こんにちは、ピッコです。
「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
45話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 不穏な再会
名残惜しさを胸の奥にしまい込み、その日描いた地図を見つめながら、私は8番街へと出た。
「大丈夫。また次に探せばいいわ」
自分にそう言い聞かせてその場所を離れ、たどり着いたのは、初めて訪れるレストランだった。
店内ではなく、屋外にたくさんのテーブル席が設置されている。どれも真新しいテーブルクロスで覆われていて気持ちがいい。席に着くとすぐ、少し遅れて到着した祖父が注文してくれた料理が、次々と運ばれてきた。
ところが、ほどなくして私は重大な問題に気がついた。
「…………」
――ああ、これは食べられない。
私の拳ほどもある、立派な黄色いゆでトウモロコシ。嬉しくなってフォークで突き刺し、口元まで運んだものの、そこでピタリと動きが止まってしまった。
今の私には、上の歯が一本もない。おまけに下の歯も二本欠けているのだ。
他の料理を食べるのも不安だったけれど、何よりこのトウモロコシをどうにかできる気がしなかった。鼻先をくすぐる、トウモロコシ特有の香ばしく甘い香りが、かえって私を苦しめる。
『まさか、こんなことになるなんて……』
今までは食事にトウモロコシが出ると、いつも侍従のゼンダが一粒一粒、手できれいに外してくれていた。だから、自分がトウモロコシをそのまま齧れないという事実に、今の今までまったく気づいていなかったのだ。
今日は祖父と二人きり。ゼンダも、護衛のジェラードもいない。
私はフォークに刺さったトウモロコシをじっと見つめた。もう一度大きく口を開けて挑戦してみたものの、いざ噛もうとすると怖くなってしまい、どうしても歯を立てることができない。
「お嬢ちゃん、どうしたんだ?」
肉を切る手を止め、祖父が不思議そうに尋ねてきた。
「おじいさま……」
「ん? どうした? 口に合わなかったかい?」
「トウモロコシが食べられません。おじいさま、これ食べてください……」
私はしょんぼりしながら、フォークに刺さったままのトウモロコシを祖父へ差し出した。私の大好きなトウモロコシ……。
祖父は一瞬目を見開いたが、すぐに合点がいったように破顔した。
「くっ、くふっ! そうだったな。我が姫はまだ幼いから、そのままでは食べられないのだった。この祖父の気が利かなかった。少し待っていなさい」
祖父は私のトウモロコシを受け取ると、ナイフを使って手際よく実をすべて削ぎ落とし、お皿に綺麗に盛って返してくれた。
「おじいさま、最高!」
私の憂鬱な気分は一瞬で吹き飛んだ。これでもう食べられる。
スプーンでトウモロコシの実をたっぷりすくい、意気揚々と口に運ぼうとしたその時――遠くの入り口付近に、見覚えのある男の姿が目に入った。
何気なく視線を向けただけだった。しかし、かなり距離が離れているにもかかわらず、ばっちりと目が合ってしまったのだ。
ぎくっ。
私は驚きのあまり硬直した。差し出しかけたスプーンを止め、口をきゅっと結ぶ。
嘘、目が合っちゃった……!
その男は、誰かと話しをしながらこちらへ向かって歩いてきていた。やがて近くのテーブルに到着すると一瞬立ち止まり、私と祖父を交互に見つめた。それから、向かいに座る別の老人へと話しかける。
そして、椅子に腰掛けようともせず、店員にすっと合図を送った。
そのまま、男はこちらのテーブルへと歩み寄ってくる。
「お孫さんとお出かけですか?」
どこか楽しげな、嬉しそうな声で祖父に挨拶をしてきた。
「ラギアか。私はお前を歓迎した覚えはないがね」
祖父は不機嫌そうに、低く冷たい声で応じる。
「意外な姿を拝見したもので、つい足が向いてしまいまして」
ラギアと呼ばれた老人の視線が私へ向いた瞬間、護衛のヘラがすかさず私の前に立ちふさがり、遮るように立ちはだかった。
「礼儀というものがなっていませんね」
ヘラの鋭い言葉に、老人は不満そうに口をつぐんだ。
けれど、私はそんなやり取りよりも、祖父の隣に立つもう一人の男に釘付けになっていた。
なぜならその男こそ、他でもない――私が以前、博物館で見かけたあの「狩人」だったからだ。
こんなに早く再会するなんて思ってもみなかった。あの時は正面から顔を見ることができず、横顔しか盗み見られなかったけれど、間違いなくあの時の狩人だ。
艶のある黒髪は相変わらず少し癖があり、瞳は深い緑色。今こうして間近でよく見ると、目尻が少し下がった特徴的な顔立ちをしていた。
古代遺物のセリアが先ほどから気配を完全に抑えてくれているおかげで、彼らに私の正体は看破されていないはずだ。
私は体を小さく震わせながらも、できるだけ平静を装って、再びトウモロコシを口へ運び、もぐもぐと咀嚼した。
祖父とラギアが何度か刺々しい言葉を交わしていたけれど、心臓がうるさいほど激しく波打っていて、内容はまともに頭に入ってこない。
緊張に耐えかね、そっと顔を上げると――またしても、その狩人と目が合った。
彼は私を見て、面白そうに目を細め、ふっと唇を歪めて笑った。
「お嬢さんはトウモロコシがお好きなんですね。見ていると、私までお腹が空いてきます」
穏やかな口調。それなのに、私はまるで鋭い棘で刺されたような寒気と痛みを覚えた。体が「危険だ、早くここから逃げろ」と警鐘を鳴らしている。
ごくり、と固唾を呑み、私は小さく頷くだけにして、再びトウモロコシへ手を伸ばした。
……まさか、私があの時の子供だと気づいているのだろうか? セリアが気配を消してくれているのに? いや、そんなはずはない。
様々な思考が頭の中をぐるぐると駆け巡る。これでまだ二度目の遭遇だ。今回は前回よりもずっと気配を殺し、目立たずにいられているはずなのに。
それでも、すぐ隣にはヘラがいて、祖父もいてくれるから少しだけ安心できた。
……カッセル叔父様がいたら、もっと怖くなかったかもしれない。普段は嫌いだけど、こんな時ばかりは、やっぱり一緒に来ればよかったと思ってしまう。
私は男の顔を、しっかりと記憶の奥底に刻み込んだ。自分の身は自分で守らなければならないし、ここには祖父もいる。だから大丈夫。
顔は覚えた。次は名前を知る番だ。けれど、それは今すぐには難しそうだった。
「コビン、行くぞ」
どうやらラギアたちの話が終わったらしい。前半の会話は聞き取れなかったけれど、その最後の言葉だけは、私の耳にはっきりと届いた。
「はい、閣下。どうぞ良い時間をお過ごしください、バリオット公爵閣下。そして……そちらの可愛らしいお嬢さんも」
去り際の言葉を残し、二人は歩き出す。
あのメモに書かれていたのは、母が探していた狩人の名前だったのかもしれない。ただ、一つだけ気になることがあった。今聞いた彼の声は、あの日私が耳にした声とは違っていたのだ。
驚きを隠せないまま、立ち去る後ろ姿を目で追っていると、彼の手の太い指にはめられた指輪が目に入った。
「……」
間違いない。あれは、古代遺物だ。
・・・
一方、その日の夕方。
バロンは、アイカへのお土産を両腕いっぱいに抱えて、レクィア侯爵邸を訪れていた。
「お前の顔など見たくない。目の前から消えろ」
出迎えられるなり、そんな冷たい言葉を浴びせられた。今日は特に忙しい仕事もなく、久しぶりに親友の様子でも見ようと思って足を運んだというのに、この歓迎っぷりはあんまりだ。
いや、なんでだよ? 何か悪いことをした覚えなんて全くないのだが。
しかもカッセルは、客が来ているというのに中央のソファを独占して寝転がり、天井をぼんやりと見つめている始末。まったく、この友人は相変わらずだ。
バロンは困った親友の姿を見つめながら、心の中でやれやれと首を振った。
それにしても、今日のカッセルは妙に機嫌が悪い。どこか焦点の定まらない目で天井をじっと見上げているのも、ひどく気にかかる。
とはいえ、カッセルの毒舌には慣れっこのバロンは、気にする様子もなく抱えていた贈り物を一箇所にまとめた。
「よしよし、それならお前の目に入らないようにするさ。アイカにだけ会って帰るっていうのはどうだ? あんな可愛い姪っ子がいたら、人生の生きがいも増えるだろう?」
「お前の姪じゃない」
「親友の姪は俺の姪みたいなものだろ。私には姪がいないんだからな。それにしても、アイカ・ルスフェゴがどうしてあんなに可愛いのか、本当に不思議でならないよ」
実際、バロンはアイカを一目見たその瞬間から、すっかり心を奪われていた。異性としてどうこうという意味ではなく、あんなに愛らしい生き物は、生まれて初めて見たのだ。
初めて会った時のことを思い出す。
『ふぇん、きゃっ! だれでしゅか?』
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に『僕はアイカ・デ・バリオットです。立派な姪ですよ』と健気に答える姿は少し滑稽だったけれど、あまりの愛らしさに、バロンはその場で大笑いしてしまいそうになったほどだ。
カッセルにどことなく面影が似ているというのに、どうしてあんなに可愛いのだろう。あんな性格の悪い、獣のような男に、あれほど可愛い姪がいるなんて世の不条理だ。
あの気難しい皇帝陛下ウィンチェスターにだって姪がいるというのに、自分にはいない。だから最近のバロンは、半ば本気で「叔父代理」を名乗り、それで満足感を得ていた。
そして何よりバロンは、カッセルの姉であり前宰相でもあった人物のことを誰よりもよく知っていた。だからこそ、残されたアイカの力に少しでもなりたいという気持ちが強かったのだ。
カッセルは優しさというものを欠片ほども持ち合わせていない男だが、せめて姪御さんには苦労してほしくない、とバロンは願っていた。
「……何だ? よちよちして褒めてやれば、みんな喜ぶんじゃないのか?」
「はあ? なんだって? 何か失敗したのか?」
ところが、アイカの姿を見るよりも前に、カッセルから相談という名の一方的な詰問が飛んできた。どうやら、以前バロンが教えた「子供の扱い方」がお気に召さなかったらしい。
いや、なんでだよ。子供なんて、褒めてあげて、たくさん可愛がってあげれば無条件で喜ぶものじゃないのか?
カッセルはのそりと顔を上げると、ひどくうんざりした表情で手を振り、「もういいから帰れ」と言わんばかりにバロンを追い払おうとした。
「もう帰れ」
「姪御さんはどこにいるんだ?」
「いない」
カッセルは会話を拒絶するように再び目を閉じた。
バロンは肩をすくめながら、向かいのソファに腰を下ろす。すると、ちょうど玄関から入ってきた従僕のレットを見つけ、気楽に手を振った。
「よう、レット。今日も大変そうだな」
「こんにちは、バロン様」
「兄貴って呼んでもいいんだぞ?」
「結構です。それよりも……」
レットはだらしなくソファに寝転がっているカッセルを見やりながら、告げた。
「たった今、バリオット公爵閣下の馬車が到着いたしました。……ですが、戻られたのはお嬢様ではないようです」
その言葉を聞いた途端、死んだように寝転がっていたカッセルが、バネ仕掛けのように勢いよく身を起こした。だが、それよりもバロンの動きの方が一歩早かった。
「うちの姪御さんが来たって!? 会いに行かなきゃ!」
しかし、バロンは馬車までたどり着くこともできず、すぐにリビングへと引き返してきた。なぜなら、そこにいたのはアイカではなく、公爵の護衛だったからだ。
いつの間にか立ち上がり、乾いた唇を舌で湿らせていたカッセルの眉が、ぴくりと不快そうにつり上がる。
「なぜお前がここにいる」
『アイカはどうした』という感情がありありと浮かぶ、凶悪な視線。
護衛は小さく身をかがめ、丁寧に頭を下げて言った。
「侯爵閣下、お願いしたいことがあり参りました」
「何の用だ」
カッセルが低く問い詰める。
「アイカお嬢様が大切にされている人形を、こちらの屋敷に置いてきてしまったそうでございます。ゼンダ様ならご存じだろうとのことで、確認して持ち帰らせていただきたく。旦那様(公爵)からの命により、私一人で参りました」
「姪御さんはどうしたんだ?」
カッセルより先に、バロンが身を乗り出して尋ねた。
「アイカお嬢様は、旦那様と一緒に工房へ向かわれました。本日はそちらへ滞在されるとのことです」
「なんだ、今日は姪御さんはお留守なのか」
バロンは眉を下げ、胸を押さえながら大げさに残念そうな芝居をしてみせた。もっとも、半分は本気で残念だったのだが。
一方のカッセルは、まるで雷に打たれたようにその場で硬直していた。そして、手元にあったグラスの水を思いきり噴き出した。
「ゲホッ……! チビが来ていないだと?」
「え? はい。本日から公爵邸でお過ごしになると伺っております」
「本当にあいつがあの家へ行ったのか?」
「はい、その通りですが……。あ、それで、探しているのは白い人形でして……」
そこへ、しばらく様子をうかがっていたゼンダが、静かにこくりと頷いて進み出た。
「お嬢様が特にお気に入りの人形がございます。少々お待ちください、すぐに持って参ります」
ゼンダもまた、朝からずっと1階でお嬢様の帰りを待っていたため、すぐに心当たりがあった。急いで階段を上っていく。
ゼンダは普段、アイカの影のように付き従っているが、公爵と一緒にいる時だけは同行しないことがほとんどだった。
実のところ、それもアイカが非常に聞き分けの良い子だからこそ成り立つ話だった。
普段からお嬢様は、よほどの悪戯でもされない限り、顔色ひとつ変えずに『なぜそんなことをしたのですか?』と静かに理由を尋ねるような聡明な子供だった。癇癪を起こしたり、駄々をこねたりする姿など一度も見たことがない。むしろ、小さな胸で我慢して待つことの方が多かった。
もともと余計なことに手を出さないほど賢いお嬢様なのだ。
だから公爵も、『目を離したら危ないから付いて来い』などとは一度も言わなかった。それどころか、『娘とゆっくり過ごすつもりだから、お前は来なくていい』とゼンダを遠ざけるほどだった。
そのため、公爵とお嬢様が一緒にいる時は、ゼンダも自然と距離を置くように配慮していたのだ。
それでも、今日はお嬢様が公爵邸に泊まるという。ならば、行かないわけにはいかない。
「今日は本当に楽しい一日を過ごされたようですね」
ゼンダは嬉しそうに呟いた。カッセルが領地へ向かってからというもの、お嬢様は公爵邸へ行くたびに『叔父様はいつ帰ってくるのですか?』と何度も健気に尋ねていた。それなのに、今日はカッセルの屋敷ではなく公爵邸に泊まっていくというのだから、きっと特別に素晴らしい一日だったのだろう。
ゼンダはベッドの上で枕を抱いて横になっている白い人形を手に取ろうとして、ふと手を止めた。
そういえば、カッセルが数日前にアイカの下の前歯を抜いてから、お嬢様の様子はずいぶん変わった。
『叔父様なんて嫌い! うわあああん!』
『感謝しなきゃいけないだろう。痛かったかもしれないんだからな』
『知らない! 叔父様なんて世界で一番嫌い! 五十……』
『五十回くらい嫌いって言ってやるんだから!』
その翌朝からは、小さなかばんを背負って『おじいさまのお家に行くの!』と歌いながらご機嫌で歩いていたことを思い出す。
ゼンダはくすっと小さく笑い声を漏らした。どうやら、うちの可愛いお嬢様は、叔父様への怒りが冷めやらず、ほんの少し「家出」をしに行かれたらしい。
ゼンダは人形と、他に必要になりそうな私物をいくつか手早く鞄にまとめた。そして階下へ降りると、「お嬢様のもとへ行ってまいります」と主人であるカッセルに深く一礼した。
カッセルは先ほどまでの動揺が嘘のように、まるで興味がないかのような無表情を決め込んでいた。
「そうか」
そっけない返事。すると、その様子を横でじっとうかがっていたジェラードが、待ってましたとばかりに勢いよく手を挙げた。
「私も護衛として同行してまいります、旦那様!」
カッセルは「好きにしろ」とでも言うように手をひらひらと振ると、そのままポケットに手を突っ込み、自分の執務室へ向かって歩き出した。
そして、去り際にぼそりと一言だけ、伝言を残した。
「チビに伝えろ。――叔父さんは寂しくて死にそうだと。明日には連れてこい」
・・・
祖父と屋外レストランでの食事を終えた後、私は工房を兼ねたおじいさまの家へとやって来た。
到着するなり、私は大忙しだった。祖父が仕事のために執務室へ向かうのを見届けると、すぐに自分の部屋へとこもり、荷物の整理を始めた。
後で図書室へ行く前に、先に頭の中を整理しておかなければならないことがたくさんあったのだ。
まず、今日の「母の手がかり探し」は一度失敗したので保留にするとして……。
「うーん」
母が探している狩人と、私が見つけた狩人は同一人物で、名前はコビン。
先ほど祖父に「あの人は誰なの?」と尋ねたところ、詳細を教えてくれた。彼の名前は『コビン・ピカー』。最近になって新たに貴族の列に加わった人物らしい。
けれど、母はすでにその存在を知っていたようだった。母が私に教えてくれた貴族たちのリストの中に『コビン・ピカー』という名前はなかった。つまり、祖父の言う通りなら、彼は貴族になってからまだそれほど長く経っていない新興貴族ということになる。
「セリア」
「ん?」
「あの男、古代遺物を使って富を築いたんだろうね」
「そうだろうな」
セリアが同意する。そんなふうに人間に使い潰された古代遺物は、目覚めることもできないまま消滅してしまったはずだ。
他の遺物は富を得るために使い切り、今身につけているあの指輪は、おそらくとてつもない能力を持っているに違いない。
「……本当にひどい人だわ」
あの狩人は私にとって明確な脅威であると同時に、セリアのように目覚めれば会話もできるはずの尊い古代遺物を、私欲のために消し去ってしまった大罪人だ。
「だからこそ、気をつけなきゃいけないんだよ」
「うん。でも、もう少し確かめたいことがあるの」
どう考えても、あの日博物館の奥から聞いたあの声は、コビン・ピカーの声ではなかった。
それに、コビンというあの男は、古代遺物の指輪を除いても、全身をこれでもかと豪華な装飾品で飾っていた。ボタン一つにいたるまで金でできていたのだ。隣にいた名門貴族のラギア・デ・デスリンよりも、よほど高価なものを身につけているように見えた。
あの規模の略奪を、男一人だけの仕業で行ったのだろうか。それとも狩人は他にもいるのか。あるいは、あの日博物館に現れたのはコビン本人ではなく、別の人物を差し向けたのだろうか。
見つけた狩人に、これからどう対処すべきか。彼らは探索者や古代遺物にとって非常に危険な存在だったけれど、それでもまったく打つ手がないわけではなかった。
かつてレフスが、私の訓練を手伝いながら言っていた言葉が脳裏に蘇る。
『――狩人が探索者を排除しようとする本当の理由は、自分たちの力を奪われることを恐れているからだ』
探索者たちが、自分たちの力を奪う能力に目覚めるかもしれない。それを恐れ、その芽を事前に摘むために執拗に追い回しているのだという。
だが、その力は母でさえ覚醒できなかった未知の能力だった。だから今の私は、まだその方法を見つけられていない。
それでも私は、必ずその力を目覚めさせると決めていた。絶対に見つけ出して、必ず。
そのためには、どうやら協力者が必要になりそうだった。私には一人、心当たりがある。
考え込みながら鉛筆の端を口にくわえ、ぶつぶつと独り言をつぶやいていると――。
コンコン、と扉を叩く音が響いた。
私は慌てて紙と鉛筆を鞄にしまい、引き出しを閉めた。
「お嬢様、私です。入ってもよろしいでしょうか?」
ゼンダの声だ。私は嬉しさに目を丸くした。
ベッドから飛び降り、そのまま駆け足で扉へ向かう。そしてゼンダが開けるよりも先に、勢いよく扉を引いた。
「ゼンダ!」
「はい、お嬢様。参りました」
前回、荷物をきちんと持って来られなかったので、今度は必ず白い人形を持ってきてほしいと頼んでいたのだ。扉の向こうには、ヒメドだけでなく、ゼンダとジェラードの姿もあった。
「お嬢様、私たちは置いて行かれてしまって、とても悲しかったのですよ」
ジェラードは両手で顔を覆い、しくしくと嘘泣きをするふりをした。
「ジェラード、嘘つき! 全然泣いてないじゃない」
「いいえ、本当です。実は馬車の中で涙をすべて流し尽くしてしまい、もう出ないのです。ほら、見てください。目が真っ赤でしょう?」
ジェラードは私の前にひざまずき、顔を近づけて目を見せてきた。どうやらジェラードまで、カッセル叔父さんの悪影響で詐欺師の才能が芽生えつつあるらしい。
そういえば、叔父さんにちゃんと伝えないままこっちに来てしまった。けれど、ずっとおじいさまの家へ行くと言っていたし、さっきレットに挨拶もしたから大丈夫よね。
私はゼンダとジェラードの手を引いて、部屋の中へと迎え入れた。
「ゼンダもジェラードも、ここで寝てね! 私、今からやることがあるの」
「おじいさまの家に泊まるんだから!」
その言葉に、ゼンダとジェラードは困惑したように顔を見合わせた。
「お嬢様。ええと……こちらにずっと滞在なさるのですか? 一晩だけ泊まって、明日お帰りになるのではなく?」
「うん? うん!」
「……ああ、それはまずいですね」
「え?」
それまで黙っていたジェラードが、急に真剣な表情になって私を見つめた。
「お嬢様、実は今、お屋敷で少し大変なことが起きているのです」
「大変なこと? そんな話、聞いてないけど……何があったの?」
「実は……今、旦那様(カッセル叔父様)が、とても具合を悪くされているのです」
叔父さんが病気?
「そんな様子はなかったけれど……」
隣でセリアも私と同じことを考えたのか、『そんなわけないだろ』と小さな声で呟いた。
ジェラードはわざとらしい笑みを浮かべながら、私に言った。
「はい。先ほども痛みがひどくて鎮痛剤を大量に飲まれて……ごほんっ! ですので、今夜だけこちらにお泊まりになって、明日にはお帰りになられてはいかがでしょうか?」
私は怪しげにジェラードの丸い目を見つめながら、きっぱりと首を横に振った。
「ううん、ここにもっといてもいいの。叔父さんは病気なんかじゃないもん」
そんな見え透いた嘘、信じるはずがない。
もう二度と、あの意地悪な叔父さんには騙されないんだから!
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「狩人」コビンとの再会と、その手がかり
アイカ(主人公)は祖父との食事中、博物館で見かけた「狩人」コビン・ピカーと再会する。彼は古代遺物の指輪を持つ危険人物だが、以前聞いた声と異なるなど、まだ多くの謎や別の黒幕の存在が隠されている。
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アイカの家出とカッセルの動揺
歯を抜かれた怒りから、アイカは人形を持って祖父の家へ「家出」を決行する。普段は冷淡な叔父カッセルだが、アイカが帰らないと知るや激しく動揺し、「寂しくて死にそうだ、明日連れてこい」と伝言を託す。
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アイカの決意と、見え透いた嘘への対抗
アイカは古代遺物を使い潰す狩人に対抗するため、未知の力を覚醒させる決意を固める。迎えに来た護衛たちが「カッセル叔父様が重病だ」と嘘をついて連れ戻そうとするが、アイカは騙されず、家出を続ける姿勢を崩さない。