こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
160話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 二つの太陽、二つの宝石
オスカーの表情は、いつになく深刻だった。
愛する妻、レリアにこの事実をどう伝えるべきか、彼は真剣に頭を悩ませていた。
レリアは現在、妊娠初期という非常にデリケートな時期にある。医師は神妙な面持ちで、何度も執拗に繰り返した。
「絶対にショックを受けたり、驚いたりしてはいけません。身体と心に最も気を配るべき時期ですから」
その言葉が呪縛のようにオスカーの頭を離れなかった。万が一にも彼女を驚かせてはならない。そう考えて「言おう、今日こそ言おう」と先延ばしにしているうちに、いつの間にか時間ばかりが過ぎてしまっていた。
最初は自分の勘違いだと思いたかった。だからこそ口に出せずに一人で悩み、ついには信頼するグリフィスにまで意見を求めたのだ。
『俺の感覚からしても、間違いなく双子だよ』
グリフィスの答えは、オスカーの予想を裏切らないものだった。
オスカーは痛む頭をこらえるように、手のひらで顔を覆った。
(一体、どう切り出せばいいんだ?)
――レリア、お前のお腹の中にいる赤ちゃんは、一人ではなく二人んだ――。
それが良い知らせであれ、悪い知らせであれ、繊細なレリアはきっと驚くに違いない。しかし、これ以上引き延ばすわけにはいかなかった。オスカーは意を決し、レリアの待つ部屋へと重い足取りを進めた。
・・・
一方その頃、部屋で読書をしていたレリアは、ふと本から目を離してぼんやりと虚空を見つめていた。
彼女の視線の先には、彼女にしか見えない小さな半透明の画面が浮かび上がっていた。
【錬金復権 シーズン2!】
画面の向こうでは、かつて見慣れた可愛らしいキャラクターたちと、懐かしい錬金ツールがキラキラと光を放ちながら動いている。ファイルのダウンロードが完了すると、ゲームは自動的に再始動した。
レリアは手慣れた手つきでチュートリアルをこなしていく。
【(•̀ᴗ•́)و 環境に合わせた新しいレシピが追加されました。ご確認ください! ✧。(°∀°)✧。】
【「錬金(ヨングミ)のヘルプモードをご利用になりますか?」】
「はい」のボタンを押すと、お馴染みの形の吹き出しが現れた。
【「また会えて嬉しいです! ✧。٩(ˊᗜˋ)و✧*。 シーズン1のインベントリを復旧しますか?」】
「これ……本当に復旧できるの?」
レリアは思わず呟いた。かつてあれほどぎっしりと詰め込んでいた思い出のインベントリ。もう二度と会えないと思っていた昔の友人に再会したような喜びが、彼女の胸に押し寄せた。かつて神殿で別れた友人たちと再会した時と同じくらい、幸せで胸がいっぱいに満たされていく。
レリアは愛おしさを込めて「はい」を押した。心臓が猛烈に高鳴るのを感じ、彼女は本能的にお腹へ手を当てた。
「びっくりして、赤ちゃんがショックを受けたらどうしよう?」
今すぐにでも大声をあげて喜びを爆発させたい。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、この城全体を抱きしめたいほどの高揚感だった。しかし、そんなことをすれば、彼女を過保護なほどに気遣っている周囲の者たちが大騒ぎするに決まっている。レリアは溢れ出そうな笑みを噛みしめながら、画面のレシピ一覧に目をやった。
「錬金、本当に会いたかった」
【「私もですよ、ご主人様! ٩(。•ㅅ•。)و」】
*(会えて嬉しいと、充電されます。)*
「……ふふ、やっぱり変わらないわね」
レリアはどこか愛おしげな微笑を浮かべながら、追加されたレシピを見回した。すると、数ある珍しいレシピの中で、ある一つの項目が彼女の目に留まった。
【「2歳の性別を確認する虹診断キット」】
「『環境に合わせたレシピ』って、まさに今の私のためってこと?」
レリアはさっそく必要な材料を確認した。幸い、すべてインベントリに揃っているものばかりだった。製作ボタンを押すと、光とともに新しいアイテムが追加された。
インベントリから取り出してテーブルに置くと、そこには虹色の小さな箱が現れた。慎重にフタを開けると、中にはハートの形をした小さなステッカーと、一枚の説明書が入っている。
使い方はいたってお手軽だった。お腹にステッカーを貼り、5分待つだけ。
最近のレリアにとって、最大の関心事はやはりお腹の赤ちゃんのことだった。中でも一番気になっているのが性別 da。
オスカーは「女の子でも男の子でも、どちらでも構わない」と言ってくれていたが、レリアの乙女心は少し違った。もし女の子なら、幼い頃のオスカーに似た、それはそれは可愛らしい女の子が生まれてほしいと願っていたのだ。もちろん、男の子でも愛おしいことに変わりはないけれど。
5分が経過し、レリアはそっとステッカーを剥がして確認した。
しかし、彼女は首を傾げた。何かがおかしい。
説明書には『女の子ならハートが空色、男の子ならオレンジ色に変わる』とあった。だが、レリアのハートは綺麗に半分に分かれ、オレンジ色と空色が混ざり合っていたのだ。
「これ……バグなの?」
レリアが尋ねるように呟くと、画面が勢いよく反応した。
【フォーブス選定・最もバグがないゲーム第1位『錬金復権シーズン2』 ✪(ò_óˇ)۹!!】
「いや……そんなムキにならないでよ。でも、現にこうして半々に出ているじゃない」
せっかく再会したのだから喧嘩はしたくない。レリアは新しい会話相手ができたことが嬉しくて、自分が置かれている状況をぽつぽつと語り始めた。今、妊娠していること。赤ちゃんの性別を知りたくてこれを使ったこと。
すべてを話し終えると、不思議と心がすっきりした。
夫のオスカーも彼女の話を優しく聞いてはくれる。けれど、彼はレリアが何かを口にするたび、まるで触れたら壊れてしまうガラス細工に接するように、常に不安げな表情で彼女の顔色を窺うのだった。
正直、その過保護っぷりが少し気まずくもあり、同時に申し訳なくもあった。
最近のオスカーは、レリアの代わりに何でも先回りして用事を済ませてしまう。自分以上に彼が気を揉み、苦労しているように見えたため、「そこまで過保護にしないで」と突っ込むのも気が引けていたのだ。
レリアがそんな思いを巡らせていると、画面に新たなメッセージが表示された。
【おめでとうございます。あなたは双子を妊娠されました。(。•̀ᴗ-)✧°】
「えっ……?」
レリアの思考が一瞬、停止した。今、自分は何を見たのだろう。
【診断結果:男の子が一人、女の子が一人の双子のようですね。(◕‿◕✿)】
「ええっ……!?」
レリアは呆然としたまま、まだ平らな自分のお腹にそっと手を当てた。
まさか、双子だったなんて。
・・・
その晩、ベッドに入ったレリアは、横になるや否やオスカーを自分のほうへと引き寄せた。
「オスカー、話したいことがあるの」
「……何だい?」
オスカーの身体がにわかに緊張で強張る。レリアはそんな彼の頬にそっと手を当て、安心させるように微笑みかけた。
「私たちの赤ちゃんのことよ」
「うん……」
「双子みたい。……うう、間違いなく双子よ」
その言葉を聞いた瞬間、オスカーの長いまつ毛がかすかに震えた。
そのあまりに奇妙な反応に、レリアはピンときた。
「あなた……もしかして、知っていたの?」
「……うん。まぁ、ね」
「なによ! どうして言ってくれなかったの? じゃあ、性別もわかる?」
「それは……わからないんだ」
レリアは一瞬しょんぼりとしたが、すぐに目を丸くした。彼を驚かせるつもりだったのに、すでに双子だという事実のほうは看破されていたらしい。魔力で子どもの生命力を感知できると言っていたから、そのせいだろう。
「ふふ、じゃあ教えてあげる。男の子と女の子の双子だよ」
「……!」
その言葉に、オスカーはまるで世界がひっくり返るような衝撃を受けた顔をした。
彼は深刻な表情のまま、ゴクリと喉を鳴らした。
「ちょっと、なんでそんなに深刻な顔をしてるの?」
「私は……すごく怖いんだ。君が、その痛みに耐えられるかどうかが……」
オスカーの顔から血の気が引いていく。出産の痛みがどれほど激しいものか、想像するだけで彼の心は引き裂かれそうだった。自分の魔力を使ってその痛みを身代わりにできないか、密かに研究を重ねていたが、結果は惨敗。そのせいでオスカーは日に日にやつれていく始末だった。
もちろんレリア自身も、出産を思えば緊張で喉が詰まるような思いはある。けれど、今の彼女には心強い味方――「錬金」のシステムがある。
「心配しないで、オスカー」
レリアはくすくす笑いながら、小瓶を一つ彼に差し出した。
「このところ、色々と気苦労が多くて大変だったでしょう? これを飲んで。口内炎の治療薬よ」
それは先ほど、錬金の力を借りて作った特製の薬だった。オスカーはきょとんとした顔でそれを受け取った。
「口内炎の薬……?」
「うん。前にお世話になっていた錬金の精霊がね、また戻ってきたの。そのおかげで作れたのよ」
レリアの言葉を聞いても、オスカーは薬瓶をしげしげと見つめた後、そっと机の上に置いた。
「……いらない」
きっぱりとした拒否だった。レリアの表情が戸惑いに染まる。
「えっ、どうして? 私が変な薬でも混ぜたと思ってるの?」
「そうじゃない」
「じゃあ、なぜ飲まないの?」
「全然辛くない。これくらい、苦労のうちに入らないからだ」
「はあ? 何が苦労じゃないのよ。食事すらまともに喉を通らないくらいにやつれているくせに!」
「……本当に大変なのは君だ。これくらいの痛みは、僕が引き受けないと」
オスカーは頑として唇を閉ざし、飲む気はないと主張した。
「……そう、なら別にいいわ」
あまりの頑なさに、レリアはそれ以上勧めるのをやめた。無理にでも飲ませたいのは山々だったが、本人がここまで言うのだ。これも彼が「父親」になるための試練であり、必要な経験なのかもしれない。
レリアは複雑な愛おしさを抱きながら、ベッドに深く横たわった。
(ああ、今日はなんて幸せな一日だったんだろう)
レリアはにこにこと笑みを浮かべながら、首にかけていたペンダントを手に取った。宝石の部分をそっと押すたびに、彼女だけの画面が現れては消える。
オスカーはそんなレリアを複雑な眼差しで見つめていたが、やがて小さくため息をついた。その息とともに、ホタルのようなかすかな魔力の光が、現れては消えるのを繰り返す。
以前からレリアが宿していた、正体不明の強大な力が戻ってきたのだ。彼女はそれを「錬金術の精霊」と呼んでいたが、オスカーの感覚からすれば、それとは少し違う高次元の何かに思えた。しかし、奇妙ではあっても、レリアがこれほど嬉しそうにしているのなら、彼にとっては些細な問題だった。
オスカーは己の不安を振り払うように、レリアの身体をそっと抱きしめた。慎重に腕を回すと、彼女の体から温かく甘い香りが漂う。オスカーは彼女の柔らかな髪をかき上げ、耳元に顔を寄せて、蚊の鳴くような声で尋ねた。
「レリア。双子って聞いて……本当に嬉しい? 怖くはないのか……?」
「怖かったけれど……子どもは最初から二人くらい欲しいと思っていたの。一度に産めるなら、かえって楽かなって」
レリアは淡々と、落ち着いた声で返した。昨日までの緊張が嘘のように、今の彼女の佇まいは平穏そのものだった。
その様子を見たオスカーは、妻の分の緊張まで自分がすべて引き受けてしまったかのような、硬い表情で呟いた。
「……俺は, お前が苦しむのが一番怖いんだ」
オスカーはレリアの首元に愛おしげに唇を寄せ、そっと触れた。すると、彼の手のひらの中から、鈴を転がしたような小さな笑い声が聞こえてきた。
小鳥のさえずりのように心地よいその声と、肌から伝わる温かさに胸を打たれ、レリアはオスカーの背中にぎゅっと腕を回し、強く抱きしめ返した。
・・・
「男の子と女の子の双子だって!?」
「はい、そうなんです」
翌日の食事の席。レリアが食卓に集まった家族や友人たちにその事実を明かすと、一同は驚愕と歓喜に包まれた。祖父母にいたっては、お世辞にも良いとは言えないその足腰で、今にもダンスを踊り出しそうなほどの興奮ぶりだった。
「こんな奇跡がまた起こるなんて!」
その時だった。それまで破顔して喜んでいた祖父が、突然コップをドンと置き、真剣な声を上げた。
「ちょっと待て!」
全員がぽかんとして祖父を見つめた。
「それで思い出した。前に見た夢が、どうにも普通じゃなくてな……」
「どんな夢ですか?」
「聞いてみなさい。夢の中で、私は暗い山道を歩いていたのだ」
一同は食事の手を止め、祖父の話に耳を傾けた。その表情や厳かな話し方は、まるで領地の命運を握る重大な決断でも下しているかのようだった。
「夜明け前の、まだ深い闇の中だった。前もよく見えん中で、私はよろよろと山の頂上を目指して登った。そしてようやく頂上にたどり着いたその時、ちょうど太陽が昇りはじめたのだ」
「…………」
「昇る太陽を見ながら、『なんと美しい風景だ』といたく感動していた……。すると突然、その太陽が真ん中から真っ二つに割れて、二つに分かれたではないか!」
「えっ……お父さん、それってなんだか不吉な夢じゃありませんの?」
ユリアナおばさんが不安げに口を挟むが、祖父は両手を大げさに広げて言葉を続けた。
「いや、違うのだ! 真っ二つに割れた太陽は、完全に独立した二つの太陽として輝きを放ち始めた。大きさも、形も、完璧に同じ。その二つの太陽がどれほどまばゆく大地を照らしたことか……。世界がその光を吸収した瞬間、あっという間に一面に美しい花が咲き乱れたのだ!」
まるで一編の壮大な叙事詩を聴かされているようだった。祖父の話が終わると、一同は「なんと素晴らしい吉夢だ」と口を揃えた。祖父は満足げに胸を張っている。
レリアは(お腹の子どもたちに関係がある夢なのかな?)と思いながらも、そのスケールの大きさに少し身震いした。
(太陽が二つだなんて……いくらなんでも大げさすぎじゃないかしら?)
その時、新たな声が上がった。
「そういえば、僕も不思議な夢を見たぞ!」
朝からステーキを三皿もたいらげていたカーリクスが、口の周りを拭きながら言った。
「ほう? お前もか? どんな夢だ?」
祖父が「早く話してみろ」と促す。カーリクスは水を一口飲、もったいつけるように語り始めた。
「夢の中で、僕はなぜか料理人だったんですよ」
「ぷっ……ふふっ!」
「料理人」という単語が出た瞬間、ロミオとレリアが同時に吹き出した。カーリクスの表情が不機嫌そうに歪むと、二人はお互いに目配せをし、必死で笑いをこらえた。
しかし、無理もない。あの大柄で不器用を絵に描いたようなカーリクスが、エプロンを割烹着のように着て料理をしている姿など、想像するだけで滑稽だった。
カーリクスは二人を軽く睨みつけながら話を続けた。
「その日、僕が作っていたのはゆで卵のスープでした。それで、卵をコンコンと割ったわけです。そうしたらなんと……黄身が二つ入っていたんですよ。二つも!」
堪えきれなくなったロミオとレリアは、とうとう大爆笑してしまった。
カーリクスは「何がそんなにおかしいんだ」とむくれたが、祖父だけは「それもまた素晴らしい双子の予兆だ」と、満足そうに彼を褒めちぎった。
「……おめでたい奴」
グリフィスが小声で皮肉を呟くと、カーリクスの顔はさらに苦虫を噛み潰したようになった。
・・・
「実はね、レリア。僕も変な夢を見たんだ」
その日の午後。テラスで心地よい風に吹かれながら本を読んでいたレリアに、オスカーがそっと打ち明けた。
「どんな夢だったの?」
レリアがアイスティーをストローで啜りながら尋ねると、オスカーは遠い目をしながら口を開いた。
「なんだか、ちっちゃい子どもたちが出てきてさ……」
「それで?」
「僕たちが初めて会ったときよりも、もっと幼く見えた。3歳か、4歳くらいかな」
「へえ、可愛いわね」
「うん。男の子が1人と、女の子が1人。2人でちょこんと座って仲良く遊んでいたんだ。……だけど、急に大喧嘩を始めちゃってさ」
「その子たちが?」
オスカーはコップの水をくるくると回しながら続けた。
「女の子のほうが『うわーん』って泣きながら、ちっちゃな拳で男の子のほうをポカポカいっぱい殴ったんだ」
そう言いながら、オスカーは自分の人差し指と中指の先を、まるで子供の拳に見立てるようにして隠した。
レリアは笑いをこらえながら、先を促した。
「それで? 離れたところで見ていた私が近づいて、仲裁したんでしょう?」
「うん……。お互いに抱き合わせるようにして、喧嘩を止めさせたんだけど……」
オスカーはどこか気まずそうな表情を浮かべている。
レリアは、未来の子供たちを必死に宥める自分の姿を想像しておかしくなったし、そんな夢を大真面目に心配そうに語るオスカーが愛らしくて、口元が緩むのを止められなかった。
レリアが吹き出しそうになるのを見て、オスカーは慌てたように言った。
「僕はね、レリア。あれは僕たちの子どもたちの未来が夢に現れたんだと思うんだ」
「私もそう思うわ」
「でも……もし夢みたいに、2人の仲が悪かったらどうしよう?」
「でも、最後にはちゃんと仲直りしたんでしょう?」
「うん、そうだけど……」
兄弟姉妹というのは、喧嘩をしながら絆を深めて育つものだ。しかし、オスカーは神殿で仲間たちに出会うまで兄弟もおらず、常に孤独だったため、そのあたりの「家族の距離感」が上手くイメージできないようだった。レリアもまた、似たような境遇ではあったが、不安げな夫の様子を見て優しく言葉をかけた。
「見た目には喧嘩ばかりしているように見えても、誰よりも仲が良い兄弟だっているわ。ホラ、アティアスおばさんが離婚の危機だったとき、叔父さんはどれほど一生懸命におばさんを慰めていた? あの二人だって、普段は口喧嘩ばかりしているけれど、一番の親友みたいじゃない」
dishonesty「……」
「うちの子たちも、きっとそうなるわよ」
レリアがそっと彼の手の甲を撫でながら言うと、オスカーはやっと憑き物が落ちたように、安堵の息をもらして目を閉じた。
「親が仲睦まじい姿を見せていれば、子供たちもきっと素真直に元気に育つわ」
「そうか……。じゃあ、毎日こうして優しくくっついていなきゃいけないね」
オスカーはそう言って、レリアの顔にそっと近づいた。愛おしげにキスをしようと唇を寄せてくる彼に、レリアはいたずらっぽく笑って、自分が飲んでいたアイスティーのストローを彼の口元に差し出した。オスカーはくすっと零し、大人しくそのストローから紅茶を少し飲んだ。
しかし、甘い砂糖水に濡れた彼の唇が、妙に生々しくレリアの目に映り、彼女は急にドギマギしてしまった。押し寄せてくる甘い妄想を必死で頭の隅へ押し返していると、いつの間にか彼の大きな手が彼女の腰へと回ってきた。レリアは顔を赤くしながら、その優しい手つきをパシッと払いのけ、彼を真っ直ぐに見つめて言った。
「……実際、私たち二人とも、子どものころは決して幸せな環境で育ったわけじゃないでしょう?」
「……うん」
「路でも、私たちの子どもは違う。絶対に、そんな思いはさせない」
「ああ」
「本当に、幸せに暮らしましょうね」
その言葉に、オスカーは再びそっと顔を寄せ、今度はレリアの額に優しく、深いキスを落とした。
「うん、約束する」
穏やかな誓いとともに、二人の口元には、示し合わせたような温かい笑みがこぼれていた。
・・・
(私はまだ妊娠初期のはずなんだけど……)
シュペリオンの聖人たち――セドリックやダミアン、ペルセウスたちをはじめとする周囲の面々は、まるで明日にも子どもが生まれてくるかのように、せわしなく、そして容赦なく出産の準備を進めていた。
すでに完璧に整えられていた赤ちゃんの部屋には、山のようなベビー用品が溢れ返り、もはやないものを探すほうが難しい状態だった。レリアはその豪華すぎる子供部屋を呆れ半分で見て回っていたが、ある家具の前でピタリと足を止めた。
そのベッドは……本当に、ため息が出るほど凄まじい代物だった。
赤ちゃん用として用意されたそのベビーベッドは、まるで巨大で無垢な宝石の原石を丸ごと贅沢に削り出して作られたかのような輝きを放っていた。これを持ってきた張本人は、他でもないオスカーだった。
(そういえば、フレスベルグ帝国に行くときから、何か様子がおかしかったわよね……)
本来なら、一人で行くのは嫌だと文句の一つでも言うはずの彼が、あの日だけは特に何も言わずに大人しく出発したのだ。どうやらその時に、現地で特別な注文を仕込んでいたらしい。
あのベッドに使われている宝石は「ブラックドレイツ」の原石だった。宝石で有名なローズベリー帝国にすら存在しない、フレスベルグ帝国の最深部でしか採掘できない超希少な魔石だ。
採掘できる鉱山は世界にただ一つ、それもフレスベルグ皇室が直轄で所有しているため、他国の人間が手に入れることは天地がひっくり返っても不可能な代物だった。
(確か、帝国間の歴史的な和解の証として、あの宝石で小さな指輪が作られたっていう記録を本で読んだ気がするけれど……)
一説には、その鉱山は遥か昔に滅びた暗黒竜の巣窟だったという伝説さえある。それゆえに、この石が持つ守護の力と価値は計り知れない。
それを、オスカーは丸ごと一個、巨大なベッドの形に加工して持って帰ってきたのだ。
原石を加工した美しい贈り物は、これまでにも何度か彼から受け取ったことがあった。
(けれど……まさかベッドにしてしまうなんてね)
さらに、その周囲には他の色とりどりの宝石があちこちに散りばめられており、その華やかさはもはや圧巻の一言だった。レリアがあまりにも贅沢すぎると不満を漏らした際、オスカーは彼なりの、少し寂しげな言い訳を口にしていた。
『フレスベルグ帝国では、高貴な皇族が生まれると、黒いドラゴンの鱗で作られたペンダントを贈る習慣があるんだ。子どもがそれを身につけていると、暗黒竜の加護が宿り、生涯守られるという伝説がある。……だけど、僕は貰えなかったから。だから、僕たちの子どもには……』
そう言われてしまっては、レリアとしてもそれ以上何も言い返せなかった。
オスカーは、自分が幼い頃に受け取ることができなかった温もりや祝福を、これから生まれてくる子どもたちに、これでもかと注ぎ込みたかったのだ。それを思えば、少々やりすぎな成金趣味のベッドも、王のすることなら仕方ないと受け入れることができた。
レリアはそわそわとした気持ちでベビーベッドを見つめていたが、やがて部屋を出ようと扉へ向かった。ところが、彼女がノブに手をかけるより早く、外から勢いよく扉が開け放たれた。
「おっ、レリア?」
「……ロミオ?」
「……お、お前、ここで何してるんだ? そんな驚いた顔してさ」
入ってきたのはロミオだった。彼はいつものように無愛想を装って挨拶をしてきたが、レリアの鋭い目は誤魔化されなかった。ロミオが今、手に持っていた「何か」を、背中の後ろへ目にも留らぬ速さで隠したのをしっかりと捉えていたのだ。
「……いま、何を隠したの?」
レリアがジト目で尋ねると、ロミオはあからさまに顔をしかめ、視線を泳がせた。
「な、何がだよ?」
「見せなさい」
「な、何を隠したって言うんだよ!」
「背中に隠しているやつよ。どうせベビー用品でしょう?」
どういうわけか、この部屋を見に来るたびに、頼んでもいない新しい高級品が増えていると思っていた。やはり、この部屋にこっそりと貢ぎ物を置いていく不審な身内は一人ではなかったのだ。ロミオもその常習犯の一人に違いない。
「私にお礼を言いなさい。ほら、早く」
「な、なんで俺だけが責められなきゃいけないんだよ! 他の奴らだって……」
「今、目の前で現行犯逮捕されたのはあなたでしょう! 早く見せて。それ、なぁに?」
レリアが見せてくれないなら力ずくで奪い取らんばかりの勢いで手を差し出すと、ロミオは観念したように、しぶしぶと後ろに隠していたものを取り出した。
それは非常に小さな箱だったが、一目見ただけでタダモノではないと分かる気品に満ちた宝石箱だった。
レリアはロミオからそれを受け取ると、慎重にフタを開けた。
「……これ、何?」
「見ればわかるだろ。おしゃぶりだよ」
宝石箱の中に、まるで高級な婚約指輪のように鎮座していたのは、二つのおしゃぶりだった。
問題は、その構造だ。赤ちゃんがそれをくわえた時、横から見える持ち手の部分に、信じられないほど巨大な宝石が丸ごと埋め込まれていたのだ。
もちろん、赤ちゃんが傷つかないよう、角の処理などは細部まで徹底的に気を配られ、魔法による精密な加工が施されている。間違いなく特注の一点物だった。
「位置も、ちょっと待って……この宝石、どこかで見覚えがあるわ……」
レリアは眉間にしわを寄せながら、その奇妙な光沢を放つ宝石をじっくりと観察した。最近、外交儀礼のために目を通していた歴史書に載っていたものに酷似している。
ローズベリー帝国の国宝の一つとされている、原石の内側に特有の紋様が刻まれたという、あの伝説の……。
「まさか……ね。ち、違うでしょう、ロミオ?」
「……べ、別に、違うって言ってるだろ」
ロミオは不機嫌そうに唇をとがらせ、そっぽを向いた。
レリアは声を潜め、確信を込めて尋ねた。
「これ、もしかしてローズベリー帝国の王室に伝わる、本物の『国宝』じゃないの?」
「それを君がどうして知ってるんだよ」
ロミオは開き直ったように、まるで当然だと言わんばかりの態度で答えた。隠す気など端からなかったような傲慢な目つきだ。
「だって……まだ歯も生えていない赤ちゃんに、こんな高価な世界の至宝をおしゃぶりとして使わせるなんて、どうかしているでしょう!?」
「何がだよ! おしゃぶりが何だって言うんだ! あんた、おしゃぶりをバカにしてるのか? 生まれたばかりの赤ちゃんにとっては、おしゃぶりこそが世界のすべてなんだぞ!!」
「…………」
高潔な国宝を「世界のすべて(おしゃぶり)」へと変えてしまった男のあまりに堂々とした暴論に、レリアはただただ、深い衝撃と共に言葉を失うのだった。
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双子(男女)の妊娠発覚と夫婦の答え合わせ
オスカーはレリアの体を気遣い、お腹の子が双子であることを隠して一人で悩んでいたが、レリアは復活した「錬金システム」の診断で男女の双子だと知り、夜に夫婦で答え合わせをして喜びと絆を深め合う。
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周囲が語る不思議な予兆の夢
翌日の食卓で双子の報告を受けた一同は大歓喜する。祖父は「真っ二つに割れて輝く二つの太陽」の夢を、カーリクスは「黄身が二つ入った卵スープ」の夢をそれぞれ語り、双子の誕生を祝福する。
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エスカレートする過保護で豪華すぎる贈り物
周囲の出産準備は明日生まれるかのように加熱している。オスカーは超希少な魔石「ブラックドレイツ」を削り出したベビーベッドを用意し、ロミオはローズベリー帝国の国宝を加工した特注の「宝石付きおしゃぶり」をこっそり贈ろうとしてレリアを呆れさせる。