫か?」

セレが心配そうに意識の中で尋ねてきた。

「うん……。今すぐどうこうなるわけじゃないでしょ?」

だから、大丈夫。私は自分に言い聞かせるように、小さな声でそう答えた。

本当は全然大丈夫ではなかったけれど、今はこれ以上パニックにならないよう、もう少し一人で考える時間が欲しかったのだ。

「アイカ? どうしたんだい、何かあったのか?」

おじい様の心配そうな声に、私はハッと我に返って振り返った。そして、心配をかけまいと首をぶんぶんと横に振った。

「いいえ、何でもありません!」

早くバッグを持ってこなくちゃ。私は額ににじんだ冷や汗を急いで拭うと、何事もなかったように自分の部屋へ駆け込み、置いてあった大きなバッグを両手でしっかりと手にして戻ってきた。

戻ると、カッセル叔父様の表情はさっきよりもさらに険しく、冷たくなっていた。

「ピーナッツ」

「なあに?」

「ちょっと来い」

叔父様が指をくいくいと不機嫌そうに動かした。私はバッグを胸に抱えたまま、おそるおそる警戒しながら叔父様へと一歩近づいた。

「お前、本当はどこか具合が悪いんじゃないのか?」

叔父様は大きな温かい手で、私の額にそっと触れて熱を測った。

「顔色が悪いと言っただろう」

叔父様は心底心配そうにそう言った。私はそんな過保護な叔父様に、ぶんぶんと首を振ってみせた。

「ううん、全然平気だよ!」

「……熱はないみたいだが。本当に行くのか? 叔父さんをここに置いて? なあ? 叔父さんは腕が痛くて具合が悪いんだぞ?」

「うん。でも叔父様、お体を大切にしてね。絶対に夜更かしはしないで、朝ごはんもちゃんと毎日食べるんだよ? 約束だからね」

私は両手で、叔父様のその大きな手を包み込むように優しく撫でた。

「は……?」

「頑張ってね、叔父様!」

私は元気よく手を振ると、呆然とする叔父様を置いて、おじい様についてきらきら輝く黄金の馬車へと乗り込んだ。そして、開いた窓から小さな身を乗り出して、もう一度大きく手を振る。

「元気でね、叔父様――!」

当分の間、セレの予知でも叔父様が危険な目に遭うことはないはずだから、私は安心して行ってこられる。

「その黄金の馬車は丁重に庭へ運んでおけ。では頼んだぞ、レギアの息子たちよ」

イルロード公爵が勝ち誇ったように告げ、バタン、と小気味よい音を立てて馬車の重い扉が閉まった。

馬車はレギア侯爵家の美しい庭園を後にした。私は窓の外で遠ざかっていく叔父様の姿に向かって、見えなくなるまで一生懸命に手を振り続けた。

実は、今回の外出には私にとって非常に大切な目的があった。ただおじい様と遊んだり、お出かけしたりするだけではない。

これまで書庫に籠もり、レフスやセレと何度も頭を突き合わせて考え、どうしても自分自身の目で確かめたかったことがあるのだ。

明確な目的ができた。家紋の模様も一つひとつ調べ上げ、首都の地図も隅々まで頭に叩き込んだ。

もし、亡きお母様が私に残したあの謎の言葉が、昔よく二人で遊んでいた「宝探し」の延長線上にあるものなのだとしたら――お母様が残した本当の意図を見つけられる気がしたからだ。

レフスたちと一緒に必死で頭を悩ませて探してきたのだから、あとは実際にその場所へ行って、この手で確かめるだけ。

「お姫様、今日はまずどこへ遊びに行きましょうか? 可愛いお洋服でも買いに行きますか?」

「おじい様、ちょっと待ってください!」

「おや?」

私は背負っていた鞄を前に抱え直し、中から一枚の古びた地図を丁寧に取り出した。以前、侍女のゼンダに「王都の詳しい地図を見てみたいの」と頼んで手に入れてもらったものだ。

少しの間じっと眺めたあと、私は目的の場所を確認して地図を再び鞄に大切にしまった。

「おじい様、グリーン地区の8番地に行きたいです!」

「グリーン地区の8番地? どうしてだい? あそこにはお前が喜びそうな高級な店など、特になかったはずだがね」

「新聞で見たんです! とても綺麗な建物があるって。どうしても見に行ってみたいんです、おじい様!」

これは、お母様と私だけの秘密の“遊び”なのだ。

「うちの可愛い孫が見たいと言うなら、もちろん行こうじゃないか。ベンゼル!」

おじい様が声をかけると、執事のベンゼルさんが手綱を引きながら、グリーン地区8番地へ向かうよう御者へと素早く指示を出した。すると黄金の馬車はさらに心地よく速度を上げて走り出した。

しばらくして、馬車は広大なグリーン地区へと入っていった。

首都で最も長い通りを持つグリーン地区は、1番地から9番地までが美しい大通り沿いに一直線に並んでいる特殊な区域だった。街路樹の緑が特に多いことから、その名で呼ばれている。

ほかの地区はせいぜい5番地あたりまでしかないのに、このグリーン地区だけは9番地まで長く続いていた。

やがて、馬車は徐々に速度を落としていく。

「ここからが8番地ですね。どのあたりで止まりましょうか、お嬢様?」

「もう少し先です。まだ進んで!」

私は窓に張り付き、初めて見る建物を一つひとつ食い入るように観察した。窓の色こそ違っているものの、不思議なことにどの建物もほとんど同じ形をしており、高さまで規律正しくよく似ていた。

「場所を間違えたんじゃないかしら?」

脳内でセレですら半信半疑の表情を浮かべていたが、その時だった。

「あっ、おじい様、あそこです!」

私は目に飛び込んできた一つの建物を指差して大声を上げた。やっぱり、私の推測は間違っていなかったのだ。

馬車はすでに8番地を通り過ぎ、9番地へ差しかかろうとしていた。お母様とやっていたあの宝探しが、ただの幼い日の思い出遊びではなかったと証明してくれる、決定的な建物を私はついに見つけたのだ。

どれもよく似た退屈な建物の中で、ひときわ目を引く華やかな建物。それも、グリーン地区8番地の本当に一番奥に位置する建物だった。

建物の外壁には、大きなピンク色の花を模した可愛らしい風車が、風を受けて絶え間なくくるくると回っていたからだ。

(……見つけた。本当にお母様が残した場所だわ)

お母様が遺した『ピンクの花』という言葉を手がかりにして、人生で初めて自力で見つけた本物の手がかりだった。

昔は、あのネリのお姉さんの花屋へ行けばいいのだと思っていた。でも花屋はただ花を売るだけの場所だ。そんな時、お母様が昔、外出のたびに私に地図を見せながら色々なことを教えてくれたのを思い出したのだ。

いつも幼い私が理解しやすいように、そして実際に大きくなって外へ出た時も絶対に迷わないようにと、丁寧に教えてくれた優しいお母様。

お母様は私に教えながら、いつもこう言っていた。

『大きくなっても、必ず信頼できる護衛と一緒に行動すること』

『人の多い場所を目印にして、迷わず探しなさい』

何度も、何度も繰り返されたその言葉。

「あちらですね? 何か小さなお店のようですが」

私は高鳴る胸を小さな手で必死に押さえながら、馬車の扉が開くのを今か今かと待った。あそこが本当に目的地ではないかもしれない。それでも――ここまでは私の予想がすべて百発百中で当たっているのだから。

「もしかしたら、あそこへ行けば何かわかるかもしれない。お母様が残してくれたものを一つでも見つけられれば、お母様が私に伝えたかった本当の意味もわかるはず。そうなれば、その次の手掛かりももっと見つけやすくなるわ」

「さあ、降りようか」

おじい様が先に馬車を降り、私へ優しく手を差し伸べた。私は重い鞄を背負ったまま、おじい様に大切に抱き上げられて馬車から地面へと降りる。

「本当にあの建物へ行きたいのかい? 見たところ、ごく普通の小さな古い店のようだが」

おじい様が不思議そうに尋ねた。私は力強く頷き、おじい様の手をぎゅっと握りしめたまま、その建物の方を真っ直ぐに見つめた。

「お母様が、私に教えてくれた大切な場所だと思うんです!」

「セリアが……?」

しまった、と一瞬思った。変に怪しまれてしまうだろうか。そう気づいた時には、もう興奮のあまり口から言葉が飛び出した後だった。ピンクの花の形をした風車を見た瞬間、胸がいっぱいになって、つい本音が漏れてしまったのだ。

けれど、おじい様は追及することなく、すぐに優しく微笑んでくれた。

「セリアが昔、お気に入りで通っていた店の一つなのだろうね。なら行ってみようじゃないか。我らのかわいいお姫様が行きたいと言うのだからね」

その温かい言葉に私はほっと胸をなで下ろし、おじい様の手をさらにぎゅっと握りしめた。

「はい、おじい様! 早く行きましょう!」

残る手掛かりは、あのノートにあった――【許可、登山】という、この奇妙な言葉だけ。

これが一体何を意味しているのか。そして、このピンクの風車の店に何か関係があるのか。それを確かめるしかなかった。早く自分の目で、その中を確かめたくてたまらなかった。

ルスペは今日も、アイカへの手紙の返事を書く準備をしていた。

アイカに手紙を送るために、お気に入りの便箋や封筒をあれこれ選ぶことは、いつの間にかルスペの毎日の新しい秘密の趣味になっていた。

昨日は父親に突然執務室へと呼び出され、上質な便箋と封筒がぎっしりと詰まった重い箱を贈られたばかりだった。これまで本や高価な武器をもらったことは何度もあったが、便箋や封筒をプレゼントされたのは人生で初めてのことだった。

『まだ使っていない高級な便箋がこんなにあったのか。書ききるのも大変そうだな……』

『役に立つかは分からないが、お前が必要なら持っていきなさい』

『……ありがとうございます』

少し中を見てみると、どれも驚くほど手触りの良い上質な便箋と封筒ばかりだった。その中には、アイカが大好きだと言っていた鮮やかな色の紙もたくさん含まれていた。

ちょうど新しい便箋が欲しいと思っていたところだ。ルスペは受け取ったその日から、これを使ってアイカに特別な手紙を書こうと心に決めていた。

深く頭を下げて部屋を出ようとすると、父親が再び後ろから彼を呼び止めた。

『そうだ、ルスペ。最近はお前、一体何を楽しみにしているんだ?』

『……普通に、勉強をしています』

『……そうか。あまり根を詰めすぎるなよ』

『はい、ご期待に応えられるよう努力します』

『……そうか』

短く頭を下げると、ルスペは箱を大切に抱えて父親の部屋を後にした。

自分の部屋へ戻るや否や、彼は真っ先に、箱の中から一番気に入って選んだ美しい便箋を取り出した。アイカへの返事を書くためだ。

念のため、アイカから届いたばかりの手紙をもう一度机に広げる。すでに三回は熟読していたが、まだ見落としている可愛い部分があるかもしれないと思ったのだ。

[ルスペ、こんにちは!]

その元気な文字を見た瞬間、まるでアイカの弾んだ声がすぐ耳元で聞こえたような気がした。ルスペは思わず口元を優しく緩めた。

以前の彼なら、アイカの手紙を見るたびに「字が汚いな」「誤字がまた多い」と冷徹に気になっていたはずだった。だが今は全く違う。その少し不格好で一生懸命な文字の一つひとつが、アイカらしくてたまらなく愛おしかった。

新しく書き加えられた、習いたての帝国語の部分には、間違いがほとんど見当たらなかった。アイカが本格的に帝国語を習い始めてからまだ数週間しか経っていないというのに、まるで完全に習得してしまったかのようだった。

(さすがアイカだ。本当にすごいな)

手紙には、また新しく下の歯が抜けたことも嬉しそうに書かれていた。新しい歯がもう生えてきているのに、乳歯がなかなか抜けなくて叔父様に意地悪されたらしい。他にも、お気に入りの花屋へ行った話も綴られていた。

「花屋か……」

一緒に行きたい、と心から思った。今度、二人で一緒に行こうと誘ってみようか。

ルスペはその箇所をもう一度愛おしそうに読み返し、さらに下へと視線を移した。

今日は手紙の返事で、アイカに「今度、皇宮図書館へ一緒に行かないか」と聞いてみるつもりだった。少し前、皇帝陛下から「アイカが図書館をとても気に入っていて、よく一人で遊びに来ているぞ」と直々に聞いたからだ。

以前はいつも退屈で一人で皇宮へ通っていたルスペだったが、今はアイカと一緒の方が、何をするにもずっと楽しかった。皇帝陛下がその場にいなくても、アイカと一緒なら十分面白いことがたくさんあった。

この前、皇宮の廊下でどちらの背が高いか背比べをしたのも、本当に楽しかった。

『次に会う時には、ルスペの方がもっと大きくなっているかもしれないな?』

『うん、そうかもしれないね』

――でも、皇帝陛下はどうしてそんな細かなことまで知っているのだろう。アイカからの手紙には、図書館へ行ったことなど一言も書かれていなかったのに。

ルスペも皇帝陛下と同じくらい、いや、それ以上にアイカのすべての動向を知りたかった。

だが、彼には少し気がかりなこともあった。それは、あの夏の大宴会の日のことだ。あの日、会場にはアイカと自分だけでなく、同年代の高貴な子どもたちが大勢集まっていた。

『ベルロード公爵閣下って、本当にアイカ様のお父様なの?』

『じゃあ、本当にレギア侯爵閣下がお兄様なのかな?』

そんな質問が次々と子どもたちから飛び交い、気づけばアイカは華やかな子どもたちにぐるりと囲まれていた。一緒に新しいお茶会の集まりを作ろうと積極的に誘う子もいれば、アイカと友達になりたいと目を輝かせる子もいた。

『お嬢様とお友達になりたいの。だってお嬢様、お人形みたいに、とってもきれいなんだもの!』

『私も! 私も友達になりたい!』

『うん、私もみんなとお友達になりたいな!』

アイカがそう嬉しそうに答えた時、ルスペは胸の奥で少なからずショックを受けていた。

――自分だけが、アイカにとっての「特別な友達」だと思っていたのに。

アイカは嫌な顔ひとつせず、子どもたちの申し出をすべて受け入れ、次々と握手を交わしていった。その結果、ますます子どもたちはアイカの周りに楽しそうに集まった。

ルスペは言いようのない落ち着かない気持ちになった。アイカが本当にお姫様のように可愛くて、誰からも一目で好かれる魅力的な存在なのだと、改めて目の前で実感させられたからだ。アイカがとても優しくて思いやりのある特別な子だということは、自分だけが知っていればいいのに、と思っていた。だけど、あの日の宴で他の子どもたちも皆、それを知ってしまった気がしたのだ。

それでも――アイカが皆の前で、自分の手だけを真っ直ぐに握ってくれたことは、何よりも嬉しかった。

『これは私の特別な友達、ルスペがくれた大切なプレゼントなの。そうでしょう、ルスペ?』

あの時も、アイカは皆の前で誇らしげにそう自分を紹介してくれた。お互いに命を救われ、大切な贈り物を交換し合った特別な仲でもある。

それに、あの生意気なルイスが魔道具を自慢した時。アイカをどうしても喜ばせたくて、ルスペは思わず禁じられていた魔法を人前で使ってしまった。幸い、周囲の大人たちは魔道具の奇跡的な力だと思ってくれたようだったが。

『違うよ。あれは私が魔法をやったんじゃないんだ。家の優秀な細工師に頼んで、珍しい魔石を仕込んでもらっていただけさ。僕にそんな特別な力はないよ』

アイカの前で嘘をつくのは酷く気が引けたけれど、あの場では正体を隠すためにそう言うしかなかった。

ルスペは机の上で新しい美しい便箋を広げ、丁寧にペンを走らせた。

[アイカへ

こんにちは。ルスペです。

アイカは今日も元気に過ごしていますか?

私は……]

そこで、ペン先がぴたりと止まった。どう書けばいいだろう。

本当は、たくさん伝えたいことが山ほどある。アイカから届いた手紙を、嬉しくて何度も何度も読み返したこと。花屋の話を読んで、今度は僕と一緒に行きたいと思ったこと。夏の宴でたくさんの子どもたちに囲まれていた君の姿を思い出して、少しだけ嫉妬して落ち着かなかったこと。

でも――そんな情けない本音は、絶対に書けるはずがなかった。

ルスペは小さく息を吐いた。今回は絶対に、アイカと二人きりで遊ぶ約束を取り付けたい。そう強く願いながら、彼は再びペンを握り直した。

他の誰でもない、私たち二人だけの約束を。ルスペはとても丁寧で綺麗な文字で、手紙を続きから綴っていった。

ピンク色の花風車が目印だったその店は、左右に小さなクラシックな窓があり、中央に木製の扉がついた、おとぎ話に出てくるような可愛らしい佇まいの店だった。

扉をそっと開けると、チリン、と澄んだ美しい鈴の音が店内に響き渡った。

「入るぞ」

「はい、おじい様。こんにちは!」

私は中へ一歩入るなり、両手を体の前で綺麗に揃えて、習いたての礼儀作法で正しく挨拶をした。

店の奥から、茶色の髪をゆるく一つに束ねた、優しそうな店主のお姉さんが出てきた。

「いらっしゃいませ。何をお探しですか……?」

お姉さんは、入ってきたおじい様の尋常ならざる高貴な身なりを見るなり、目を驚きで大きく見開いた。そしてすぐに、彼女は恐縮したように深々と頭を下げた。

「き、貴族様がお選びになるには、うちの商品はあまりにも粗末なものばかりでございます……。埃もたくさん積もっておりますが、それでもよろしければ、どうぞ……」

慌てたその声は、緊張で微かに震えていた。

「構わん。この可愛い子が、どうしても中を見たいと言うのでな」

「あ、左様でございますか。でしたら、どうぞごゆっくりご覧くださいませ」

「ありがとうございます!」

私はもう一度ぺこりと可愛らしく頭を下げると、早速店内を探索し始めた。

(お母様の秘密基地だもの、不思議な魔法の品物がたくさんあるに違いないわ……!)

そう期待に胸を膨らませていたのだが――。

見渡した店内は、特別変わったものが並んでいるわけではなく、街のどこにでもある普通の店のように、古い本もあれば日常の雑貨も雑多に置いてあった。少し安価な装飾品も見えたし、一角には普通の食料品まで並んでいる。

私は目をきょろきょろと輝かせながら、その場で腕を組んで考え込んだ。

(うーん、場所はここできっと間違いないはずなんだけど……いったいどうやってお母様の謎を解けばいいんだろう?)

私は並んでいる商品を一つひとつ、目を凝らして観察していった。どこかに、お母様のノートに登場するはずの特別な品があるのではないか。あるいは、何か不思議な魔法の気配でも感じられるのではないか、と。

しかし、店内をくまなく何周も見て回ったが、そんなものはどこにも見当たらなかった。

途中で、十字架の形をした珍しいチョコレートを見つけたけれど……。おじい様におねだりして買ってその場で開けてみたら、ただ本当に甘くて美味しい普通のチョコレートだった。

(これじゃないわね。やっぱり、そんなに簡単な話じゃなかったんだ……)

「あの、すみません……」

私は結局何も見つけられず、困り果てて店主のお姉さんのところへトコトコと近づいた。

「どうしましたか、何かお探しですか?」

私の小さな目線に合わせて、お姉さんが優しく膝をついて尋ねてくれた。

「ここに、小さな『灯台』みたいな形をしたものって、何か置いてありますか?」

もしかしたら私が見落としているだけかもしれない。この人は店の主人なのだから、何か知っているのではないかと思ったのだ。

「灯台、ですか? そういう形のものは……うちには置いてありませんね。少々お待ちくださいね、お嬢様」

お姉さんはしばらく棚の奥まで熱心に探してくれたものの、やはり残念そうに「灯台はないわ」と首を振った。

見かねたヒメドが途中で私を高く抱き上げてくれたおかげで、私の小さな背では到底届かない高い棚の上の商品まで全部くまなく見て回ったけれど、私が探している特別なものは、ついに見つからなかった。

私が必死に探していたお母様の手がかりは、結局何一つなかったのだ。本当に、ただの……ごく普通の、静かな古いお店だった。

(一体、どういうことなんだろう……)

建物とあのピンクの花の風車を見た時点では、お母様の謎解きの答えに絶対に応えてくれる場所だと確信していたのに!

よく考えてみれば、もし店頭に一般の商品として並んでいるものが答えだったなら、私が来る前に誰か他の人が先に買ってしまっていてもおかしくないのだ。そんな当たり前のことに、今さらながら気づいてガッカリした。

私は完全に失望して、小さな肩をがっくりと落とした。

「大丈夫だよ、アイカ。このくらい自力で特定できただけでも十分すごいや。まだ最初の挑戦なんだから、気を落とさないで」

脳内でセレが優しく励ましてくれた。

どうやらお母様のノートにあった数字の「8」は、距離や番地を表していたわけではなかったらしい。やっぱり愛馬のエクスを見つけた時は、本当にただ運が良かっただけなのだ。

「これをお願いします!」

私は仕方なく、店内で一番気に入った小さな可愛い品を一つだけおじい様に買ってもらい、店を出た。

店の外へ出てからも、私は建物の上に取り付けられた、風に揺れる古い風見鶏をしばらくじっと見つめていた。

「姫様、あの風見鶏みたいなものを、レギアの庭やお前の部屋にも新しく作ってあげようか?」

後ろからおじい様が愛おしそうに尋ねてくれた。

「あ、いいえ! おじい様、もう行きましょう!」

そうだ、セレの言う通り、また新しく書庫で調べて探せばいいだけだ!

「うちのお姫様、たくさん歩いてお腹が空いてしまったみたいだね。それじゃあ、おじい様と一緒にとびきり美味しいものを食べに行こうか?」

「はい、喜んで!」

私はおじい様の大きな手をぎゅっと握り直し、黄金の馬車へと向かって元気に歩き出した。次なる手がかりを見つけるために、まずは元気をチャージしなくっちゃ!

 



 

 

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